フリーザの言葉にピクッと耳を動かしたベジータは、目を見開いてフリーザを見る。
クリリンも驚き思わず振り返って、もう一度耳を澄ました。


「大サービスでごらんにいれましょう!わたくしの最後の変身を…わたくしの真の姿を!」


フリーザの大々的な宣言を聞き、恐ろしさで言葉を失う5人。
そしてフリーザの最後の変身がはじまった瞬間、クリリンはベジータの腹部をエネルギー波で貫く。


「「え!?」」
「!?」


その光景に驚く双子とピッコロ。


「な…なぜ…クリリンさんがベジータを……」
「ご…悟飯…!こ…この場を離れるんだ…!」


驚く悟飯に向けピッコロが叫ぶ。
それに素直に従った悟飯は、ライが支える方とは逆の肩を支えて飛んだ。


「だ…だいじょうぶですか!?ピッコロさん…」
「へ…へいきだとはいえんな…」


そしてなんとか地面に降り立ったが、その少しの衝撃でさえ今のピッコロには堪えるようだった。
弱ったピッコロの姿を見て心配しているライだが、悟飯は気付いたように声をかける。


「だいじょうぶ!そ、そのケガなおせますよ!デンデっていうナメック星人がなおせるんです!」
「そ、そうだ!デンデがいたっ!」


それを聞いて思い出したのか、ライもそう言う。
そしてデンデを呼ぼうと悟飯は駈け出した時、クリリンに声をかけられた。
一緒にデンデを探している間に、悟飯はクリリンからベジータを攻撃した理由を説明する。
サイヤ人は死にかけてから復活すると強さがグンと増す、そのためにわざと半殺しにしたのだと。
それで納得した悟飯だが、ピッコロの元へ向かうデンデとケガを負ったままのベジータを見つけた。


「あ!ピッコロさん!デンデが来たよっ!」


ピッコロの傍にいたライが、飛んでくるデンデを見つける。
そして降り立ったデンデを嬉しそうに見た。


「お…おまえ…キ…キズを…なおせるって……ほ…ほんとか…」
「は…はい!」


そしてデンデはライたちにしたのと同じように、ピッコロに手を向け念を送る。
するとすぐにピッコロの体は回復し、立ち上がった。


「なるほど…信じられん……オ…オレにもこんな能力があるのか…?」
「い…いえ、あなたは戦闘タイプですから……」


言うデンデに、タイプがあるのかと不思議がるライ。
するとクリリンはデンデに、ベジータをなおしてやってくれと頼む。
嫌がるデンデだが、ピッコロもベジータの力を必要としているのかなおしてくれと言った。
直後、フリーザのいた場所が大きな爆発を見せる。
変身が完了したらしく、その場所からとんでもなく大きな気を感じた。


「く…くく……!こ…こいつは、な…なんというバカでかい気だ……!」
「あ…あらわれるぞ…と…とんでもないバケモンが……」


その気を感じ、眉を寄せ厳しい表情で呟くピッコロとクリリン。
ライと悟飯もそれを感じたのか、慌ててデンデを見る。


「デ、デンデたのむ!ベ、ベジータをなおしてやって…!」
「あ、あたしからもお願い…デンデ、ごめんね…!」


訴えかけるような双子の視線、そして自らも感じるフリーザの恐ろしい気に、デンデはわかってくれたのかベジータの元へと飛んで行った。
そしてフリーザの姿が見えてきた頃、デンデはベジータの治療を終えた。
超サイヤ人になったと確信したベジータは、フリーザの正体とやらを見つける。


「あ…あれがフリーザの正体か…!?ち…ちいさくなってさっぱりしちまって…迫力が…」


クリリンもフリーザの姿を見つけたのか、唖然としたように呟く。


「…が…外見だけで実力を判断するなといういい見本だ…い…今までのほうがずっとかわいかったぜ…」


ピッコロはフリーザの実力をすでに感じてしまっているのか、悔しそうに言う。


「ち…ちくしょう…せ…せっかく苦労させてドラゴンボールで願いをかなえてもらったのに…すまなかったな……と…とてもじゃないが、おまえたちを助けられそうもない……」


直後、フリーザはゆっくりと指先をライたちに向ける。
そして放たれた光線は、ライたちの間を縫って、ベジータの真横を過ぎ、デンデに直撃した。


「デッ、デンデーーッ!!」
「み…見えなかった……た…ただ、なにかが光ったとだけしか……バ…バカな…」


どうやらフリーザはデンデがピッコロを治療したのを見て、今までの復活劇がデンデによるものだと気付いたらしい。
デンデが殺されてしまい、唖然と目を見開くライたちの目の前に、フリーザは一瞬にして現れた。
余裕の笑みを浮かべるフリーザに、ライたち4人は一斉に飛びかかる。
悟飯の拳、クリリンの蹴り、ピッコロの手刀、ライの拳……4人がかりで攻撃するも、フリーザは軽々とその全てを避けた。
ピッコロがその接近戦から遠のき、エネルギー波を放つ。
そして飛び上がり逃げたフリーザにライたちも同じようにエネルギー波を放つが、それらが交錯する場所にフリーザの姿はなかった。


