残された悟空たちのもとにピッコロが姿を現し、手を組むことになったその頃。
ラディッツと双子の姉弟は、最初にラディッツがやってきた時と同じ場所に戻ってきた。


「わーんわーん!」
「うるさいぞ!いつまでもめそめそしおって!」


泣いてばかりの悟飯に嫌気が差したのか、ラディッツは強い口調で怒鳴る。
それを見て、悟飯を守るようにして立ちはだかったライ。


「悟飯をいじめないで!」
「ふん、女のガキのほうがよっぽど度胸があるな」


言いながら、悟飯へと手を伸ばすラディッツ。
やめてと言わんばかりにラディッツの足にポカポカ両手で殴るライ。
だが、大したダメージは受けていないのかラディッツは気にせず悟飯とライをひっつかむ。


「うるさいのはごめんだからな。この中にはいってろ!」


ぽいぽいと二人と宇宙船の中にいれ、扉を閉める。
中では悟飯が泣きわめき、ライが何かを叫びながら扉を叩いている。


「一人用だが、ガキ二匹にはちょうどいいだろう」


そんな二人を横目で見て、ラディッツは穴から出る。
そこで、ラディッツのスカウターが反応した。


「妙だな…警戒信号が…」


訝しみながら、スカウターの数値を見る。


「戦闘力710と680!ちかいぞ!どこだ!?」


眉を寄せながら、その反応の位置を探る。
すると、スカウターは先程双子を閉じ込めた宇宙船を指した。
それに気付いたラディッツはスカウターを軽く指で小突きながら、忌々しげに呟く。


「くそ…故障か…!おどかしやがって!」


言うも、スカウターの反応は消えない。
先程と同じ数値を記録しながらも、ラディッツは故障だと疑わなかった。
そして、別にこちらに向かってくる反応に気付いた。


「ひとつ…ふたつ…!戦闘力322と334!片方はカカロットと同じ戦闘力だ」


だが、悟空がくることはないとラディッツは呟く。
勝てる見込みがないことを、先程とくとわからせたつもりだったからだ。
さらに、この場所がわかるわけがない。
完全に故障だと嘆くラディッツだが、すぐに気付いたように空を見上げる。


「きやがった!!」


そこには確かに、反応のあった戦闘力の持ち主……悟空とピッコロの姿があった。
故障じゃないのかと宇宙船を振り返るが、すぐに注意を地面に降り立った二人へと向けた―――。





「……悟飯、いい加減に泣き止んでよ」
「ひっく、ひっく……でも、」
「これ、すごく硬くてびくともしない……どうしよう」


外で悟空とピッコロがラディッツと対峙している時、宇宙船の中では幼い双子が体を寄せ合って座っていた。


「おとうさん……大丈夫かな……」
「!……ううっ、」


ライがぽつりと呟くと、悟飯も思い出したのか、またすぐに涙を零す。
それを見たライは、しまったと思いながら、ポケットからハンカチを取り出し悟飯の涙を拭う。


「もう……女の子が我慢してるんだから、男の子が泣いたらだめだよ」
「だって……こわいもん……」
「悟飯の弱虫……あたしだって、こわいんだから……」


あの逞しくて頼りになる父が、倒れて動けなくなるくらいだ。
見た瞬間、ライは血の気が引くような思いだった。


「でも……あたしは悟飯のおねえちゃんだから……」


ひっくひっくと泣くのを我慢してしゃくりあげている悟飯を見て、ライは呟く。


「悟飯はあたしが守る。ぜったいに、守ってあげるから」


言って、ぎゅうっと強く悟飯を抱き締める。
そのぬくもりを感じながら、悟飯はぐっと自分の手で涙を拭った。


「……おねえちゃん、いたいよ……」
「我慢するの!」


本当は、自分も不安なんだ。
ライはそれを誤魔化すように、悟飯を抱き締める手を離さない。
こうでもしていないと、さっきのことを思い出してしまいそうだった。
そして少しでも気を紛らわせようと扉にある小さな窓のようなところから遠い空を見つめる。
すると、ふっとそこに何か浮かびあがってきた。


