「さあベジータちゃん。今度はオレたちの番だよ〜」 「ち……」 ジャンケンも一息ついたところで、パイナップルのような頭をした大男がベジータと向き合う。 「3匹のチビちゃんたち、ベジータちゃんのお手伝いをしてもいいからね。遠慮しないでどんどん、ひきょうな手を使うんだよ」 余裕なのか、そんなことを言ってみせた。 その言葉に若干悔しげに表情をしかめるライたち。 そして更に、妙なポーズと共にリクームと名乗ったその男を、ライは生理的に受け付けないといった表情で見た。 「戦う相手、あいつじゃなくてよかったかも……」 ライがそう呟いた直後、ベジータは全身に力を込める。 その戦闘力数値が上昇してくのを見て、戦う相手のリクームだけでなく、残った2人も驚きを露わにする。 そして勢いよくその場を飛び、ベジータはリクームに拳を振り上げ殴った。 バランスを崩したリクームの背後に回り込み、両手を組んで頭を殴ると、更には倒れたリクームの腹部に膝蹴りを喰らわしたりと攻撃の手を止めない。 リクームの体を持ち上げ投げ飛ばすと、追い打ちをかけるようにエネルギーを両手に集め放つ。 そのあまりに凄まじいエネルギーに、戦いに関係のないライたちまで巻き添えを喰らいそうになり、慌ててその場に伏せる。 大きく爆発したものの、ベジータはまだまだと言って更にエネルギーを増幅させる。 そしてようやくベジータの攻撃の手がやんだ。 「すげえ…い…一瞬で決めやがった……!や…やっぱとんでもねえヤツだったぜ、ベジータは…」 地面はえぐれ、辺りは砂埃で一帯を覆い隠している。 それを見てクリリンはそう呟くが、決着はそう簡単につくことはなかった。 リクームの気を感じ取ったベジータははっと目を見開き、ライと悟飯もリクームが生きていることに驚いて砂埃がおさまるのを待った。 「ハーイ!」 そしてほとんどダメージを受けずに再登場したリクームに、ライたちだけでなく、ベジータも震えていた。 「準備運動はここまでだ!さあ!そろそろはじめようぜ!」 言い出したリクームは、今度はこちらの番と言いたげに素早いスピードでベジータに詰め寄る。 そのスピードについていけなかったベジータは、リクームの膝蹴りを顔面で受け止めた。 「ぐうっ!!」 なんとか地面に手をつけ体勢を整えたベジータは拳を振り上げながらリクームへと向かう。 それはリクームには防がれたものの、互いに譲らぬ攻防戦を繰り広げる。 「いいぞ!なかなかいい!思ったよりやるじゃないのベジータちゃん!」 余裕、むしろ楽しんでいるようにも思えるリクームは、ベジータの後頭部に肘打ちを決める。 一瞬地面に伏したベジータだが、すぐにその場を離れるとリクームもすぐに追いかける。 追いかけてくるリクームにベジータがエネルギー波を放つが、リクームはスピードをあげ、あっという間にベジータの背後に現れた。 そしてそのままベジータに蹴りを喰らわせ、ベジータの体は凄まじい勢いで川の中に叩きつけられた。 「あ…あ…!」 「ベジータ、が……!」 とんでもない強さを誇るベジータが押されているのを見て、ライは唇を震わせながら思わず呟いた。 だがすぐにベジータは川の中から飛び出してリクームの腹に拳を埋め込む。 その攻撃にダメージを喰らったと思われたリクームだが、すぐににやりと口角を上げ、ベジータの体を両手でしっかりと掴む。 そしてベジータの頭を下にして、勢いよく地面に叩きつけた。 「おいおいだいじょうぶだったか?」 言いながら、腰の辺りまで地中に埋め込まれたベジータの足を掴んで引き上げる。 「まさか、もうくたばったわけじゃないんだろ?」 リクームが言うと、ベジータはカッと目を見開き両手をリクームの顔面に向け、エネルギー波を放った。 その衝撃でリクームはベジータの足を離し、数メートル後ろに飛ばされ仰向けになる。 ベジータは息を荒くしながらようやくのことで立ち上がるが、リクームは先程のベジータの攻撃など効いていないといった様子でジャンプをして立ち上がる。 「いいね!そうこなくっちゃ!」 そんなリクームの強靭な肉体に、ライたちは言葉を失ったまま。 「もっと、ビシッ!とした技はないのか?ないんならそろそろ殺しちゃうけどいいか?」 ボロボロで肩で息をしているベジータに、リクームは腰に手を当て余裕そうに言ってみせる。 ベジータでさえあんな状態なのに、自分たちが勝つことなんてどう間違ってもありえないと踏んだクリリンは、覚悟を決めたように言う。 