ライはぐっと涙を堪えて、瞬きをせずに悟空を見る。 瞬きをしてしまえば、涙が零れてしまいそうな気がしたからだ。 「あたし、死ぬために修業してるんじゃないよ……死なないために修業をしてるの……強くなって、人造人間なんかに、セルなんかに殺されないために……」 少し驚き、自分を見つめたままの悟空から視線を逸らさない。 こうまでして、父の言葉に歯向かったことが今まであっただろうか。 「死にたくないから修業するの。生きるために強くなるの……!今までも、ずっとそうだったよ……」 ぎゅっと自分の服を握りしめ、それでも悟空を見つめる。 「ベジータさんたちが…サイヤ人が地球に来た時も、」 サイヤ人から地球を、自分たちの命を守るために必死になって修業した。 「ナメック星でフリーザたちと戦った時も、」 大切な人を生き返らせるために、やはり必死だった。 「人造人間が来るって言われた時も……」 平和な未来を手にする為に。3年という期間全てを修業に費やした。 「あたし、死ぬことを想像して修業したことなんて一度もない……」 「!」 泣きそうに眉や目を震わせながらも、強い意志の込められた言葉を放つライの表情を見て悟空は言葉を失った。 「あたしね、いくら修業しても、全然相手に敵わなくて……ボロボロになって、いつも誰かに助けられてばっかだった……」 じっと目を見開いてライを見つめる悟空に、ライは言葉を続ける。 「だけど、強くなったなって……頑張ったな、って……そうおとうさんに言われるだけで、すごく嬉しかったの……」 その時の悟空の言葉や表情を思い出したからか、ついに堪えられなくなった涙が頬を伝う。 それでもライは言葉を続ける。 「強くなることもそうだけど、あたしが強くなって、おとうさんが喜んでくれるのが本当に嬉しかった……」 その度に自分が認められているような気がした。 その度に自分よりも強く前を進み続ける父の背中が誇らしく思えた。 自分もその背中に近づきたいと思った。それが目標だった。それが自分の誇りだった。 ぐいっと涙を拭い、再び悟空を見る。 「だけど、もうおとうさんはあたしが強くなっても喜んでくれないの?あたしがいくら修業しても……おとうさんには足手まといなの?」 悲しそうに呟かれるライの言葉を聞いて、悟空は思わず首を横に振る。思わず小さく、違うと呟く。 「我儘だってわかってるよ。こんなこと言ってもおとうさんが困るだけだって……だけど、あたしだって……」 震える唇で、ライは悔しそうに言葉を発する。 「あたしだって、おとうさんと一緒に修業したかったよ……!」 憧れの父と一緒に修行したかった。一緒に戦いたかった。 自分が更に強くなる姿を見てほしかった。期待してほしかった。 そしてまた―――嬉しそうに、笑ってほしかった。 「っ………」 切なそうに言うライを見て我慢できなくなったのか、悟空はぐっとライの身体を引き寄せ抱き締めた。 突然のことに、ライは目を見開く。 「………悪い……ライ……とうちゃんが、バカだった」 「っえ……」 悔しむように耳元で囁かれる。 そして優しい手付きで、ライの頭を撫でた。 「オラだって、おめえが強くなるのは嬉しいさ……さすがオラの子だって……そう思っちまうさ……」 「お…おとうさん……」 予想していなかった言葉に、ライは驚きぽつりと呟く。 「オラは、ライが強くなることを反対してるわけじゃねえんだ……それは、分かってくれるか?」 呟く悟空の言葉に、ライは切なそうな表情で頷く。 「あの時も言ったが、オラはおめえに生きててほしかったんだ……何としてもな」 「う、んっ……」 悟空の気持ちも、ライは痛いほど身に染みている。 初めて頬を叩かれた、あの感触も未だに覚えている。 「だから戦いから遠ざけようとしてた……それがライの為だと思ってた。でも、そんな辛い顔させるくらいなら、」 ここで悟空はライの身体をそっと離し、代わりにライの頬に手を添える。 「おめえのしたいようにさせてやる方がいいってわかった。思う存分、修業してこい」 「おとうさん…!」 そしてにかっと笑った悟空を見て、ライも嬉しそうに表情を明るくする。 「ありがとう、おとうさん!あたし…頑張る!!」 「おう。ライならできる。オラがびっくりするくらい、強くなれる」 「うん!」 一番欲しかった言葉を効けて、にっこりと嬉しそうに笑うライ。 その純粋無垢な笑顔を見て、悟空も安心したように笑みを浮かべる。 「ふん……つまらん言い合いは終わったか」 「ベジータさん、さっきはありがとうございます」 「礼など気色の悪いことを言うな。