「きっ、消えたっ……!」


4人は地面から空中を見上げる。
だがすぐにベジータが4人の背後を指差す。
そしてフリーザは先程デンデにしたように、指から光線を出した。


「よけろバカ!」


それは真っ直ぐ悟飯へと向かうが、ベジータが横から悟飯を蹴ったため、それは悟飯に直撃することはなかった。
一瞬とも思えるフリーザの攻撃に、ライは目を見開いて見つめることしかできなかった。
そしてはっと、悟飯を振り返る。


「あ…ありがとう……助けてくれて……」


驚きつつもベジータに礼を言う悟飯。


「勘違いするな。助けたわけじゃない……きさまらにいいものを見せてやろうと思ってな…」


立ち上がろうとする悟飯を支えようと手を貸すライ。
そしてベジータの不敵な笑みを見上げた。
ピッコロが驚いたようにベジータに勝つ自信があるのかと聞くと、ベジータは確かに頷いた。


「たいした自信だね、ベジータ…それとも、恐怖のあまりアタマがおかしくなったのかな?」
「いまのうちにそうやってニヤニヤ笑ってろ…!ここにいるのがきさまのもっとも恐れていた超サイヤ人だ」


余裕のフリーザに、自信ありげな様子で言い放つベジータ。
その言葉を聞きフリーザは一瞬目を見開くも、またすぐに笑みを取り戻した。


「ふっふっふっふ……あいかわらずジョーダンきついね…」


そう言い、フリーザはあまり気にしていないようだが。
ベジータの妙な自信を見て、ライたちは何も言うことができずに黙っていた。


「カカロットの出番はないぜっ!!」


言いながらフリーザへと跳びかかるベジータ。
だが、フリーザの姿は一瞬にしてベジータの前から消え、ベジータの攻撃があたることはなかった。
驚くベジータは、遠くの地面にフリーザが立っている姿を見つけた。


「ちょっと本気でスピードをあげたらついてこれないようだね…それでも超サイヤ人なのかな…」
「バ…バカな…」


全力で飛びかかったのに、それをいとも簡単に避けられ、さらには余裕まで見せられ……ベジータは悔しさと恐ろしさで思わず震えた。


「はっきりいって、そんな程度のスピードではこのボクにはとても勝てないよ。笑わせないでくれ。しょせん超サイヤ人なんてただのくらだない伝説だったんだ」


腕を組みながら言うフリーザに、ベジータは眉を寄せ汗を浮かび上がらせる。


「オ…オレには、こ…これが限界だというのか…!バカな…そ…そんなはずはない…!オレは……オレは超サイヤ人だーーっ!!」


憤りながら、その怒りを形にするように両手に力を込める。


「くたばれフリーザーーッ!!」


そしてできあがった自身のフルパワーのエネルギー波をフリーザに放った。
その強大な気に、4人は驚き体を強張らせる。


「この星ごと消す気か!!ベジーターーッ!!」


ピッコロが叫ぶように、ベジータの放ったエネルギー波はそれほど強力なものだった。
ライも不安げにピッコロのズボンの裾を握り目を閉じる。
だがフリーザは目を見開いたと思えば、そのエネルギー波に自ら駆け寄り蹴りあげた。


「!!」


ベジータ渾身のエネルギー波が簡単に蹴り飛ばされ、空の彼方へと消えていく。
それを見たベジータは言葉にならず、ただ空の彼方を見上げた。


「あ…あれを…た…ただの足蹴りではねかえしやがった…」
「そん、な……だって…ベジータは…」
「い…今のはベジータ…フルパワーの一撃だったはずだ…」
「す…すごすぎるよ…あいつ……」


ピッコロ、ライ、クリリン、悟飯は驚いたように呟く。
どうしようもない絶望感が一気に押し寄せた。
それはベジータも同じだった。
初めて感じる恐ろしさと絶望に、戦意を失い涙を流しているベジータに、フリーザは容赦ない頭突きを与える。