「ご…悟飯、ライちゃん…!こうなったらやぶれかぶれだ…!と…突撃するぞ!」 「え…!?は…はい…!」 「わ、わかりました…!」 そして、遠くでフィニッシュを決めようとするリクームを睨むライ。 「よ、よ〜〜し、い、いくぞ、悟飯、ライちゃん…!ベジータにはすばやい攻撃をよけられるほど体力が残っちゃいない……!」 言うクリリンに、ライと悟飯は互いに顔を見合わせ、こくんと頷く。 そして、意識を集中させタイミングを見計らう。 リクームがなにやらポーズを決め、口からグワッとエネルギー波を放ったと同時に、3人はその場を飛び出す。 クリリンはリクームの後頭部に膝蹴りを決め、その直後ライが横腹に拳を埋め込む。 悟飯はリクームの放ったエネルギー波からベジータを助けることに成功した。 遠くに向かったエネルギー波が爆発しその衝撃が収まると、ベジータは自らを助けた悟飯を睨むように見た。 「マ…マヌケめ…オ…オレを助けるヒマがあったら、な…なぜきさまもヤツを攻撃しなかった…お…おまえたちのあ…甘さにはヘドがでるぜ…」 そして攻撃を仕掛けたライとクリリンは、なんとか立ち上がり、リクームを見る。 「いまの不意打ちはなかなかだったぞ!真上からくらって、クチが閉じちまった……」 そしてムクッと立ち上がったリクームを、恐る恐る見上げながらも構えて対峙する。 「おかげで歯が……ちょ…ちょっとアタマにきちゃったかな……」 額に青筋を浮かばせたリクームが、遠くで戦いを見ていたバータとジースと呼ばれた二人にチビ3匹も自分にやらせろと言う。 二人が仕方なしに了承すると、リクームはにやりと笑って、目の前に立つライとクリリンを見た。 そして瞬間、クリリンを蹴る。 遠くまで飛ばされたクリリンを見て、悟飯は急いで駆け寄った。 「ク、クリリンさん……!」 「ほうれ!!」 隣に立っていたクリリンが一瞬にして遠くに飛ばされ、ライも思わず叫んでクリリンを見た。 その心配が仇となり、隙をつくってしまったライの腹部をリクームは蹴りあげる。 「がっ……!!」 「おねえちゃん!!」 空高く飛ばされたライは、遠くで悟飯が自分を心配する声を聞くと、ぐっと口元を引き結び、リクームの頭上からエネルギー波を放つ。 だが、ダメージを受け威力を減らしたそれはいとも簡単にリクームに跳ねのけられ、落ちて行くだけのライの体をリクームはバレーボールのアタックの要領で地面に叩きつける。 「ぐあっ…!」 その衝撃でライは地面を二転三転と回る。 ピクピクと震えるライの体は、ベジータの近くへと転がった。 「ちっ……役、立たずめが……!」 ベジータは傷ついた体を押さえながら、足元近くにいるライに向け言い放つ。 その言葉に眉を寄せるも、ライは言い返す気力もないのか、口から血を吐きながらぜえぜえと呼吸することしかできなかった。 「(あたし、だって……!)」 強くなりたかった。強くあろうとしたかった。 だけど、どうしても、実力は伴ってくれない。 今も、たった数発攻撃を受けただけでこの様だ。 自分の弱さに腹が立つ。自分の情けなさに泣きたくなる。 諦めたくないのに、諦めてしまいそうになる自分が無性に弱い生き物に思えてならなかった。 そう自分を責めていると、悟飯がリクームに向かっていく姿が見えた。 「ご……は、ん……」 ガクガクと震えながら体の向きを変え、悟飯を見つめる。 悟飯が全力で放ったエネルギー波をリクームはフッと息を吐くだけで跳ね返してしまっている。 自分の元へ向かってきたエネルギー波を避けると、その背後にはすでにリクームがおり、ビシッとチョップを悟飯に喰らわせる。 地面に叩きつけられた悟飯は地面に手をつき、ゴホッと血を吐く。 「お……おとう…さん……」 そう呟くも、リクームは弱音を吐く暇も与えない様子で悟飯に向け連続でエネルギー波を放つ。 なんとか避けている悟飯だが、エネルギー波を避けても瞬時にリクームが現れその拳を喰らってしまう。 再び地面に叩きつけられた悟飯を見て、ライは悔しそうに唇を噛んだ。 強く噛み過ぎて、唇が切れてしまうがそれも気にせず、ライはただ悟飯を心配していた。 「ご、はん……悟飯……」 「……死にたくなければ…そこでくたばってろ。きさまなんぞ…敵う相手ではない……」 悔しそうに地面に爪を立て、必死で立ち上がろうと体に力を入れるライを見て、眉を寄せてベジータが言う。 だが、そんなベジータの言葉には聞く耳を持たず、ライはぷるぷると震える手で自身の体を支えようとする。 