ナメック星の出来事から1年後が過ぎた頃。
悟空は、未だライたちの元に帰ってきてはいなかった。


「おとうさんどうしちゃったんだろ…地球に帰りたくないのかな…」


勉強の途中なのか、机にはノートを広げたままの悟飯はぼそりと呟く。
するとその隣で、同じく勉強中だったライが眉を寄せて悟飯を見た。


「そんなことないよ…宇宙は広いから…きっと、帰ってくるのも大変なんだよ」


そう言うも、ライも強の手は進まない。
二人揃って勉強する気になれないでいるところ、何かに気付いたように二人は視線を上げた。
すると直後、部屋にあった電話が勢いよく鳴る。


「あ!クリリンさん!」


悟飯がその電話に出ると、相手はクリリンだった。


『感じたか!?悟飯!ものすごい気を』
「はいっ!」


ライも内容を聞こうと、受話器の反対側に耳を当てる。


「こ…これって、あ…あまりよくない気ですよね…」
『よ…よくねえよ…どんどん近付いてくる……』
「そうみたいですね…」
『ライちゃんもいるのか…。じゃあ、おまえたちもうすうす感づいてるはずだ……こ…この気は、フリーザじゃないのか…!?』


言うクリリンの言葉を聞き、二人は嫌な予感が的中して生唾を飲み込む。
そして、悟飯は意を決したように言った。


「ボク、今から行ってみます!」
「あたしも!」
『お、おう!オレも行く!』


二人の言葉を聞いて、クリリンも元よりそのつもりだったのかそう答えた。
そして受話器を降ろすと、二人は顔を見合わせすぐに支度を始めた。


「えーっと、えーっと…」


ライはタンスをごそごそと探り、以前ナメック星で来ていた戦闘服を探した。


「た、たいへんだ、たいへんだ……!」


悟飯はすぐに戦闘服を見つけると、急いで着替え始めた。
そしてライも慌てて戦闘服を引っ張り出し着替えを終えると、二人揃ってチチが止めるのも無視して飛び立った。
気を感じる方向へ、真っ直ぐ飛んでいく二人の顔は厳しいものだった。


「ど、どうしてこんなことに……!」
「あのフリーザが…生きてたなんて……っ!」
「さ…最悪だよ…おとうさん…!!」


呟きながら飛んでいると、二人はふとクリリンの気を感じた。
そして自分たちに追いついてきたクリリンを見る。


「クリリンさん!」
「ク、クリリンさん気付きましたか!?フ、フリーザと、も、もうひとつのフリーザによく似た大きな気に…!」
「あ、ああ、そりゃあな…気付かないわけないだろ…こんなにでかいハデな気に…」


悟飯の言葉を聞き、クリリンも冷や汗を浮かべながら呟いた。


「ど、どういうことなんでしょう……!」
「フリーザの、新しい仲間なんでしょうか…!」
「オレが聞きたいよ。なにがなんだかサッパリだ…!」


不安が拭えない二人の言葉に、クリリンも眉を寄せて答える。
だが今は、その場に行ってみないとわからないことばかり。
3人は急いで、気を感じる方向へと向かった。


「悟飯、ライちゃん、あそこ!みんなが!」


しばらく飛んでいると、クリリンが何か気付いたように指を指す。
二人はその先を見ると、皆勢揃いでいることに気付いた。


「ピッコロさんもいる!」
「みんなもちゃんと気付いてたんだ!」


そして地面に降り立ち、実際にナメック星でフリーザを見たことのある人物以外の、ヤムチャ、天津飯、餃子、プーアルまでいることに気付く。
再会を喜ぶブルマだったが、すぐにピッコロがフリーザが乗っていると思しき宇宙船の存在に気付いた。


「来たぞ!!」


それを受け、皆一斉にその宇宙船を見上げる。
ライはその宇宙船から感じられる気に、やっぱりと難しそうに眉を寄せた。
宇宙船は、皆がいる場所からは少し離れた場所に着地した。


「ま…まちがいない、フリーザだ!い…生きていた…や…やっぱりフリーザの他にもう一人いやがる……!」


クリリンは恐ろしそうにその方向をじっと見た。


「いいかきさまら、飛ぶんじゃないぞ!スカウターで探られんように歩いて近付くんだ!」


言うベジータだが、フリーザの気を肌で感じた天津飯は言葉を失い、ヤムチャは汗を垂らした。


「フ…フリーザ…ってのは、あ…あんなにとんでもない…バ…バカでかい気なのか…?」
「あんなものじゃありません…もっと、もっと強くなっていきます…!」
「ほんとに、すっごく強いんです…!」


ヤムチャの問いかけに、悟飯とライの二人が答える。


「お…おまえたち、そ…そんなヤツと戦っていたのか…?」
「じょ…じょうだんじゃないぜ…ち、近付いて行ってどうしようってんだ…!し、信じられんようなバケモノじゃないか。そ…そいつがふたりもいるんだぞ!ど…どうしようもないじゃないか…!」


驚く天津飯と、うろたえるヤムチャ。
だがそんなヤムチャにピッコロが背後から声をかけた。


「だったらどうする…ここで腐ってるか?スキにしろ…どうしようもないのはみんな知ってるんだ」


実際にナメック星でフリーザの恐ろしさを知っているピッコロは、力の差を感じながらもそう言う。


「はっきり言ってやろうか?」


ベジータも厳しく眉を寄せながら、どこか諦めたような嘲笑の表情を浮かべ、


「これで地球は終わりだ」


そう淡々と言い放った。
その言葉を聞き、本当なら、そんなことはないと言いたいライ。
だが、そう言うことはできなかった。
やはりフリーザの強さは本物だ。自分たちでは到底かなうことはできない。
あの時の絶望が、鮮明に思い出される。
それでも、


