「ほ…本当に悟空は超サイヤ人とやらになったのか…!?」 問うピッコロに、ライは嬉しそうに頷く。 「そうか…超サイヤ人か……気になるな……」 そんなライを見ると、ピッコロは呟くように言う。 するとライも説明しようと思ったが、難しいのかうーんと首を捻る。 そしてようやく捻りだした言葉が、 「うんと……なんていうか……ふ、不良……?」 「不良…だと……?」 眉を寄せ難しい表情で言うライの言葉に、ピッコロもよく理解できなかったのか眉を寄せる。 どういうことか更に聞こうと思ったピッコロだが、とある異変によりそれは妨げられた。 「え?ヤムチャ…?……あれ?」 ブルマがそう呟きながら周りを見回していた。 不思議に思ったライとピッコロは会話をやめ、ブルマを見る。 「どうしたんですか?ひょっとして界王さまから?」 悟飯もブルマを見上げて聞くと、どうやらその通りのようで、界王を通じてヤムチャがブルマの心に話しかけているようだった。 そしてブルマは手を耳に当てながらヤムチャの言葉を聞く。 ライも内容が気になるようで、じっとブルマを見つめた。 「ねえ、聞いて聞いて!孫くんさ、フリーザをやっつけたって!」 「ほんとですか!やったーーっ!」 「さすがおとうさんだっ!」 ヤムチャからそう聞いたのか、ブルマが嬉しそうに言う。 すると悟飯とライはまた嬉しそうに笑って言った。 それを遠くで聞いていたベジータは信じられなさそうに眉を寄せていた。 だがまだヤムチャの話は終わっていないのか、ブルマはまたどこか一点を見つめる。そして、 「ちょっとー!孫くんも星が爆発して死んじゃったってよー!ショックよねー!」 「おとうさん、逃げられなかったんだ……」 「あんまり時間なさそうだったもんね……」 それを聞いて表情を落ち着かせた悟飯とライはぼそりと呟く。 あまりにもブルマの言い方が軽かったからか、ヤムチャがそんな言い方あるかと怒鳴る。 だが、ブルマは余裕そうに笑い、ナメック星のドラゴンボールでは何回も生き返らせることができるのだと言った。 これで悟空もクリリンも餃子も生き返ることができると言うブルマに、界王は沈んだ声で呟いた。 「…何も知らんのはおまえたちの方だ…餃子はここで生き返ることができるが、悟空とクリリンはナメック星で生き返る……だが、そのナメック星はもうないのだ……」 突然話し出した界王の言葉にブルマは驚きながらも、静かに続きを聞いた。 「宇宙空間だ…生き返った瞬間に、また死が待っている……どうにもならん…あそこは、私の区域ではないのだ……」 界王の言いたいことを理解したブルマは、絶望したように、何も言えずにしばらく立っていた。 「ブルマさん?どうしたんですか?」 「あ、え、ええ……」 だがその様子をおかしく思ったライがブルマの顔を覗き込むようにして言うと、ブルマは我に返り、界王に言われたことをそのまま皆に説明した。 「そ…そんな……」 「おとうさんが、クリリンさんが…生き返れないなんて……」 落ち込んだ様子のブルマ同様、悟飯もライも思わずぽつりと呟く。 そして言葉を失ったのか、それきり誰も口を開くことはなかった。 そんな重い空気を鬱陶しいとでも思ったのか、ベジータが仕方なしに口を開く。 「少しはアタマを使ったらどうだ」 それを聞き、全員の視線がベジータへと向く。 「こっちのほうに魂だかなんだか知らんが、移動させてから生き返らせりゃいいだろ…たぶんな……」 腕を組みながら言うベジータの言葉を聞いて、ブルマははっと気付いたように表情に明るさを取り戻す。 「そ、そうよ!そのとおりだわっ!!あんたいいこというじゃん!」 そして希望が再び見えたことを嬉しく思ったのか、ライと悟飯は二人揃ってベジータの元へ歩み寄る。 「どうもありがとう……」 悟飯が呟きながらベジータに手を差し出す。 だがベジータは不愉快そうに眉を寄せ悟飯の手を振り払う。 「調子にのるな…」 そう呟くと、唖然としている悟飯の隣にいるライへと視線を向けた。 ライは悟飯のように手を差し出すことはなく、またお礼を言うわけでもなく……ただじっと、ベジータの顔を見ていた。 どこか嬉々としているような表情で。 「…………」 ベジータはそれをまた鬱陶しげに見下げた。 そんな目で見られても、ライはキラキラした視線を逸らすことはない。 「ベジータさん、なんだか優しくなりましたね!」 「気持ち悪いことを言うなクズが」 にこりと笑って言うライの額をベジータは指ではじく。 バチンッと凄い音を立てながらも、ライは数歩後ろによろける程度で済んだ。 そしてぷくっと頬を膨らませ、痛みで涙目になる目でベジータを睨んだ。 「あの時から、ほんのちょびっとだけ良い人かもって思ったのに…」 その膨れ面のまま吐き捨てるように言うと、ライは悟飯の手を掴んでベジータの傍から離れた。 ライは、あの時……ベジータが死ぬ間際の様子を見て、少しだけベジータを見る目を変えていた。 あれほどの死闘を繰り広げ、互いに嫌い合っているはずのベジータと悟空。 だが、あの時ベジータは悟空に涙ながらに頼んだ。プライドなんてあの時のベジータにはなかったとライは思う。 同じサイヤ人としての誇りを、ベジータは死の間際まで悟空に訴えかけていた。 その姿を見て思わず涙を零したライは、先程のベジータの提案を、少し違った感情で捕えていた。 殺す殺すと連呼していたベジータが、悟空を生き返らせるための助言をしてくれた理由。 