「死に損ないが……」 ライの肋骨が折れてしまっていることに気付いているベジータが、吐き捨てるように言う。 立ち上がろうとしながら、ライは虚ろ気な瞳を悟飯に向けた。 そこでは同じく、体に相当なダメージを負ってしまっている悟飯がボロボロの体で立ち上がっている姿があった。 「ボ…ボクは……おとうさんの……そ…孫悟空のこどもだ……お…お…おまえなんかに……」 振るえる体に鞭を打つようにして、なんとか体をリクームへ向き合わせる。 対するリクームは余裕の表情で、まだ向かってこようとする悟飯を面白そうに見た。 「ま、負けてたまるかーーっ!!」 そして涙を流しながら立ち向かう悟飯に、リクームは飛び上がり避けたと思えば、攻撃を交わされ隙だらけの悟飯の首に蹴りを入れた。 瞬間、ボキッという嫌な音がライの耳に聞こえる。 目を見開いて見ると、地面に倒れた悟飯の気がわずかになり、動かなくなった姿を見つけた。 首の骨が折れてしまったのだ。 それを見て悔しそうに震えるクリリン。 「…ち……な…なさけねえくそガキだ…す…少しはマシになったと思ったら……」 舌打ち交じりで呟くベジータだが、すぐにその視線は近くにいたライに向けられる。 「なっ……!」 そこには、さっきまで生まれたての小鹿以下の動きを見せていたライが、震えることなくその場に静かに佇んでいる姿があった。 「悟飯……」 瞳孔は開ききっており、その視線にはリクームを捕えている。 間近でその殺気を感じたベジータは、驚いたようにライを見つめた。 「(こ……こいつ……さっきまで、死にかけてたくせに……)」 一体その小さな身体のどこにまだ立ち上がる力を残していたのか。 いや、それ以前に骨を折っていたはずだ。それなのに立ち上がることができるとは。 子供で……しかも脆い女であるというのに。 「うっ……ゴホッ!」 立ち上がってはいるが、ダメージが消えたわけではないのか、ライは血を吐く。 それを掌で受け止めたライは、ふとその血を見る。 血を見て思い出したのは、傷ついた悟飯の姿。 「ゆるさない……悟飯をいじめるやつは、あたしが……ゆるさない……」 そしてその血を憎々しげに見つめ、呟く。 キッとリクームを睨んだと思えば、ライの姿は強く地面を蹴りリクームの背後をとった。 「!?」 その動きに驚いてベジータははっとライの姿を目で追う。 クリリンもライの気が動いたことを感じたのか、苦しげに見つめた。 「ん……?」 リクームもすぐ後ろにライが現れたことに気付き、くるっと振り返る。 「なんだ、さっきのお嬢ちゃんか。どうしたの〜?もっと遊んでほしいのかな〜?」 からかうように言うリクーム。 その直後、ライの拳はリクームの腹部に深く埋め込まれた。 「!!」 ライの攻撃を受け止めきれなかったリクームは、口から涎を垂らしながら腹部を押さえ、数歩よろける。 対するライは、子供のものとは思えない厳しく、怒りを秘めた表情でリクームを見つめていた。 「こ、こんの…ガキ……!」 まともに攻撃を喰らったものの、やはりタフさは筋金入りのようで、倒すには至らない。 ライもそれをわかっていたのか、攻撃を仕掛けたダメージにより口端から血を垂らす。 「(悟飯……ごめんね、あたし……おねえちゃん失格だね……)」 もう指を動かす力もないのか、ライはその場をぼうっと突っ立っていることしかできなかった。 倒れている悟飯を見ようと視線を動かすことさえままならない。 さっきの動きですでに肉体の限界を超えてしまったのだ。 「(でも、せめて……死ぬ時は、一緒に……)」 そして自らに振り下ろされようとするリクームの拳を気配で感じる。 「(……あの世で、ピッコロさんの説教、一緒に受けてあげるから……)」 最後、ライは薄く笑いながら、心の中でそう呟いた。 覚悟を決めたライは目を閉じてリクームの拳を待つ。 だがいくら待っても拳は来ず、不思議に思ったライは弱々しい力ながら瞼を開ける。 すると、こちらに拳を振り降ろす直前で動きを止めたリクームが、どこか別の場所を見つめる姿があった。 ライも気になり、リクームの視線の先を見ようとしたが……深いダメージを負っているため、首を少し動かしただけでその場に倒れてしまいそうだった。 そのため、まだしばらく、じっとその場に立ち続けるしかなかった。 ×
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