「はあああーーっ!!」 咆哮しながらセルへ向かって行くサタン。 アナウンサーによると、サタンの大技ダイナマイトキックとやらがセルの顔面に決まる。 そして攻撃の手を休めることなく、サタンは蹴り、拳、技の限りを尽くしてセルに攻撃を行った。 アナウンサーも上機嫌でサタン優勢に見えるこの状況を声を張り上げて実況するが、それを見守るライは目を押さえたくなる光景にしか見えなかった。 そして、 「うるさい!」 全くもって無傷なセルがパンッと片手でサタンを薙ぎ払う。 サタンの身体は簡単に宙を飛び、セルの背後にあった大岩に当たる。 「あれ?」 その様子を見て、意気揚々と喋っていたアナウンサーは目を大きく見開いてぽつりと呟いた。 「ふうっ…正直いってさあ、いまオレちょっとセルを応援しちゃったぜ…」 目を細め、クリリンは隣にいた悟飯に耳打つ。 その言葉は傍に居たライにも聞こえ、思わず苦笑した。 「えっと…大丈夫、なのかな……?」 そして心配そうにサタンが落ちた方を見る。 するとそこには、岩に当ったらしい顔面を抑え痛がりながらも、無事生きているサタンの姿があった。 「ち……生きていたか……さすがのセルも、あんなのを殺すのはイヤだったようだな…」 「………」 「も、もう…ピッコロさん……」 腕を組み、舌打ちを交えながらピッコロが呟く。 クリリンも同感なのか、複雑そうな表情でサタンを見ていた。 そしてその言葉を隣で聞いたライは、困ったようにピッコロを見上げる。 「リ…リング外に落ちてしまった……あ……あの……サ……サタン選手……負けてしまいました…」 リングの外で実況を行っていたアナウンサーの力の入らない声がマイクから響く。 そんな存在など忘れてしまったかのように、セルは悟空たちに視線を向けた。 「さあ、はやくセルゲームを始めるぞ。どいつからやるんだ。やはり孫悟空、おまえからやるのか」 「ああ、そうだ」 好戦的な表情で頷きながら、リングへ足をかける悟空。 ライも気持ちを切り替え、真剣な表情でリングへと上がる悟空の背中を見つめた。 リングの外では、これで地球はおしまいなのではと絶望するアナウンサーの元へサタンが戻ってくる。 なんで負けてしまったのかと質問するアナウンサーに対し、サタンは足を踏み外してしまったのだと答えた。 「ふっとんだように見えましたが……」 「心配せんでもいいぞ…ちょっと休憩したら今度は本気でやってやる…!」 怖い表情で言いながらも、その目元には涙が滲んでいることが遠目ながらもライは気付き溜息をつく。 その会話が聞こえていたらしいベジータも、珍しく驚いた表情でサタンを見た。 「あ…あいつ、まだレベルの違いに気付いていないのか…バ、バカの世界チャンピオンだ………!」 また珍しく、ベジータの言葉に同意の気持ちを抱いたライは複雑そうに頬を掻いた。 そうしている間にも悟空の姿はセルの目の前にあり、互いに睨みあうような状況だった。 「い…いよいよですね…」 「ああ…」 「おとうさん……」 呟く悟飯、クリリン、ライ。 ライは健闘を祈るように、そっと胸元で手を握った。 誰もが、悟空とセルの戦いの行方に神経を研ぎ澄ましている。 悟空が真剣な表情でセルを見据えたからか、セルも組んでいた腕をそっと降ろし、拳を作った。 「いきなりきさまからか……一番の楽しみは最後にとっておきたかったのだがな……」 少しだけ残念そうに言うが、すっと構えるのを見て悟空も構える。 二人の戦いを、トランクスは静かに見守るように見つめた。 今までずっと気になっていた、悟空が妙に余裕だった理由がわかるかもしれないためだ。 ライもじっと、セルと悟空の両者を見つめる。 すでに本気モードに入ってしまったために、少し離れたリング外で話すサタンとアナウンサーの声は聞こえてはいなかった。 「こい!」 そしてセルが呼びかけた直後、悟空の方からセルへ向かう。 セルの顔面を狙った蹴りは防がれる。 次に突きだした拳もセルには防がれ、お返しのように振り上げられたセルの攻撃も悟空はひょいと避けた。 そうして互いに確実なダメージを与えられない、互角とも言える攻防戦が繰り広げられる。 ライはその光景を、息を呑んで見つめた。 攻防の渦から一旦身を引いた悟空だが、セルは強く地面を蹴り勢いのまま悟空へ頭突きを向かわせる。 それを悟空は両手で受け止め、その両手を地面につけるとセルの身体を両足で蹴りあげた。 セルの身体が上空へと上がっていくのと同じように悟空も空を飛ぶ。 空中で体制を立て直したセルに向け、悟空はかめはめ波を撃った。 だがセルはかめはめ波を片手で弾き飛ばす。 そのことを読んでいたのか、悟空はセルの背後に一瞬にして現れ、背中を殴る。 痛みに顔を歪めたセルだが、すぐに悟空の顔面を殴り返した。 追い打ちをかけるようにセルは両手を組み悟空をリングへ向け殴る。 悟空はそのままリングへ落ちて行ったが、両手両足でリングに着地することができた。 セルもリングへ降りてきて、互いに一時間合いを取る。 「準備運動はこれぐらいでいいだろう……」 そう呟くセル。 その言葉を聞いたからか、また、二人の戦いぶりに圧倒されたのか……サタンとアナウンサーの口はぽかんと開いた状態だった。 