そしていよいよ、ナメック星へと出発する日。
カメハウスにはすでにクリリンとブルマが双子の到着を待っていた。
宇宙服に身を包み、どこか苛々した様子で二人を待つブルマの元に、1台のエアカーが到着する。


「じゃ、悟飯ちゃん、ライちゃん、ほんとに気いつけて行くだぞ!」


心配しながらエアカーから双子を降ろすチチ。
降りてきた双子の姿を見て、ブルマは思わずその場でひっくり返った。
二人ともお揃いの、今から七五三でもあるのかというような行儀のよいきちんとした格好をしていたからだ。
ライは肩まで伸びた髪をそのまままっすぐ降ろしているが、悟飯の方は髪もおぼっちゃまスタイルに切り整えられている。


「ははははっ!お、おまえほんとうに悟飯なのか!?どうしたんだよ!そのアタマは〜〜」
「お…おとうさんにも笑われました……」
「ふふっ」


クリリンに面白そうに言われる悟飯は、おずおずと呟いた。
チチに切られた時から見ているライでさえ、未だ違和感に笑ってしまう。
人類が初めて行く宇宙に失礼がないようにというチチの気遣いだったが、そのことに脱力しつつもブルマがそっと立ち上がり4人は宇宙船へと乗り込む。
そしてチチや亀仙人たちにしばらくの別れを告げる双子は笑顔で手を振る。


「「わあ〜〜!」」
「ちょっとドキドキするよな〜」


初めて見る宇宙船に、わくわくとドキドキを感じる3人。
だがブルマはどこか不機嫌そうな態度をとる。
不思議そうに3人はブルマを見つめるが、そんなことお構いなしにブルマは宇宙船を発射させた。
ものすごい勢いで宇宙船は上昇し、あっという間に大気圏を抜けてしまった。


「ふん!もう自由にしていいわよ。大気圏抜けたらあとはもう静かなもんよ」
「え!?も、もう!?」
「地球見たかったな〜〜」
「ね、綺麗だったんだろうな〜〜」


もう地球から遠く離れた宇宙を彷徨っていることを、窓の外を見て知った双子はそれぞれ残念そうに言う。
その間にブルマは着替えると言い別の部屋に入っていってしまった。
パジャマを忘れたと言うクリリンは、ふと悟飯とライを見る。


「でもよ、おまえたち、これからずっとそんな七五三のような服着てるつもりか?」
「いいえ、実はおかあさんに内緒で作った服が…」
「ねー」


問うクリリンに、悟飯とライは顔を見合わせてえへへと笑う。
そして二人一緒に着替え始めるのを見て、クリリンは思わず背を向けた。
悟飯だけならまだしも、幼くても女の子なライの着替えを見てしまうのは気が引けたようだ。


「へへへ…これ……」
「クリリンさん、どうですか?」


着替え終わったところで、クリリンは振り返って双子の姿を見る。
すると二人揃って、ピッコロの着ていた服と同じ服を着ていた。


「おまえたち、ほんとにピッコロを尊敬してんだなあ…」
「「はい!おとうさんと同じくらい」」


クリリンの言葉に、二人揃って嬉しそうに答えた。
そして、奥の部屋からブルマも着替えを終えて戻ってきた。
珍しいパジャマだと言うクリリンに、ブルマがやはりイラついているのか、腰に手を当てて言う。


「パジャマなわけないでしょ!あんたたち見てたら、はりきって宇宙にそなえた自分がバカらしくなってね!ほほほほ!」


どこか投げやりな感じで言うブルマに、3人は不思議そうに顔を見合わせる。
こうして、4人のナメック星への旅が始まった。





ナメック星へと旅立って7日目。
退屈を感じたブルマは、横の方でイメージトレーニングをしているクリリンと悟飯に声をかける。
すると二人のイメージトレーニングは終わったのか、クリリンが呼吸を荒くしながら目を開いた。


「やるなあ!やっぱ強いよ、おまえは。悟空の血を引いてピッコロに特訓してもらったんだもんな…」
「…でも、クリリンさんの技の多さにはビックリしました!」


互いに感想を述べると、ふとクリリンは宇宙船の隅で腕立てをしているライを見た。


「ライちゃんはイメージトレーニングしないのか?」
「あ、はい。あたしはもっと体を強くしないと……」


クリリンと悟飯がイメージトレーニングを始めるよりも先に腕立てをしていたというのに、まだ余裕なのか話しながらも腕立てを続けるライ。
そのタフさというか体の頑丈さに、クリリンは驚いたように息を吐く。


「きっちりしてるんだな……。それ、何回くらいやってるんだ?」
「今ちょうど700回目です……とりあえず、1000回まで続けます」
「1000回!?ライちゃん、ほんとに女の子なの……?」


