もうすぐ亀仙人のいるカメハウスへ着くという頃。
ふと気になったのか、ヤムチャが事の成り行きをブルマに伝えたほうがいいのではとクリリンに言う。
そのことに同意はしたものの、自らが報告するとなると、クリリンはあまり気が進まなかった。


「おまえのおっかさん、きついんだよな言うことが…」
「はは…未来でも変わってませんよ」


そう会話をしながら、覚悟を決めたのかクリリンはブルマの自宅へ連絡をする。


「あ、ブルマさん?あの、クリリンすけど……」
『クリリン!?なによ、無事だったわけ!?』


ぼそりとクリリンが言うと、ブルマの大きな声が飛行機内に響いた。
クリリンだけでなくライたちも驚いてクリリンの方を向く。
するとブルマもこちらと連絡を取ろうとしていたのか、トランクスがそっちにいないか聞いてきた。
傍にいることがわかり、ブルマは本題を話し出す。
ブルマの話を要約すると、どうやら西の方の山に不思議な乗り物を見つけたとカプセルコーポレーションに連絡が入ったとのことだった。
だが乗り物の形式を聞いてもよくわからなかったため、写真を送ってもらったらしい。
そしてその写真を見て、ブルマはトランクスの乗ってきたタイムマシンだと気付いたようだった。
それを聞いて慌ててトランクスが持ち物を確認すると、タイムマシンはしっかりとカプセルに戻して持っていた。
だがやはりタイムマシンに違いないと言うブルマは、ファックスを使って写真を送ってきた。


「トランクス、これ……」


出てきた写真をクリリンがトランクスに渡す。
トランクスはそれを見て驚いた。


「ま…まちがいない…こ…これは、オレが乗ってきたタイムマシンそのものだ…」


どういうことかと眉を寄せるトランクスは、この写真の詳しい位置がわかるか聞く。
するとブルマは、詳しくはないが西の1050地区のあたりだと答えた。
行くのかと聞くと、トランクスは頷いた。


「はい…!この目で見てみたいんです…」
『じゃあわたしも行くわ。そんなに遠くないから』


ブルマもそう答え、また後でと連絡は途絶えた。


「あの、ボクもいっしょに探しますよ。行っていいですか?」
「もちろん!どうもありがとうございます」


悟飯が言い出したのを聞いて、ライもすくっと立ち上がった。


「あたしも手伝いますよ!」
「ライさんも、ありがとうございます」


そう元気に言うと、トランクスもまたお礼を言った。


「悟飯ちゃん、ライちゃん……!」
「だいじょうぶですよ、おかあさん。危険なところへ行くわけじゃありませんから」
「うん。だから安心して、おとうさんを見ててあげて!」


心配そうに双子を見るチチに、悟飯とライはにこりと笑って答えた。
たしかに、探し物をするだけなら危険はないと納得したチチは、強く反対せずそのまま双子を見送ることにした。
そしてライ、悟飯、トランクスの3人は飛行機から飛び降りる。
西へ向かっている間、悟飯はちらりとトランクスを見る。


「あの…トランクスさんのいた未来の世界は、そんなにひどいめにあっているんですか?人造人間のふたりに…」


ライも気になるのか、悟飯と同じように神妙な表情になるトランクスを見つめる。


「はい……世界の人口は……たったの数万人にまで減ってしまいました…西の都もほとんど壊滅状態で、オレたちは地下の秘密基地にかくれなんとか凌いでいるんです…」
「そ…そんなに……見つかるといいですね…人造人間の弱点が…」