「い…いよいよ本格的に死闘がはじまるぞ…」 そしてしばらくそのまま対峙している二人を見て、ごくりと生唾を飲んで言うクリリン。 ライも口を固く引き結び、戦いの行く末を見守る。 「よし!」 少しでも気を抜くとやられてしまうと感じた悟空は、目つきを鋭くして全身に力を込める。 するとそのパワーが突風を巻き起こし、辺りに放出される。 「く…!」 「きゃっ…!」 そのパワーの強さに思わず目を見開き、小さく声を漏らすピッコロ。 ライは突然起こった突風に、飛ばされないようぐっと地面に踏み止まった。 風が収まったところで、ライは恐る恐る目を空け、リングに佇む悟空の姿を見た。 悟空の測り知れぬパワーが目に見えるオーラとなって、悟空の全身を包みこんでいるのを見つけ、ライは目を奪われたようにその姿を見続ける。 「すごい……」 「す…すごい…やっぱり悟空さんはとてつもなくすごい…」 もはやすごいとしか言いようがなかった。 ライが茫然と呟くと、トランクスも驚きつつも独り言を言うように言った。 「ほ、ほんとにすげえ気だ…!さ…さすがに抜けてるよな」 クリリンも、その圧倒的な強さに嬉しそうに呟く。 だが、ただ一人悟飯だけ……悟空の姿を見ても、あまり驚きを感じてはいなかった。 ふと、悟飯は隣で焦がれるように悟空を見つめるライに近寄る。 「おねえちゃん…そ、そんなに驚くこと…かな……」 「え…?」 小声で放たれる言葉を聞いて、ライは虚をつかれたように悟飯を見つめた。 深刻そうな悟飯の表情を、心配しているのだと思ったライはすぐに笑顔を作る。 「すっごくすごいよ。さすがあたしたちのおとうさんだね」 「………」 嬉しそうに、自慢げに、ライは悟飯に言う。 その表情を見ても、悟飯の疑問は拭われることはなかった。 双子であるライになら、自分のこの違和感を分かってもらえると思ったのだが。 「なあに、悟飯。悟飯はすごくないように見えるの?」 いまいちはっきりしない悟飯の態度に、ライは首を傾げて問う。 「う、ううん、すごいよ、おとうさん……」 「でしょ?やっぱり、おとうさんは最強なんだ…」 ライはもう一度悟空の姿を見つめ、恍惚とした表情で呟く。 そのライの横顔を悟飯はしばらく見て……ふと視線を同じように悟空へ戻した。 「(…たしかにすごいとは思うけど……)」 何かに戸惑いながらも、悟飯はそれ以上何も言うことなくリングにある二人の姿を見つめる。 そして、 「は!!」 セルも悟空と同じように全身に力を込めた。 また先程のように突風が巻き起こり、ライは自分の身を護るようにして防ぐ。 少しでも気を抜いたら、サタンやアナウンサーのように飛ばされてしまいそうになるくらいの衝撃だった。 「ぐ…!」 セルの気も、悟空と互角もしくはそれ以上だと思われるほどに膨れ上がり、ベジータは苦そうな顔をする。 ライは再び目を開け、心配そうな表情でリング全体を見つめた。 そしてセルのすぐ目の前にまで近付いた悟空。 「こいよ」 「ああ……」 またしてもセルの呼びかけにより、戦いの火蓋は切って落とされた。 今度の悟空の先制攻撃は見事にセルの腹に決まり、その次の攻撃も決まる。 その身に何度か攻撃を受け、地面に叩きつけられながらもセルは面白そうに口元を歪めていた。 「いいぞ孫悟空!これだ!戦いはこうやって、ある程度実力が近くなくてはおもしろくない」 「ああ…オラもそう思う」 静かに地面に降り立ったセルは、口元の血を拭うと見覚えのある構えをとる。 「か…め…」 その構えと呟きにより、セルが何をしようとしているのか気付いたライたちはぎょっと目を見開く。 「や、やめろ!そんなにパワーをあげた状態でかめはめ波を…」 悟空も止めようと手を伸ばすが、セルは止まらない。 「は…め…」 すでにセルの両手の中には、凄まじいパワーを持つ気が集まっている。 「よ、よせ…!」 ベジータも眉を寄せ、思わず呟く。 「波…」 「こっちだセルーッ!!」 そしてかめはめ波を放とうとした瞬間、悟空はセルの注意を引くよう叫びながら空高く飛び上がる。 その悟空に向け、セルは大きなパワーを持つかめはめ波を放った。 「きゃっ…!」 かめはめ波は悟空へ向かっていくものの、その衝撃は周りすらも巻き込むほど大きく、ライの小さく軽い身体はふっ飛ばされる。 だが、咄嗟に伸ばされた誰かの手により、遠くへ吹き飛ばされるという事態は防がれた。 悟空が瞬間移動によりかめはめ波から逃れ、セルの背後を回り蹴りを放ったところで、ようやくかめはめ波の衝撃が収まりライは目を開くことができた。 そして、自分をしっかりと支える力強い腕の正体を知る。 「ピッコロさん…!」 「……ったく…気を引き締めておけ…!」 眉を寄せながら言い、ピッコロはライを地面に下ろす。 油断していたわけではないが、こればかりはどうしようもないとライはむすっとピッコロを見上げた。 だが、 「ありがとう、ピッコロさん…」 そう不満を言う前に、ライはにこりと笑ってお礼を言う。 その笑顔を見てピッコロはふんと鼻を鳴らし、リングへと視線を向ける。 つられるように、ライもリングを見つめた。 ×
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