「さて…と、ん?」 ザーボンを倒したベジータは、本題と向き合うようにこちらを振り返る。 そしてクリリンを見て、気付いたように声を漏らす。 「ほう、どうやったか知らんが、きさま地球にいたときよりずいぶん戦闘力をあげたじゃないか…しかし、それでもまだオレさまと対等に戦えるレベルではないがな…どうする?おとなしくそのボールをよこす気はないのか?」 余裕の様子で言うベジータに、ライは意を決したように一歩ずつ前に踏み出す。 その姿を見て、ベジータは面白そうに口角をあげた。 「まだやられたらんのか、小娘が。いいぜ、その勇気を称えて少しばかり遊んでやろう」 言うベジータに怖気づく様子もなく近付こうとするライだが、そのライの手をクリリンはしっかりと握った。 驚いて振り返ったライに、クリリンは小声で言う。 「ライちゃん、何度も言ってるだろ…!死に急ぐな…!」 「で、でも……どのみち殺されるなら、あたし……戦う…」 「いいから、少しおとなしくして…ヤツを逆撫でするな…」 小声での会話を済ませると、クリリンはライを自分の後ろまで引き戻し、ベジータを睨むように見た。 「どうした、怖気づいたのか?」 「……ちょっと、冷静になっただけさ」 ふんと鼻で笑うベジータに、クリリンはライをちらりと見る。 ライはクリリンの言葉に従うことにしたのか、小さく、弱々しく頷いた。 それを確認したクリリンは、息を呑んでベジータへと向き直る。 「お……おまえと約束なんかしても、ム…ムダだとは思うが…こ…こいつを渡せば、お…おとなしくここから消えてくれるか…!?」 クリリンの言葉を聞き、ライは驚いたようにクリリンの横顔を見つめる。 「くっくっく…約束か…まあ、いいだろう。ドラゴンボールさえ手に入れば、ザコなどと遊んでいても意味はない」 「ほ…ほんとだな……!」 「しつこいぞ……。そんなに死にたくなかったら、オレの気が変わらんうちに渡すんだな」 ベジータと対峙していては成す術はないのか、仕方なくベジータの言葉を信用してクリリンはベジータにドラゴンボールを渡す。 その様子を、何か言いたげに、でも何も言えずに見つめるライ。 「幸運だったなきさまら。オレは、いま全てのボールが見つかってゴキゲンなんだ。これでオレはフリーザにかわって全宇宙を支配することができる…!」 「…………」 「永遠の命を手にするのだ!」 そしてベジータは高笑いをしながらこの場を飛び立っていった。 ようやく呼吸ができるといった様子で、ブルマは深く息を吐く。 「ほんとうに、殺されなかった……」 「ああ。オレも、ちょっと驚いてる…」 驚いたように呟くライに、クリリンもそう返す。 ライが茫然と空を見上げていると、ブルマはクリリンを見て呟く。 「ク…クリリンくんにしては、あっさり渡したのね…あのドラゴンボール…苦労して手に入れたのに…あ、あいつ、これが最後の1個だっていってたから、も…もうおしまいだわ…!」 「渡さなきゃぜったいに殺されてましたよ……こうして3人とも生きているだけでも奇跡みたいなもんです…」 言いながら、ボールを渡しても大丈夫だと呟く。 「悟飯が探しにいったドラゴンボール…ベジータは見つけられなかったんじゃない…あいつ、隠しておいたんだよ。フリーザってやろうたちに7個集めさせないために…」 「そうか!悟飯くん、いまごろとっくにそのドラゴンボールを見つけだしてこっちに向かってる…!あいつ、全部揃えられっこないのよ!」 それを聞き、ブルマは期待した様子で言う。 「その悟飯がベジータに見つからなきゃね…」 その可能性を危惧しているのか、クリリンが弱々しく呟いた。 その言葉にライもはっとしたのか、ベジータが飛び立っていった方向を見る。 確かにその方向は、悟飯が飛んで行った方向と同じだった。 「悟飯が危ない……!」 「ライちゃん、落ち着くんだ。オレたちが動いて、ベジータに勘付かれる危険もある」 そして真っ直ぐ射抜くような目で言われ、ライは唇を噛む。 「いいか、ライちゃん。好戦的なのはいいけど、自分の命をもっと大事にするんだ。力の差がわからないほど、子供じゃないだろ」 「………はい」 「今のベジータに立ち向かうのは、勇気なんかじゃない。死ににいくようなもんだ」 きついとも思える言葉に、ブルマが慌ててライの両肩に手を置く。 「クリリンくん、ちょっと言いすぎよ……」 「ブルマさん……ライちゃんの身を預かっている以上、こういうことは言ってあげないと」 不安そうに見るブルマに、クリリンは真剣な表情で言う。 二人に挟まれているライは、俯いて眉を寄せる。 「それに、ピッコロならこう言ってたと思うしな」 だがこのクリリンの言葉に、ライははっと顔を上げた。 少し力の抜いた、優しい表情のクリリンと目が合う。 「ピッコロは自分が死ぬ間際、おまえたちに死ぬなって言ったんだろ?だったらその言いつけどおりにしないとな。また怖い顔で怒られるぜ」 「……クリリンさん……」 呆れたように笑いながら、クリリンはライの頭を撫でて言った。 その優しさにライはしばらく茫然としていたが、すぐに泣きたい気持ちになるのを堪えて、ごめんなさいと小さく呟いた。 「ライちゃん……それほど、ピッコロのこと……」 ブルマも少し驚いたのか、震えているライの背中を何度も擦った。 