そしてようやく、ライ、悟飯、トランクスの3人はカメハウスに到着した。 「ただいま……あ、武天老師さま、おじゃまします」 「おじゃまします」 悟飯がドアを開けながら言う。 それに続いてライも言うが、亀仙人、ヤムチャ、クリリンの視線はテレビに釘付けだった。 どこか驚いている様子のクリリンがゆっくり、ライたちを振り返る。 「お…おまえたち、こ…このニュースを見て答えてくれ…なにがあったのか…」 「ニュース?」 クリリンの言葉に、3人も視線をテレビへと向ける。 そこには、一人のアナウンサーがどこかの場所で中継を行っている様子が映されていた。 何やら争っているようで、銃声のようなものも聞こえる。 気になったアナウンサーが様子を見にいこうとカメラに向けて言い、何かを見て驚いたような表情を最後に、テレビは砂嵐になってしまった。 他のチャンネルに変えて見てみるが、カメラは横転し人を映さず、また悲鳴もぴたりと止んでしまっていた。 その不思議な光景に、ライは眉を寄せ、生唾を飲んだ。 そしてクリリンは当初のように、ライたち3人になにがあったのかを聞く。 説明を行ったのはトランクスだった。 「そ、そのぬけがらから出たやつだってのか……!?」 「た…たぶんそうだと思います。場所も近いし……」 奇妙な生物のぬけがらの話をすると、クリリンは驚いたように言う。 「……オレ…行って確かめてきます」 厳しい表情で言うトランクスに、ヤムチャとクリリンは止めようとする。 「だいじょうぶです。オレは超サイヤ人になれるんですよ。ほんとうに恐ろしいのは人造人間ですから」 「そ…そうだけど……」 それでも、得体の知れないものが相手となると不安は拭えない。 「ボ、ボクも行きます!」 「あたしも行く!」 トランクスの言葉を聞いて、悟飯とライもそう名乗りを上げる。 だが、チチはダメだと言って許そうとはしなかった。 トランクスも、確かめるだけだからか、ひとりでいいと答える。 「悟飯さんやライさん、みなさんはもしもの時のために悟空さんを人造人間から守ってあげてください」 そう告げるトランクスの、こちらを安心させるような表情を見て、ライは困らせるようなことを言えなくなった。 そして行ってくると言い、カメハウスから出るトランクスを見送るが、 「!!」 突然感じた妙な気に、みんな思わず外へ出る。 「おっ、おい!ど、どうなってるんだ…!こ、この気は……!」 「フ…フリーザと……フリーザの父親の気……」 眉を寄せ叫ぶクリリンと、驚愕するように呟く悟飯。 「それだけじゃ、ない……」 ライも額から一筋汗を垂らしながら、ぽつりと呟いた。 「そ…孫悟空さんのも……ピッコロさんも……そ…それに、オレの父さんのまで……」 信じられなさげに、目を見開いて言うトランクス。 しかし、フリーザもその父親も死んだはずだとヤムチャは苦々しく言う。 悟飯もカメハウスの中で眠っている悟空を確認した。 「こ……この方角は……」 妙な気を感じる方を見るトランクス。 そこは、先程テレビでやっていた事件のあるジンジャータウンのある方角だった。 そのことを知り、トランクスはきつく拳を握る。 「……やはり、行って確かめてきます……あ…あのぬけがらから出た怪物の正体を……!」 呟くトランクスの隣に、クリリンが立つ。 「オレも行くよ。なんか、嫌な予感がするし……一人よりはマシだろ?」 「……ええ、助かります」 汗を浮かべながらも、そう決意するクリリンに、トランクスは頷きながら答える。 そしてジンジャータウンへと向かうため、二人は飛び立った。 「………っ」 ライはそんな二人の後ろ姿を見て、ぎゅっと拳を握ると悟飯を振り返る。 「悟飯、あたしも行ってくる!」 