「あたしは行きます」
「ライ…ちゃん…」


ぐっと強く拳を作り、言うライ。
その幼いながらも決意の込められた目を見て、ヤムチャは驚いたようにライを見た。


「おとうさんは帰ってくるんですから…」
「え……?」
「おとうさんは、地球に帰ってくるんです。だから、その地球を失くしちゃうのはいや……あたし、おとうさんにちゃんとおかえりなさいって言いたい……!」


その言葉に迷いなどはなかった。
あるのは、少しの恐怖心と健気な父への想い。
それを感じ取ったのか、また同じ気持ちなのか……悟飯は強く握られているライの手を握った。


「ボクも行くよ、おねえちゃん。ボクも、おねえちゃんと一緒におとうさんを迎えたいから」
「悟飯……」


力強い悟飯の視線を受け、ライは嬉しそうに、安心したように少しだけ拳に入れる力を緩める。
そんな双子を見て、ベジータはどこか面白そうに鼻で笑った。


「ふんっ……ガキどもは腹決めたようだな」


ベジータの言葉に、ライはベジータを見つめると、こくんと頷く。
それを確認したベジータは、先導を切って歩き始めた。


「………行くぞ」
「……ピッコロさん…」


そしてライと悟飯の背中に手を当てる、ピッコロの厳しくも力強い表情をライはふと見つめると、「はい」と短く言って歩みを始めた。
ナメック星での戦いを終えている者たちが歩き始めるのを見て、諦めたのか他の人物も歩を進めた。


「ち…ちくしょう…生き返ったばかりでまた死ぬのか…」


弱気なことを言っていたヤムチャも、ようやく覚悟を決めたようだった。
そしてフリーザたちに気付かれないよう気を殺しながら歩いていると、全員が異変を感じた。
だが気を感じ取ることのできないブルマとプーアルは、不思議そうに皆に声をかける。


「い…いきなりでかい気が現れて……い…一瞬でたくさんの気が、き…消えた……」


驚きながら言うクリリンの言葉に、ライも不思議そうに山の向こうを見つめる。
そして茫然としていると、またすぐに異変を感じた。


「なっ、なんだ!?こっ、この気は!」


さっきまで感じていた大きな気が、またさらに大きなものへと変わった。
その変化に覚えがあるのか、悟飯は思わず叫ぶ。


「お、おとうさんだ!あのときのおとうさんと同じ気だ!」
「じゃ、じゃあ…!」
「おとうさんと同じ気、だけど……!」


なにか違う、気がする。ライは訝しむように山の向こうを見つめる。
そして次の瞬間、戦いがはじまったのかその山の向こうで大きな爆発が起きた。


「クリリンさん、あそこ…!」
「え!?」


しばらく激しい戦いの様子を見ていた一同だが、ふいに悟飯が空中を指差す。
皆がそちらへ視線を向けると、そこにはフリーザと、何者かの姿があった。
何者かは素早い剣さばきで、一瞬にしてフリーザを細切れにしてしまう。
そして跡形もなく消すために、剣を持つ手とは逆の手でエネルギー波を放った。
それを見て、驚き目を見開く一同。


「い…いまのは間違いなく、フ…フリーザだった…」
「フリーザを……あ…あっという間にバラバラに……」
「そんな……強すぎる……」


ベジータ、悟飯、ライがそう呟くと、ブルマは少し安心した口振りで言う。


「で…でも孫くんたちほんとに、すごくなったわね〜〜、あっという間だったんでしょ?……また助かったじゃない!地球…」


だが、そのブルマにヤムチャが言った。


「悟空じゃないんだ…あいつ…ス…超サイヤ人らしいんだが……」
「へ!?」


ヤムチャの言葉に驚くブルマだが、直後我慢できなくなったベジータがその場を飛び立つ。
それに続き戦士たちが次々と飛び立つと、ヤムチャもブルマを抱えて飛び立った。
そうして空中に浮かびながら謎の少年と、フリーザに似た大きな気を持つ人物の様子をうかがう。
二人の勝負は一瞬で終わった。
敵の腹部をエネルギー波で貫いた謎の少年は、すぐに大きなエネルギー波でその姿を消滅させると、今度は宇宙船も同じように粉々に破壊した。
ひとまず片付け終えたのか、謎の少年は剣をしまい、超サイヤ人の姿から普段の姿に戻る。
そして空中に浮いている皆の姿を見て、叫んだ。


「これから孫悟空さんを出迎えに行きます!いっしょに行きませんかーー!」


その言葉に、全員が驚きを隠せずにいた。


「な…なんでおとうさんのことを…」
「このすぐ近くですから、オレについてきてくださいー!」


不思議そうに悟飯は呟くが、謎の少年は別の場所を指差してそう叫ぶ。


「な…なにものだ、ヤツは……ス…超サイヤ人だと…ヤツが……?ふざけるな…サイヤ人はオレたち以外、もういるわけないんだ…」


謎の少年を睨むように見て言うベジータ。
ライもぽかんとその少年を見ていた。


「ボッ、ボクはあの人についていってみます!」


少年がその場を飛び立つと、悟飯は心を決めたのかそう言う。


「あたしも…!嘘じゃないと、思うから…」
「だけどよ、得体がまったくしれないぜ」


意気込む双子にクリリンは注意を言うように呟く。
だが天津飯は、悪いヤツとは思えないし興味もあると言って双子と同じようについていく意を示す。


「行ってやるか…ヤツの正体をあばいてやる」


ベジータも決めたのか、そう呟いた。
そして全員揃って、謎の少年のあとをついていくことにした。