急いでベジータの後を追ったものの、やはり少し遅かったのか、すでにベジータは人造人間たちと接触してしまっていた。 「だいじょうぶですか!?ベジータさんっ」 地面に降り立ったトランクスが、岩に叩きつけられたベジータに向けて叫ぶ。 だがベジータは平気な様子で岩の中から出て来ると、口角を上げながら追ってきたライたちに向けて言い放つ。 「まったく、うっとおしいやつらどもだ…きさまらなんぞが役に立つ相手だと思うのか?」 そして18号とベジータの戦いを見ていた17号だが、ライたちが来たことに気付いて動き出す。 そのことに気付いたトランクスが、ベジータにもう一度説得を試みる。 「逃げましょうベジータさん!殺されてはプライドもくそもありません!お、お願いします!」 「またなぐられたいか。ジャマだ!とっとと消えろ」 だがベジータは相変わらず、その忠告を聞こうとはしない。 「逃げたきゃ逃げてもいいよ。わたしたち逃げる者には興味ないからね」 その様子を見て、18号が腕を組みながら言う。 「ジョーダンじゃない。これから一気にてめえらを片付けようって時に…なんで逃げる必要がある」 「ベジータさん……!」 やはり好戦的なまま、ベジータは18号に向けて言う。 その変わらない態度を見て、ライは悔しそうに呟いた。 「言っておくがな、オレは地球人やナメック星人やカカロットと手を組んで戦うぐらいなら……ひとりだけで戦って死んだほうがマシなんだ」 その言葉を聞き、トランクスは眉を寄せベジータを睨む。 ライも、ベジータの決意の強さ、我の強さを見て思わず黙り込む。 「(あたしは……そんなの、全然マシじゃない…っ)」 ぐっと、拳を握る力を強くする。 「(たしかにベジータさんは意地悪で頑固者で嫌味な人で……昔だったら違ったかもしれないけど、今は死んでほしいなんて思ってない……)」 地球に住み始めてからのベジータを、ライは前ほど嫌ってはいなかった。 「(それ以前に、誰にも死んでほしくない……!)」 そう思ってはいるが、それを吐き出したところでベジータは止まってくれはしない。 わかっているライは、ベジータにかける言葉が見つからないでいた。 そう葛藤している間に、17号がベジータに向けささやかな拍手を送る。 「すばらしいコメントだ。戦いぶりといい、さすがにサイヤ人の王子だけのことはあるよ」 その称賛の言葉に、ベジータはペッと唾を吐く。 「てめえらからくり人形にいわれるスジ合いはない。ガキのくせしやがって」 そう吐き捨てるが、17号の表情は変わらない。 さらに、武士道精神を大事にしていると見込んだと言い、ベジータと18号の戦いをジャマしたら17号自身も戦闘に加わると言い出した。 「こいつらは臆病な平和主義者だ。よけいな気をきかさんでも手は出せんさ」 黙り込んでいるライたちを見て、ベジータはそう答える。 「つづきやんの?」 「あたりまえだ」 18号の言葉に、ベジータは口角を上げ言う。 「そうこなくちゃ」 そしてベジータと18号の戦いが再び始まった。 18号の先制攻撃により、ベジータの体は空を飛ぶ。 飛ばされた先の岩を蹴り18号へと向かい、攻撃を与えるベジータ。 岩に叩きつけられ、下敷きになっている18号に向けベジータはエネルギー波で追いうちをかける。 だが18号はまたすぐに立ち上がり、目の前まできたベジータを見た。 「アタマにくるぜ。ケロッとしてやがる…」 ベジータの言うとおり、衣服はボロボロになってはいるものの、18号自体はダメージを受けている気配は見受けられない。 「驚いたよ。宇宙人とはいえ生身の人間でここまでやるとはね。孫悟空って男はもっと強いわけ?」 「ふざけるな。一時期抜かれはしたが、今はもとどおりオレのほうが上になったはずだ」 汚れた上着を脱ぎ捨てながら言う18号に、ベジータは答える。 「なんだ、たいしたことないんだね。どっちも」 18号は髪をかき上げ淡々と言う。 それを聞いて眉を寄せたベジータが再び18号に蹴りかかり、それからは互いに譲らぬ攻防戦を繰り広げた。 その戦いぶりを見て、トランクスはここまで強かったのかと驚いたようにベジータを見つめる。 「ベジータさん、すごい…」 ライも驚いているのか、ぽかんと二人の戦いを見ていた。 