ヤジロベーの登場、そして退散からいち早く気持ちを切り替えた天津飯は、町を見下ろしながら眉を寄せた。 「妙だと思わんか…10時はとっくにすぎているのに、敵の気配がまったく感じられん…」 その天津飯の言葉に、そういえばと悟飯も呟く。 「やっぱりあいつのでたらめじゃなかったのか?人造人間なんて…」 「…でも10時頃っていったのよ、いま10時17分だから、わかんないわよ」 腰に手を当て言うヤムチャに、ブルマが腕時計を確認しながら言う。 「それにしても、強い気などまるで感じられないんだ。そんなにすげえやつらなら、この地球のどこにいたってわかるさ」 そうヤムチャが言った途端、すぐ近くの空中で爆発が起きた。 「なっ、なんだ!?」 驚きその場を見上げると、先程ヤジロベーが乗ってきたエアカーが攻撃されたのだと知る。 「見ろ、なにかいるぞ!あれが攻撃したんだ!」 ピッコロが声を上げて言う先を、ライたちも目で追う。 すると確かに、小さな二つの影が宙に浮いていた。 「ま、町に降りた!」 そしてその二つの影は、同時に町へと降下していく。 「み、みえたか!?」 「い、いや、どんなヤツかわからなかった……!」 問うクリリンだが、悟空は眉を寄せ答える。 ここから二つの影がいた場所からは離れ過ぎていて、米粒程度にしか見えなかった。 「ど…どういうことだ…!ま…まるで気を感じなかったぞ…」 「じ…人造人間だからだ……き…気なんかないんだ……!」 「な…なんだと……!」 不思議そうに呟く悟空に、悟飯がぽつりと呟く。 そして信じられないと言いたげに呟くヤムチャ同様、ライも目を細めて町を見下ろした。 集中してみても、やはり気など感じない。 悟飯の言うとおりのようだ。 「気を感じないのであれば直接、目で探すしかあるまい…!」 ピッコロが言うと悟空も決心したのか、拳を握って口を開いた。 「よし!みんな散って探そう!ただし深追いはするな。発見したらすぐみんなに知らせるんだ!」 そして悟飯とライを見て、 「悟飯とライはヤジロベーを見てやってくれ。まだ生きてるはずだ!」 「「はいっ!」」 そう指示を出す。 それを聞いて二人は同時に返事をした。 「行くぞ!」 ピッコロが声をかけると、ライと悟飯はヤジロベーの落ちて行った方向に向かって飛び、ブルマは待機、それ以外の人物は町へと向かった。 そして悟空たちが必死に人造人間を探している頃、ライと悟飯はヤジロベーの姿を見つけた。 「だいじょうぶですか!?」 「掴まってください!」 「ゲホッ、ゲホホッ、なっ、なんだ今のやつら…!」 そして二人でヤジロベーの腕を片方ずつ持ち上げ、ヤジロベーをブルマの居る山のところまで運んだ。 エアカーを爆発されながらも、外傷はなかったヤジロベーは呼吸を整えるとすぐに本調子に戻った。 そのことに安心していると、同じ場所に気を失っているヤムチャを担いだクリリンもやってきた。 「えっ!ヤ、ヤムチャさん…!?」 「ライちゃん!仙豆を!」 ヤムチャをそっと地面に横にさせるクリリンは、ライに言う。 ライはヤムチャの姿を見て驚きつつも、急いで仙豆をクリリンに渡した。 「い、一体どうしたんですか…!」 「人造人間が現れたんだ!」 クリリンに聞くと、クリリンは眉を寄せ苦々しく答える。 仙豆を食べたヤムチャが復活すると、今度は町の方で大きな爆発が何度も立て続けに起きる。 「な…なによ…!なにが起こったの……!?」 「や…やつらだ…やつらがやりやがったんだ……」 トランクスを抱え、驚き町を見るブルマにヤムチャがそう呟く。 