「さあ、立て!もう少し楽しませてくれよ」


言いながら悟飯の頭を足で押さえつける。
悟飯は苦しそうに唸り、隣で倒れ込むライもその姿を見つめるのがやっとだった。


「なんだ、おい。こんな程度か?しょせんクズの子はクズってわけなのか?」


悟飯の胸元を掴み上げ、ベジータは頭突きを贈る。


「あぐ…ぐ、あ……」
「くっくっく。クズでも血だけは赤いらしいな」


悟飯が苦しんでいるのを感じ、ライは蹴られた箇所を押さえながら、やめてと声にならない呟きを言う。


「せめて父親の隣で死なせてやろうか?オレは優しいんだ」


そして悟飯を、地面に倒れている悟空の隣へと放り投げた。


「!!」


その直後、ベジータは突如足首に痛みを感じ、足元を見た。
そこではライが、最後の力を振り絞ってベジータの足首に噛み付いている姿があった。


「はっ……クズらしい、醜い抵抗だな」
「むぐぐ……」


ベジータの余裕の言葉に反抗するように、ライは噛む力を強くする。
するとベジータは面白がるように、もう片方の足でライの頭を踏んづけた。


「さて、いつまでそうしていられるかな……?」


少しずつ踏みつける力を強くするベジータ。
ライは苦しみながらも、決してベジータから口を離さなかった。
ライが一人で懸命に耐えている間、悟空は悟飯に、自分のかわりに戦ってくれと弱々しく語っていた。


「(ぜったいに……離さないっ……死んでもっ……!)」


割れるような痛みを頭から感じながらも、ライは必死で、文字通りベジータに喰らいついた。
そして少しずつ力が戻ってきたのか、ライはぐっとベジータの足をその手で掴む。


「ちっ……クズの分際で、気易く触るなっ!!」


その抵抗を良しとしなかったのか、ベジータはライの頭を踏みつけるのをやめ、噛まれている足を振り上げた。
その勢い負けてしまったライは、思わず口を離す。


「女だからといって手加減してもらえると思うなよっ!」


ベジータは口角を上げると、今度はライの顔面を蹴りあげる。
ライは悲鳴を上げることもできず、悟空と悟飯の近くにドサッと倒れ込んだ。
まだ悟空と悟飯の会話は途中だったのか、ライも微かにその会話を聞いた。


「ダ…ダメだよ…ボ…ボクだって…も…もう動けない…」
「バ…バカやろう…!死んでいったみんなをムダ死ににしたいか…!ピッコロに、な…なにを教えてもらった…!」


痛みに耐えながら、必死に言葉を紡ぐ悟空に、ライも口から血を吐きながら悟飯を見た。


「ご、はん……」


名前を呼ばれた悟飯は、そっとライを見る。
すると、そこには鼻と口から血をだし、蹴られた部分が赤く腫れ上がってしまっているライの顔。


「お、おねえ、ちゃん……」


あまりにも酷い有様に、悟飯は思わず目を見開く。


「悟飯……あたし、もう、悟飯が弱虫だなんて……お…思って、ないよ……」


だが気丈に、泣かずに、必死に伝えようと自分を見るライ。
悟飯はそんなライに視線を逸らせず、そして切なそうに顔を歪めた。


「悟飯は、つ…強いよ……あたしも……ピ、ピッコロさんも……そう思ってる……」


その言葉を聞き終えた直後、悟空の腹にベジータが膝蹴りを喰らわす。
苦しそうに咳き込む悟空を、ライと悟飯ははっと見つめた。


「落ちこぼれのクズやろうのくせに、てこずらせやがって……」
「ご…悟…飯……!」


後押しをするように悟飯の名前を呼ぶ悟空。
だが、それすら面白がるように、ベジータは悟空の顔を蹴り、体を蹴り始める。


「や…め…ろ……!」


それを、瞳孔の開いた目で見る悟飯。
そして、


「やめろーーっ!!」


叫ぶと同時に、悟飯は立ち上がった。
ライはどこか嬉しそうに、そんな悟飯を見上げた。
ベジータは驚き、悟飯を振り返った。


「おまえを…たおす!」


そして憤った様子で言う悟飯に、ベジータは口角を上げて言う。


「きさまがこのオレを…たおす?」


すぐあと、悟飯が両手からエネルギー波を放つ。
それをベジータは飛び上がって避けるが、その隙を狙って悟飯はベジータに蹴りを放った。


「なんだとっ!?」


一瞬怯んだベジータだが、すぐに体の方向を変え、こちらへ向かってくる悟飯の顔面を蹴る。
痛そうに顔をおさえるも、悟飯はもう決して逃げようとはしなかった。
必死に、果敢にベジータに喰らいつく。
そうして悟飯が戦っている間に、悟空はクリリンを呼び、元気玉を渡す。
ライは心配そうに悟飯を見つめていたが、悟空がクリリンの手に凄まじい気を渡したのを見て、不思議そうに見つめる。