「殺されるぞ、ベジータは…」 だが、ピッコロは何かを察しているかのように呟く。 「見ろ…わずかずつだが人造人間のほうが押し始めている。敵は、まるでパワーが落ちないが、ベジータは動けば動くほどスタミナが減っていくからだ」 「あっ……」 エネルギーが無限だということを思い出したのか、ライはピッコロの言葉を踏まえてもう一度二人の戦いへと目を向ける。 確かに、ベジータの攻撃は防がれ、逆に18号からの攻撃を受けつつあるように見えた。 「く……くそ……!」 トランクスもそれを目の当たりにし、厳しい表情になる。 そして、18号の蹴りによりベジータの腕の骨が折られたのを見て、トランクスは勢いのまま飛びだした。 「とうさーーん!!」 超サイヤ人になり、剣を抜いて18号に襲い掛かろうとするトランクス。 「あ、あのバカ…!」 「トランクスさん…!」 それを見てピッコロは眉を寄せ、ライも口を手で抑えた。 そして冷たい目で見ていた17号が動き出すのを見て、ピッコロと天津飯、ライも飛び出す。 トランクスの剣を自らの腕で受け止める18号。 そして背後からトランクスの後頭部を殴る17号。 そのたった一撃で、トランクスは地面に倒れ伏してしまった。 続いて、向かってきたピッコロも、17号は蹴りで迎え撃つ。 ピッコロの次に17号を殴ろうと飛んできたライだが、17号にその拳を受け止められ、そのままピッコロの身体に重なるように叩きつけられた。 「あぐっ!」 ピッコロの身体がクッションの代わりになったのか、ライの受けたダメージは思ったよりも少ない。 「ご、ごめんなさいっ……」 そしてピッコロに向け謝り、急いでピッコロの上からどく。 ライのあとにやってきた天津飯も17号に捕まってしまい、その隙をつくようにベジータは17号へと向かうが、その足を18号に掴まれてしまう。 その隣では、起きあがったトランクスが18号へと突撃するが、18号はベジータの身体を振り回し、トランクスに衝突させる。 「ベジータさん…ト、トランクスさん……っ」 その光景を見て、ライは慌てて立ち上がり、再び18号へ向かおうとする。 だが、そんなライに気付き、ピッコロは行かせまいとライの腕を掴んで引っ張り、尻餅をつかせる。 「ピッ、ピッコロさん…!」 驚いたライはピッコロを見上げるが、ピッコロの姿はすでに17号へと向かっていた。 天津飯を離した17号はピッコロの攻撃を簡単に避け、逆に腹部に重たい一撃を与える。 「!!」 ピッコロが地面に倒れ込んでしまうのを見て、ライははっと目を見開く。 そして倒れていたベジータが隙を見計らったのか、その場から飛び起き18号へエネルギー波を放つ。 が、それも18号に避けられ、顔面を殴られてしまう。 地面に膝をついて苦しむベジータの腹部を、18号は蹴りあげた。 「もう片方の手も使えなくしといたほうがよさそうだね」 そして言い捨てるように言うと、宣言通り18号はベジータのもう片方の腕を折った。 髪の色が戻り輝きもなくなったのを見て不思議がる17号と18号だが、すぐにその場から背を向ける。 だが、そうはさせまいと立ち上がった人物がいた。 「待って!!」 両手で拳を作り、きつく二人を睨むライ。 「なぁに、チビちゃん。まだやられたいの?」 「大人しくしてれば見逃してやったのに。子供を虐める趣味はないんだ」 その様子を面白そうに見て言う、18号、17号。 からかわれるようなことを言われても、ライの戦意は失われることはなかった。 「よくもみんなを……ぜったいに許さない!」 「許さないねえ……それで、どうすんの?やるってんなら、相手してあげるけど」 髪をかき上げ、ふっと笑って言う18号。 「死なない程度に、ね?」 言われ、ライは爪が掌に食い込むほど強く拳を握った。 周りで倒れてしまっている4人を見て、唇を噛む。 「みんな……死んじゃう未来なんて……」 小さく、震える声で呟く。 「そんな未来なんて、あたしはいらないっ!!」 そしてカッと目を見開くと、勢いをつけて18号へと向かう。 それは想定していたよりも素早かったのか、18号はなんとかライの拳を避けるも、少しばかり頬を掠めてしまった。 「へえ…少しはやるじゃない。