「ご、悟空だいじょうぶか!?」
「おとうさんしっかり!」
「おとうさん……」


クリリンと悟飯が悟空の体を支えながら立ち上がる。
ライはそのすぐ隣で、心配そうに見つめる。


「ず…ずいぶんオラのカラダを痛めつけてくれたもんだなベジータ…」


二人の肩を借りようやく立つことができる状態の悟空が言うと、ライも思い出したのかむすっとした表情でベジータを見上げた。
だがベジータは全く気にしていない態度で、ギニューがどうなったのか説明を求める。
悟空の説明によれば、ギニューの体で逃げて行ったのがカエルで、遠くでちょこんと座っているカエルがギニューらしい。
ゲロゲロと悲しそうに鳴くカエルをベジータは踏みつぶそうとするが、


「ほっとけよベジータ。ギニューもそうなっちゃもうなんにもできやしないさ」


悟空にそう言われ、舌打ちをしながらもギニューのこれからの暮らしに同情し見逃すことにした。


「なあ悟空、仙豆はもう一粒もないのか?」
「あ…ああ…まいったな…」


クリリンが聞くも、もうすでに仙豆は使い果たしてしまったのか、悟空は苦笑しながら言う。
その瀕死の状態の悟空を見てベジータは不敵に笑った。
それを見てライも慌てて悟空の目の前に立ち塞がるが、悟空は弱々しく呟いた。


「だ…だいじょうぶだ。いまはオラたちを殺せねえさ…」


その言葉に、ライは不思議そうに悟空を見上げる。
するとベジータも不敵な笑みのまま、そういうことだと言った。


「ドラゴンボールのこともあるが、なによりフリーザと戦うにはきさまらの…特にカカロットの力が必要だからな…」


どうやら悟空の力をあてにしているのか、ベジータは悟空を治療すると言い出した。
急にどうしたのかと訝しむライだが、急かすベジータに仕方なくついていくことにした。
そして妙なタンクのような機械の中に悟空は入り、酸素マスクのようなものをつけると中はどんどんと水でいっぱいになる。


「こっちの部屋のメディカルマシーンは旧型だが、きさまならたいした時間もかからずに全快できるだろう」


機械を操作しながら呟くベジータ。


「お、おぼれたりしないだろうな…」
「おとうさん…」


心配するクリリンとライだが、悟空の表情が苦しんでいるようには見えないため、とりあえずほっとする。
ライはベジータの隣まできてぼうっと悟空を見ていた。


「さて、きさまらには戦闘服をくれてやるか。防御に関しては少しはマシになるだろうぜ」


だが、ベジータのその言葉を聞いてはっとベジータを見た。


「へ?戦闘服……ってそういうヤツか?」
「イ…イメージよくないなあ…」


呟く二人よりももっと嫌そうな顔をライはベジータに向けたが、ベジータがライを見るとすぐにライは顔を逸らした。
そしてついてくるように言うベジータのあとをついていく3人。
そしてロッカールームのような場所までくると、ベジータは3人に向けて紺色のアンダースーツを放り投げた。


「服を脱いでそのアンダースーツを着るんだ」


言うベジータに、仕方なしに服を脱ぎ始める悟飯とクリリン。
その間にもベジータは次々と戦闘服を3人分放り投げるが、ライはアンダースーツを手に取り見つめたまま、動かなかった。


「どうしたの?おねえちゃん」


とっくに服を脱ぎ終えた悟飯が動かないライにそう声をかける。
むすっとした表情で悟飯を見るライに、悟飯は不思議そうに首を傾げるが、それを見ていたクリリンは何か気付いたようにそっとライに背中を向け、ライとベジータの間に立った。


「悟飯、なにやってんだよ。はやくお前も立て」
「え?」
「あのなあ、ライちゃんは女の子なんだぞ。オレたちの前で着替えられねえだろ」


きょとんとした表情をする悟飯に、クリリンは説明するように言う。
どうやらライが着替えられるように、自分たちが壁になろうという気遣いのようだ。
するとその会話を聞いたベジータがはっと鼻で笑った。


「ガキのくせに一丁前に色気づいてやがんのか」


そのバカにしたような口調に、ライはむっとしたのか二人を押しのけると、服を脱ぎ始めた。


「!?ライちゃん…?」
「クリリンさん、あたし、別に恥ずかしがってるわけじゃないです」


そして下着姿になると、再び手に持ったアンダースーツを見つめる。


「……これを着るの、なんだかすごく嫌なだけです…」


ラディッツが来た時から、ライの中では敵の象徴になりつつあるこの戦闘服。
これをまさか自分が着るとは……ライはその葛藤と今まで戦っていたようだった。


「着たくなければ着なくていい。あのボロのままでいいならな」


腕を組み嘲笑しながら言うベジータをライはキッと睨みながら見上げると、意を決したようにアンダースーツを着始めた。


「着ます。着て戦います……今度こそ、……んっ、負けないもん……」


ピチピチしたアンダースーツからようやく手首足首を出すと、ライは口を尖らせた表情でベジータを見上げる。
ドラゴンボールでピッコロたちを生き返らせるためなら。
そのために邪悪な者と戦う必要があるならば。
ライは、その心にあるプライドをいくらでも捨てることができた。


