「はい、おかあさん」
「ありがとう、ライちゃん」


いつものようにのどかな、お昼時。
ライは母親のチチが作るご飯の手伝いをしていた。
チチのようにお団子にしている髪を揺らしながら、てとてとと皿を運ぶ。


「ふふっ、ライちゃんは飲みこみが早くて助かるだ。これなら立派なお嫁さんになれるだよ」
「えへへ、そうかな?」


ぽんぽんと優しい手つきでライの頭を撫でるチチ。
そのぬくもりを感じ、嬉しそうにはにかむライ。
このように物心つく頃から、ライは家の手伝いをよくしていた。
それはチチの「立派なレディになってほしい」という願いの影響だった。
いわゆる、花嫁修業というものを、ライはこの年からチチに教えられていた。


「そうだよ。この料理、ライちゃんも手伝ってくれたって聞いたらおとうさんも悟飯も驚くぞ」
「うん!」


ウインクをして言うチチの言葉に、ライも想像したのか目を輝かせて頷いた。
ライの大好きなおとうさん……悟空と双子の弟である悟飯。
ライは、ご飯を美味しそうに食べる二人の姿を見るのが特に大好きだった。


「それに、今日は武天老師さまのところにいくんだろ?ライと悟飯なら誰に見せても恥ずかしくねえから安心だ」
「あたし、ちゃんとごあいさつするね」
「ああ。えらいな、ライちゃんは」


そうして食事の用意が整ったとき、悟空が悟飯を連れて帰ってきた。
家族団欒の食事を済ませると、すぐに悟空はライと悟飯を連れて筋斗雲でカメハウスへと向かった。


「おとうさん、もっと早く飛んでよー!」
「なんだ、ライ。そんなに早くカメハウスに行きてえのか?」
「それもあるけど、風が気持ちいいんだもん!」


悟空の膝の上で、風を思い切り感じているライ。
隣で同じように悟空の膝の上に座っている悟飯も、ライと同じような気持ちのようだ。


「風は気持ちいいけど、おねえちゃんの髪が当たってくすぐったいよ」
「もう、そのくらい我慢してよ」


顔の輪郭に沿うように残された横髪が、どうやら風になびいてすぐ隣にいる悟飯をつついていたようで、悟飯は頬を掻きながら言う。
文句を言われ、むうっと口を尖らせるライ。


「ちくちくするよ〜」
「悟飯は男の子でしょ!」
「でも……」


我慢できずに弱音を吐く悟飯に、ライは強気で言う。
性格はチチ譲りのライに、どうやら悟飯はあまり強く言えないようで、もごもごと口を動かすだけだった。
その様子を見て、悟空は声をあげて笑った。


「おめえたち、とうちゃんの膝の上でケンカすんなよな」
「おとうさん……」
「だって、悟飯が……」


ライと悟飯のそっくりな顔が悟空を見上げる。
悟空はにっと笑い、そんな二人の頭を撫でた。


「ま、仲が良い証拠だな!ライ、スピードあげてえのもわかるけど、そうしたらせっかくチチが作ってくれた団子がぐちゃぐちゃになっちまうぞ」
「あ……」
「可愛くしてもらったんだから、我慢な」
「うん」


つんつんと悟空に団子をつつかれ、ライはえへへと頬を赤くしながら笑う。
こういう優しさが、ライが悟空を好きな要因の一つだった。


「悟飯も、あとちょっとで着くからそれまで我慢だぞ」
「はい」


がしがしと悟空に頭を撫でられ、悟飯もはにかむように笑った。
そうして姉弟ゲンカはおさまり、あっちに鳥がいる、向こうに山が見えるという子供らしくはしゃぎながらカメハウスへと向かった。


「そろそろだな」


悟空が言うと、ライと悟飯は身を乗り出して海を見つめる。


「ほら、あれが武天老師さまの家だぞ!」


広い海の中に、ぽつんとある砂浜と家。
その可愛らしい見た目に、ライはぱあっと顔を輝かせる。
早く早くと急かすライを落ち着かせながら、悟空は二人を抱えて筋斗雲から降りた。


「孫くん!」
「悟空!」


挨拶をする悟空に、カメハウスから出てきたブルマとクリリンが嬉しそうに懐かしそうに近寄る。
その二人の目にまず留まったのは、悟空の両腕に抱かれている二人の子供、ライと悟飯の姿だった。