「ベジータ!」


もろに喰らってしまったのを見て、ライは思わず叫んだ。
そして更にフリーザはベジータを上から蹴り、地面へと叩きつける。


「ゴ…ゴホッ………う……」


唸るベジータのすぐ傍にフリーザはまた一瞬であらわれる。
自らのシッポでベジータの首を掴み上げ、そのままの状態でベジータの背中に重い一発を与えた。
そして口角を上げながら、ライたちを見た。


「手助けしたかったら、いつでもどうぞ…」


言うも、ライたちは何も答えることができず、そのままフリーザはベジータへの攻撃を続けた。
4人は、まるで次元の違う強さのフリーザに恐怖心を抱き、金縛りにあったように身動きがとれず、その状況を見ていることしかできなかった。


「や……やめて……っ」


もはや悲鳴すらあげられなくなったベジータに無慈悲な攻撃を続けるフリーザに、ライは思わず呟いた。
ピッコロははっと足元にいるライを見る。
もしかしたら立ち向かっていくのではと心配したピッコロだが、ライの体が目に見えるほど震えていることを知り、取り越し苦労だと分かる。
そしてそっとライの肩に手を置く。
それすらもライは驚き身をびくりとさせたが、すぐに涙目でピッコロを見上げた。
だがそれも、フリーザがベジータを岩に投げつけたことにより、そちらへと視線が動いた。


「つまらん……戦う気がまるでなくなっちゃったようだね…ちょっとはやいけどとどめをさしちゃおうか!」


立ち上がろうともしないベジータを見下げ、フリーザは無表情で言う。
そしてとどめを刺そうと手を振り上げた瞬間、その場にもう一人の戦士が現れた。
治療を完璧に終えた悟空だった。


「そうか、ふしぎなでかい気の正体はピッコロだったのか。ドラゴンボールでやってこれたんだな」


そしてピッコロの傍まで歩み寄ると、理解できたように言う。


「遅くなってすまなかった。おかげでダメージも回復できた。あとはオラがなんとかする…」


さらに悟飯たちの隣を通り過ぎる時、悟空は強い眼差しをフリーザに向けながら呟いた。
その自然な動作を、ライは茫然と見送ってしまった。


「お…おとうさん……」
「ほ…ほんとに悟空か…?い…いままでのおまえの気とは感じがちがう…」


悟飯とクリリンが呟く。
ライも同じことを思ったのか、ピッコロの隣でじっと悟空の背中を見つめた。


「きさまがフリーザか…思ってたよりずっとガキっぽいな…」


そしてフリーザのすぐ近くまできた悟空は、睨みながらフリーザに向けて言った。


「まだゴミが残っていたのか……」


対するようにフリーザも悟空を見上げ言い放った。


「ベジータはオラと戦う約束をしたんだ。ジャマするなよ」


言う悟空の姿を見て、フリーザはどこか見たことあると思案を巡らす。
そしてのちに、惑星ベジータを滅ぼした時に最後まで抵抗をしたサイヤ人にそっくりだと気付いた。
その間にベジータは悟空の気配を感じ、動かない体ながらも必死に悟空を見上げていた。


「サイヤ人は1匹たりとも生かしてはおかないよ…バカだね。おとなしくふるえてりゃよかったのに…」
「かもな…」


呟く悟空に向け、フリーザはなんの前触れも見せずに蹴りかかる。
だが避けた悟空に逆に蹴られ、少し離れた地面に着地した。
悟空の強さを感じてか、フリーザはにやりと不敵な笑みを見せ、指先を悟空へと向ける。
その仕草には見覚えがあったのか、クリリンは急いでその場から離れ、避けろと悟空に告げる。


「なまいきだよ、おまえ」


そしてフリーザの指先から無数に放たれる光線を、悟空は一つ残さず弾き飛ばした。
しかもそれが片手だけでということに気付き、フリーザは驚いて悟空を見る。
訝しむフリーザの呟きが聞こえたのか、ベジータは痛む体に鞭打つように高笑いをした。


「フ…フリーザ…!本気でやったほうがいいぜ…こ…こいつこそ…き…きさまのもっとも恐れていた…ス…超サイヤ人だ……!」
「!!」
「そ…そうだ!あ…あの伝説の全宇宙最強の戦士…超サイヤ人だ……ふ…ふっふっふ…フリーザ…も…もう、てめえはおしまいだ…ざ…ざまあみやがれ…!」


