「ご…悟空……!待ってたぞ……!」
「お……おとうさん……!」
「っく、ふえっ……!」


クリリンは震えながら喜び、悟飯も涙を滲ませる。
ライはすでに涙をこぼし、しゃくりあげながら悟空を見つめた。


「わざわざ何しにきやがったカカロット…。まさか、このオレたちを倒すためなどというくだらんジョークを言いにきたんじゃないだろうな?」


挑発ともとれるベジータの言葉にも気にせず、悟空はまっすぐピッコロの元に寄りそっと首元に触れる。
脈拍がないことを感じ、悟空は眉を寄せた。


「ピッコロさんはボクたちをかばって死んだんだよ…」


言う悟飯と、その悟飯につかまりながら頷くライ。
悟空は神妙な表情で聞き入れ、ふとあたりを見回す。
そしてサイヤ人との戦いで敗れていった、仲間たちの姿を一人ひとり確認した。
餃子もやられてしまったことをナッパの口から聞き、悟空は憎らしげに歯噛みする。


「そして神様も……」


呟く悟空の戦闘力があがっていくのを、スカウターをつけたままのベジータは感じ取る。
悟空が歩き始めると、ナッパがあいさつがわりだと拳を振る。
だが、手応えはまるでなく、悟空の姿はライと悟飯の元にあった。


「悟飯、ライ、こっちへ」


そして筋斗雲に乗っている二人を安全な場所まで移動させた。
あまりの速さに、ナッパは目を見開いて拳を振り下げたまま悟空を凝視した。


「遅れてすまなかったな、みんな…よくこらえてくれた……。これ、おめえたちで食ってくれ…」


クリリンのいる場所まできた悟空は、しゃがみながら仙豆を渡す。
もしもの時にとっておいてくれと言うクリリンの言葉を素直に聞き入れない悟空は無理矢理仙豆を3等分した。


「す…すまん…」
「悟飯…ライ…おまえたちも」
「は…はい…」
「ありがとう…」


悟空に仙豆を食べさせてもらった3人は体力が回復したのか立ち上がった。


「クリリン…ものすごくウデをあげたな。気でわかるぞ…」
「そ…そのつもりだったけどな、ダメだった……。あつらにはてんで通用しない。強すぎるんだ…」


素直に喜べないクリリンは、複雑そうに言う。


「悟飯、おまえもみちがえたぞ…!よく修業したな!」
「う…うん…ピッコロさんがね……で…でもボク……なんにもできなかった…」


久しぶりに父に会い、そして声をかけられたことで悟飯は涙目になりながらも嬉しそうにはにかむ。
そして悟空は、悟飯の隣でさっきから涙をとめどなく流しているライを見た。


「ライ、そんなに泣くなよ。おめえらしくねえぞ」
「っ……お、おとうさん……」
「それにしても、驚いたな…。まさかライまで戦ってるなんてな」
「え、えへへ……」


悟空に頭を撫でられ、ライは嬉しそうに袖で涙をぬぐった。
しばし再会を懐かしんだところで、話は今の状況へと移った。
仙豆のおかげで体力を回復させたクリリンは、拳を握りながら悟空を見上げる。


「3人でカタキを討ってやろう!悟空が加わってくれりゃひとりぐらいはなんとかやっつけられるかも!」


だが、悟空は真剣な表情でクリリンを見返した。


「だけど、やつらとはオラひとりで戦う。おめえたちは離れててくれ。巻き添えをくらわねえように」


そして言い放つ言葉に、3人は目を丸くして悟空を見た。


「い、いくら悟空だってそりゃムチャだ!!あ、あいつらの強さは、そ…想像をはるかにこえている…!」
「ホ、ホントだよおとうさん…!」
「おとうさん、ムチャしないで…!」


慌てて言う3人だが、悟空の表情は真剣そのものだった。
むしろ怒りで打ち震えようとしているその表情にただならぬものを感じ取ったクリリンは思わず息を呑む。
そしてライと悟飯の腕を掴む。


「い…いうとおりにしよう…。悟空に任せるんだ……」
「だ…だって…!」


渋る双子をクリリンは力ずくで引き止める。
ライは額に汗を浮かばせて、サイヤ人たちへと近寄る悟空の背中を見つめた。


「なんだあそのツラは…気にいらねえな……。へっへっへっ…そんなにあっさりと殺してほしいのか?」


そしてサイヤ人たちと対峙した悟空に向け、ナッパが舐めた様子で言う。


「ゆるさんぞ……!きさまら〜〜〜!」


目の前の二人のサイヤ人のしたことを思うと怒りが収まらないのか、悟空は全身に力を込める。
すると大地が揺れ、肌に痛いほどの気を感じた。


「戦闘力7000……8000…!バカな…!!」


スカウターで数値を測ったベジータは少し目を見開いて悟空の姿を見た。
地震のような揺れは収まり、悟空は再び厳しい表情で二人を見る。


「ベ、ベジータ、カカロットの戦闘力はいくつになった!」
「8000以上だ…!」


言いながら、ベジータはスカウターを握りつぶした。


「は…8000以上!?そりゃあマチガイだぜ!故障だ!」
「心配するな。おめえにはまだ界王拳はつかわねえ…」


うろたえるナッパに、悟空は静かに告げる。
それを舐められたと感じたナッパは憤りながら悟空へと襲い掛かる。
が、悟空の姿は一瞬にしてナッパの背後に現れ、そのまま蹴りを喰らわせた。
あまりの速さに、ライたち3人はきょとんとした表情でその光景を見つめていた。