とんでもない数字を聞いて、ブルマは驚いたようにライを見る。
だがライはこれくらい普通ですよと答え、さらに腕立ての回数を重ねる。


「はは、悟空の子でも、悟空と違ってちゃんと1000まで数えられるのがさすがチチさんの子だな」
「へ?それ、どういう意味ですか?」


クリリンの言葉に、悟飯は疑問に思ったのかクリリンを見上げる。
するとクリリンは思い出したのか少し笑いながら、悟飯を見る。


「悟空のやつ、ガキの頃……つっても、おまえたちよりは大きい時だけどな、11の次を14だと思ってやがったんだよ」
「ああ、あれね……あれにはほんと驚かされたわよ。12歳だって知って、ようやく年相応だと思ったわ」
「え……そうなんですか……?」


自分たちの知らない悟空の昔の話を聞き、興味深そうにライが呟く。
悟飯も驚いたのか、目を丸くしてクリリンとブルマを見つめた。


「お、おとうさんが……」
「ま、ずっと田舎で暮らしてたから仕方ないんだけどね。初めて会った時はほんと、苦労の連続よ……」


いろいろなことを思い出したのか、ブルマが難しい顔になる。
ここで、腕立てを切り上げたライが立ち上がり、ブルマに駆け寄る。


「ブルマさん!もっとおとうさんのこと教えてください!ブルマさんは、小さい頃のおとうさんと一緒にドラゴンボールを探してたんですよね?」
「え、ええ……そうだけど……」
「ボクも聞きたい!おとうさんの話、もっと聞きたいです」


悟飯も興味があるのか、ライと同じようにブルマを見上げる。
困ったブルマはふとクリリンを見る。
するとクリリンは面白そうだと思ったのか、笑いながら二人の肩に手を乗せた。


「よし、じゃあオレからも色々と教えてやるよ。小さくても、おまえたちの親父はすげえんだぜ」


言うクリリンに、双子は揃って目を輝かせる。
子供ならではの好奇心さを見てブルマもどこか優しい表情になり、ベッドに腰掛け二人を見た。


「じゃあ私も話してあげるわ。でも、このこと言ったっていうのは孫くんには内緒よ!孫くんだって、二人の前では素敵なお父さんでいたいだろうし」


にこりと笑って言うブルマに、嬉しそうにライは笑う。


「大丈夫です!おとうさんは、なにをしてもかっこいい素敵なおとうさんだから!」


そう信じて疑わないというライの表情を見て、ブルマは思わず笑う。
そして良い子良い子とライの頭を撫でた。


「孫くんも、こんな良い子に恵まれて羨ましいわね〜〜」


そしてしばらく、ブルマとクリリンは悟空の小さい頃のことを話した。
悟空の面子のことも考慮して話した内容だったが、双子にはそれでも十分だったようで、始終興味津津の様子で話を聞いていた。

4人がそうして談笑をしている間。
地球を離れたベジータは、惑星フリーザNo.79に到着していた。
そして傷ついた姿を仲間に運ばれ、治療室で治療を受ける。
しばらくして体を回復させたベジータは、4人と同じく、ドラゴンボールを求めてナメック星へと飛び立った。

更に時は流れ、4人が地球を飛び立ってから34日目。
4人はようやくナメック星に辿りつき、着陸を終えた。
大気の成分を調べてから出ようとしたブルマに対し、真っ先に地上に降り立った3人を見てブルマはその場でひっくり返る。


「ここ…ボクたちがピッコロさんに就業をしてもらったところにちょっと似ている……」
「ほんとだ……」
「ああ…サイヤ人と最初に戦ったとこだろ?本能的に故郷に似たところが落ち着くんだろうな……」


故郷。
そう聞いて、ライはこの場から見える全ての景色をその目に焼きつけるようにして見た。
ピッコロ自身も知らない故郷の光景を、ライは今その身で感じ、見ているのだ。


「ピッコロさんに…教えてあげなきゃ……」


ほぼ無意識のうちに呟いたライの言葉を、すぐ傍にいたクリリンと悟飯は見つめる。
そして真剣な表情のライに思わず見入ってしまっていると、


「あんたたち、なんでいきなり外に出ちゃうわけ!?少しは考えなさいよ、バカッ!」


苛立った様子のブルマが怒鳴りながら宇宙船から出てきた。
その言葉にはっと我に返ったライは、何故ブルマが怒っているのか、他2人と顔を見合わせながら不思議に思った。
そしてドラゴンレーダーにドラゴンボールの反応があるのを見て喜ぶブルマとクリリンを横目に、悟飯がなにか気付いたように別の方向を見る。
ライもその悟飯に気付いたのか、同じように視線を追う。そして気を感じた。