さすが、孫悟空の娘」 だが拳を避けられ隙を作ってしまったライの腹部に、18号は拳を埋め込む。 その重い衝撃に、ライは口から血を吐いてしまった。 「あ、がっ……」 そして地面に四つん這いになり、痛みに苦しむ。 「あーあ、女同士って容赦なくて怖いよなぁ」 「ちょっと躾してあげただけで何言ってんだか」 あまりの痛みに動けないでいるライを見て、17号が半笑いで言う。 それを聞いて少しむっとしたのか、18号は再び髪をかき上げると17号と同時にその場を飛び立つ。 「待っ……て……」 喋るのも辛い状態のライは二人に手を伸ばすが、その手も震えてしまっている。 そしてだんだん意識が遠のくのを感じるが、歯を食いしばり必死に堪える。 虚ろな目で、クリリンのいる道路に立っている二人を見上げた。 クリリンと人造人間たちが何かを話していることに気付いたが、生憎その会話は耳に届いてはこなかった。 「っ………」 耐えきれず、くらっと意識が飛ぶ。 そしてそのまま意識が遠のいていく瞬間……ライは、クリリンの頬にキスをしてその場を去る18号と、それに続く17号、16号の姿を最後に見た。 「!!」 急に身体が軽くなったのを感じ目を見開くと、ライは自分の身体がピッコロによって支えられていることに気付いた。 「気付いたか、ライ。仙豆を食わせてやったぞ」 「あ……ありがとう、ございます……」 どうやら気を失っているライに無理矢理仙豆を食べさせたのか、ピッコロはそう告げる。 そしてライは何度か瞬きをしてその場に立ち上がる。 ピッコロもそれを見届け、立ち上がった。 「おまえも戦ったのか……やめておけと、伝えたつもりだったんだがな」 「………ご、めんなさい……でも、じっとしていられなくて……」 ピッコロが自分の手を引いた時のことだとわかったライは、罰が悪そうに俯き言う。 だがピッコロは責めるつもりはないのか、それ以上何も言わなかった。 むしろ、謝るのはこちらだと言わんばかりにピッコロは拳を作る。 人造人間を倒すどころか、ライを守ることもできずにやられてしまったのだから。 そして全員が回復したのを見て、クリリンは人造人間たちが仙豆のことを知っていたと告げた。 「ど…どういうことだ…そこまで知っておきながら、な…なぜオレたちを殺さなかった……」 「オ…オレたちなぞ、こ…殺すまでもないということか…相手にもしていないんだ……」 それを聞き、天津飯とピッコロが呟く。 ライも悔しそうに、二人に舐められた態度をとられたことを思い出した。 「…とうぜんだ……やつらは、とてつもなく強い…強すぎる……ま…まさか、あれほどまでとは……」 苦々しげにピッコロが呟くと、今までみんなに背を向けていたベジータが突然その場を飛び去る。 驚いてその姿を目で追ったトランクスに、ピッコロは声を張って言う。 「よせ、追うんじゃない!放っておくんだ!」 そして拳を握るトランクスに向け、言う。 「ヤツは超サイヤ人になり絶対の自信とプライドを取り戻した…それが、人造人間とはいえ女にコテンパンにやられてはショックは大きいだろう…」 ピッコロの言葉はもっともだったのか、トランクスはそっと、拳から力を抜く。 ライもベジータのプライドの高さはよく知っているため、複雑そうな表情になった。 「す…すまなかった……オ…オレは足がすくんじまって、立ち向かうこともできなかったんだ……」 「気にするな…トランクスだって超サイヤ人でありながらほとんど一撃でやられてしまったほどの相手だ…きさまがきたところでどうにもならん」 すまなさそうに呟くクリリンに、ピッコロはそう返す。 そして天津飯は実際に人造人間の強さを目の当たりにし、確信してしまったのか、悟空がいくら強いといっても勝てるわけがないと苦々しげに呟いた。 「そんな……」 その天津飯の言葉を、ライはどうしても受け入れたくなかった。 確かに、人造人間の強さは想像以上、常識では計り知れないものだった。 だが、それでも。 大好きで尊敬している、父を信じたいという思いは人造人間に抱いた恐怖よりもずっと強かった。 するとトランクスが、さっきの人造人間が、自分の知る人造人間とは少し違っていると呟き始めた。 「あ…あれほどとんでもない強さじゃなかった……オ…オレでもそこそこは戦えるぐらいの……」 それを聞いて、またさらに希望を失う一同。 