「えっ!」 「ライちゃん!何言ってるだ!!」 チチは驚いてライを引き留めようと手を伸ばすが、それよりも先にライは空に浮いて逃れる。 悟飯はそんなライを見上げた。 「どうしても気になるの…!おとうさんだけじゃなくて、ピッコロさんやベジータさんまで……」 少し心配そうな顔の悟飯を、ライは切なそうに眉を寄せて見つめる。 「ごめんね、悟飯!おかあさん!」 叫ぶように告げると、ライは背を向けてトランクスたちを追いかけて行った。 「ライちゃん!!」 チチが大声で呼ぶも、もうすでにライの姿は見えなくなってしまった。 「……わかったよ、おねえちゃん。おとうさんのことは、ボクに任せて」 ライの気持ちがよくわかるのか、悟飯は口元を引き結んで呟く。 そしてライが飛んで行った方向を、しばらくじっと見つめていた。 「トランクスさん!クリリンさん!」 「ライさんっ!?」 そう時間もかからずに二人に追いついたライは、二人の間に入る。 まさか来るとは思っていなかったのか、トランクスは驚いたようにライを見つめた。 「な、なんで来たんだよ!」 「気になって、いてもたってもいられなくなったんです!」 クリリンが眉を寄せて言うが、ライも強い口調で返した。 それに気圧されたのか、また諦めたのか、クリリンはぐっと追い返そうとした言葉を飲み込んだ。 「……まあ、ついてくるかもとは思ってたさ。ライちゃんは、いつもそうだもんな」 「クリリンさん……」 「嫌ってほど知ってるからな。サイヤ人と戦った時も、ナメック星に行った時も」 長年の経験から言えることなのか、クリリンは仕方なさそうな表情で笑う。 ライはそんなクリリンの言葉を聞き、ごめんなさいと謝りながら控えめに笑った。 ライの行動力やクリリンの理解の早さに驚いていたトランクスだが、また新たに気を感じて意識をそちらへ向ける。 「こいつはピッコロだ!」 だが気付いたように、クリリンがそう言う。 「え!?し、しかしこの気は……」 「ピッコロさんに似てるけど……」 戸惑いを見せるトランクスとライに、クリリンは確信を持って、融合したんだと告げた。 「え……!融合…って、例の神様とですか…!?もともとひとりから別れたっていう……」 「そうだ…!ただでさえとんでもない強さだったピッコロが…こ、こいつは超ナメック星人だぜ!」 問うトランクスに、クリリンは嬉しそうに言う。 それを聞いて、ライも驚いたようにピッコロの気を感じた。 「すごい……ピッコロさん、もっと強くなってる……」 「嫌いな神様と融合したんだ。これぐらいのパワーアップがないと、あいつも怒るさ」 ライの呟きに、クリリンが苦笑しながら言う。 「すごいっ!すごいですピッコロさん!」 震えるようなパワーを感じ、ライは嬉しそうに声を上げる。 そして無邪気に笑った。 「これなら誰にだって負けないですよ!あの人造人間にだって…きっと……!」 そう喜ぶライを、トランクスは驚いたように、また切なそうに見つめた。 「(ライさん……本当に嬉しそうだ……。こんな笑顔、見たこともない……)」 自分の知るライの笑顔というのは、どれも薄く、儚いものばかりだった。 そのため、無邪気に、純粋に笑うライの顔を見ると、嬉しくもあり切なくもあった。 「(余程、好きなんですね……ピッコロさんのことが……)」 そして何故か、悔しくもなる自分の心を握りつぶすかのように、拳を握った。 未来のライを救うことができなかった自分が、心を苦しくさせる資格もないのに。 なるべくその気持ちを考えないように自制し、トランクスはキッと正面を見た。 すると突然、ビビビと肌が痺れるのを感じた。 「いっ、いまの衝撃波は……!?」 「あ…あそこの空が……!戦いがはじまったんだ…!!」 