思っていた以上に悲惨な未来の話を聞き、悟飯はそう呟く。


「……あのとき、ふたりの人造人間はドクター・ゲロに逆らっていた…あきらかにドクター・ゲロにとっては失敗作……」


トランクスの言葉を聞き、ライもその時の状況を思い出す。
怖い顔をして人造人間に怒鳴るドクター・ゲロと、涼しい顔で何も従おうとしない二人。


「それでも使わざるをえなかったのは、そこまで追い詰められたわけだが……結局、やつらに殺されてしまった……」
「っ………」


そして、ドクター・ゲロをあっさりと殺してしまった、非道な行動。
嫌なことを思い出してしまったライは、ぐっと拳を握る。
さらにトランクスは、その人造人間の危険さを知っているドクター・ゲロがテスト段階でどうやってストップさせたのかに着目する。
なにか緊急停止させる装置のようなものがあったのだと、トランクスは考えていた。


「…………そ…そうか……!」
「そういう保険みたいなのがないと、あんな危険な人たち動かそうと思いませんよね!」
「きっとそうですよ!」


トランクスの話を聞いて納得したのか、そう思いたいのか…悟飯とライは言う。


「可能性はうすいな……」


だがトランクスはそういう甘い希望を持つことを諦めているのか、小声でそう呟いた。
そして3人はブルマに言われた場所のあたりまで来た。
3人で手分けをして探していると、悟飯が見つけ、二人を呼んだ。


「よく見つかりましたね、悟飯さん!」
「さっすが悟飯!」


トランクスとライは着地しながら言う。
すると機械音が聞こえ、ブルマも近くにいると分かった。
悟飯がブルマを案内してくると、ブルマは飛行機から降り、トランクスとの再会を喜んだ。
トランクスはすでに自分のタイムマシンを隣に並べるように出していた。
ということはやはり、古いほうのタイムマシンはトランクスのものではないと言うブルマに、トランクスは古いマシンを見上げながら答える。


「い…いえ、あなたは未来でタイムマシンをたった1機しかつくらなかった……こ…こいつもオレの乗ってきたタイムマシンそのものなんです……」


さらに古いタイムマシンに、トランクス自らが書いた「HOPE!」の文字があることも、その証拠となった。
古いタイムマシンはそのほとんどを苔で覆われ、ずいぶん時間が経っていることが一目で分かる。
そのことも気になったブルマ以外の3人は舞空術を使い、タイムマシンの乗る部分を見下ろす。


「この穴…変ですよね…高熱で溶けたような……しかも中からあけた穴ですよ……」


乗り口部分はガラスで覆われているが、その一部は悟飯の言うように穴があけられている。
トランクスもそれを見て、難しそうな表情になる。


「と…とにかく開けてみましょう……失礼」


言いながらトランクスはスイッチを押す。
するとタイムマシンはぎこちない動きながらも、その口を開けた。
ライは浮いたまま、中に入るトランクスを見守る。
そしてトランクスは座席部分に転がる、棘のある妙な物体に気付いた。


「な…なんですか?それは……ヤシの実じゃないようですね……」


その物体は二つあり、何かの殻のようにも見える。
ライも眉を寄せながら、不思議そうにそれを見つめる。


「なに!ちょっと見せてよ!」


気になったブルマがそれを受け取りしばらく見ていると、その二つの切り口を合わせてみる。


「まちがいない…なにかのタマゴのカラだ、これ……」
「タマゴ…って……そ…そんなタマゴ見たことも……」
「トゲトゲしてて、なんだか不気味だし……」


ライはこういったものが苦手なのか、口元を引き攣らせながら呟く。
そして悟飯はそのカラがタイムマシンの中にあったことと、ガラス部分が中から開けられているという事実を照らし合わせる。