これからどうすると言う天津飯の呟きを聞き、ピッコロが口を開いた。 「おまえたちはまず孫悟空の家に行ってヤツをどこか別の場所に移すんだ…あれこれ考えるのは、どっちにしても孫悟空の病気がなおってからだ」 「…おとうさん……」 その言葉に、ライは悟空のことを思い出し不安げに呟く。 「……で、ピッコロはどうするつもりなんだ……」 クリリンがそう聞くと、ピッコロは一瞬黙って空を見上げたが、さあなと答えた。 「ピッコロさん…?」 なんだか様子がおかしいことを感じたライが、小さく呟きながらピッコロを見上げる。 だが、ピッコロは難しい顔のまま何も言わない。 「な、なんだよそのカオは。なにか作戦でもあるんじゃないのか!?教えろよピッコロ、仲間じゃないか」 そしてクリリンが続けて言うと、ピッコロは眉を寄せクリリンを睨む。 「仲間だと!?調子にのるなよ。このオレが、いつきさまらの仲間になった!ふざけるな!オレは魔族だ。世界を征服するために、きさまらをただ利用しているだけだということを忘れるな!」 言い捨てるように言うと、ピッコロはそのまま一人でどこかへ飛び立っていってしまった。 呼び止める暇もないままピッコロがいなくなってしまい、ライは茫然と空を見上げたまま。 天津飯はその言葉で、ピッコロ大魔王だということを思い出したのか、目を見張る。 「ライ、さん……」 トランクスは、じっと何も言わずにピッコロの飛んで行ってしまった方向を見ているライに躊躇いながらも声をかける。 何と声をかけたらよいのか思案していると、しばらく黙っていたクリリンが口を開いた。 「オレは、世界征服なんて嘘だと思うな…あいつも、悟空やベジータといっしょさ」 それを聞いて、トランクスはふとクリリンを振り返る。 「ただ、どんなヤツよりも強くありたい。そう考えているんだと思う……」 呟くと、クリリンはライを見つめる。 「ライちゃんも、そう思うだろ?」 「……はい。ピッコロさんも、あんまり素直じゃないから」 言われ、ライもクリリンと同じ考えなのか困ったように笑う。 その表情に、トランクスは思わず見惚れてしまった。 背を向けられても、突き放されるようなことを言われても……その表情には確かに、ピッコロへの信頼感が滲んでいた。 疑心などない澄んだ瞳をもつライの表情に、トランクスは自分の知る未来のライの表情と重ねてしまったのだ。 「だから、最後の……とっておき…手段のために飛んで行ったんだ……たぶんな…」 クリリンは何か思い当たることがあるのか、そう呟く。 そのことについてはライも知らない部分なのか、天津飯と同じようにクリリンを見つめた。 するとクリリンは説明するより先に、ピッコロの飛んで行った方になにがあるかと聞く。 「え……っと……?」 ライは分からないのか、うーんと首を傾げる。 天津飯も思い当たらないようだ。 「神様んちだよ」 答えを言うクリリンに、二人は揃って目を見開いた。 そしてようやくクリリンは正解を話す。 ナメック星で最長老に、神様とピッコロはふたりにさえ別れなければサイヤ人にだって負けはしないと聞いたのだと。 だから、ピッコロは神様と元通り一人になりに行ったのではないかと。 「神様と、ひとりに……!?」 予想外の言葉に、ライは茫然とクリリンを見上げる。 「神様と魔王が合体して、ナメック星人の戦士に戻るんだ」 そしてさらに、ピッコロは腕をあげているため、相当のパワーアップも見込めるとも言う。 だがそうすると神様はいなくなり、ドラゴンボールもなくなってしまうんじゃないかと天津飯は言う。 それも、ピッコロが殺されてしまえば同じことだとクリリンは答える。 「ピ…ピッコロがもし、ほんとに神様と合体するつもりだとしたら…そ…それだけ……あいつが追い詰められるほど…とんでもない敵だって感じたんだ……あ…あいつ……神様、大っキライだったのによ……」 「ピッコロさん……」 初めて聞くピッコロの話に、ライは心配そうに呟く。 そしてもう一度、ピッコロが飛んで行った方向をそっと見つめた。 ×
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