「フン、どちらにしろ、きさまには期待してないがな…」


その好戦的なライの表情を見て、どこかつまらなさそうに呟きながらベジータは視線を別の方へと向ける。


「こんどは戦闘ジャケットだ。うまいぐあいにリット星人間のチビサイズがあった」


言いながら、3人分のジャケットを渡す。
着方が分からないという3人に、ベジータは腕を組みながら説明した。


「強引に着てみろ。そいつはやわらかくて引っ張ればドンドン伸びる。地球でこのオレが大猿になったときにも破れはしなかっただろ。だが、衝撃にはそうとうに強いぞ」


ベジータの言葉を聞き、悟飯がジャケットを伸ばすと確かによく伸びた。
ライも同じようにジャケットを伸ばしようやく戦闘服に身を包む。


「すげー軽さだ!ほとんど重さを感じねえぞ!きたねえよな〜、おまえらこんないいの着てたんだもんな〜」


言うクリリンに、ライも試すように腕を回したり足を上げたりしてみる。
確かに軽く動きやすいのを感じ、不服そうに眉を寄せた。


「どうだ、着てみた感想は」


そんなライに気付いたのか、ベジータは口角を上げながら聞く。
その嫌味ったらしい言葉を受け、ライはむすっとした表情をしながらベジータをゆっくり振り返った。


「………別に、普通、です」
「そうかよ」


素直に良いと答えるのは癪だったのか、ライは口を尖らせながら、目線を泳がせながら言った。
その態度にライの気持ちを100%理解したクリリンと悟飯は苦笑交じりの視線を送るが、ベジータはふっと笑って短く答えた。
どうやらベジータにも、ライの天邪鬼な性格が見破られてしまったらしい。
その二人の会話を少しばかりヒヤッとしながら見守っていたクリリンだが、すぐに会話を逸らそうとベジータに声をかける。


「悟空はどれくらいでなおるかな」
「そうだな、ヤツのことだから40〜50分で完治できるはずだ」


クリリンはそれを聞いて、ライと悟飯に視線を向ける。


「悟飯、ライちゃん、オレ最長老さまのところに行ってくる!もしかしてフリーザがいるかもしれないけど、神龍を呼び出す合い言葉を聞かないとどうしようもないからな」


それを聞いてボクもと言い出す悟飯だが、クリリンはひとりで十分だと言ってそのまま行ってしまった。
クリリンの姿を見送ったライはふとベジータを見る。
するとベジータは額を押さえ、目を閉じていた。


「……なにしてるの?」


思わず声をかけると、ベジータは目を開きライと悟飯を見た。


「しばらく寝てないだけだ。……オレは今から少し仮眠をとる。あのハゲ頭が戻ってきたら知らせろ」


そして一方的に言うと、宇宙船の足部分にもたれそのまま寝てしまった。
その態度に驚いたライと悟飯は互いに顔を見合わせる。


「寝ちゃった……」
「あのままずっと寝てればいいのに」


呟く悟飯に、ライはぷんっと顔を背けて言った。
そんなライを悟飯は苦笑しながら見つめ、声をかける。


「おねえちゃん、今は一応味方みたいなものなんだから……おさえて、おさえて」
「でも敵には変わりないし……それに、めちゃくちゃ意地悪だし、性格悪いもん」
「あ、あはは……」


気を遣って声量を押さえているわけではないライの言葉に、悟飯はベジータが目を覚ますんじゃないかと気が気ではない。
だがベジータは疲れが相当溜まっていたのか、目を覚ます気配はなかった。


「そ、それよりももうちょっと向こうでクリリンさんの帰りを待とうよ」
「………わかった」


悟飯は何とかライの気を逸らそうと、そう提案する。
するとライもクリリンの動向は気になっていたのか、素直に頷いた。


「クリリンさんが最長老さんのところへ行って帰ってくるまで…やっぱり2時間はかかっちゃうかな…」
「うーん……やっぱり、ここからだとちょっと遠いね……」


悟飯と同じように空を見上げて呟くライ。
ドラゴンボールは既に7個あるというのに、まるでお預けをくらっているような気がしてそわそわしてしまう。


「その間にフリーザが来たりしたらどうしよう…」


さらに続けて言う悟飯の言葉に、ライも少し心配なのか眉を寄せる。


「大丈夫だよ。1時間もかからないうちにおとうさんは治るし、悟飯だっているもの!」
「え、ボ、ボク…!?」


フリーザの恐ろしさはよくわかっている悟飯は、思わず目を見開いてライを見る。


「うん!悟飯はもうとっくにあたしより強くなっちゃったから……今度はあたしが悟飯に守ってもらわなきゃいけないのかな?」
「そ、そんな、ボクおねえちゃんより強くないよ…」


