ライと悟飯の予想通り、悟空は実際にセルの元へ行き、天津飯を助けに行った。 そしてまだ息のあるピッコロの姿にも気づき、セルに追いかけられながらも二人を連れて神の宮殿へと戻ってきた。 「「おとうさん!」」 再び姿を現した悟空を見て、双子は嬉しそうに叫ぶ。 そしてすぐ、悟空が天津飯とピッコロをつれていることにも気づき、目を見開いた。 「ピッコロさん!天津飯さんも…」 悟空が二人を地面に横にさせるのを見て、ライは慌てて駆け寄る。 そしてピッコロの息がまだあること、生きていることを知る。 「ピ…ピッコロさん……」 「ピッコロはまだ生きてる。待ってろ、今仙豆を持ってきてやるから」 安心するように呟くライの頭を撫で、悟空は再び姿を消した。 「よかった……ピッコロさん……」 ライはピッコロが生きているというだけで嬉しくなり、再び涙を滲ませる。 そんなライを見て悟飯も安心したのか、すぐ隣に腰を下ろした。 「よかったね、おねえちゃん。ボクも嬉しいよ」 「うん……ほんとに、よかった……」 今は気を失ってしまっているが、確かにその胸は呼吸により上下している。 ライはそっと手を伸ばし、ピッコロの腕に触れる。 まだぬくもりを感じ、ライは嬉しそうに顔を綻ばせた。 「やっぱり、おねえちゃんは笑ってるほうがいいよ」 「え……」 「ボク、おねえちゃんが泣いてると辛くなるし、おねえちゃんが笑ってると、すごく嬉しくなるんだ」 言いながら、にこりと笑う悟飯。 ライは少し驚いた様子だったが、すぐに同じように笑った。 「それは、あたしたちが双子だからだよ。辛いのも嬉しいのも、いつも一緒に感じてきたから」 「……うん。そうだね」 だからこそ、悟飯も少し気付き始めていた。 ライのピッコロへの気持ちが何なのか。 ピッコロは自分とライの大切な師匠だ。 そのため、もちろん悟飯もピッコロのことが好きだ。 だが、ライのそれは自分のものとは毛色が違う気がしてきた。 さっきの……ピッコロが死んだと思われたあの時から、その違和感が確信へと変わりつつある。 気付きながら、悟飯はまだ何も言わないでいた。 きっとライ自身は、何も自覚してはいないだろうから。 「よし、仙豆を持って来たぞ」 そして悟空が戻ってきて、ピッコロと天津飯に仙豆を与える。 すると二人はすぐに体力を回復し、起きあがった。 「ここは……」 「ピッコロさん!」 今自分がいる場所はどこかを確認するため視線を彷徨わせるピッコロ。 そんなピッコロの意の一番に抱きついたのはライだった。 「ライ……そうか、ここは神殿か」 「うん……ピッコロさん、あたし、すっごく心配したんだから……」 ぎゅう、と足に抱きつく力を強くするライ。 ピッコロはそんなライを見て、少しばかり眉を寄せた。 「そうか………すまんな」 自分を抱き締める手が震えていることに気付き、ピッコロはそう呟いた。 だがライは首を横に振る。ピッコロの足に頭を擦りつけたままのため、表情はピッコロからは見えない。 だが、ピッコロは手に取るようにライの表情が分かった。 「泣くな、ライ」 「!!」 そう言われ、驚いてピッコロを見上げるライ。 確かに、その目元には涙が滲んでいた。 「全く……悟飯を泣き虫だと言っていたおまえはどこに行ったんだ」 「……そんな、昔の話……」 呆れるように言うピッコロに、ライは何とか涙を堪える。 ひどい顔になっているだろうとは自分でも思ったが、取り繕うことさえできなかった。 「ピッコロさんが悪いんだもん……約束、したのに……っあたし、すごく悲しかったんだから……!」 「……だから、悪いと言っている。もう泣くな。情けない」 ピッコロは呟くように言いながら、そっとライの頬を伝う涙を拭った。 爪が当たらないように気をつけながら、優しく。 「それよりも、おまえは笑っていろ。泣き顔を見せられるよりずっとマシだ」 「っ……もう、ピッコロさんてば……」 一言余計だとライは思いながら、自らの目元をごしごしと擦る。 そしてまだ赤いままだが、そんな目でピッコロを見上げて、 「ピッコロさん、生きててほんとによかった…!」 安心したように、嬉しそうに……笑った。 そのやり取りを見ていた悟空や悟飯も、つられるように笑う。 「(ライ……よかったな)」 悟空は腕を組みながら、ライの表情をじっと見つめる。 一度は守れなかったと思ったその笑顔。 やっぱり、ライは笑顔が一番似合う。 怒った顔よりも、泣いた顔よりも、ずっと。 ライには笑顔でいてほしい。それが悟空の、娘に対する願いだった。 そしてライもいつもの調子に戻ったところで、ミスター・ポポが神殿の中から出てきた。 「おーい!ベジータとトランクスが部屋から出てきたぞーっ!」 「ほんとか!」 どうやら精神と時の部屋≠ゥら二人がようやく出てきたらしい。 それを聞いた一同は、揃って部屋まで向かう。 「どうもすみません、お待たせしました」 「ほんとに待ったぞ〜〜」 「おかえりなさい」 髪が伸び、体つきも逞しくなったトランクスが一言言う。 