そして4日ほどが過ぎた。 ライたちは、休憩をはさみながら最長老の元へと急いでいた。 食事をすませたところで、最長老の寿命を案じたクリリンは思い切ってペースをあげようと言った。 「ここまで遠くにくればあいつにもわかんねえよ、ぜったい」 「そ、そうですよね。もうすぐおとうさんが来てくれる頃ですし…」 「いちかばちか、ですね…」 「よし!決めた決めた!」 そして3人は全力で最長老の元へととばす。 この調子なら1時間で着くというクリリンだが、やはりその考えは甘かった。 精神を集中し感覚を研ぎ澄ませて待っていたベジータに、3人の気は見つかってしまった。 ボールが7個揃ってしまうことを危惧して、ベジータはボールを1個だけ持ち急いでライたちを追う。 「悟飯、ライちゃん、見えてきたぞっ!見えるかあの高い山!あそこがそうだよ!」 気付いたクリリンがそう言う。 すると直後、嫌な気配を感じて思わず立ち止まる。 その気がベジータのものかもしれないと感じたクリリンは、立ち止まって心配そうにこちらを見ているライと悟飯を振り返る。 「悟飯っ!ライちゃんっ!ここはオレが時間をかせぐ!おまえたちは最長老のところに行けーーっ!」 「「でっ、でもっ…!」」 「はやくしろ!強くしてもらってこいーーっ!」 「「は、はいっ!」」 一度はクリリンを心配した二人だが、後押しを受け急いで最長老がいるという高い山を目指す。 クリリンがベジータと対峙している最中、ライと悟飯は最長老の元に辿り着いた。 「おまえたちがあの地球人の仲間か」 「えっ、ピ、ピッコロさんにそっくり……」 出迎えたネイルを見て、ライが思わず呟く。 悟飯も同じようにネイルを見るが、ネイルはベジータたちの気を感じていたためか中へ入るように急かした。 そして最長老の手元に向かうよう指示する。 最長老は、悟飯の頭に手を置いた。 「これはすごい…すさまじい潜在能力をお持ちですね……あなた、地球人じゃ…」 「す、すいません、急いでいただけませんか……!」 失礼を承知で、悟飯は言う。 順番を待つライも、外の様子をちらちら気にしていた。 「来たか」 だがベジータと思われる気がすぐ近くにまで来たのを感じ、ライははっとその方向を見る。 ネイルも気付いたのか、呟くと外へと向かった。 「あ、あのっ」 「……なんだ」 思わず呼び止めてしまったライ。 足を止め、振り返りライを見つめるネイル。 だがライは何かを言おうと思って呼び止めたわけではないため、一瞬焦って口ごもる。 だがすぐにネイルを見上げ、 「き…気をつけてください……」 と、呟くように言った。 ネイルはライをしばし見つめるが、すぐに踵を返して外へ出て行った。 「(………あたしが心配する必要、なかったよね…)」 すでにいなくなったネイルの背中を思い出し、ライは余計なことを言ったかなと眉を下げた。 だがそのすぐ後、悟飯の気が上昇したのを感じてはっと悟飯を見る。 「悟、飯……」 「おねえちゃん、ボク、先に行ってるね」 力がみなぎるのを感じたのか、悟飯はぐっと拳を握ってネイルのあとを追うように外に出て行った。 「さあ、もうひとりの地球人よ、こちらに…」 「あっ…お、お願いします!」 茫然と見送っていたライだが、最長老に呼ばれ、慌てて手元に駆け寄る。 そして同じように頭に手を置かれると、まるで体の奥底でマグマが爆発したような、そんな衝撃と熱をその身に感じた。 「あ……っ」 思わず自らの手を見る。 見た目の変化はない。だが、この心臓のもっと奥深くから沸き上がる熱情は、自分でも驚くほどのものだった。 「悟飯っ……!」 言いながらライも急いで外へ出る。 そして、ボールを抱えているベジータの姿を捕え、互いに目が合った。 「なっ……きさまも……なぜ揃いもそろって急激にパワーが上がりやがる……!」 ベジータのうしろでクリリンが嬉しそうにライと悟飯を見る。 少しながらも希望を持てるようになったこの状況だが、すぐにデンデが家の中から飛び出してきた。 「ね、ねえっ!何者かがまたこの星に近づいてるって最長老さまが……!」 「なに!」 デンデの言葉にライも集中して気を探る。 すると、確かに大きな気を感じた。 「悟空だっ!悟空がとうとう来たんだーっ!」 「え…!?そ…そうかな…か…数がひとつじゃないような…」 「ほ、ほんとだ……」 訝しむ悟飯に、ライも空を見上げながら頷いた。 するとベジータは何かに気付いたのか、はっと息を呑んだ。 「まっ…まさか…ギニュー特戦隊…!!」 