町全体が煙に包まれてしまったのを見て、ライは辛そうに眉を寄せた。 すると、その荒れた町からいくつかの影が飛んで移動するのが見えた。 「おとうさんたちだっ!」 「やつらもいっしょだぞ!」 「な、なにっ!?」 悟飯が最初に気付き、ヤムチャも姿を確認したのか声を上げる。 場所を変えるのだと気付いたクリリンは、その影を見送る。 「ま、まずいぞ!悟空たちに伝えないと…!や、やつらはパワーを吸い取ってしまうんだ…!!」 その言葉を聞いて、驚いたようにクリリンはヤムチャを見る。 どういうことか聞き返すと、ヤムチャも原理はわからないが掴まれただけでパワーがなくなったのだと答えた。 「そんなことができるなんて…!」 「た、たいへんだ!はやく言っておとうさんたちに教えないと!」 「うん!」 拳を握って言うライと悟飯は、すぐさまその場を飛び出す。 そのあとを、クリリンも仙豆を持って追う。 ヤムチャも行きたくないと本音を漏らしたが、さすがに放ってはおけないのか見物だけだと言いながら飛びだした。 そして4人揃って、悟空たちが来たと思われる高原まできたが、 「まずいぞ!みんな、まだ戦っていないとみえて気をおさえている…!これじゃ、どこにいるかわからん!」 「どこだ!?どこだよーー!」 「おとうさん!ピッコロさん!」 気を感じられないため、正確な場所がわからないでいた。 焦り始めたライが大声で呼ぶも、返事がくるはずもない。 しばらく目を凝らして探していたが、突然大きなパワーを感じ、急いでその方向へと向かった。 ようやくみんなのいる場所まで来ると、すでに悟空が超サイヤ人となって19号と戦っている場面だった。 「お…おとうさん…!」 戦う姿を見上げ、悟飯が心配そうに見上げる。 だが天津飯はすでに人造人間と悟空との間にある力の差を感じているのか、心配いらないと言いたげに悟飯とライを見た。 防戦一方の人造人間を見て、ヤムチャとクリリンが驚いたように声を漏らす。 「「…………?」」 だが、ライと悟飯はなにか違和感を感じているのか不思議そうにその戦いを、いや悟空を見つめる。 「おまえたちも気がついたか、悟飯、ライ…」 「え?あ…は…はい……」 「う、ん……」 ピッコロの言葉に、あまりはっきりとは言えない様子だが、同意を示す。 「孫悟空はなぜか勝負を焦っている…すでに全力に近い飛ばし方だ……それなのにあのザマはなんだ……」 「あ…あのザマ?あのザマだと……!?なにをいってるんだ、圧倒的に悟空がおしているんだぞ…!」 ピッコロの呟きに驚き、天津飯は振り返るが、ピッコロは表情を変えずに言う。 「あんなもんじゃない。超サイヤ人になった悟空の力はもっと、とてつもないはずだ……」 悟空の戦いぶりに眉を寄せているピッコロを、悟飯は見上げた。 「ヤ…ヤムチャさんが、あいつたちエネルギーを吸い取るんじゃないか…って……そのせいでしょうか…」 「なに?エネルギーを!?」 その呟きに、ピッコロは驚く。 実際の体験者であるヤムチャが、顔を手で掴まれた瞬間、何もしていないのに気が吸い取られていくようだったと言うと、ピッコロも思わず無言になる。 すると、悟空の蹴りを喰らった19号がすぐ傍の地面に叩きつけられる。 「っ……!」 それだというのに、すぐに立ち上がってみせる19号を見て、ライは驚き目を見張る。 「み…見ろよ、あれだけやられながらケロッとしてやがるぜ……」 「人造人間だ。痛みも疲れもないんだろうぜ…」 同じくそんな人造人間を見て呟くヤムチャと天津飯。 そして、追い打ちをかけるように悟空は19号に向け気功波を放つ。 