悟空とベジータの激闘が繰り広げられている最中。
ライたちは舞空術でカメハウスへと向かっていた。
ただひたすらにカメハウスを目指していた3人だが、途中、クリリンが何かに気付いたように後ろを振り向く。


「お、おい…あれ…」


その言葉に、ライと悟飯も立ち止まって後ろを見る。
ライたちがやってきた方角に、なにやら明るい星のようなものが浮かび上がっていた。
その存在を確認した直後、3人はものすごい気が上がっていることに気付いた。


「お…おとうさんの気が、またあがったんじゃ…ないですね」
「あ…ああ…こ、このイヤな感じはヤツの気だ…!」
「体がビリビリする……」


ライもその気の凄まじさに、両手で自身を抱くようにする。


「お…おとうさん……」


そして嫌な予感でも感じ取ったのか、悟飯が小さく呟く。


「ボ…ボク、戻ります……!」
「え!?」
「も、戻る…って悟空のところにか!?」


ライの悟飯の言葉に驚いたのか、はっと悟飯を見つめた。


「ボ、ボク分かるんです……!おとうさんが危ない…って、こ…このままじゃ死んじゃう…って…!」


力強く拳を握って言う悟飯に、ライも大きく頷いた。


「あたしも……すごく、いやだけど……わかる。あの人に、このままじゃおとうさん、やられちゃうかも……って、不安になる……」


光の玉がある方向を見て言うライと悟飯とを交互に見て、クリリンは呟く。


「し…しかし、こんなにすごい気のやつ、オ…オレたちがいったところで……」
「え…ええ…わかってます。…でも……」


悟飯は眉を寄せ、凛々しく見える表情でライを見る。
ライも同じく、どこか落ち着いた様子で悟飯を見た。
目が合うと、二人は同時に頷き、


「「ボク(あたし)たちがいかなきゃいけないんです」」


そして再び同時に飛び出した。
思わぬ行動力にクリリンはぎょっと目を剥き、慌てて追いかける。


「まっ、待てよ悟飯っ!ライちゃんっ!オレも行くよ。行くってば!」


来た道を逆戻りするように、3人は飛び続ける。
ライは心配で高鳴る心臓をおさえながら、祈るように目を閉じた。


「(おとうさん……死なないで……っ)」


そんなライの祈りも虚しく、


「悟空の気がどんどん小さくなっている!」
「お、おとうさん……!」


肌で感じる、父の命が薄れていく瞬間。


「やだ……やだ、やだよっ……!」


それを振り払うように、ライはスピードを上げる。
そして、


「近いっ!もうすぐそこだっ!」


浮かびあがる光の玉の近くに、戦う二人の姿があった。
いや、戦うというよりは……一方的に悟空が嬲り殺されようとしている。
下に降りろというクリリンの言葉に、悟飯は大猿の姿を見て目を見開いている。
ライがそんな悟飯を引っ張り、クリリンの後をついて地面へと下降する。


「(あれは……あの時の悟飯と同じ……)」


悟飯の腕を引っ張りながら、ライは思い出すように目を細める。
弱虫で泣き虫な悟飯が、満月を見た途端に凶暴な大猿へと変貌してしまったあの出来事。
今でも鮮明に、少しの恐怖すら感じる。
地面に足をつけたライは、クリリンが先導し移動するあとを悟飯と共についていく。
が、その途中で何やら知らない人物が行く手を塞いだ。


「ヤ、ヤジロベー!」
「誰!?邪魔しないでよっ!」


苛立たしそうに言うライに構わず、ヤジロベーは言葉を続けた。


「おいっ!あの化け物誰だと思う!?サイヤ人だぜ、サイヤ人!」
「知ってる!だがヤツのシッポを切れば元に戻るっ!」


そんなヤジロベーに、クリリンが更に大きな声で言う。


「いいか!悟飯とライ、ヤジロベーは前に回ってヤツの気をひいてくれ!スキを見てオレがうしろからシッポを切ってやる!」


そしてすぐさま指示を出す。
そのきびきびとした動きに3人が戸惑っていると、クリリンは先に行動してみせた。


「急げっ!死んじまうぞっ!!」
「「は、はいっ!」」


そして役目を果たすように、それぞれ別の方向へ飛んでいく。
ライと悟飯は、急いでベジータの視線に入るように高い岩の上に登った。
気配を感じたのか、ベジータは首を振る。


