翌日、西の都の病院の一室。 そこでは悟空が何やら頑丈なベッドに守られるように横にならされている姿があった。 「へへ、まいったな…ケガが直るまで4ヶ月だってよ…それも、元通りにはならねえかもしれねえってさ……」 包帯をぐるぐる巻きにされ、身動き一つできない状態の悟空は困ったように言う。 だがあと1ヶ月もすれば仙豆ができるらしく、それまでの辛抱ということになった。 病室に見舞いに来ているのか、同じように包帯だらけのクリリンは悟空の傍に立ちながら言う。 「オレと悟飯、ライちゃんは3日も入院していればバッチリだってよ。ラッキーだろ」 悟空の隣にあるベッドで体を起こしている悟飯と、同じように悟飯のベッドの足元のほうで腰をかけているライは、にこりと笑った。 「ライちゃんのお顔の腫れもすぐにひくってんだから、一安心だ」 「そうか……よかったな、ライ……」 「うんっ」 ライの頭を撫でるチチと、それを聞いて同じように安心する悟空。 ライは頭に包帯を巻かれ、頬にもガーゼが張られており表情があまり見にくい状態だが、嬉しそうに笑った。 「ほんと、サイヤ人は頑丈なんだなぁ」 感心したように言うクリリンに、チチはくわっと口を開け怒鳴る。 「デリケートな女の子に向かってなんてこと言うだっ!」 「あ!わ、悪い!すんません!」 その怖い顔に、クリリンは怯み咄嗟に謝る。 相変わらずの様子に、ライは思わず苦笑いするが、他愛もない話ができることに、どこか心の中で安心していた。 そしてしばらく皆で談笑していると、勢いよく病室のドアが開いた。 「ちょっと!みんなみんな!テレビ見てよテレビ!」 それはどこか嬉しそうな表情でやってきたブルマだった。 言うや否やブルマは早速テレビの電源を押す。 映し出されたニュース番組では、先日サイヤ人が乗ってきた宇宙船が映っていた。 どうやら、クリリンの持ってきたリモコンで宇宙船を操作し、驚かせようと企んでいる。 「いい?動くわよお〜〜〜」 ピッピッとリモコンを操作し、言うブルマ。 皆の視線はテレビに釘付けになる。 そして直後、テレビの中の宇宙船は大きな音を立てて爆発した。 予想もしていなかった出来事により最後の望みは断たれてしまい、脱力感を拭えない。 「そ、そんな……」 目の前で希望が絶望へと変わる瞬間を見たライは、目を見開いたまま力無しに呟く。 これでナメック星には行けない。行けないと、ドラゴンボールは手に入らない。となると、ピッコロは……。 「っ……」 そう想像するだけで、ライは泣きたくなる気持ちになった。 悔しそうに唇を噛み、手を振るわせるライに気付き、悟空は横目でライを見つめる。 そして何か声をかけようかとした時、病室の窓にミスター・ポポが現れた。 驚くブルマを余所に、ミスター・ポポは笑顔で言った。 「誰かついてこい。宇宙船ある」 その言葉に驚く一同。 ほんとうかと聞くと、ポポは分からないと答えた。 だから、誰か一緒にきて調べてほしいのだと。 ポポが言い終わると同時に、ライはベッドから飛び降りてポポの元へと駆け付けた。 「あたし!あたし行くっ!」 「!?な、なに言ってるだライちゃんっ!」 居てもたってもいられない様子のライは窓から身を乗り出す勢いで言う。 そんなライに驚いて、慌ててライの両肩に手をのせるチチ。 「おめえはケガ人なんだ!ここにいねえとだめだべっ!」 「で、でも……」 「ライちゃん、チチさんの言うとおりだよ。安静にしてないとだめだし、ライちゃんは宇宙船のことよくわからないだろ?」 「それは……」 意気込んでいたライだったが、クリリンに冷静に言われ、返す言葉をなくす。 もう、とチチに抱きあげられ、ライはしょんぼりと眉を下げる。 そしてクリリンはブルマを見る。 今病室にいるメンバーの中で、宇宙船について分かる人物はブルマしかいないためだ。 不安に思いながら、ブルマはミスター・ポポの乗っている絨毯へと移動する。 ライは心配そうに見つめるが、一瞬にして二人の姿は消えてしまった。 しばらくして、病室に戻ってきたブルマに神様の宇宙船について聞いた。 