「………雅治の馬鹿」
「なんじゃ桜花、会って早々悪口か?」


この人は少し口を尖らせて言う。
そういう私も、同じように不機嫌な顔をしていると思う。


「だって……言いたくなったんだもん」
「そういう事は本人の前で言うことじゃなかよ」


そう言って、な?と私に同意を求める。
でも私は返事をしなかった。
どうしても、納得できなかったから。
何故自分が……この、目の前の人物の事が好きなんだろう、って。


「雅治、部活は?」
「今日だるいから休む」


何に対しても本気にならなくて、


「じゃあ帰るの?」
「外、日が照っとるから夕方まで待つ」


だらしなくて、


「……それまで何してるの?」
「さぁ?……桜花と、昼寝でもしようかの」


マイペースで、まるで子猫でも見てるみたい。
どうしてそんな貴方の事が。
素敵な人だって他にはたくさんいる。
それなのに、どうして貴方なんだろう。


「……私が馬鹿なのかな」
「今さら気付いたんか?」
「………」


こんな、人の事全然考えてない様な人。
良いところをあげろって言っても……お世辞くらいしか思い浮かばないのに。
どうしてこんなに好きなんだろう。
男にしては、どこか細い腕で髪をかき上げる姿。
眠そうに目を擦った時の少し無防備な表情。
人懐っこそうに猫背になって私の顔を覗き込む、少し悪戯っぽい素振り。

まるで、子猫みたいな貴方のことが。


「………雅治、」
「なんじゃ?」
「私、犬より猫の方が好きなの」
「……?」


雅治は意味が分からない、とでも言うようにまた口を尖らせる。


「だから、私雅治の事好きなの」
「………俺は猫、ってか」


苦笑いでまた頭を掻く。


「じゃないと私が貴方を好きな理由が見当たらない」


そう言うと、貴方は手を止めて、私をじっと見た。


「………もしかして、これも貴方のペテンだったりするかしら?」
「…やっぱりお前さんが馬鹿なだけじゃよ」


言うと同時に、雅治は私を抱き締める。
少し、強い。


「それはペテンやのうて、俺の魅力じゃろ?」


少しくすぐったい、甘い声が私の耳元で囁かれる。



そしてそのすぐ後、

「俺も桜花のこと好いとうよ」
と、再び甘い声で鳴くように呟いてくれた。





気まぐれ子猫に恋した理由
(どこか放っておけなくて)(どこか面倒を見たくなる……そんな、貴方の雰囲気)