その翌日、セルゲームまであと7日間という頃。
ライたちは家族4人でピクニックに来ていた。


「これだけいっぱいあると、並べるのも大変だね」
「んだな。でも、せっかくライちゃんが手伝ってくれたんだ。これだけあっても足りねえくらいだべ」


悟空と悟飯が川を眺めているすぐ傍で、ライはチチと一緒にピクニックの用意をしていた。
朝、チチと一緒に作ったお弁当はバスケット3箱分にもなり、シートに並べるのも一苦労だった。
だが、そうした準備も楽しいのか、ライは笑っている。


「(でも……)」


準備の途中、ライは心配そうに悟空を見つめる。
昨日は丸1日体を休めていて、また今日も修業をする素振りを見せない悟空。
今は休む時期だと最初に聞いたため、驚きや疑問はない。
だが、やはり不安にはなった。


「(こんなにのんびりしてて……本当に大丈夫なのかな……)」


心配になるライと同様、悟飯も同じ心配を抱いていたのか悟空にその旨を伝える。
だが、悟空は相変わらず「なんとかなるさ」と笑った。
二人が何を話しているかは聞いていなかったが、その横顔を見てライはわざわざ言うのも躊躇われ、今は大人しく悟空の言うとおりにしておこうと思った。


「ふたりとも!お弁当の用意ができただぞー!」
「早く食べようっ!」


用意ができたところで、チチがそう声をかけ、ライも手招きをする。


「お!サンキュー」


二人の声を聞いて、悟空は笑って答えた。


「ほれ、悟飯!そんなこと気にしてねえでのんびり楽しくやろうぜ」
「…………」
「うほーっ、うまそうだなー」


やはり心配なのは変わりないのか、悟飯は気楽に笑う悟空の言葉に何と返せばいいのか分からず黙りこむ。
仕方なく、シートに座りお弁当を眺める。
その浮かない表情に気付いたライは、そっと悟飯に耳打ちした。


「悟飯、どうしたの?お腹空いてないの?」
「そうじゃないけど……」


ライと同じく小声で悟飯も答えた。
そしてちらりと、隣でチチから飲み物を受け取った悟空を見て、再びライに視線を戻した。


「こうのんびりしてていいのかなって……心配になって……」
「あ……悟飯も、やっぱり心配なんだ……」


呟くライに、悟飯もこくりと頷く。


「あたしも不安だけど、おとうさんが大丈夫って言うんだもの……」
「だけど……」
「今あたしたちにできることなんてないよ……無理に修業しようとしたら、おとうさん怒るだろうし……」


ライの言い分ももっともだと思ったのか、悟飯は暗い顔で俯く。


「だからほら、今は楽しんでおこうよ。……おかあさんも、なんだか嬉しそうだから」
「………」


ちらっと、ライは視線をチチに動かす。
こっちのおかずはライちゃんが作ってくれたんだぞと、嬉しそうに悟空に説明するチチ。
いつも修業で心配ばかりかけて、我儘ばかり聞いてもらってしまっているチチが笑っている姿を見ると、ライはその楽しみを邪魔したくなかった。


「だから悟飯もそんな顔しないで。おかあさんとおとうさんに心配かけちゃだめだよ」
「………わかった」


全て納得し受け入れるということはできないながらも、悟飯は頷き箸を手に取る。
そして料理を口に含めると、その美味しさに口元が緩んだ。


「美味しいでしょ?」
「うん。おねえちゃん、どんどん料理がうまくなるね」
「あったりまえよ!料理の腕なら、悟飯には負けないんだから」
「うっ……それはさすがに敵わないよ」


えっへんと得意気に言うライに、悟飯は苦笑する。
それもそうかとライはまた笑い、チチと作った自信作のおかずを悟飯に勧める。
双子が笑い合う微笑ましい姿を見て、悟空とチチも笑顔になっているのを、二人は知らなかった。





「どの店もやってねえな。みんな休みだ」
「そりゃあ、あと7日間で死んじまうかもしれねえって時だ。だれも働かねえべよ」


ピクニックを終え、悟空が運転するエアカーで街までやってきた4人。
後部座席に座っているライと悟飯は、人気のない街をきょろきょろ見ていた。


『番組のとちゅうですが、ここで臨時ニュースをお伝えします』
「働いてるやつがいたぞ」


ラジオから流れる声を聞いて、悟空が笑って言う。
だが、セルを倒すために王立防衛軍が攻撃をはじめると聞いて、眉を寄せた。


「バ、バカ!よせっ、よすんだ!なに考えてんだ!ムダに殺されるだけだってわかんねえのか!」


真剣な表情で言うも、その叫びは防衛軍には届かない。
後部座席から身を乗り出し、ライと悟飯も心配そうにラジオを聞く。


『ものすごい一斉攻撃がはじまりました!こっ、この轟音をお聞きください!』


ラジオからは、確かにミサイルの発射音や爆発音が聞こえる。
だが、そんなものでセルが倒せるとは到底思っていないライたちは顔を歪めるだけだった。


『す…すさまじい攻撃です!まだ…まだ続いています!これほどまでの攻撃をまともに受けてはとっくに肉片すら残っていないでしょう!』
「に…逃げろ…はやく…」


アナウンスの声を聞き、呻くように呟く悟空。
ライも眉を寄せながら、祈るように手を組んだ。
これ以上、犠牲者が増えないように。
だが、やはり無事だったセルによって攻撃をされたと思えば、ラジオの通信はそこで途絶えた。
ライが悲しそうに息を呑むと、悟空はプチッとラジオを消す。


