二人の姿が見えなくなったところで、ライは少しばかり残念そうに口を開く。 「あーあ……あたしも行きたかったなぁ」 「最長老さまのところに?」 隣で聞く悟飯に、ライは首を横に振った。 「それもあるけど、デンデともうちょっと一緒にいたかったの。なんだか、デンデを見てると心が和むから」 「あはは、それボクもわかる」 理解できるのか、悟飯はにこりと笑いながら言った。 「きっと、ピッコロさんに似てるからだよ。おねえちゃん、ナメック星人さんのことすごく気に入ってるみたいだし」 「それは悟飯も同じでしょ?みんな、ピッコロさんの家族に見えるんだもん…」 思い出しているのか、ぽつりと呟くライ。 だがその家族と思えるナメック星人たちがほとんど殺されてしまっている事実に、ライは悔しそうに眉を寄せた。 「悟飯」 「?」 そして静かな口調で悟飯を呼ぶ。 「クリリンさんとデンデが戻ってくるまで修業するよ!」 「うん!」 拳を握って言うライの言葉に、悟飯もやる気なのか同じように拳を作った。 そして小さな二人が対峙しているのを見て、ブルマは邪魔をしないようにそっとその場を離れる。 「……なんだか、おねえちゃんとこうして向き合うのって不思議な感じがする」 「そういえば……あたしたち、組み手とかしたことなかったもんね」 少し気恥ずかしさを感じているのか、悟飯がえへへと笑いながら言う。 それを聞いてライが思い出したように答えた。 伸び伸びと自由に育った4年間。 互いにたったひとりで生きのびた6ヶ月。 そしてピッコロと修業をした数ヶ月。 その期間の中、ライと悟飯は一度たりとも手を合わせたことはなかった。 修業の相手は常にピッコロがしており、双子が力比べをするということも、そう発想することも互いになかった。 「本気できていいよ、悟飯。お猿さんじゃない悟飯ならあたしだって負けないんだから」 「へ?さる?」 その言葉に首を傾げた悟飯だったが、ライは内緒にしておくつもりか、笑顔を見せて誤魔化した。 そして表情を変え、真剣な目つきで構えると、それを感じ取った悟飯も同じように構えた。 「やーーっ!」 先に動いたのはライだった。 叫びながら悟飯へと向かい、拳を振るうもそれは悟飯に受け止められる。 そして拳を受け止めたほうとは逆の手で悟飯もライに殴りかかる。 だが、同じようにライはそれを片手で受け止めた。 間合いを取ろうと、互いに離れ一定の距離を保つ。 そうしていると、ふいにライは面白そうに笑った。 「ふふっ……なんだか、やっぱり楽しいなぁ」 「へ?」 「悟飯もどんどん強くなって……なんだかあたし、嬉しくなってきちゃった」 今更ながら、以前の悟飯からは想像できない、別人のように強くなった悟飯を目の前にライは実感するように呟く。 そう言って笑うライを見て、悟飯も嬉しそうに笑った。 「ボクも嬉しいよ。こうやって、おねえちゃんと組み手できるなんて」 「あれ、珍しい。悟飯が戦うことを楽しむなんて……」 悟飯の言葉に驚いたのか、目を見開いて言うライ。 だが悟飯は照れたように笑った。 「戦いっていうより、なんかこう……おねえちゃん相手だと、スポーツしてるみたいで……」 「ふうん……それって、あたしが相手だと力不足だって言いたいの?」 「ち、違うよおねえちゃん!」 怒っているような素振りを見せるライに、悟飯は慌てて首を横に振る。 うまく言葉にできないのか、えーとえーとと思考を巡らせる悟飯を見て、ライはまた面白そうに笑った。 「あはは、冗談だよ!悟飯の言いたいこと、あたしがわからないわけないじゃない。あたしたちは双子なんだから」 「お、おねえちゃん……」 冗談だと聞いて、ほっとした表情を浮かべる悟飯。 そして気を取り直したのか、また互いを見つめる。 それからは会話もなくなり、互いに譲らぬ攻防戦を見せた。 やはり双子のため、実力は拮抗している。 凄まじい潜在能力が眠っている悟飯だが、怒りや憎しみでその力が引き出されでもしない限り、ライも劣ることはないようだった。 しばらく組み手を続けた二人だったが、何やらふたつの強い気のぶつかり合いを肌で感じ、動きが止まる。 「こ、これって……」 「うん……ベジータ、だよね……」 片方の気には感じ覚えがあるのか、ライが呟く。 だが、もう片方の気の正体は、まだはっきりとはわからなかった。 「でも、ナメック星人とは違う気がする……」 「あたしもそう思う……なんていうか、いやな感じがする」 二人は同じ方向を見つめながら、息を呑んで会話をする。 