「も…もしかして、こ…この穴をあけたのは…そ…その卵から生まれた…な…なにかが……」
「えっ……け、結構、大きいよ……」


その言葉を聞き、ライも同じように穴を見つめる。
穴はライ、悟飯、トランクス……3人揃っても余裕で出られるほどの大きさがあった。


「……エネルギー残量はほとんどゼロ……やってきたのは……エイジ788……!オ…オレがやってきた未来より3年…さ…さらに未来から……」


二人が穴を気にしている間、トランクスはタイムマシンのエネルギー量を確認して呟く。
そしてその信じられない情報を得て、トランクスは目を見開いた。


「こ…この時代にやって来たのは…いまから…や…約4年前……」


つまり、3年前トランクスが来たときより1年も前に、この謎のタマゴがやって来ていたということになる。


「い…いったい…なにが…なんのためにやってきたんだ……!」


見当もつかないトランクスは苦々しげに呟くばかり。
歴史がずいぶん変わってしまったのも、これが原因なのではと危惧するほどだった。
そしてこれ以上は考えても理解できる領域ではないため、一旦3人はタイムマシンから離れる。
古いタイムマシンも、このまま残しておくわけにはいかないとトランクスがカプセルに戻した。
例の気味の悪いタマゴのカラも、ブルマが持っていくことになった。
そして悟飯が思い出したようにブルマに現在の状況を話すことにした。


「ボクたちは武天老師さまのところに集まっているんです」
「カメハウスへ?なんで?」


不思議がるブルマに、悟飯は事情を話した。
悟空の命を狙う人造人間から隠れるためだと。
やっつけちゃえばいいと言うブルマに、ライはあははと苦笑する。


「じょうだんじゃないですよ。父さんとオレ、ピッコロさんと、天津飯さん、ライさんも一緒にかかっても手も足も出なかったんです」
「……あら……そんなにすごいんだ…」
「ええ…とても……」


ぽつりと呟くブルマに、ライも頬を掻きながら呟いた。


「……で、ベジータはだいじょうぶだったの?ベジータもカメハウスへ?」
「仙豆という豆で助かりました。……でも父さんは、みんなといっしょに行動なんてしませんよ……」
「そうですよ、ブルマさん。団体行動なんてできないですもん……」
「……それもそうよね」


眉を寄せて言うトランクスにライも付け加えるように言う。
二人の言葉を聞いて、ブルマも納得したように溜息をつきながら答えた。


「ん?なに?」
「悟飯?」


すると悟飯の視線がある一点を見つめていることに気付き、ブルマとライは声をかける。


「いえ……あれはなにかな…と思って……」


言いながら、悟飯は少しずつ歩き出す。
不思議がるブルマたちをよそに、ライも悟飯のあとをついて行った。


「きゃああっ!!」


そして二人で何かを確認すると、ライは驚いたように悲鳴を上げる。
驚いて二人へ視線を向けるトランクスとブルマを、悟飯は呼んだ。


「なっ、なによ、どうしたの!?」
「なんですか悟飯さん!ライさんも、大丈夫ですか!?」


急いで駆け寄ってきたトランクスが、悟飯の背に隠れているライを見つけ、悟飯に尋ねる。


「あ、あれを……」


そして悟飯が指を差した方にあるものを見て、トランクスもブルマも驚きを隠せなかった。
そこには、何やら大きな虫のようなものが地面に這いつくばるようにしていたからだ。


「ちょ、ちょっ……悟飯!あんまり近付かないでよ……!」
「お、おねえちゃんまで無理して来なくても……」


ぎゅっと強い力で悟飯の服を掴んでいるライは、物体を確認しようと近付く悟飯に向けて言う。
悟飯は汗を浮かべながら、ライを振り向き言う。
虫が苦手なライは仕方なく、悟飯から離れ近くの岩の後ろに隠れた。


「し…死んでるの?」
「で…でかいな…な…なんなんだ、こいつは……」


ブルマとトランクスが呟く。
そしてしばらく探るように物体を見ていた悟飯は、気付いたように口を開ける。


「こ…これは死んでいるんじゃなくて、ぬけがらですよ……。おねえちゃん、出てきても大丈夫だよ」
「い、いやよ……ぬけがらでも、気持ち悪い……」


ライを安心させるよう笑みを浮かべながら言うも、頑なにライは近付こうとしなかった。
半分予想通りの反応を見て、悟飯は苦笑してもう一度ぬけがらを見る。
こんなでかいセミがいるのかと言うブルマに、セミじゃないと答える。