震える体を必死に起き上がらせようとするベジータ。
だがそんなベジータを見てフリーザは眉を寄せ、ベジータに向け光線を放った。


「!!」


それは一瞬にしてベジータの心臓を貫く。
その瞬間を見たライは、恐ろしさに息を呑んだ。


「知ってたはずだろ!?ボクがくだらないジョークがキライだってことをさ…」


言い放つフリーザに、悟空はベジータを見つめ、そして眉を寄せフリーザを睨んだ。


「おい!ベジータはもうほとんど身動きさえできねえような状態だったんだ……!わざわざとどめをさすこたあねえだろ…!」


その言葉を聞いたベジータは驚きで目を見開き、フリーザは口角を上げる。


「カ…カカロット…ま…まだ、きさまは…そんな甘いことをいって…やがるのか……ス…超サイヤ人じゃ…な…なかったのか……」


そして苦しいながらも、必死に悟空を見上げ言葉を紡ぐ。


「バ…バカやろう……!…非情になれ……!あ…甘さをなくせば…き…きさまは、き…きっとなれたはずだ…ス…超サイヤ人に……!」
「オ…オラはおめえみてえに非情に徹するなんてどうやったってできねえ…だいたいその超サイヤ人…てのがよくわからねえ…」


ベジータの訴えを聞きながらも、悟空はどうしようもなさげに眉を寄せる。


「ス…超サイヤ人てのは…うっ…ゴホッ」
「それ以上しゃべるな!死を早めるだけだぞ!」


ベジータの身を案じて悟空は言うが、ベジータの口の動きは止まらなかった。
震える言葉で、自らや悟空の生まれた惑星ベジータが巨大隕石の衝突のせいで消えたのではなく、フリーザが攻撃したのだと言う。
手となり足となり働いたサイヤ人への裏切りとも言える行為をしたのだと。
その根源となる、超サイヤ人の伝説。
それをフリーザは恐れたのだとも告げた。


「た…たのむ…フリーザを…フリーザをたおしてくれ……た…のむ」


涙ながらに懇願するベジータを少し離れたところで見ていたライは、つられるように目元に涙が滲んだ。
自分には惑星ベジータの消滅だとか、サイヤ人とフリーザの間にある確執や因縁についてはよく分からない。
だが、あの勝気で嫌味な性格のベジータが涙ながらに悟空にフリーザを倒してくれと頼む姿を見て、なぜか……同情と言えば聞こえは悪いが、同じ気持ちになったような気がしたんだ。


「サ…サイヤ人の……手……で……」


そしてベジータの命は尽きた。
それを感じたライは、息をするのも忘れてベジータの姿を見つめる。
その瞳から流れてしまう涙を拭うこともせず、ただただベジータと…悟空の姿を見つめた。


「おめえが泣くなんて…おめえがオラにたのむなんて……よっぽど悔しかったんだろうな…」


ベジータのプライドの高さはよく知っている悟空は、驚いたようにベジータを見つめる。
そしてその意志を汲むことにしたのか、悟空は地面に穴を開ける。


「わかってるぜ…サイヤ人の仲間が殺されたのがくやしいんじゃねえんだろ…?あいつにいいようにされちまったのがくやしくてしょうがねえんだろ…?」


言いながら、悟空はベジータの体を持ち上げ、その穴の中に横たおらせる。


「おめえのことは大キライだったけど、サイヤ人の誇りはもっていた……」


そしてその姿に土をかけ、ベジータを埋める。


「オラも少しわけてもらうぞ、その誇りを…オラは地球育ちのサイヤ人だ…!」


ベジータの墓を作り終えると、悟空は厳しい目でフリーザを見つめた。


「おめえたちに殺されたサイヤ人たちのためにも、そしてここのナメック星人たちのためにも、おめえをぶったおす!」
「くだらないことを…」


宣言する悟空に、フリーザはまだ笑みを浮かべたまま。
そして対峙しはじめた二人の様子を察知し、ピッコロがいち早く叫ぶ。


「きさまらこの場から離れるんだ!オレたちはジャマだっ!!」


そして隣にいたライの首根っこを掴むと、その場から飛び去る。


「がんばってねおとうさん!そんなやつ、倒しちゃってーーっ!!」


ようやく涙を拭い、力強いエールを送るライ。
クリリンも二人に続き飛ぶと、悟飯を呼ぶ。


「おとうさん死なないで!フリーザをやっつけて!」


悟飯も拳を握りながらそう言葉を残し、クリリンたちのあとに続いた。
そして残された悟空とフリーザの戦いが幕を開けた。


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