「き…きさまぁ〜〜〜…!」
「いばってたわりにはたいしたことねえな」


悟空が一言言うと、ナッパは再び頭に血を登らせる。


「こっ、このオレさまがたいしたことないだと……!!」
「そうだ。いまの攻撃でわかった」


あっさりと言う悟空に、ナッパは怒りに震えながら全身に力を込め始める。


「どうわかったのか、じっくり教えてもらおうか…!」


そして勢いよく悟空へと向かい多数の攻撃を繰り出すが、その全てを悟空は避けた。
苛立つナッパが大きく拳を突き出すも、悟空に狙いを定めることはできなかった。
悟空の姿が遠くにあることに気付き、ナッパは驚きそちらを見る。


「す、すごい……」
「み…みえましたか……?おとうさんの動き…」
「い…いや…」


岩の近くでその戦いを見ていたライたちは、小さく呟く。
修業をして強くなった身でも、そのレベルの違う悟空の強さに目で追うことすらできない状態だった。
その後も悟空は圧倒的な力の差を見せつけるようにナッパに攻撃を喰らわせる。
その一撃一撃を、仲間の恨みだと言いながら。
そして完全に頭に血を登らせているナッパに、勝機を見出したクリリンたちは笑顔を取り戻し戦闘を見守る。


「愚か者め!!アタマを冷やせ、ナッパ!!冷静に判断すれば捕えられんような相手ではないだろう!!落ち着くんだっ!!」


だが、それもベジータのこの言葉により水を差された。
言われて気付いたナッパは、冷静さを取り戻し、悟空と向き合った。


「たしかにオレさまはアタマに血がのぼていた…。これからが本領発揮のときだ…。かくごはいいか…?カカロットよ」
「そうこなくちゃな……。期待してるぜ…」


どこか余裕がある様子の悟空の返答に、ナッパは強がりだと笑う。
だがベジータは悟空の余裕に気付いていた。
絶対の自信ゆえの余裕だと。
そのベジータの考えはやはり正解だったのか、ナッパは威力のある攻撃を仕掛けるも、悟空には効かない。
ナッパ自身の最高の技を出しても、悟空のかめはめ波で相殺されてしまった。


「もういい!降りてこいナッパ!きさまではラチがあかん!オレが片付けてやる!」


悟空とナッパの戦いを見て痺れを切らしたのか、ベジータが叫ぶ。
悔しがるナッパに、自分が動くことになってしまった事態に少々の苛立ちを浮かばせるベジータ。


「い…いよいよあいつが……あ…あのデカイやつでさえ、あいつには怯えていた……」
「どれくらい、強い……のかな……」


クリリンが息を呑むように言う。
それを聞き、ライもベジータの姿を見つめて思わず呟いた。
ベジータを気にしている様子のライを悟飯はふと見つめる。
そんな悟飯の視線に気づき、ライもそっと悟飯を見る。そして柔らかく笑った。
悟飯はしばし、そのライの表情を見つめていたが、


「!!しまった!!あいつらを…!!」


ナッパが高速でこちらへと向かってくることに気付き、はっと上を見上げる。
悟空も慌てて追いかけるが、先に動いたナッパのスピードに追い付けずにいた。
クリリンは双子を守るように抱え、双子はそんなクリリンにしがみつく。


「界王拳!!」


ナッパが自身の最高の技を3人に繰り出そうとした時、悟空がそう叫ぶ。
すると悟空のスピードが急に速くなり、あっという間にナッパに追いついたと思うと、ナッパの背中を殴る。
殴られたナッパが地面につくよりも速く悟空が地面に立ち、落ちて来るナッパの体を片手で支えた。
一瞬とも思える出来事だった。
そして瀕死の状態のナッパをベジータの足元へと放った。


「もう戦えないはずだ……。連れてとっとと地球から消えろ!」


瞬きをするのも忘れて、3人はその様子をただじっと見つめていた。
そしてようやく、クリリンが口を開いた。


「ご…悟空……どうやったんだ…?界王さま…って人に教えてもらった技なのか……?」
「ああ…界王拳…てんだ!」


聞くクリリンに、悟空が答える。


「カラダじゅうの全ての気をコントロールして、瞬間的に増幅させるんだ。うまくいけば力もスピードも破壊力も防御力もぜんぶ何倍にもなる…」


それを聞き、悟空の強さの上限にまだまだ余裕があると思った3人は驚きながらも嬉しそうな表情になる。
そんなとっておきがあるなら初めからやってくれよと言うクリリンに、悟空は苦い顔でそうもいかないと言った。