気の数が5つあることを確認し、ベジータはどこか焦っている様子で悟飯に詰め寄った。 「こっ、このオレにきさまらの隠したドラゴンボールを、は、はやく渡せっ!」 「いっ、いやだ!そっ、そんなこと……!」 「そうだよっ!不死身なんかにしたら…」 拳を握ってベジータを睨むようにして言うライ。 だがベジータは食い気味に言葉を続けた。 「約束してやる!オレが不死身の力を得てもきさまらには手を出さん!さっさとせんと取り返しのつかんことになるぞーーっ!」 「だ、だまされるもんか……!そ、そんなことしたらおまえの思うツボだ…!」 クリリンもベジータの言うことを聞くつもりはないのか、そう言う。 それに苛立った様子でベジータは悟飯から手を離しクリリンを睨む。 「よく聞けよくそやろうども…!フリーザの呼んだギニュー特戦隊ってのは、今のオレ…いや、それ以上かもしれん……。そんなやつらが5人もいるんだ…!やつらは最新のスカウターでオレやきさまらなどすぐ見つけて殺しにやってくるぞ…!」 それを聞き、信じられないと言葉を失うライ。 ベジータと同じ、もしくはそれ以上……そう聞いて安心などしていられるわけがない。 「道はたったひとつしかない!オレを不死身にしてやつらどもを倒すという道しかな!」 「で、でも……っ」 辛そうに眉を寄せて言うライ。 だが、すぐにネイルが気を探りながら呟いた。 「こいつの言ってることは本当かもしれん…確かに、邪悪な大パワーが5つ……」 そのネイルの言葉に、ライも押し黙る。 それはクリリンも同じなのか、しばらく黙り、そして思いついたように言う。 「じゃ…じゃあ悟飯が不死身に…!」 「こいつではパワーはあっても戦術的にはまるで経験不足だっ!」 「…………し…しかし、それじゃ、オ…オレたちはなんのために……」 ナメック星へ来た目的と大分食い違う結果になってしまうことに、クリリンは悔しそうに歯噛みする。 だがネイルがドラゴンボールで叶う願いは3つだという言葉に、ライと悟飯は驚いて振り返る。 「はやくしろっ!!間に合わなくなっても知らんぞーーーっ!!」 そのことについて詳しく知る前にベジータが痺れを切らしたように叫ぶ。 そして複雑そうに拳を震わせながら、クリリンはわかったと言い、ブルマの元にあるドラゴンボールを目指して飛び始めた。 ライ、悟飯、ベジータもそれに急いで続く。 ギニュー特戦隊とやらがナメック星に到着した頃、4人はブルマのいる場所へと戻りドラゴンボールを手に持った。 そして今度はベジータが先導し、残りの5つのドラゴンボールのある場所へと向かった。 「あそこだーーっ!!」 ベジータが叫び、あと少しでドラゴンボール7つが揃うといったタイミング。 4人の目の前に見知らぬ5人が立ちはだかった。 「よう、ベジータちゃん」 5人の登場に4人は足を止め、驚いたように目の前のとんでもない気を持つ5人を見た。 「うあ…あああ…!」 「そ、そんな…!」 「は…は…はやい…!接近がわからなかった……」 悟飯、ライ、クリリンは戦慄くようにして5人を見つめることしかできなかった。 「く…くそ野郎ども……!も…もう少しだったのに…!」 ベジータもドラゴンボールを抱えながら、悔しそうに呟いた。 「おや?もしかするとそいつがドラゴンボールってやつかな?」 「こっちには5個置いてありますぞ」 ドラゴンボールの存在を確認したのか、5人は余裕の笑みを浮かべて再びベジータを見た。 「はっはっは…こいつはフリーザさまもお喜びになるぞ!ドラゴンボールってのは、たしか7個集めりゃいいんだろ?うしろに5個、てめえたちが2個。くっくくく……全部揃ってるじゃないか」 角を生やした、リーダーと思われる者の言葉にベジータは若干の焦りを見せながらもドラゴンボールを渡すという意志は見せなかった。 「どうしたんだ?ベジータ、さっさとそいつを渡さないか。まあ、おとなしく渡したところで大目に見ようって気はないがな……」 リーダーらしい人物が言うと、ベジータはドラゴンボールを反対側に、思いっきり投げ飛ばした。 スカウターで人間は探せてもドラゴンボールは探せないための、最後の抵抗だった。 だが、特戦隊のうちの一人が一瞬と思える速度で飛び立ち、あっという間にドラゴンボールを受け取って戻ってきた。 予想外だったのか、ベジータは目を見開く。 「ふははは…!遠くに捨てて揃えさせないようにしようとしたかったらしいが、残念だったな!