「………ち……ちくしょう………」


そう呟いたと思えば、何か思いついたのか悟空は3人へと振り向いた。


「わりいけど、おめえたちは先に家に帰っててくれ。ちょっとピッコロに用事があるんだ」
「えっ」


その言葉にライが驚き声を漏らすも、悟空は運転席のドアを開けてすぐ瞬かにどうで行ってしまった。


「な…なあ…ピッコロに用事って……なんだべ?」
「……さあ…」


チチがぽかんと呟くも、悟飯にも見当がつかないのか目を丸くするだけ。


「一体なんだろ……」


ライにもよくわからないのか、首を捻ってそう呟くしかできなかった。
気になって自分も天界に行ってみようかとも思ったが、ここから天界までは遠い。
もしかして悟空とすれ違いになるかもしれないと思い、仕方なく3人で大人しく家に帰ることにした。





「……やっぱりあたしも行きたかったなぁ……」


家でしばらく悟空の帰りを待っている間、ライがぽつりと呟く。
それを隣で聞いていた悟飯は、物憂げな表情を浮かべるライを見た。


「ピッコロさんに会いに?」


そして何気なく聞く。特に深い意味などないが、やはり悟飯も双子として気になっていたようだ。
ライがピッコロに向ける気持ちが何なのか。
言われたライは一瞬きょとんとした表情で悟飯を見て、首を傾げた。


「?そりゃあピッコロさんには会いたいけど……おとうさんの用事も気になるじゃない」
「ああ…それもそうだよね」


ライの言葉を受け、悟飯は何かを誤魔化すように笑った。
それを不思議そうに見るライだが、特に追及する気にはならなかったのか、またどこか遠くを見て悟空の帰りを待った。
それから少し時間が経った頃、二人の目の前にクリリンを連れた悟空が現れた。


「おとうさん!」
「クリリンさんも!」


突然現れた二人の姿に、ライと悟飯は立ち上がって驚く。
そんな二人に悟空は笑みを見せ、口を開いた。


「ライ、悟飯、新しい神様が見つかったぞ!おめえたちもよく知ってるやつだ」
「え?神様?」
「ボクたちがよく知ってる…?」


悟空の言葉に、二人は不思議そうに顔を見合わせる。
そして今度はクリリンが嬉しそうに声をかけた。


「デンデだよ!ほら、ナメック星にいたちっこいやつ!」
「え!デンデ!?」
「デンデが神様に!?」


嬉しそうなクリリンと同じように、途端に笑みを綻ばせる二人。


「ほら、連れてってやっから、早くつかまれ!」
「うん!」
「はい!」


喜んでいる様子の二人を見て悟空も笑顔で促す。
快く頷いた二人は、差しのべられた悟空の手を掴んだ。
そして、悟空の瞬間移動で天界へとやってきたライたち。
その目の前には、自分たちの姿を見て嬉しそうに笑うデンデの姿。


「ほ、ほんとだ!」
「あはっ!」
「デンデだ!」


クリリン、悟飯、ライもその姿を見つけ、みるみるうちに笑顔になる。
そして3人はデンデに駆け寄った。


「よくきてくれたなーデンデ!久しぶりだ!信じられるか?こいつが悟飯で、こっちがライちゃんなんだぜ?」
「ねえ、神様になってくれるってホントなの!?」
「デンデが神様だなんて、あたしすっごく嬉しいよ!」


久しぶりの再会を喜ぶ4人。
デンデは嬉しいながらも、その勢いにやはり戸惑っていた。


「ボクも会いたかったです。みなさんに、また!」
「うんっ…あたしも会いたかった……デンデは大事な友達だもん!」


にこりと笑って言うデンデに、ライも嬉しそうにその手をとる。
デンデはそんなライを見上げた。
ナメック星の頃も自分より背丈が大きかったが、その差がさらに開いたことに驚きながら。
さらに今はライも悟飯も超サイヤ人の姿をしている。


「ライさん、なんだか雰囲気が変わりましたね」
「えへへ…いろいろあってね……デンデはあんまり変わってないみたいで安心したよっ」
「そうですか?これでも少しは背が伸びたんですよ」