「あ、おとうさんだ!」
「えっ!」


ライがぱあっと嬉しそうに言うと、悟飯もぱっと窓の外を見た。


「まってろよ悟飯!ライ!とうちゃんがすぐに助けてやっからな!」


微かに聞こえた、大好きなおとうさんの声。
ライはそれだけで、先程の不安を全て消し去ることができた。


「悟飯、おとうさんが来てくれたよ!きっと、もう大丈夫だよ!」
「うん!」


少しだけ笑顔の戻った悟飯の顔を見て、ライもにこっと笑う。
そして二人して小さな窓に顔を近付け、外の様子を少しでも窺おうとしていた。


「……おとうさん…大丈夫かな……」
「大丈夫に決まってるでしょ!おとうさんは、世界一強いんだから!」


不安がる悟飯にライは強く言う。
そして、悟空が助けにきてくれるのを待った。ひたすら、待った。
会話は全然聞こえないが、何かが爆発するような音や大きな悲鳴は微かに聞こえた。
穴深くにあるため、外を見ても見えるのは青い空だけ。
大好きな父の姿はおろか、ラディッツの姿も見えなかった。


「……ね、ねえ、おねえちゃん……おとうさん、遅くないかな……」
「……もうすぐ…もうすぐ、来てくれるよ……」


そう言うも、ライの心にも不安が生まれ始めていた。
大きな爆発音にまざって、時折父の悲鳴が聞こえてくるからだ。
ドキドキと速まる鼓動を押さえながら、ライは必死に、必死に外を見つめた。
悟飯の目には、さっきまで止まっていた涙が再び溢れ始めていた。
そのすぐあと、二人の耳に一際大きな、悟空の悲鳴が聞こえた。


「おとうさん!」


外では、ラディッツに足蹴にされ骨を折られている悟空の姿。
そしてその痛みから大きな悲鳴をあげている、その声が宇宙船の中にまで届いていたのだ。


「お、おとうさんが危ない……!悟飯、こうなったらあたしたちもがんばって外に出よう!二人でやれば、きっと……」


焦ったライが握り拳を作って悟飯を見る。
その直後、


「悟飯!」


見たこともないような怖い顔をして、悟飯が思い切り飛び上がった。
その勢いで宇宙船は砕け、悟飯は一回転しながら地面に着地した。


「ご……悟飯……?」


ライは目を丸くしながらも、慌てて悟飯の後を追う。
両手両足で必死に、手探りで穴を登る。
そしてようやく、穴から顔を出した時、


「おとうさんを…いじめるなーーーっ!!」


叫びながら、物凄いスピードでラディッツに突進する悟飯の姿を見つけた。


「えっ……」


悟飯はそのままラディッツの胸に頭突きを喰らわした。
勢いで思わずよろけてしまうラディッツを見て、悟空と共に戦っていたピッコロは目を見開いた。
ライも驚き、服の泥を払うことも忘れてその場に立ちつくしていた。


「………ご…悟飯…」


悟飯の行動に驚いたのは悟空も同じようで、掠れた声で悟飯を呼ぶ。
我に返った様子の悟飯は悟空の姿を見つけて、再び目元に涙を滲ませた。


「こ…こんどは戦闘力たった1……。か…感情とともにガラッと変わりやがる…」


信じられないといった表情で悟飯を見つめるラディッツ。
だが次の瞬間、片手で悟飯を薙ぎ払った。
遠くに飛ばされた悟飯は、そのまま気絶してしまった。


「悟飯!」


それを見てようやく足が動いたのか、ライが走って悟飯の前まで行く。
そして気を失っているのに気付き、怒った表情でラディッツを睨んだ。


「くっ……!こいつもだ……せ…戦闘力…1142……」


興奮気味だった悟飯とは違って、まだ冷静さを持っているライ。
ただ、その表情は子供のものとは思えないくらい怖い顔つきだった。
ラディッツはそれを忌々しげに見つめ、胸を押さえながら一歩ずつ近寄る。


「な…なにを……!やめろ…!やめてくれ、あ…あいつは……」
「まだ子供だからとでもいいたいのかっ。じょうだんじゃない……。あのガキどもはきさまらよりも戦闘力は上だ!パワーのうまい使い方を知らない今のうちに殺しておく……!」


苦しげに言いながら、殺気を帯びているライへと近づくラディッツ。
まだ恐怖心は消えないのか、びくりと肩を震わせるライ。
だが、決して悟飯の前から逃げようとはしなかった。


「くそガキめ……そのサイヤ人特有の好戦さが、命とりになったな……」


にやりと口角をあげながら、ラディッツは片手を思い切りライに向けて突き出す。
それは見えない波動となって、ライの体はまるで強風に煽られたように遠くまで飛ばされた。


「きゃあっ!」
「ライ……!」


地面に叩きつけられ、気を失ってはいないものの、痛みで体を動かすことのできないでいるライを見て、悟空は全身の力を振り絞る。
そして、後ろからラディッツを羽交い締めにすることに成功した。


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