あいにく、このバータのスピードは宇宙一でな」 そのとんでもなさに、さすがのベジータも成す術をなくしたのか、クリリンにドラゴンボールを破壊するよう言う。 クリリンもそうするしかないと悟ったのか、悔しそうに叫びながらもドラゴンボールに拳を振り上げようとする。 だが、その拳は空振り、クリリンの持っていたドラゴンボールは特戦隊のうち一人の手に渡っていた。 「な……なんで…!?」 「くそったれ…!う…うわさは本当だったか…グ…グルドは一瞬だが時間をコントロールして止めることが、で…できるという…」 不思議がるクリリンにベジータがそう呟く。 そんなこともできてしまうのかと、恐れるように5人を見るライたち。 ドラゴンボールは7個全てが相手の手に渡ってしまい、今度は残った4人に目をつけたリーダーらしき人物。 「ベ…ベジータ、戦うしかないのか…?」 「逃げてもムダなのはわかっただろ…。おまえらでもいないよりはマシだ…地球でオレに見せたような底力を、ムダとはわかっていても期待するぜ…」 「………」 ベジータの言葉に、ライはごくりと唾を飲み込み5人を見つめた。 肌で分かる、力の差。だが、それでもライは強い眼差しで相手を見据えた。 やれるところまでやってやる。ドラゴンボールを手に入れることもできず、このまま泣き寝入りするよりは少しでも反抗したい。 そうして覚悟を決めたライが5人を見ていると、角の生えた人物がベジータとやると言い出した。 「そりゃあないですよ、ギニュー隊長」 すると、それを不服に思ったのか他の4人がいっせいにゴネはじめた。 「じゃ、じゃあしょうがない…オレはフリーザさまにドラゴンボールを持っていこう…。では、ジャンケンでいちばん勝ったヤツがベジータで、次のヤツがチビ3匹をセットでな…!」 その提案を聞き、4人は急に張り切りだし、大声でジャンケンをし始めた。 「い…いまのうちに逃げられないのかな……」 「ちょっと覚悟を決めたあたしがバカみたい……」 その様子を見て、少しばかり力が抜けたように言いだす悟飯とライ。 ライは嫌そうに眉を寄せながら、仕方なくジャンケンの結果を待つことにした。 そして長引くあいこの末、パイナップルのような頭をした人物がベジータ、クリリンからボールを奪ったグルドがライたちの相手をすることになった。 結果を見届けたギニューは7個のドラゴンボールを宙に浮かせ、この場から飛び立つ。 「ドラゴンボールがっ……!」 「そっ、そんな…!わ、渡してたまるかーーっ!!」 それを見て慌てたライはギニューを追いかけようとし、悟飯はエネルギー波を放とうと構える。 だがそれはベジータによって妨げられた。 「よせっ!ムダなエネルギーを使うなっ!」 言うと、くっ、と悟飯は悔しそうに動きを止める。 飛び立つ直前でベジータに首元をひっつかまれたライも、間近でベジータに怒鳴られる。 「今はもうそんなことよりこいつらを倒すことだけに集中しろ、バカ!!」 言い終わると、突き飛ばされるようにして首元を離される。 そのベジータの態度にライはむすっと不満そうな顔で睨むも、自分ひとりで追いかけたところでどうにもならないことを悟り、俯いた。 そんなライにはお構いなしに、ベジータはクリリンを呼ぶ。 「きさまらと戦うグルドってやろーは戦闘力は低いが超能力を使う。油断するな…!……ところでカカロットのヤツは本当にこの星には来ていないのか…?」 問うベジータに、クリリンは少し間を開けて答えた。 「来ていない……。だ…だが今ここに向かっている……も…もう到着するころだと思うが…」 「はやく来やがれ……アタマにくるヤローだが味方につければ少しは戦力になる……」 そんな二人の会話に聞く耳を持たず、双子は悔しそうに唇を噛み締めていた。 こんな遠いところまできたのに、ドラゴンボールを揃えられない不甲斐なさ。 自分たちの大切な師であるピッコロや他の仲間を生き返らせるためにきたのに、それが果たせなければ自分たちがここに来た意味が全てなくなってしまう。 そして相手がやる気になったのを見て、双子はその悔しさを戦いに向けようと構える。 「うっとうしいな、グルド、おまえから先にあのチビ3匹を片付けちまえよ」 「ちっ…オレは試合場のゴミ拾いみたいなもんかよ…。しょうがねえな……」 ゲームでもしているような会話を聞き、ベジータはふざけた連中だと舌打ちをする。 それと似たようなことをやったじゃないかとライはムッとベジータを見るが、すぐに目の前の敵に集中することにした。 