だが19号は恐れるどころか笑みを見せ、片手を向けてその気を吸収してしまった。 「孫っ!気功波の類はうつなーっ!!こいつら気を吸い取るらしいぞ!手からだ!つかまれてもまずい!いいかーっ!」 見て確信したのか、ピッコロが悟空に向け大声で叫ぶ。 「き…気を吸い取る……?じょ……じょうだんじゃねえぜ……」 対する悟空は、呼吸を荒げ、辛そうに顔を歪めた。 「お…おい…悟空のやつ、様子が変だぞ…も…もうそんなに気をうばわれていたのか……!?」 遠くからでもわかる悟空の様子に、クリリンが眉を寄せて呟く。 「いや…直接はいちども吸い取られていないはずだ…」 そして最初から戦いの様子を見ていたピッコロが顔をしかめながら言った。 「はっ!!」 「ま…まさ、か……」 不思議がるクリリンたちとは違い、何かに気付いたのか目を見開いて悟空を見つめる悟飯とライ。 ライは弱々しく呟き、また悟空の戦いを見つめる。 気を吸い取られたからか、19号の攻撃が当たるようになってしまった悟空。 だがそれだけではない。悟空の辛そうな表情は、それだけが原因なのではない。 気功波をうてない悟空が19号を見上げる。 その呼吸は、先程よりもずっと荒く乱れていた。 「お…おい、あいつかなり辛そうだ…そ…そんなに気を吸い取られちまったのか…!?」 「…………」 呟くヤムチャだが、悟飯はじっと目を凝らして悟空の姿を見つめる。 そして悟空が荒い呼吸とともに、心臓のあたりを押さえていることに気付き、汗を浮かべて叫んだ。 「や…やっぱりそうだ!おとうさん病気なんだよ…心臓の……!」 「おとうさん戦わないでー!」 悟飯だけではなくライも気付いていたのか、眉を寄せて悟空に向け叫ぶ。 その言葉を聞いて驚いたみんなは、思わず双子を見つめる。 「心臓……!?あのとき未来からきたヤツのいっていたウイルス性の心臓病か!?」 「バ、バカいえよ!そいつは特効薬もらってとっくになおしたんだろ!?悟空は、気を吸われちまっただけさ!」 言うと、クリリンは仙豆を取り出し悟空へ投げる。 「サ…サンキュー」 苦しそうに礼を言い、悟空は受け取った仙豆を食べる。 仙豆を食べたというのに、再び19号の攻撃を喰らい、また苦しそうな表情をしている悟空。 その様子に気付き、一同は仙豆が効いていないことに驚く。 「や…やっぱり心臓病なんだ……!」 「病気だから…仙豆も、効かないんだ…!」 「なっ、なんでだよ!薬のんでなおしたんじゃなかったのか!?」 双子の呟きに、クリリンが思わず声を荒げる。 「な…ならなかったんです……病気には……ずっ…と元気で…だ…だから薬はのまなかったんです……」 悟飯がそう答えると、ライも辛そうに表情を歪めた。 「こんな……今になって……っ」 双子の言葉を聞いて、驚いたようにしばらく誰もが口を閉じてい。 だが悟空が19号に蹴り飛ばされ、ついに超サイヤ人でいられなくなったのを見て、すぐに悟空へと注意を向ける。 そして悟空に馬乗りになった19号が悟空の首元を掴んだのを見て、ピッコロが叫ぶ。 「まずいぞ!!エネルギーを……!」 急いで全員で悟空を助けようと向かうが、その行く先は20号が塞いだ。 「ここから先には1センチも進むことはできん。ためしてみるか?」 「そうしよう!」 20号の言葉に、ピッコロが口角を上げて言うと、すぐに蹴りを向ける。 だがそれは避けられ、代わりに20号の目から出た光線により胸のあたりを貫かれる。 「「ピッコロさん!」」 地面に倒れて行くピッコロを思わず追いかけるライと悟飯。 