嬉しそうに悟空は迎え入れ、ライもにこりと笑った。 そして待っていた様子の悟空に向け、トランクスは時間がかかってしまった経緯を話す。 中に入って2ヶ月ほどですでに超サイヤ人の限界を超えたと言うトランクスの言葉に、ライは驚いたように目を見開いた。 だがすぐに余計なことはいうなとベジータに止められる。 「うまくいったんだな、ベジータ」 「さあな……」 呟きながら口角を上げるベジータ。 さらに、悟空たちがこれから精神と時の部屋≠ノ入っても無駄だと続ける。 パワーアップした自分が、これから全てを片付けてしまうからだと。 セルはとんでもない化け物だと告げる悟空の言葉にも、余裕を見せている。 「ちょっとー!みんなどこにいるー!?」 「ブルマさんの声だ!」 自分たちを呼ぶブルマの声に気付き、皆揃って神殿の外へ向かう。 すると飛行機できたのか、ブルマが待っていた。 そして、トランクスの姿を見つけて驚いた。 「ねえねえちょっと!あんたトランクスじゃないの!?そうでしょ!?」 「え…ええ」 返事をすると、ブルマはトランクスに近寄り、髪を触る。 髪型が変わっていることや背が伸びたことについて不思議がっていると、トランクスは精神と時の部屋≠ノついて説明する。 「ねえ、でもそのわりにベジータは髪の毛伸びてないじゃん」 一緒に入っていたというベジータをちらりと見て言うと、ベジータは眉を寄せながら答えた。 「純粋なサイヤ人は頭髪が生後から不気味に変化したりはしない……」 「へ〜〜」 「そうなんか!どおりでオラも…」 「生まれた時から変わらないなんて…」 それを聞いて、ライも驚いたように悟空とベジータを見る。 まだまだサイヤ人について不思議なことがあるんだなと思っていると、ベジータはそんなことを喋っているときではないと言い、ブルマを見る。 さらに、何しに来たと言うと、ブルマは思い出したようにカプセルを開いた。 ベジータに頼まれて作った戦闘服の防御力が高いため、みんなの分も作ったらしい。 「へえ〜〜意外と軽いんだなこれ……」 「ボクはナメック星で着てたからひさしぶりだ」 カプセルから出てきたトランクのようなものから戦闘服を取り出し、着始める悟空、悟飯、トランクス。 ライも懐かしそうにトランクを覗き、残っている戦闘服へと手を伸ばす。 だがすぐにはっとして、その手を引っ込めた。 「あら?ライちゃんも着ないの?」 ピッコロや天津飯が着る気になれないと答えるのには納得したブルマ。 だが、ライが着替えようとしないのには、少し不思議に思ったようでそう声をかける。 「あ……えと、あたしは戦わないから……」 「そうなんだ。まあ、さすがに危険そうだものね」 「………」 苦笑しながらライが答えると、ブルマもにこりと笑って答えた。 その表情に、ライは何とも言えなくなる。 ぎこちない笑みを浮かべたままのライを、ピッコロはじっと見ていた。 「さっきも言ったが……カカロット…きさまは、その服を着てもムダだ。活躍の場がない……」 「おめえがセルを倒しちまうからだろ?そんならそれが一番いいさ」 ライは気を取り直し、戦闘服に着替え終えた悟空を見上げる。 いつもの道着ではないため違和感を覚えたが、なんだか珍しくも思えて思わず口元を綻ばせる。 そして悟空の言葉にベジータが若干の笑みを見せると、さあ行くかと外を見た。 悟空の瞬間移動を断り、自分で飛んでいく。 続いてトランクスも行こうとするのを、悟空は止め、仙豆を渡す。 「がんばれ!だがムリはすんなよ!やばくなったら逃げろ、いいな」 「はい。いろいろありがとうございます。悟空さんも修業がんばってください」 仙豆を受け取りながらトランクスが答える。 「負けないでくださいね!あたし、ここで待ってますから」 「はい。必ず戻ってきます」 ライの応援にも、トランクスは力強く応えた。 「ぜったい死んじゃだめよ、ふたりとも。わかったわね!」 ブルマの言葉ににこりと笑い手を上げ、トランクスはベジータの後を追うように飛んでいった。 その姿を見送った悟空は、悟飯を振り返る。 「よし悟飯!こんどはオラたち親子の修業の番だ!」 「はいっ!」 そして言われた言葉に、悟飯も意気込むように答える。 「おとうさん、悟飯、がんばってね!」 「おう。ライ、大人しく待ってろよ」 「はぁい」 優しい表情ながらも、お転婆するなと釘を刺されているような気がして、ライは苦笑しながら答える。 「悟飯、ぜったいに強くなって戻ってきてね。セルをあっという間に倒せるくらいに」 「おねえちゃん……いくらなんでも無理だよ……」 ぐっと拳を握って言うライの言葉に、悟飯は苦笑して返す。 そして悟空に促され、二人は神殿の中に入っていった。 「……部屋まで見送らなくていいのか」 「……うん。あたしはここでいい……」 そう呟くライの表情は、どこか暗かった。 ピッコロはそんな表情をしているライを、腕を組みながら見つめた。 ×
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