言いながら、デンデはたどたどしく背伸びをする。
それでもライの背丈には届かないが、ライはその行動につい笑ってしまった。


「可愛い〜!こんなに可愛い神様がいてくれるなんて、地球は幸せだね!」
「えへへ、デンデが神様だったら地球も安心だね」


双子は嬉しそうに顔を見合わせて笑う。
その地球の運命もあと数日間後のセルゲームに左右されるということは、傍に居たクリリンもあえて言わないでおいた。
この幸せそうな双子の笑顔を見ると、水を差すようなことは言えなくなってしまう。


「デンデ……ほんとうにおまえが、ドラゴンボールを使えるのか?」


しばらく再会を眺めていたピッコロが口を開く。


「だいじょうぶだって!ナメック星のおっちゃんが、デンデは優秀だっていってたぞ」


保証もばっちりだと悟空は告げる。
デンデも自信があるのか、力強い表情でピッコロを見た。


「100日ぐらいあればドラゴンボールはできあがると思います」
「100日!?そ、そんなにかかっちまうのか…!?」


それではさすがに間に合わないと悟空は目を見開く。
だが、地球にはすでにドラゴンボールがあることを思い出したデンデは、再び口を開いた。


「そうだ!地球で使っていて、今は石になってしまっているドラゴンボールを使えばすぐにでも復活できますよ!」
「そうなの?さすがデンデ!」
「いいぞ!じゃあバッチリじゃねえか!で、なにか?叶えられる願いはナメック星のときみたいにみっつなのか!?」


喜ぶライとクリリン。
そしてクリリンの疑問には、デンデははいと頷いた。


「では、あのときのようにひとつの願いでたくさんの者が生き返ったりすることはできんのか?たとえば、『セルに殺された者たちを生き返らせてくれ』とか…」
「え?……そういうのはなんとか最初の調整でやれないことはないんですが…叶えられる願いがふたつになってしまますよ」


ピッコロの言葉にデンデはそう答える。


「え!?それだけのことでいいの?」
「十分すごいよ、デンデ」


ローリスクハイリターンの条件を聞いて、悟飯は驚き、ライはにこりと笑う。


「それでいい。そうできるようにしてくれ」


ピッコロも十分だと判断したのか、デンデに言う。
そして了解したデンデが早速ドラゴンボールを復活させるために龍の模型の有無を尋ねる。
どうやらあるようで、ミスター・ポポがすぐに持ってきてくれた。
その龍の模型に手をかざしながら、何やらぶつぶつと呟くデンデ。
じっと様子を見ていると、龍の模型が光り、その光が花火のように空に打ち上がる。
そして更に光は7つに分かれ、それぞれ別々の場所に降り注いでいった。


「これでドラゴンボールは復活したと思います」
「え!?も、もう!?」


あっという間の出来事に、目を見開いて驚く悟空。
ライも、まさかこんなに早くできるとは思っていなかったみたいで、驚きつつも嬉しそうに笑った。


「デンデすごい……ね、ピッコロさん」
「そうだな……以前の神より、優秀かもな」
「もう、それって前の神様に失礼だよ」


ぷくっと頬を膨らませて言うも、以前の神は元は自分自身のため、ピッコロは全く気にしていない。


「よし!じゃあオラがブルマにドラゴンレーダー貸してもらって集めてくる!」


ドラゴンボールが復活したところで、悟空はそう言いだした。


「悟飯、ライ、もう特訓はいいから、セルゲームまでここでデンデと遊んでやれ」
「「え!?」」


そして双子に向け言うと、双子は驚き声を揃える。


「で…でも…」
「おとうさん…」
「いいからいいから。心配すんなって。じゃな!」


ぽかんと悟空を見上げる悟飯、ライに悟空は手を振り、有無を言わさずに瞬間移動で消えてしまった。


「あ……」
「もう、おとうさんってば……」


いつもいつもこうなんだからと、ライは困ったように呟く。
だが瞬間移動で消えてしまわれてはどうしようもできないと、後を追うことは諦めた。


「悟飯さん…ライさん…どういうことは聞いてませんか?悟空さんは、自分よりセルのほうが強いってはっきり言い、弱点も知らないと……それなのに、なぜあんなに明るく…」


悟空がいなくなったところで、今まで気になっていた疑問を双子に投げかけるトランクス。
だが、双子も困ったようにトランクスを見返した。


「あたしたちも、ずっと気になってるんですけど……」
「ボクたちにも教えてくれないんです……ただ、楽しみにしてろって……」


楽しみに、という言葉だけ繰り返し、トランクスは汗を浮かばせながら黙り込んだ。


「でもよう、あいつが楽しみにしてろって言うんだから、きっとなにか勝算があるんだよ」
「………ただの開き直りかもしれんぞ……」


人差し指を立てて言うクリリンだが、ピッコロの言葉のほうが可能性があると思ったのか、みんな思わず無言になってしまった。