「ピッコロさん、しっかり!」 仰向けになり目を閉じているピッコロに、ライはそう声をかける。 だがその直後、バキッという音が耳に届き、その方向へと視線を移す。 「カカロットを倒すのはこのオレの役だ…てめえらガラクタ人形の出る幕じゃねえ」 そして言い放つベジータを見て、ベジータが19号を蹴り飛ばしたのだと状況を把握した。 「「ベジータさん!」」 突然の登場に驚いた双子は思わず叫ぶ。 「ベジータだと!?」 「ピ…ピッコロさん…!」 「あれっ……!?」 ベジータと聞き、目を開きむくりと起き上ったピッコロ。 その様子を見て悟飯とライは驚いたのか、何事もなかったかのように立ち上がるピッコロを見上げる。 「ヤツに隙をつくらせて悟空を助けてやろうと、ヘタな芝居までしたのに…ベジータめ…よけいなジャマしやがって…」 口角を上げながら、ベジータを見て言うピッコロ。 「ピ…ピッコロさん…じゃあ……」 「いくらヤツが強いといっても、あんな程度の攻撃で倒されはせん」 「よ…よかったぁ……」 安心したのか、少しだけ身体の力を抜いて呟くライ。 そしてそのまま、ベジータへと視線を戻す。 「オレはすべて見ていた…きさまは自分のカラダの異変に気付きながらも超サイヤ人になってしまった。バカが…そんなことをすれば、心臓病は一気に進行してしまうだけだ」 ベジータは腕を組みながら、辛そうに呼吸をしている悟空を見下ろす。 「オレの目標はあくまでもカカロット…きさまだ」 静かに言うと、ベジータは悟空を蹴り上げる。 驚いたライだが、その悟空を無事ピッコロが受け取ったのを見て、ひとまず安心する。 「だれか、そいつを家に引っ張っていってあの時受け取った薬をのませてこい!」 手荒ながらも、ベジータなりの配慮だと気付きライは何も言うことなく悟空の身体に手で触れる。 そして心配になったクリリンたちもすぐに駆け寄ってきてくれた。 「ボ、ボク家へ連れて行きます!」 「あたしもっ!」 「いや、オレが行く!」 ピッコロから悟空を受け取り、悟飯が第一声をあげる。 続いてライも言うが、ヤムチャが二人にそう声をかけ、悟空を受け取る。 「情けないが、オレが一番役に立ちそうにない……」 悔しそうに言うヤムチャが、悟空の身体を担ぎあげる。 そしてピッコロに、ウイルス性のため念のため薬をもらって飲んでおけと言われ、ヤムチャは頷く。 「お、おねがいします、ヤムチャさん」 「おとうさん……」 悟飯は気丈に言ったが、ライは少し心配なのか悟空の姿を見つめる。 ヤムチャはそんなライに気付き、そっと頭を撫でた。 「だいじょうぶだ、ライちゃん。オレに任せろ。全力で送り届けるからさ」 そうはっきりと言い、ヤムチャは口元を引き締める。 その表情を見て、ライも落ち着きを取り戻したのか、ぐっと拳を握った。 「ありがとうございます…!」 言うと、ヤムチャは頷いてその場に浮き、 「がんばってくれ!」 とみんなにエールを送る。 「病気なおせよ、悟空っ!!」 そしてクリリンも拳を上げ、悟空にそう声をかけた。 その様子を見て19号は追いかけようとする素振りを見せたが、20号に止められた。 「楽しみは最後にとっておくというのも一興だ」 言いながら、地上へと足をつける。 「まずはこのうるさいハエどもを片付けておこう…ベジータも加わった事だし、少しはおもしろくなるはずだ」 そして口角を上げながら言う20号に、ライはキッと睨むようにして構えた。 ×
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