「うまく気をおさえながらコントロールしねえと、オラ自身がまいっちまうんだ…」


え?と首を傾げる3人に、悟空は説明する。
界王拳は体への負担が大きく、多用してコントロールを誤れば、界王拳に体がついていけずしっぺ返しを食らうことになってしまうのだと。
そんな大変な技をものにした悟空に、3人はまた目を見開いて悟空を見た。


「ベ…ベジータ……た…助けてくれ……!」


その間に、瀕死で動けなくなってしまったナッパがベジータに助けを求めていた。
ベジータは無言のまま、伸ばされたナッパの手を掴む。
すまないと弱々しく言うナッパに、ベジータは一瞬にやりと笑い、ナッパを空高く放り投げた。


「!!」


突然の出来事に目を奪われる悟空たち。


「わあああーーっ!なっ、なにを…!ベジータ!!ベジーターーッ!!」
「うごけないサイヤ人など必要ない!」


叫ぶナッパに、ベジータは情け容赦なくエネルギー波を放った。
その力は、ナッパに対して圧倒的強さを示した悟空も肌が痺れるほどの気の強さだった。
そしてナッパの姿が光ったと思えば、大きな爆発が起こり辺り一帯は砂埃が立ち上がる。
大きな岩までもがその爆風によって舞っていた。
咄嗟に空に非難していた悟空は、その凄まじさに目を開く。


「な…なな…なんてやつだ……じ…自分の仲間まで、こ…殺しちまいやがった……」
「ひどい……ひどすぎる、よ……」


悟空に抱えられながらライも呟く。
いくら敵であったとはいえ、惨たらしい最期を見せられてライは眉を寄せる。


「みんな今すぐカメハウスに帰ってくれ!」
「「え!?」」


言う悟空に、双子は声を揃えて悟空を見上げる。
が、クリリンは何か悟ったのか、はやく行こうとライと悟飯に言う。


「あいつは凄すぎるんだよ!オレたちがいたってなんの役にもたてない!かえって悟空が気をつかってジャマになるだけなんだ!」


真剣な表情で言うクリリンに、ライはそっと悟空を見上げる。


「すまねえな……。あいつの強さは思ってた以上みたいなんだ……」


冷や汗を見せる悟空に、ライは切なそうに眉を寄せた。


「は…はい……わかりました……」


悔しく思いながらも言う悟飯。
だがライは、切ない表情のまま悟空のズボンの裾を握った。


「……ライ、おめえも良い子だから、わかってくれるよな」


悟空はそんなライの頭をそっと優しく撫でる。
ライは今にも泣きそうな顔で口を開いた。


「うん……おとうさん、お願いだから、もう死なないでね……」


そして心を決めたように、必死で笑顔を作る。
泣きそうなその笑顔に、悟空も強く頷いた。


「ああ、もちろんだ。カメハウスで、父ちゃんの帰りを待っててくれ」


ライもこれ以上悟空を困らせるのはいけないと思ったのか、悟空から手を離す。
そして心細そうに悟飯の手を握った。


「そうだ、悟空!どうせなら場所をかえて戦ってくれないか…!」
「え!?」
「みんなの死体までムチャクチャになっちまったら、生き返ったとき悪いからな……」


そう言うクリリンに、悟空は眉を寄せる。
ピッコロが死んで神様も死んだために、ドラゴンボールはもう永久になくなってしまったからだ。
残念だが皆は二度と生き返らないと言う悟空に、悟飯ははっと気付いたのか口を開く。


「ク…クリリンさん……ひょっとして……」
「な、なんだ!?」
「詳しいことはあとで話す……!も、もし悟空があいつに勝つことができたら……!」


クリリンの言葉に、悟空は意を決したように拳を握る。
ライも思わず、悟空と同じように拳に力が入る。


「なにをしている。さっきまでの勢いはどうした!怖気づいて逃げ出す相談か!?」


宙に浮いて話している悟空たちにベジータが大声で言う。
そんなベジータに、悟空もベジータへと向き直った。


「悟空よ…いつもおまえひとりに運命を任せて悪いな……。ぜったいに死ぬなよ、親友……!」
「ああ!」


クリリンがエールを込めて言い、悟空と固い握手を交わす。
そして悟空は悟飯を見て、頭を撫でる。


「悟飯、父ちゃんが生きてかえったら、また釣りにでも行こうな…!」
「は、はい!」


悟飯も悟空に触れ、笑顔を見せる。
そして、


「ライも、父ちゃんがかえってきたら、いつもみてえに我儘聞いてやっからな」
「あたし、そんなにいつも我儘言ってないもん……」


ぶすっと膨れるライの頬に触れる悟空。


「我儘じゃなくて、約束して……おとうさん、かえってきたらあたしと組み手してくれるって」
「おう、いいぞ。父ちゃんはぜったいに約束は守るからな」
「うん……!」


嬉しそうに笑うライを悟空も穏やかな表情で見る。
そして視線をベジータへと向けると、一気にその表情は真剣そのものになった。
地面に降り立ち、場所をかえるのかどこか別の方向へとベジータと共に飛び去って行った。
3人はそれを見送ったところで、自分たちもカメハウスへと向かった。


×