驚くトランクスに、クリリンは遠くの空を見て言う。 ライもその衝撃の大きさを見て、目を見張った。 だがそう立ち止まるのも一瞬で、3人は急いでまた飛び始めた。 そして少し時間がかかってしまったが、3人はようやく、ジンジャータウンで戦うピッコロと謎の生物の姿を見つけた。 「や、やっぱりピッコロだ!神様と合体したんだよ!あ、あっちのヤツは……」 「たぶん、あいつだ…!例のぬけがらから出た……!」 「そ…そこまでじゃないけど……でもやっぱり、気持ち悪い……」 二足歩行をしているため、動きは人間と変わりはない。 だが、やはり斑点のある見た目や長いシッポを見ると、虫を連想させる。 ライは思わずトランクスの背後に隠れ、なるべく目を合わせないように地面に降り立つ。 「こ…こいつがジンジャータウンの人達を殺した…」 改めて対峙したクリリンが、その見た目の化け物さを気味悪がりながらも、先に戦っていたピッコロに確認する。 「そうだ。尾に気をつけろ。皆そいつで消されたんだ……」 「尾……?」 ピッコロの言葉を聞き、ライはちらりとその生物の尾を見る。 先が針のように尖っており、どことなくサソリや蜂を連想させた。 うっ、と恐怖を感じたライは目を細くして再びトランクスの背後に隠れる。 そんなライの態度を見て、ピッコロは思わず眉を寄せた。 「怖がるくらいなら初めから来るな。情けない…」 そうして吐き捨てるように言われた言葉を聞いて、ライははっと顔を上げる。 「ピ、ピッコロさん、ライさんは……っ」 ライが化け物を怖がる理由を説明しようとピッコロを見る。 だが、自分の背後からライが離れて行くのを見て、トランクスは続きを言えなくなった。 「………ごめんなさい。もう大丈夫です」 「ふん……」 そして気丈な態度で、トランクスとピッコロの間に立つ。 化け物とはそう遠くない距離だというのに、ライは一人で向き合うことを決めたようだった。 「ライさん、あなた……」 本当に大丈夫なのかと心配になったトランクスがライを見つめるも、ライはにこりと笑った。 若干汗を浮かべた、無理矢理作った笑顔だったが。 それでも、ピッコロに情けないと思われたくない、自分の弱いところを見せたくないと思っているのか、ライは何も言わないでとトランクスを見上げる。 その思いを感じ取ったのか、トランクスは何も言わず、小さく頷いた。 そしてライを気にしながらも、化け物を見る。 「な…なんでこんなやつから……悟空たちの気を感じるんだよ……」 「くわしくは後で話す。こいつを片付けるのが先だ……」 クリリンの疑問に対してそう短く答え、ピッコロは再び化け物を睨む。 「片付けるだと?そううまくいくと思うのか?」 「しゃ、しゃべった……!」 そのことにはライも驚き、ぎょっと目を見開くと思わず一歩後ずさった。 だがすぐにはっと気づき、再び足を戻し化け物と対峙する。 「この状況ではおまえにとても勝ち目があるとは思えんがな」 「たしかに、この場は退散するしかないだろうな」 「逃がしはせん…もう、さっき程度のかめはめ波ではどうしようもない」 呟くピッコロに、クリリンが悟空のかめはめ波を使えるのかと驚く。 「かめはめ波だけではないぞ、クリリン。その気になれば元気玉さえ、たぶんできるだろう……」 「……お…おどろいた、オレの名前までなぜ…悟空に教えてやったら驚くぞ…」 すると今度は、クリリンの言葉に化け物が驚いた。 「ほう……孫悟空は生きているのか?」 「あ、あたりまえだっ……!」 「おとうさんを勝手に殺さないで!」 面白そうに言う化け物に、クリリンが眉を寄せ言う。 ライも化け物の物言いにカチンと来たのか、拳を握って言った。 