「クリリンさん……あっちに強い気が……」
「気?」


悟飯の言葉に、クリリンも同じ方向を見る。
すると確かに気を感じた。


「たくさん感じますよ……」
「あ…ああ……しかもやたら強そうなすごい気ばかりだ……」


不思議がるクリリンたちに、ブルマはさも当然のように言う。


「やーね、なにいってんのよ。それナメック星人よ。神様やピッコロがあの強さなら、本家のナメック星人がすごい気だってちっとも不思議じゃないわ!」
「で…でも…ちょっと……」
「なんだか……」
「……ちょっと、邪悪な感じの気だよね…」


不安を拭えない様子の3人に、ブルマは笑いながら大丈夫だと言う。
さらに、気を感じる方向にボールの反応があることを伝えると、クリリンは安心したのかほっと肩の力を抜く。


「さあそのナメック星人さんにお会いしましょ!」
「はっはっは、びびって損しちゃったな!」


ナメック星でドラゴンボールを持つのはナメック星人。
その当然のことを思い出し、安心した3人は顔を綻ばせる。
だが、直後に聞こえた機械音に、3人はふと空を見上げる。
するとそこには、見覚えのある丸い宇宙船の姿。


「サイヤ人の宇宙船だーーっ!!」


その正体に真っ先に気付いたクリリンが驚き叫ぶ。
そして宇宙船がナメック星に着陸したのを見て、皆慌てふためく。


「悟飯っ!ライちゃんっ!気配を消せっ!さとられるぞっ!」
「「は、はいっ!」」


クリリンの言葉に素直に従い、二人は気配をゼロにコントロールする。


「ベ…ベジータだ……!あ…あいつしかいない……ち…ちくしょう…なんてことだ……!」


思わぬ事態にクリリンは眉を寄せ冷や汗を浮かばせる。


「サイヤ人…も…もうケガがなおったの……?」
「そんな……いくらなんでも、早すぎるよ……」


呟く双子に、クリリンはベジータもドラゴンボールを狙っていることを思い出した。
とんでもない事態に腰を抜かしたブルマは慌てた様子で声をかける。


「どど…どうすんの……!?もうダメよ…地球に帰るしかないわよね!でしょ!?早く帰ろ!」
「あんなやつにドラゴンボールをとられたらおしまいだ……ブルマさん、地球にこのことを連絡したらひとりだけで帰ってください…」


歯噛みしながら言うクリリン。
双子に帰れと言わなかったのは、二人の強い意志を汲んでのことだろう。
クリリンの思った通りなのか、双子の表情は真剣なものだった。


「わ、わかったわ!とりあえず亀じいさんにこのことだけ連絡する…!地球に帰ったら孫くん乗せてまた来てあげるから。往復で2ヶ月ちょっと……待っててね!」
「は…はい……2ヶ月……」


時間のことを考えるのを忘れていたのか、それを聞いてクリリンは口元をひきつらせながら言う。
ライと悟飯も同じなのか、同じような表情で互いの顔を見つめた。
そしてブルマは、無線で亀仙人に今置かれている状況を伝える。
その連絡が終わった直後、4人は再び宇宙船がナメック星に着陸したのを見つけた。


「な…な……なんでまたあれが来るわけ……!?」
「き……聞きたいのはこっちですよ……」


予想外の出来事に、4人は目を見開き、宇宙船が着陸した方向を見つめていた。
そして気を取り直したブルマは、3人に声をかける。


「じゃ、じゃあわたしは地球に帰るわ!がんばってね!すぐに孫くん連れて戻ってくるから!」


そして手を振り宇宙船に向かうブルマをクリリンは慌てて引き止める。


「ど、どうするよ、悟飯、ライちゃん…!オ、オレたちもとりあえず地球に帰ろか!」
「「え?」」


突然の提案に、双子はぽかんとクリリンを見上げる。


「だ、だってさ、敵はもうひとりいるみたいだし…い、いくらドラゴンレーダーがあったってさ……オ、オレはいいけどさ、もし悟飯やライちゃんになにかあったらまずいじゃん…!」
「で…でも……そうするとドラゴンボールはあいつに…」
「う…うん…ま、まあ今回はあいつに譲ってやるとして、オレたちはこの次にでも……」


不思議そうな表情をしたままの双子に、クリリンは腕を組んで言葉を続ける。


「前のピッコロのときみたいに神龍を殺されなきゃいいけどね……」


そしてブルマの呟きを聞き、クリリンはつい押し黙った。
そんなクリリンを心配そうにライは見上げていると、ふいに何かの気配を感じる。
悟飯も感じ取ったのか、思わず声を上げる。


「クリリンさん、誰かきます!」
「へ!?」


サイヤ人かと不安がるブルマだが、ベジータよりももっと弱い気だと言う。


「たぶんナメック星人だ……」


どこか緊張した面持ちで岩陰を見つめる4人。
そしてその岩陰から現れた二人組を見つけると、ナメック星人じゃないことに全員が驚いた。


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