「あら?なあにその子たち」
「おまえ、子守りのバイトでもはじめたのか?」


興味津津といった様子で尋ねる二人に、悟空はさも当然のように、


「オラの子だ」


と言い放つ。
そして直後、全員が目を見開き、悟空と二人の子供とを交互に見た。


「ごっ、悟空の子!?」
「ちょっと、二人もいるじゃない!」
「ああ、双子なんだ」


言いながら悟空はライと悟飯を地面に下ろす。
そして二人の肩に手を置き、あいさつをするように促した。


「こんにちは!」
「こ、こんにちは」


ライは元気よく、悟飯はまだ少し緊張した様子であいさつをした。
その二人に、ブルマたちは未だ戸惑いを隠せないながらも、あいさつを返す。


「孫悟飯と、ライっていうんだ」
「孫悟飯!?そうか!死んだじいさんの名前をつけたのか!?」
「ああ!でもライは女だから、考えるの苦労したぞ」


少し頬を掻きながら言う悟空に、改めて親になったと実感した亀仙人が感慨深げにその様子を見つめた。


「ご、悟飯くん、ライちゃん、なんさいかな?」
「「4さいです」」


その中、目線を近付けるためにしゃがみ、二人に声をかけたのはブルマだった。
双子らしく、声を揃え、指で4を示し答えた二人。


「あらー、孫くんの子供にしては礼儀正しいのね」
「チチのやつがうるせえんだ」


意外だったのか、ブルマは感心しながら二人の頭を撫でる。


「双子だなんて、予想外にも程があるわよ」
「おう、オラもびっくりしたぞ」


はははと笑いながら言う悟空。
すると、じっと二人を見ていたブルマは何かに気付いたように悟飯を凝視する。


「シ…シッポが……」
「ああ。はは……前のオラといっしょだろ!」
「で、でも、ライちゃんの方にはないのね」
「そうなんだ。でも、見分けるの簡単でいいだろ」
「……男の子と女の子なんだから、見分けるもなにもないでしょ……」


能天気な悟空の言葉に、相変わらずだなと額を押さえながらブルマは呟いた。
だが、他に気になることがあるようで、立ち上がると悟空に視線を向けた。


「ね、ねえこの子、と…とくに妙なことがあ…あったりしない?」
「妙なこと?」


悟空は首を傾げる。
会話が大人たちに向かったことにより、ライは少し暇になり隣の悟飯に目を向けた。


「悟飯、いつまでおとうさんにくっついてるのよ」
「だ、だって……」
「もう、しっかりしてよね」


満月がどうの、という大人たちの会話は二人には聞こえていない。
ライはいまいちしゃきっとしない悟飯にぷくっと頬を膨らまし、悟飯の頬を軽くつねる。


「い、痛いよ、おねえちゃん!」
「全然力いれてないよ。ほんと、悟飯は弱虫なんだから」
「う……」


腰に手を当てて言うライに言い返せないのか、悟飯は眉をハの字にして口を閉じた。
そして更に強く悟空の足にしがみついてしまった。


「な、なあ悟空。この子たちもおまえみたいに強いのか!?」
「それがなあ……」


そんな二人を余所に、大人たちの会話は続いている。


「かなりの力はもってると思うんだけどさあ…チチのやつ、オラが悟飯とライをきたえてやろうとするとおこるんだ…」
「なんで?女の子のライちゃんはともかく……悟飯はもったいないじゃないか…」
「だろ!?あいつさあ、世の中平和になったんだから、武術はもう必要ない!これからはお勉強の時代よ!ってんだ…」


不満なのか、むすっとした表情で言う悟空。
その家庭の事情を聞き、亀仙人は愉快そうに笑う。


「あのはねっかえり娘が、なかなかの教育ママさんじゃったわけか」
「なるほどねー。じゃあライちゃんはチチさんに似たのね」
「はいっ、よく言われます」


面白そうに言うブルマに、ライはにこにこ顔で言う。


「確かに、チチに似て可愛い顔しとるのう」
「えへへ……ありがとうございます」
「武天老師さま、相手は子供ですよ」
「な、何を勘違いしとるんじゃ!」


褒められるとやはり嬉しいのか、笑顔でお礼を言うライ。
そしてクリリンは亀仙人をジト目で見ながら一応釘を刺す。
亀仙人に下心はなかったらしく、すぐさま否定したが。


「!!」


そうして談笑していた一同だが、急に悟空がどこか遠くの空を睨んだ。


「な、なんだ!?どうしたんだ?悟空…」
「な、なにかこっちにやってくる!なにか……!!」


悟空は何かを感じているようだが、悟空以外はよくわからない様子で悟空が見つめる空の先を目で追う。
ライや悟飯は不思議そうに悟空を見上げていた。


「す…すげえ…すげえパワーを感じる……!!な…なんだってんだ……!?」


冷や汗を額に浮かべながら、空をじっと見つめる悟空。
そのただならぬ様子を感じ取ったのか、悟飯は悟空の後ろに隠れ、ライも悟飯を守るようにして抱きついた。


「きたっ!!」


そう悟空が叫んだ直後、空の彼方からなにかがこちらに向かってくる姿がようやく目に飛び込んで来た。
そして、その人物は静かに悟空たちの目の前に着地する。
正体不明なその人物に、その場にいた全員が言葉を失った。
だが、あまり良い予感がしないということだけは、皆共通に心に思い浮かべていた。


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