「こっちだ!お、おとうさんを離せっ!」
「はやく離してよっ!バカサイヤ人っ!」


その小さな二つの姿を確認したベジータは、少し力を緩めて二人を見た。


「こいつは驚いた。カカロットのガキどもじゃないか!なるほど、父親の最期をわざわざ見にきたってわけか!」


面白そうに言うベジータを、二人はきつく睨みあげる。
だが、ベジータは話すのをやめない。


「はっはっは。いいタイミングだぞ。ちょうど死ぬ間際だ!これからフィニッシュを決めようってとこさ!」


ベジータの気が二人へと向いているのを、遠くから確認したクリリンはそっと気円斬を作る。
ライと悟飯は、ベジータを見ながら、作戦がうまくいくように祈る。


「よーく見ておくんだな!跡形も残らんように握り潰してやるから。残念なことに、こいつはもう気を失ってしまったようだがな…!」


そして悟空の頭に手を置き、ゆっくりと力を込める。
瞬間、クリリンはベジータの背後から気円斬を放る。
ベジータへと真っ直ぐ向かった光の円盤だが、ベジータはバッと跳んでそれを避けた。
気円斬はそのまま真っ直ぐ飛び、ライと悟飯が立っていた岩を半分に削って行った。


「もうひとりいることぐらい気がつかんとでも思ったか!」


どうやら悟空の子供二人だけが来るとは思っていなかったベジータは様子を探っていたらしい。
そしてクリリンの存在も気付かれてしまい、大猿となったベジータ相手に成す術はなくなってしまった。


「はーっはっはっはっ!しょせん、きさまらがこのオレに戦いを挑んだのがマチガイだったのだ!」


高らかに笑いながら悟空を潰そうと力を込めるベジータ。


「やっ、やめろ…!やめろーーっ!!」
「お願いやめてっ!おとうさんを殺さないでーーっ!」


すがるように必死に叫ぶ悟飯とライ。
すると一瞬、ベジータの動きが止まった。
背後からヤジロベーがベジータのシッポを切ったためだ。


「ち…ちくしょう……!も…もう1匹いやがったとは……!」


唸るように言うベジータは、体がどんどん大猿から人間のサイズへと戻って行く。
その拍子に悟空の体はベジータの手から地面へと落ちる。
荒い呼吸で元の人間の姿に戻ったベジータを、ライと悟飯はポカンと見つめた。


「や…やったぞヤジロベー…!も、元の姿に戻りやがった……!」


遠くでクリリンが嬉しそうに呟く。
功労者のヤジロベーは、岩陰に隠れ息を潜めている。


「き、きっさまらあぁ〜〜……オレを怒らせて、そんなに死にたいか〜〜……」


怒りに震えるベジータをよそに、ライも嬉しそうに自然と笑顔になる。


「シッポが切れたんだ……!やった……!」
「ど…どうなってるの…!?な、なんであの化け物が……!?」


不思議がる悟飯に、仕組みを教えようかと口を開いたライだが、刹那、ベジータの怒りが最高潮になった。


「だったら望みどおりぶっ殺してやるぞーーっ!!ゴミどもめーーっ!!」


叫び、一瞬とも思えるスピードでライと悟飯の目の前までやってきたベジータ。


「悟飯っ!ライっ!にげろーーっ!!」


言うも、その場を動けないでいるライと悟飯。


「まずはきさまからだ」
「……あ……」


ベジータを目の前にし、震える悟飯。
そんな悟飯の腹に、ベジータは重い一発を喰らわせた。


「悟飯っ!」
「…が……」
「しっかりして、悟はっ」


そして悟飯の体を支えようとするライの横腹にも、同じように一発殴る。


「っ……ぐ……」


痛みで地に膝をつけざるを得ない二人。
ライは震える手を悟飯に伸ばすが、ただ腕を動かすだけでもひどく殴られた箇所が痛んだ。


「どうした?サイヤ人と地球人の混血は強いんじゃなかったのか?」


そんな二人を、ベジータは見下すように見て言う。


「ほんとうの力を見せてみろよ!え!?」


そのベジータの背後からクリリンが襲い掛かろうとするが、ベジータは振り返りクリリンの顔面に蹴りを入れる。
バキッという音を立ててクリリンははじき返され、岩に叩きつけられた。
そして瀕死状態になってしまったのか、ピクピクと痙攣を起こしてしまっている。


「へっ、順番がかわっちまったかな?」


言うベジータは、面白がるように、今度は視線を悟飯へと向けた。


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