「悟飯、宇宙船でやったイメージトレーニングを思い出せ…」 「はいっ…!」 「ライちゃんも、自分の力に自信を持つんだ…」 「はい!」 そして3人、構えてグルドを見る。 「あ〜〜あ、こりゃああっという間に終わっちまいそうだ……」 3人を大したことないと見てか、グルドが溜息交じりに呟く。 だが3人は意を決したようにグルドを見つめ……そして、気を開放した。 瞬間、特戦隊の持つスカウターの数値が急上昇していく。 そのことに驚くや否や、3人は速いスピードで飛び上がり、上空からグルドめがけてエネルギー波を放つ。 「止まれ!!」 自らにエネルギー波が向かってきていることに気付いたグルドは叫んだ。 すると時間が止まったのか、グルドは地面を蹴ってエネルギー波から遠ざかる。 そして撃ったと思われる位置に向け両手をかざす。 が、そこには3人の姿はなく、辺りを見回して探す。 「い、いた!あ、あんなところまで…!あ、あの一瞬で…!」 エネルギー波と撃った場所とは遠く離れた場所、そこに3人の姿はあった。 そして時間を止められなくなったグルドが息を吐くと、再び時間は動き出した。 「あいついなかった!また時間を止めたんだ!」 「もう、卑怯なやつ…!」 「こっちだ!」 言いながら、3人は再びグルドの視界から姿を消す。 また慌てて時間を止めたグルドは、自分のすぐ傍まで3人が迫っていることに気付き、焦りつつも策を練る。 時間を止めたままの攻撃はエネルギーの消耗が激しいためすることができず、仕方なく岩陰に隠れて隙を狙うことにした。 そして時間を動かす。 「「「うっ!!」」」 またしても目の前にグルドがいないことに気付き、動きを止める3人。 だがすぐに気を感じ取ったのか、はっとグルドのいる方向へと飛ぶ。 「なっ、なんでわかる…!!」 焦ったグルドは、もう時間を止められないことを悟って奥の手を使うことにした。 「きええええーーーっ!!」 グルドが叫ぶと、それまで速いスピードで移動していた3人の動きが止まる。 「あ………う…あぐぐ……!」 「か……からだが……!」 「なん……で……!」 3人はどうしても体を動かすことができず、唸る。 どうやらグルドは金縛りの術を使ったようだ。 特戦隊も、戦いを面白そうに観覧している。 ベジータはまんまと超能力にかかってしまった3人を苛立たしそうに見ていた。 そしてグルドは傍にあった木を超能力で折り、二人へと向ける。 「ひーっひっひ!どうした、はやく逃げんと、この大きな串がおまえたちを貫くぞ!」 グルドがそう叫ぶのを聞いて、3人はなんとか体を動かそうと足掻く。 「うが…がが、がぐ……!!ごっ…悟飯……ライ、ちゃん…なんとか、な…ならないか…!」 「ダ、ダメです……!し、神経がマヒして……!」 「あたしも……体に力が、は、入らないです……!」 必死で足掻く3人を嘲笑うようにして、グルドは木をクリリンに向け投げ飛ばす。 だがその直後、グルドの背後に現れたベジータがグルドの首を手刀ではねた。 そうしたことで動けるようになったクリリンは木を避け、ライと悟飯も動き始める。 グルドを倒したベジータは、汚いと言うグルドに向かって吐き捨てる。 「戦争にきたねえもクソもあると思うか……」 そしてグルドにとどめを指すために、グルドの頭に向かって至近距離からエネルギー波を放った。 グルドを倒したベジータに、クリリンは恐る恐る声をかける。 「ま…まさか、お…おまえに助けられるとはな…」 「あ…ありがとう……」 「……あり、がと」 悟飯は驚きつつもお礼を言い、ライも複雑な表情をしながら小さく言った。 「勘違いするな。わざわざきさまらを助けたとでも思うか?グルドの野郎を倒す絶好のチャンスだったというだけだ……」 その3人に鼻で笑うような態度をとり、ベジータは横目で残った3人の隊員を見た。 「おいおいおお!グルドのヤツやられちまいやがったぜ!」 「こ、こまったぞ……」 「う…うむ…ひとり欠けてはわれわれ特戦隊のスペシャルファイティングポーズは美しくない…」 なんだか見当違いな心配をしながら、グルドの代わりに誰がライたち3人を相手にするかのジャンケンがはじまった。 その軽いとも言えるノリに、ライたちは戸惑いながら様子をうかがった。 「これからが本当の地獄だ…」 呟くベジータだけが、険しい表情で特戦隊の3人を見つめていた。 ×
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