それすらも面白がるように、化け物は自分の知っている歴史とは違うと呟いた。 そして、 「17号・18号はかならず手にいれてみせる!おまえたちにはわたしが完全体になるのをジャマしようとしても、どうにもなるまい!17号たちと、少しはマシに戦えるのがピッコロひとりではな!」 劣勢と思われていた状況ながら、化け物はそう意気込む。 さらに両手を顔の横まで持ってくる。 「え!?」 「あ、あれは……!?」 驚く4人に目がけ、化け物は叫んだ。 「太陽拳!!」 まともに喰らってしまった4人は、目を閉じその場を凌ぐ。 「ううっ……」 「く…そ……!」 しばらく眩しさに慄いていたが、ようやく目が慣れてきたのか、ライは辛そうに呻き、トランクスは悔しそうに目を開く。 「に、逃げられた!」 「ちくしょう!」 化け物の姿が見当たらないことを知り、ピッコロはクリリンに太陽拳は天津飯の技じゃなかったのかと聞く。 だが、太陽拳は難しい技ではないため、悟空でも自分でもできるとクリリンは答えた。 それを聞いたピッコロは眉を寄せながら宙へ浮き、より遠くを探す。 だが気配を消しているのか、化け物の行く先を見つけることはできなかった。 「くそ〜〜っ、油断した…!!あっさり倒しておくべきだったんだ……!!」 「ピッコロさん……」 地面に降り立ち、悔しがるピッコロの凄まじい気を感じ、ライは茫然と呟き、トランクスやクリリンもその姿を見て驚いた。 すると間を置かずに、その場にベジータが現れる。 「は…話せ……いまここで何があったのか……」 状況が掴めないため、ベジータが険しい表情で尋ねる。 だがすでに天津飯がこちらへ向かってきている気を感じ取ったのか、天津飯がついたらまとめて話すとピッコロは答えた。 そんなピッコロに、ベジータはこれだけは聞いておきたいと前置きをしてピッコロを睨む。 「きさまはほんとにピッコロなのか…!な、なぜ急にそれほどの戦闘力をつけたんだ…!」 ベジータの疑問には、トランクスが答えた。 神様とふたたび合体したのだと。 それを聞いたベジータは、それだけでと、余計に驚く。 超サイヤ人となった自分の戦闘力を超えた戦闘力。 たかがナメック星人と言うベジータには、とても考えられないことだったようだ。 程なくして天津飯が到着し、ピッコロは皆に全てを話すことを決めた。 「ベジータと天津飯は見ていないが、さっきの化物はドクター・ゲロのコンピュータが独自に造り出した人造人間だ……」 「な…なにっ…!?」 そしてピッコロは、ライたちが到着する以前に化物……セルと名乗る人造人間から聞いたことを話した。 戦闘の達人たちの細胞を集め、その細胞を合成させた人造人間を造ろうとしたドクター・ゲロ。 時間がかかるために研究を断念はしたが、コンピュータは作業を続けていた。 そして悟空、ピッコロ、ベジータの細胞を密かに入手した。 さらにフリーザとその父親の細胞も、地球に来た時に入手したのだと。 そうして多くの強者の細胞を合成した造られたのがセルだが、これから更に完全体になろうとしていることも告げる。 完全体になるには17号・18号が必要だ。そのため、セルは自分たちから隠れて密かにエネルギーを集めているのだと。 「……そういうわけだ……セルが完全体になるのを阻止するには……やつをなんとか探して殺すか、17号、18号をやはり探して殺すか…そのどちらかだ……オレとしては、まだそれほどでもないパワーのうちにセルを倒すしかないと思うが……」 「そんな……」 全てを聞いたライは、事の重大さを未だ受け入れられないでいた。 悟空たちの細胞で造られたセルという存在も。 すでに化け物じみたあの姿がまだ未完成なものだということも。 ライは何も言葉が出てこなくなった。 |