「た…たぶん……タイムマシンに残っていたタマゴの中身」
「ええ……そいつが成長してぬけがらから……でた……」


あの大きなタマゴから出たとなれば、この大きなぬけがらがここにあることも説明がつく。
そう予想できたとしても、一体何が出てきたのか、だれかがタイムマシンでタマゴを送りこんだのか、それとも何者かがタマゴと一緒に来たのか……新たな疑問が浮かび上がるばかりだった。
気になったトランクスが、ぬけがらの中に手を伸ばす。


「うっ……」


遠くからそれを見て、ライは顔をしかめる。
そして手を抜きとったトランクスは、ベタッと手にまとわりつく粘液のようなものを見て、中身はぬけがらから出て間もないと言った。


「いやーっ!!」
「ぐえっ!」


それを聞いたライは、甲高い悲鳴をあげながら光速とも思えるスピードで悟飯の背中に抱きつく。
その勢いと力強さに、悟飯は思わず前に倒れそうになった。


「お、おねえちゃん……」
「悟飯、あたし虫はだめなの。足がうじゃうじゃある虫はだめなの……」
「し…知ってるよ……でもおねえちゃん、このぬけがらには足は4本しかないよ。ボクたちと同じだよ」
「それでも気持ち悪いでしょ!!あたしたちと一緒にしないで!!」


落ち着くように言う悟飯だが、ライはぴしゃりと言い返し、さらに強い力で悟飯に抱きついたままだった。
そうしてビクビクしているライを見て、トランクスは思わず茫然と見つめた。
その視線に気付いたライは、涙目になりながらトランクスを見上げた。


「………トランクスさん、あたしのこと情けないって思ったでしょ」


そして若干膨れて言うライの言葉を聞き、トランクスは慌てて両手を振る。


「そ、そんなことないですよ。ライさんの虫嫌いは知っていますし……」
「あ……そ、そうですよね、未来のあたしのこと知ってるんでしたよね……」


トランクスが自分を茫然と見る理由が情けないと思われてのものではないと気付き、ライはほっとする。
そして状況が悪いと判断したブルマは、はやくこの場から消えたほうがいいと言って急いで飛行機に乗り込んでいった。


「悟飯、あたしたちも早くここから離れよう……!」
「わ…わかったから、おねえちゃん離れて……重いよ」
「ここから少し離れた場所で離れるから!それと、重いなんて失礼でしょ!」


ぬけがらの中身の生物が近くにいるかもしれない場所で悟飯から離れるのは不安なのか、ライは早口で言う。
小さく呟くように言われた、悟飯の「重い」発言にもお灸をすえながら。


「と、とりあえずカメハウスへ向かいましょうか」
「はい」


苦笑しながらトランクスが言うと、悟飯はライをおんぶするような体制に変え、その場を飛び立った。
しばらく飛んでいると、ライはゆっくり悟飯から離れる。


「ふう……ありがとう、悟飯」
「ううん、平気」


冷や汗を拭いながら悟飯にお礼を言うライ。
それを聞いて、悟飯は首を横に振って答えた。


「ライさん、よっぽど虫が苦手なんですね」
「はい……小さい頃、いろんな虫をおとうさんに見せられて、触れ合わされて……嫌いになりました」


口を尖らせて言うライ。


「(……未来で聞いたときと、同じ理由だ)」


未来のライにも虫が苦手な理由を聞いたことがあり、トランクスはその共通点に少し口元を緩める。
最初に聞いた時はよく分からなかったが、実際に悟空を見たからか、その光景が安易に想像できた。


「いやだな……人造人間だけじゃなくて、あんな変な生き物もいるかもしれないなんて……」
「…………」


そして不満そうに呟くライの言葉を聞き、トランクスは表情を真剣なものへと変える。
未来に生きているはずの自分が知らない、この過去での出来事を思い返しながら。


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