そしてしばらくその気を探っていたが、ベジータの気が小さくなったのを感じて二人は互いに顔を見合わせた。 「悟飯っ!」 「う、うん!ベジータの気が……!」 消えてはいないが、微弱なものへと変わってしまった。 それを信じられないと言いたげにライは地面を見る。 「あ…あのベジータを一瞬でここまで……ほんとに、すごい相手なんだ……」 「てことは……やっぱり、あのフリーザってやつの仲間かな……」 厳しい表情で呟く悟飯。 そして、隣で俯いていたライがはっと顔を上げる。 「こうしちゃいられないよ!あたしたちも、もっともっとがんばって強くならなきゃ!」 「うん!じゃあ、修業再開!」 意気込んだ双子は、再び修業をはじめた。 そして1日あまりがすぎた頃、レーダーを見ていたブルマが何かに気付いたのか、外で修業している双子に声をかける。 双子は一旦修業の手を止め、ブルマの持つレーダーを覗き込んだ。 「この、とおくにあるドラゴンボール反応が動き出したわよ!こっちに真っ直ぐ向かってくるわ…!こ、これクリリンくんなのかな…!?」 「きっとそうですよ!やった!ぶじ最長老さまのところに着いてボールをもらったんだ!」 「やった!これで一安心だね!」 7つあるドラゴンボールのうち1つが手に入ったことで、気が少し楽になったライは笑顔で言う。 するとブルマはもう1つのボールの反応を指差す。 「こっちの5個はフリーザってのがたぶん持ってて…ほら!ここんとこひとつだけポツンと…」 「あれっ、ほんとだ!近いですねここから…」 言う悟飯は、レーダーの反応に映っている1つのボールの方向を見る。 「あ!ベジータが村を襲っているっていってたでしょ!?その方向ですよ!」 気付いたのか、驚いたように言う。 だが今はベジータの気がその場に感じられないことを不思議がる。 ライも不思議そうに首をうーんと傾げる。 「わかった!あいつ、村は襲ったけどドラゴンボールは発見できなかったのよ!そこにはないと思ってどっか別のところに行っちゃったんだ!」 はっと思いついたブルマが立ち上がって言う。 なるほどと、ライも表情をぱあっと明るくした。 「そのレーダー貸してくださいっ!ボク、そのドラゴンボールをとりに行きます!」 「やったわね!こっちにも少し運がむいてきたわ!」 そして嬉しそうにレーダーを渡すブルマたちを、ライは交互に見る。 「あたしも行くよ!」 「おねえちゃんはここで待ってて!ボール捜すだけだから、ボクひとりでも大丈夫だよ」 「でも……」 にこりと笑いながら言う悟飯に、ライはどこか心配そうに見つめる。 「ブルマさんを一人にするのは心配だし……もうすぐクリリンさんも戻ってくるから、一緒に待ってて」 そんなライを安心させるように笑い、悟飯はぱっと飛び立った。 「悟飯っ!気をつけてねーっ!」 「うん!」 心配ながらも、近くに強い気もなく、ボール1つ取りに行くのに二人で行動するのもなんだかと思い、ライは悟飯を見送ることにした。 手を振ると悟飯も同じように返し、ボールのある場所までとばしていった。 そして悟飯の姿が見えなくなってもずっと空を見ているライの肩に、ブルマはそっと手を置いた。 「悟飯くんなら大丈夫よ。あれだけ強くなったんだもの」 「そう、ですね……」 「それより、ちょっとこっちに来なさいよ。修業で乱れちゃった髪、なおしてあげるわ」 ちょいちょいと手招きしながら言うブルマをライは見る。 そしてまだ少し悟飯が気になりながらも、ふと笑顔を見せる。 「はい、お願いします」 そしてブルマに櫛で髪をとかしてもらいながら、悟飯とクリリンそれぞれの帰りを待つことにした。 しばらくして、ブルマは読書、ライはトレーニングをしている時にクリリンは戻ってきた。 突然の登場にブルマは驚いたが、ライは嬉しそうにクリリンに近寄った。 「おかえりなさいクリリンさん!ドラゴンボール、手に入ったんですね!」 「おう!どんなもんだっ!」 言いながら、大きなドラゴンボールを掲げる。 「ほ…本場のドラゴンボールってでっかいのね〜〜!」 「なかなか話のわかる最長老さんでしたよ」 「そうなんですか〜」 「ああ。ライちゃんにも、是非会ってもらいたいんだ!」 言うと、クリリンは少しあたりを気にしながら、ブルマに聞く。 「悟飯は家の中ですか!?あいつも最長老さんのところにつれていきたいんだけど!」 「もうひとつのドラゴンボールを見つけにいったわ!レーダーにうつったのよ!ほら、ベジータが襲っているっていってた村のあたり!」 その返答に驚いたクリリンだが、すぐに気がこちらに向かってくる気配に気付いた。 