「がんばってくれ…こ…この気のコントロールは、悟飯やライじゃできない…」


悟空が弱々しく呟くと、クリリンの掌に元気玉が浮かび上がった。
ライはその綺麗な玉を見て、思わず息を呑んだ。
綺麗なのに、凄まじい威力を持つ元気玉に、目を奪われてしまっていた。
そして元気玉を持って位置を変えるクリリンを見送って、ライは悟空を見つめた。


「お、おとうさん……喋らなくていいから……聞いて……」


苦しそうに肩で息をする悟空を気遣い、そう前置きをしてから口を開く。


「あ…あたしね、おとうさんが死んじゃってる間……おとうさんに話したいこと、いっぱいできたの……」


悟空はそっと、ライへと顔を向ける。
そして苦しい中、せめて穏やかな表情でライを見つめた。


「今日……サイヤ人をやっつけて……お、おとうさんに……いろんなこと、話そうと……思ってた、のに……」


そしてじわっと涙を目元に滲ませる。


「こ、こんなに……あたし、弱いなんて思ってなかった……」


皆必死で喰らいついているというのに。
矛盾するように戦闘が楽しいと思えたり。
それでも、実力がついていかず……すぐに返り討ちにあってしまう。


「あ…あたし……なんにも、できなくて……ごめんなさい……っ」


一粒、二粒と涙を零すライ。
そんなライを、悟空は優しい表情で見つめた。


「は、はは……ライ、オラがいねえ間に……泣き虫に、なったんじゃねえか……」
「お、おとうさん……喋ったら……」


だめだよ、とライは心配そうに悟空を見る。
だが悟空は言葉を続ける。


「だ、だいじょうぶ、だ……。おめえの話、ちゃんと……聞いて、やっから……」
「……!」
「ライ………おめえは十分…がんばった……。あ、あとは……悟飯を、信じてやれ……」


その悟空の言葉を聞き、ライは全ての緊張から解放されたような、気の抜けた笑顔を見せた。


「うん……」


悟飯は今、必死でベジータと戦っている。
ライが今できること。それは双子の弟、悟飯の力を、全てを信じることだけ。
ライは悟空から、視線を悟飯へと向かわせた。


「悟飯……」


悟飯は今、ベジータの手からとめどなく放たれるエネルギー波により岩へと叩きつけられてしまったところだ。
立ち上がるのもやっとの悟飯の姿から、ライは決して目を逸らさなかった。


「(どんな状況で、どんなに追い詰められても……あたしは、悟飯を信じるよ……)」


だってあたしは、悟飯のおねえちゃんだから。
そんなライの思いは届かなかったのか、ヤジロベーの叫びで元気玉の存在を気付かれたクリリンは、急いで元気玉をベジータへと放つ。
だが、ベジータは寸でのところで元気玉を避けた。


「!!」


ベジータが避けてしまったために、元気玉は悟飯へと向かう。
あと少しで悟飯に当たってしまう。その時、悟空は心の声で悟飯に語りかけた。


『はねかえせ悟飯っ!!そいつは味方だっ!!悪の気がない者ならはねかえせるはずだっ!!』


その言葉を聞いた悟飯は、すぐさま両掌を元気玉に向ける。
それは悟空の考え通りはねかえり、空に飛び上がって避けたベジータへと向かっていく。
凄まじい音を立てて、元気玉はベジータに直撃した。


「ぎゃああああ……!!」


元気玉を受けたベジータは、そのまま空高くへと押しのけられて行った。
それを見て一安心できたのか、それぞれ顔に笑みを綻ばせる。


「ひゃっほーーっ!!やったぁーーっ!!」


そしてクリリンは飛び上がって喜び、急いで悟空の元へと駆け寄る。
悟飯もグスンと鼻を啜りながら悟空の元にやってきた。


「とうとうやったな、おめえたち…」
「はは…もう、何回もダメかと思ったぜ……」


悟空の隣でそっと腰を下ろすクリリンを見て、ライもなんとか体に力を入れて地面に座る。


「へへ……おめえたちボロボロだな……」
「おめえほどじゃないさ」


3人を見て言う悟空に、クリリンが気の抜けたように言う。
その瞬間、空からベジータが振ってきた。


「サ、サイヤ人が……!」
「だいじょうぶ、死体だ」


眉を寄せて見る悟飯だが、クリリンが立ち上がり、ベジータへと近寄る。


「くそったれ……とんでもねえヤツだったけど……墓ぐらいつくってやるかな……」


そして倒れ伏しているベジータを見ながらクリリンが呟くが、


「きさまらの墓をか!?」


ベジータはまだ生きていた。


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