それは、サイヤ人のカタキをとってくれた悟空を、ほんの少しでも見直してくれたのではないのかと。 好きになるとまではいかなくても、感謝するとまではいかなくても。 共通の敵を倒してくれたことに対して、僅かでも喜びを感じてくれたのではないかと。 「全然違ったみたい……」 「おねえちゃん…?」 ぼそりと呟くライを悟飯は不思議そうに見たが、その心は双子だとしてもよくわからなかった。 そしてベジータの本心、それは超サイヤ人になった悟空を見てみたい。いつか勝ってみせるというものだった。 そんなことを知る由もないライは、涙を拭ってベジータを睨むばかり。 「ピッコロさん、あたしあの人やっぱり嫌いです」 「……まあ、そうだろうな…」 むしろ好きになれる要素がないと言いたげにピッコロは、改めて言い出すライの言葉に汗を浮かばせる。 たまにライの考えることがわからないと、ピッコロは少しばかり思案しだした頃、ナメック星人の一人がブルマに滞在するために良い場所の案内を求めていた。 「だったらあたしんちに住んだらいいわ!すっごく広いから平気よ!こっちだってあなたたちのドラゴンボールでもう少しお世話になりたいし―――そうしなさいよ!その人数でどこかにウロウロしてたら見つかっちゃって大騒ぎになっちゃうわ」 任せなさいと頼りがいのある笑顔で言うブルマ。 そして気付いたようにベジータを振り返る。 「あんたも来たらー!どうせ宿賃もないんでしょ?」 ブルマの提案に、ベジータはプイッと顔を背けた。 まさかベジータまで誘うとは思っていなかったライは、茫然とした様子でブルマとベジータを見る。 「ごちそうたくさんだすわよ!どうせ孫くんと一緒ですっごく食べるんでしょ。ただし、いくらあたしが魅力的だからっていっても悪いことしちゃだめよー」 両手を腰に当て言うブルマにベジータは、 「げ…下品な女だ……………でかい声で……」 と汗を流しながら呟く。 だがそうする他手段がないためか、反論の意志は見せなかった。 そのやりとりをぽかんと見ていたライだが、すぐにはっと我に返るとうーんと首を捻る。 やっぱりベジータに刺々しさというものがなくなっているような気がする。 ナメック星に居た頃は敵対心やら憎らしさがいっぱいだったライだが、今は不思議とその気持ちも薄れてしまっている。 そしてナメック星人たちとベジータの居住先が決まったところで、悟飯が思い出したようにあっと叫んだ。 「なに?どうしたのよ」 聞くブルマ。 ライも不思議そうな顔で悟飯を見つめた。 すると悟飯はどこかもじもじした様子で口を開いた。 「ボ…ボクもブルマさんのところへ泊めていただこうかな……」 「悟飯くんは帰ったほうがいいわよー。お母さん待ってんだし」 当然といった様子で言うブルマ。 ライもうんうんと頷くが、悟飯は困ったように呟いた。 「宿題するのわすれちゃって……お…お母さんにしかられる…」 そして悟飯のその言葉を聞いて、ライもはっと思い出した。 「そういえば、悟飯はいっぱい宿題持たされてたっけ……」 「あら?ライちゃんは宿題なかったの?」 「ありますけど、悟飯ほどじゃないです。それに、あたしは宿題より他のことをやらないと…」 偉い学者さんにさせるというチチの目標は悟飯のみのことであって、ライはその範囲内ではないようだ。 宿題は常識程度のもので、ライのやらなければならないことは実家にある。 立派なレディになってほしいと言うチチの元で、花嫁修業を行うことだ。 「大丈夫だよ、悟飯。あたしもお母さんに説明してあげるから」 「う…うん……」 それでも叱られることに変わりないからか、悟飯ははっきりしない態度で答える。 以前はその態度を見て、しっかりしなさいと注意をしていたライ。 だが、今はそうはしなかった。 むしろこの頼りない悟飯を見て安心してしまう。 いつもの悟飯だ、と。 「ほらっ、父さんの迎えも来たことだし、乗って乗って!」 ブリーフがブルマの連絡を聞いてやってきたのか、遠くからカプセルコーポレーションの大きな飛行船のようなものの姿が見えた。 それが地面に降り立つと、ブルマが双子にも乗るよう急かす。 「悟飯、行こ?叱られるのはいやだけど、お母さんに心配かけたままじゃだめだよ」 「そ…そうだね…おねえちゃん」 ライに手を引かれ、悟飯は心を決めたのか歩き出す。 そしてじっとその場に立ったままのピッコロの姿に気付いた。 「あれ?ピッコロさんは…」 「オレは自分で帰る」 悟飯がそう問うと、ピッコロは短くそう答えた。 ピッコロの帰る場所などわからないし、舞空術のほうが速いかと思った悟飯はすぐに納得した。 それはライも同じなのか、少しだけ寂しそうにピッコロを見上げる。 「ピッコロさん、またナメック星のドラゴンボールでお願いを叶える時は来てね」 「ああ、わかった」 「ぜったいに、ぜったいだよ!それと、今度また遊びに来てね?」 「……わかったと言っている。早く行かんと置いていかれるぞ」 しつこく言うライにピッコロは眉を寄せ、腕を組みながら言う。 そのいつも通りのピッコロの態度に、ライは嬉しそうに笑うと悟飯と共に手を振ってピッコロに別れを告げた。 ピッコロは手を振り返しはしなかったが、ライたちの姿が飛行船の中に入り、その姿が小さくなるまでその場で見送っていた。 こうしてライと悟飯は実家に帰り、ナメック星人とベジータは西の都のブルマの家でしばらく住むこととなった。 |