ライも同じく気付き、その違和感に眉を寄せる。 悟飯じゃないかと言うブルマにクリリンはすぐに、その正体が悟飯ではないことがわかった。 「「ベジータ!!」」 そして目の前に現れた、気の正体……ベジータを3人は見つめた。 「意外なところで会ったな地球人…それにカカロットの娘か。きさまらにこんな星に来られる文明があったとは思わなかったぜ…」 ベジータの鋭い視線と一瞬目が合い、ライはどくんと心臓を鳴らした。 だがすぐに視線は逸らされ、ベジータはクリリンの持つドラゴンボールを見た。 「その大事そうに持っているドラゴンボールを見ると…どうやら目的は同じらしいな…」 ようやく手に入れたドラゴンボールに目をつけられ、クリリンは悔しそうに唸る。 注意深くベジータを見ていたライは、ベジータが一瞬どこか遠くを見たことに気付いた。 「いいか、オレにはそのボールをいただく前にすることがある。だが、そいつを持って逃げようなんておかしな気は起こさんほうがいぞ。きさまだけでなく、ガキとその女も死ぬことになる」 ボールを持っているクリリンに、ベジータは釘を指すように言う。 することとは何かと疑問に思ったクリリンだが、説明を求める前にもう一人、強い気の持ち主が現れた。 「あいつ……」 「だ…だれよ!?あいつ…あ…あのおカオからすると、正義の味方じゃないかしら…!?」 「さ…最悪だ……」 現れたのが、フリーザの隣にいたザーボンだということに気付いたライとクリリンは顔をしかめる。 ブルマはザーボンの美しい顔を見て、怖がりながらも少しの希望を見出している。 しばらくベジータを睨んでいたザーボンだが、ライたちに気付くと、思い出したのか口を開いた。 「そっちのドラゴンボールをもっているチビにも見覚えがあるぞ。そうか、きさまらつるんでいたのか…」 「へっ、まさか…」 ザーボンの推測に、ベジータは鼻で笑う。 だがザーボンはそんなことはどうでもいいのか、ベジータが奪ったというドラゴンボールの話題に変えた。 半殺しにしてその場所を喋ってもらうと言うザーボンに、ベジータが絶対の自信を持っているような表情でやってみろと言う。 すると、ザーボンの姿が変わった。 「!!」 「なな…なんだあいつ…!ば…化け物に…し…しかも、パワーがグンとあがった…!」 「やや…やぱり悪者だわ…!」 初めてみたザーボンの変身に、3人は目を見開いて恐怖を感じる。 そして目の前でベジータとザーボンの戦いが繰り広げられた。 互いに譲らぬ……いやむしろベジータのほうが押しているとも見える戦闘。 ベジータの注意がザーボンに向いていることを見て、クリリンはライとブルマを見た。 「いまのうちですよ!逃げましょう!」 「だ、だって、あいつ逃げたら殺すって…!」 「逃げなくたって殺しますよあいつはっ!!」 ブルマの手を引くクリリンのあとをついていくライ。 だが、その動きに気付いたベジータはザーボンへの攻撃はやめないまま、3人の行く先にエネルギー波を放った。 「くっ、くそ〜〜…!す、するどいヤローだぜ…!ま、まるでスキがない…!」 「こうなったら……あたしたちも戦うしか……」 「バカいうな…!ベジータのやつ、とんでもなく気があがってやがる…。オレたちが敵う相手じゃない!」 覚悟を決めようとしていたライだが、クリリンは早まるなとライを止める。 クリリンの言うとおり、ベジータの強さは地球に来たときの比ではない。 そのことはライもよくわかっていた。 だが、このまま殺されるのを待つよりは、何かやらなくてはと思う気持ちもある。 たとえ敵わない相手でも。 ただ心残りなのは、ドラゴンボールを集めてピッコロたちを生き返らせられなくなってしまうこと。 ライは拳を握りながら、心の中でピッコロに謝った。 「(ごめんなさい、ピッコロさん……あたしが死んだら、会えるのかな……)」 すでに死に対する覚悟を決めたライ。 そして静かに、ザーボンと戦うベジータを見上げた。 ベジータはきっと、ザーボンには勝つ。それからが勝負だ。 ザーボンを倒したら、次は自分たちなのだから。 そう思いながら戦いを見守っていると、ベジータの拳がザーボンの腹部を貫いた。 ポトポトと腹から血を垂らすザーボンを見て、また圧倒的なベジータの強さを見て……ライは固く口元を結んだ。 そしてベジータはザーボンにとどめをさし、ザーボンの姿は川の中へと消えた。 それを見てライはごくりと生唾を呑み、ベジータの後ろ姿を見つめた。 ×
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