未だ自分の力について謙虚なのか、ぽつりと呟く悟飯。
ライはその悟飯の謙虚さにもうっと息を吐くが、すぐに笑って悟飯の背中を叩いた。


「冗談よ!まだまだ悟飯はあたしが守ってあげないといけないもんね!」
「そ…そこまで言われるのもなぁ……」


なんだか釈然としない様子の悟飯だったが、何か気を感じとったのかまた空を見上げた。


「悟飯?」
「な、なにかが来る!でもフリーザじゃない!クリリンさん…!?でも気はふたつ感じる…」
「ほんとだ……!」


ライも気付き、悟飯と一緒に気の方向へと向かう。
するとクリリンの気らしい気が消えたのを感じ、やっぱりと言った様子で二人は前を向いた。


「もうひとりは…デンデくんだ!やった!」
「えっ!デンデも一緒なの?」


悟飯が言うと、ライも嬉しそうに二人がくるのを待つ。
そして無事合流すると、二人は嬉しそうにクリリンとデンデを見た。


「ものすごいはやさでしたね!どうやったんです!?」
「デンデ!久しぶりっ!」


にこりと笑ってデンデに声をかけるライに、デンデもにこりと笑った。


「なーに、デンデのやつが最長老さんに頼まれてこっちに来てたのさ!」
「ドラゴンボールのかなえかたを教えに!?」
「はい!」


これで準備が万全となり、ライは嬉しそうに、まるで希望を見るような目でデンデを見つめた。
そしてベジータの様子を気にするクリリンに、悟飯はちらりとベジータを見ながら言う。


「気付かれてないと思いますが……ここんところ眠ってないからとかいって寝てましたけど…」
「悪口言っても起きなかったから、大丈夫ですよ!」


親指を立てて言うライに、クリリンは度胸あるなと驚き、悟飯はわざとだったのかと目をぱちくりさせた。
だが気を取り直して、クリリンは二人にこれからやるべきことを告げる。


「いいか、ベジータに悟られないようそっとドラゴンボールをこのあたりまで運ぶんだ…!神龍が出たときに気付かれてもすこしは時間がかせげるからな…」
「はい!」


そのクリリンの指示通り、4人はそっと宇宙船まで戻りドラゴンボールを抱えて遠く離れた場所までくる。
そしていよいよ神龍を呼びだそうとしたとき、悟飯は物凄い勢いでなにかが近付いてくる気配に気付いた。
それがフリーザだと悟ったクリリンは、慌ててデンデを見る。


「いそげデンデ!!はやく願いをかなえさせてくれっ!」
「はっ、はいっ!」


するとデンデはナメック語で何かを叫ぶ。
瞬間、ドラゴンボールが光り出し空が暗くなる。


「あ!そ、空が暗くなった!」
「こ、これ……あのときも…」
「地球のドラゴンボールといっしょだ!」


ライはピッコロと修業している最中に見たこの光景を思い出したのか、目を見開いて暗くなった空を見た。
そして本当に、ドラゴンボールで願いをかなえることができるのだと感じ、胸を高鳴らせる。
そしてドラゴンボールの輝きが一層増したと思えば、その光の中から大きな龍が現れた。


「で…で…でかい…ち…地球のよりぜんぜんでかい…!か…形もちがう…」
「お、思ってたよりずっとすごい…」
「あ…あれが神龍…」
「ここではポルンガといいます…夢の神という意味です…」


呟くように説明するデンデ。
そしてそのポルンガは、低くゆっくり、語りかけるように口を開いた。


「ドラゴンボールを7個揃えし者よ、さあ願いをいうがいい。どんな願いも可能な限りみっつだけかなえてやろう」


かなえられる願いがみっつだと聞き、クリリンは驚く。


「す、すげえ!さすが本場の神龍、気前がいいや!」
「どうします!?みっつですよ!」
「ど、どうしようどうしよう…!」


わくわくといった様子で言い出す3人に、デンデはフリーザやベジータが来る前にと急かす。
そしてクリリンは神龍に願いを伝える。


「ま、まず、サイヤ人に殺された地球のみんなを生き返らせてください!」


それをデンデがナメック語に変換しポルンガに伝える。
願いを聞いたポルンガだが、


「それはかなわぬ願いだ。生き返らせることのできる人数はひとりずつだけだ」
「えっ!?」
「そっ、そんな…!」
「ひとりだけ…!?」


思わぬ制限に、3人も驚いたのかそう呟く。


「ど、どうする!?ひとつの願いでたったひとりしか生き返らないんだぜ!ほ、本場の神龍にしちゃケチだよな…!」
「……と、いうことは3人だけですか!?い、いったい、だ、だれを……!」
「えっと…ピッコロさん、ヤムチャさん、天津飯さん、餃子さん……あ、あう、どうしよう…」


指を折り数えるも、どうしても一人余ってしまう。
ライは自らの指を見つめながら、辛そうに眉を寄せることしかできなかった。