あの宇宙船を使えば、1ヶ月でナメック星につくことができるらしい。 そして中の改造を終えれば5日後には出発できると言う。 あとは誰がナメック星へ行くのかという話だが、これについてはクリリンはブルマを推した。 なにかあったとき、メカに詳しいのはブルマしかいないという理由からだ。 渋々了承したブルマは、一人は嫌だと言って、お返しのようにクリリンを指名した。 「え!オ…オレですか?べ…べつにいいすけど…2ヶ月か…修業したかったな……サイヤ人、またいつ来るかわかんないし……」 驚きつつも、渋ることなく了承したクリリン。 そしてそのやり取りを聞き、自分のベッドの上で何か考えている様子の悟飯。 ライはそんな悟飯に気付き、じっと見つめていた。 「いいなあ、オラも行きてえよ……。ナメック星じゃどんな神龍が出てくんのか見たかったぞ…」 「まあ、悟空はゆっくり休んでサイヤ人対策でも練っててくれ」 「そうだな……頼んだぞ、ふたりとも」 羨ましそうに言う悟空だが、クリリンの言葉を聞いて素直に二人を見送ることにした。 そしてそのすぐあと、意を決したように悟飯が言葉を発した。 「ボ…ボクもつれてってください…!ぜひ…」 その言葉に驚いたのか、一瞬言葉を失う一同。 だがライだけは予想していたのか、嬉しそうに笑みを浮かべ、悟飯の手を握った。 「ご…悟飯ちゃん…な…なにつまんねえジョーダンいうだよ…!」 「ジョーダンなんかじゃありません。ボ、ボク本気で行きたいんです」 焦った笑みを見せながら悟飯に近寄るチチ。 だが、悟飯は真剣な表情で言い放った。 「バ…バカいうでねえよ…こ…このうえ2ヶ月以上も……」 怒りからか、ぷるぷると震えだすチチ。 だが、悟飯も今回ばかりは譲らなかった。 「ごめんなさい…ボク…どうしても行きたい……。ピッコロさんを…この手で生き返らせてあげたいの……」 言う悟飯は、無意識か自分の手に重ねられたライの手を握っていた。 それに気付いたライは、優しい姉の表情で悟飯をじっと見つめる。 「……そうか。よく言ったぞ悟飯」 悟空も悟飯の決意が嬉しいのか、笑って言った。 「ふたりともなーにくだらねえこといってんだっ!そったらこと悟飯ちゃんがすることねえべ!なにかあったらどーすんだ!」 だがチチは納得いかないのか、必死の形相で言う。 「2ヶ月だで!いままで1年も気をもんでたうえに!塾は!お稽古は!もうずいぶん他の子に遅れちまってるだぞっ!そったらこと許さねえったらぜったい許さねえ!」 悟飯に言い聞かせるように強く、チチの言葉は止まらない。 「ピッコロなんてカンケイねえべっ!おめえは小さなコドモだ!コドモらしくしてりゃええ!」 勢いのあるチチの言葉に、悟空は悔しそうに眉を寄せる。 だが次の瞬間、悟飯は固く目を閉じて叫んだ。 「うるさーーーい!!」 それを聞いたチチは、言葉を失い悟飯を見つめることしかできなかった。 目の前に居たライもこのことには驚いたのか、目をしたばかせながら悟飯を見つめた。 「お…おかあさん…今は…今は、ほんとにそんなことを言ってる時じゃないんだよ…。みんな…みんな……ボクたち地球のために必死で戦って…死んでいったみんなを生き返らせて……また、サイヤ人と戦わなきゃいけないんだ……」 初めての反抗に、やはり罪悪感を感じてしまっているのか、チチの顔を見れずにいる悟飯。 だが言葉は強い意志を持ち、そして静かな闘志を燃やしながら発せられている。 「ボクだって…ボクだって戦えるんだ…!なにか、なにかやらなきゃ…!わかって、おかあさん……ごめんなさい」 言いきった悟飯に、チチは力無しに項垂れ、悟空も強くなったことを嬉しく思うように悟飯を見つめた。 そしてライも同じように嬉しそうに悟飯に抱きつく。 「さすが悟飯っ!それでこそあたしの弟だよっ!」 「お、おねえちゃん……っ」 まだ傷が痛むのか、抱き締められながら悟飯は顔をしかめる。 そんなことお構いなしに、ライはにこりと悟飯を見つめた。 「もちろん、あたしもついていってあげるからね!」 「んな!?」 