そしてしばらくしてライは落ち着いたのか、背中を撫でてくれていたブルマに礼を言った。 「ありがとうございます、ブルマさん……心配かけてごめんなさい」 「謝らなくていいわよ。わたしは大したことしてないから」 そんなライに、ブルマはにこりと笑って言う。 ライの元気も戻ったところで、クリリンはあたりの様子を気にしながら二人に言う。 「そろそろ悟飯が戻ってくるかもしれない。いつでもこの場から離れられる準備だけしておこう」 その言葉に二人は頷き、ブルマは家をカプセルに戻すために洞窟の中に入っていく。 ライはクリリンの隣に立ち、悟飯が戻ってくるのを目を凝らして探した。 そして、 「クリリンさ〜〜ん!おねえちゃ〜〜ん!」 「「来たっ!!」」 無事悟飯が戻ってきたのを見つけ、二人は安心したように声を揃えて言う。 「クリリンさん、これ!見つけたんですよっ!」 「やったぜ!そいつを待ってたんだーーっ!」 「悟飯くんえらいっ!」 「悟飯!信じてたよ!」 ドラゴンボールを掲げて駆け寄る悟飯にクリリンとブルマは喜ぶ。 ライも同じく喜び、思わず悟飯に抱きついた。 「えへへ、ボクひとりでも大丈夫だったでしょ?」 言いながら笑うと、ライも嬉しそうに頷いた。 そしてドラゴンボールをクリリンへと渡す悟飯に、クリリンは焦りを見せながら言う。 「事情はあとで話すけど、急いでここを離れないとやばいことになるかもしれないんだ!」 「大体はわかります!ボクもベジータに見つかっちゃって…!」 「「え!?」」 ごの悟飯の言葉に、クリリンとライは驚き目を見開く。 「ボクはこのボールをなんとか隠したので見つからずにすんだんです!」 「お、おまえもラッキーだったんだな…」 「あ…あたし、ついていかなくてよかったのかも…」 感慨深げに呟くクリリンとライ。 ライは、自分がついていると先程のような失態を犯し、ドラゴンボールを奪われていたかもしれないと心を凍りつかせた。 そしてベジータに会ったにも関わらず、ボールを守りきった悟飯を心から尊敬した。 「と、とにかく急ぎましょうよ!」 今はそんなことを言っている場合ではないと、ブルマは拳を握って叫び急かす。 そしてようやく4人は動き出し、また身を潜められそうな場所を探すことにした。 ベジータが騙されたことに気付き、怒りながらライたちの居た洞窟へ戻ってきた頃。 移動していた4人は大きな岩と岩の間の小さな谷のような場所で身を隠すことにした。 「ちょっと!こんな狭いとこじゃ家も建てらんないじゃないのよ!」 「ムリ言わないでくださいよ。さっきのような洞窟なんて、めったにないんですから……」 こんなところであんたたちと過ごすのかと、怒っているようにも見えるブルマに、その心配はいらないとクリリンは苦笑しながら答えた。 「オレは悟飯とライちゃんをつれてこれからもう一度最長老さまんとこに行きますから」 「え?」 ライはそのことを少し聞いていたため驚かなかったが、初耳な悟飯はどうしてかと聞く。 ブルマも、こんなとこに自分ひとりを置いていくのかと咎めるように言う。 「ガマンしてください…悟飯とライちゃんが最長老さまに会えば、ひょっとしてベジータに匹敵するほどの強さになれるかもしれないんですから……!」 言うクリリンに、ライは何か思い出したのかはっとクリリンを見た。 「じゃあ、あの時ベジータがクリリンさんを見て戦闘力をあげたなって言ったのは……」 「ああ、最長老さまのおかげさ」 親指を立てて言うクリリンに、ライは凄いと言いたげに見上げた。 「よし、じゃあ早速行くぞ!」 そしてクリリンは先導して飛び始める。 ライと悟飯もあとについて行くように飛び出した。 だがベジータに見つかっては元も子もないため、力を押さえながらの移動になった。 「くそ〜〜こんなスピードじゃ着くまでに時間がかかっちまいそうだ…」 悔しそうに言うクリリンだが、これ以上スピードをあげればベジータに見つかってしまう。 歯痒い思いを感じながらも、3人はゆっくり飛び進んでいった。 「あいつ、またさらに強くなってやがったみたいだ……。今のままじゃ、3人でかかっても勝ち目がない…」 「………」 ベジータの強さを目の前で見たライもクリリンと同感なのか、眉を寄せて俯く。 「でも、ボ、ボクたちがほんとにそのベジータに匹敵するほどの力をもっているんでしょうか…そ、そうは思えませんが…」 「悔しいけど、あたしもそう思う……」 今は強がりもはったりも言える状況ではなく、ライも悔しそうに呟いた。 だがそんな二人をクリリンはわずかな希望を抱いているような眼差しで見つめた。 「オレがこれだけの潜在パワーを持っていたんだ。サイヤ人の血を引くおまえたちはそうとう期待してもいいと思ってるぜ!」 言うクリリンだが、あまり大きなことは言えないと後から思ったのか、たぶんなと最後に付け加える。 「……でも、少しくらい希望を持たないとだめですよね」 間違いでも偶然でも奇跡でもいい。 生きて、ドラゴンボールさえ集められるのであれば。 ライはそう呟きながら、強い目で自分たちの飛ぶ先をじっと見つめた。 ×
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