強くなりたいと言うのなら、さっさとその甘さを無くすんだな」 鬱陶しげに舌打ちをしたものの、そっぽを向きながら言われた後半の言葉はアドバイスにも聞こえる。 不器用なんてものじゃない、分かりにくい言葉を受け、ライはまた笑った。 「ライさんならもっと強くなれますよ」 「ありがとうございます、トランクスさん」 にこりと笑って言うトランクスに、ライも同じように微笑みかける。 わだかまりを感じさせないライの笑顔を見て、トランクスは心から安堵した。 「おねえちゃん、頑張って。ボクも、強くなったおねえちゃんと一緒に戦いたい」 「ほんとに?ふふっ、ありがとう、悟飯」 嬉しそうに言う悟飯に、ライも笑って言う。 そんな二人を横目で見ながら、悟空はそっとピッコロへと近寄る。 「ピッコロ」 「……なんだ」 声をかけると、ピッコロは低い声で応える。 「悪かったな。おめえだろ、ライに本音を言うように言ったのは」 どうやら悟空は気付いていたのか、にっと笑いながらピッコロを見た。 ピッコロは腕を組んだまま、どうだかなと答えた。 「オラ、自分で気にしてたつもりなんだけど……やっぱ、ライに対する態度は変わっちまってたみてえだな」 「そうだな。親バカに磨きがかかっていたな」 「は、はは……。あのままだとオラ、別の意味でライの心を壊してたかもしんねえな」 ピッコロの言葉に一瞬苦笑したものの、すぐに眉を下げて呟く。 「すまねえピッコロ。おめえの方がオラよりずっと、ライのこと見てら」 「……客観的に見ていただけだ」 目を閉じ答えるピッコロを、悟空はははっと笑って見る。 「ライのこと、頼んだぞピッコロ」 そしてピッコロの肩に手を置く。 ピッコロは特に表情を変えず、ただふんと鼻を鳴らした。 「ライ、」 「?」 ようやくしがらみから抜け出すことができ、いつもの笑顔でいるライに向けて悟空が口を開いた。 「まずは超サイヤ人にならねえとな。怒れ、ライ。強くなるためにな」 「うん!」 また以前のように悟空に見つめられ、ライは嬉しくなって胸が高鳴る。 ようやく純粋に、自分の思うように強さを求め…修業することができる。 また戦えるんだ。父と一緒に。皆と一緒に。 そう思うとライは早く身体を動かしたくて仕方がなくなった。 「ったく、おめえはなんだかんだわかりやすいな」 「そ…そうかな……」 その様子にはすぐ気付いたのか、悟空は苦笑しながらライの頭を撫でる。 「超サイヤ人になったら気が高ぶっちまうからな。超サイヤ人になったら、抑えられるよう寝る時以外はなるべく超サイヤ人の姿でいろよ」 「わかった!………その、なれたらだけど……」 意気揚々と答えたはいいものの、少し苦笑しながら言葉を付け足す。 「はは、おめえは優しいからなー。悟飯と一緒で、苦労すっかもな」 「が、頑張る……!」 そうエールをもらい、ライはピッコロを見上げた。 ピッコロも応援してくれるのか、力強く頷いてくれた。 「おう、思いきり修業してこい。んじゃ、オラと悟飯はもう行くな」 「待て悟空。まだ部屋に入る順番を決めていない」 話の途中だったため、ピッコロが悟空を止める。 そういえばそうだったと、ライも悟空を見上げた。 「いや、オラと悟飯はもういい。外界で修業する。9日間もありゃなんとかなるさ」 そう答える悟空に、ピッコロとライは驚きを隠せない。 「なぜだ…まだ、丸1日はじゅうぶんに入っていられるのに」 「いいの?おとうさん…」 不思議がる二人に、悟空は振り向き答える。 「あそこの中はそうとうカラダにきつい。何もしてなくてもだ。じゅうぶんに休めてやったほうがいい」 「やれやれ……さすがのカカロットさんも、部屋の過酷さにとうとう音をあげたか…」 腕を組み、嫌味に聞こえるようなことを言われるが悟空はすんなりと受け止めた。 「かもな……だが、これ以上カラダをムリに鍛えてもただ辛いだけだ。そんなのは修業じゃねえ…でも、おめえたちがまたあの部屋に入るのに文句を言ってるわけじゃねえ。まだ、鍛える余地は残ってるみてえだし」 さらっと言ってのける悟空の言葉に苛立ったのはベジータだ。 「なんだと……?気にいらんな…今の言い方だときさまの方がオレより実力が上だといってるように聞こえる…」 「ああ、ずいぶん上だと思う」 「なに…!?」 余裕そうに答える悟空に、ベジータは驚く。 だが悟空は気にすることもなく、皆を見渡した。 「じゃ、おたがいがんばろな!武道大会でまた会おう!」 そしてまだ驚いているように自分を見上げるライを見る。 「おめえもな、ライ。存分に修業したら、家へ帰ってこい。オラと悟飯はそこにいるからな」 「う、うん……」 そしてにこりと笑うと、悟空は悟飯を呼び、共に飛び立っていった。 ×
|