そしてあっさりと宣言するライの言葉に、再びチチは目を剥いた。 「な……ライちゃんまで、なにを……!」 「おかあさん、あたしもナメック星に行きたい。悟飯と一緒に、ピッコロさんたちを生き返らせてあげるの」 意を決して、緊迫した表情で告げた悟飯と違い、ライはにこりと笑いごくごく自然に、まるで当たり前のことを言うように言った。 しばらくぽかんとライを見ていたチチだが、すぐに首を振ってもう一度ライを見た。 「百歩、いや千歩譲って悟飯ちゃんは男の子だからしょうがねえとしてっ、おめえは女の子なんだべっ!?これ以上危険な目に遭わせらんねえだよ!」 「ボールを集めるだけだから、なにも危険なことなんてないよ?」 首を傾げ甘えるように言うライに、悟飯もぽかんと言葉を失ったまま見つめている。 もちろん、双子としてライも一緒に行くと言い出すとは思っていた。 だが、まさかこうもあっけらかんとした様子で言うとは予想していなかったらしい。 「はは……ライ、おめえはほんと強えな……」 「悟空さ!なに呑気に笑ってるだ!こんな一大事に!」 笑いながら言う悟空を、チチはキッと睨む。 「おかあさん、お家のお手伝いなら、帰ってきたらいっぱいやるよ。ごめんなさい。おかあさんに心配ばっかかけて……あたし、本当に悪い子だって思ってる……」 怒るチチに、ライはしょんぼりした表情で弱々しく呟く。 そんなライを見て慌てたチチは、そっとライの髪を撫でた。 「ライちゃんは悪い子なんかじゃねえだよ…!家の手伝いだってちゃんとしてくれるし、我儘も言わねえで、すんげえ良い子だよ…!」 ライに目線を合わせ、元気づけるように言う。 するとライはほっとしたような表情でチチを見た。 「だったらおかあさん、あたしの最初の我儘……聞いてくれる?」 「!!」 「あのサイヤ人との戦いで……あたしと悟飯の大切な人が死んじゃったの……」 言いながら、ライは心にピッコロの姿を思い浮かべる。 悟飯もそのことが手に取るように分かったのか、切なそうにライを見つめた。 「大切な人……?」 「うん。すごくすごく大切で、特別な人なの。おかあさん、言ってたよね?おとうさんを特別に思ってたから、ぜったいに諦めなかったって」 「そっ、それは……」 自分の昔のことについて言われ、思わず頬を染めるチチ。 そんなチチを見て、ライは悲しそうに笑った。 「あたしもね、その人のこと諦めたくないの。誰かに任せるのもいやなの。あたしも悟飯と同じ、自分の手で、その人を生き返らせてあげたいの」 そして強い意志を込めて告げる言葉を聞いて、チチは押し黙る。 ライはふとチチから視線を床へと落とし、そっと胸の前で手を握った。 チチの言葉を待っていると、ふと優しく、腫れているほうとは反対の頬を撫でられた。 「ライちゃん、おめえがそんな表情するのは、まだ早えだよ」 そして触れられる手と同じくらいの優しさを持った言葉を、チチにかけられる。 「……わかっただよ。今回ばかりはおめえの我儘聞いてやるだ」 言うと、チチはゆっくりライを抱き締めた。 「確かに……簡単に諦めるなんてこと、おらライちゃんに教えてねえだもんな」 「……うんっ!」 その言葉を、今回の件についての肯定の言葉だと受け取ったライは、嬉しそうに頷いた。 そんな二人の姿を見て、ほっとしたのか口元を緩ませる悟空や他のみんな。 ナメック星に行くことを認められたライは、チチから離れ笑顔で悟飯へと振り返る。 「一緒にがんばろうね、悟飯!」 「うん!」 「もちろん、悟飯のことを守るためにもあたしは行くんだからね?」 「お、おねえちゃんはそればっかり……」 ボクだってもう弱虫じゃないんだからね、と口を尖らせる悟飯。 そんな悟飯を見て、ごめんごめんと笑いながら謝るライ。 安心したようにはしゃぐ双子を見て、悟空は成長を実感したように静かに二人を見つめた。 そしてブルマの口から出発は10日後、カメハウスに集合ということを聞き、その場は解散となった。 ×
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