※捧夢のため名前変換無し



明日は部活もなく、運動部としては一番身体を休める一日。
だがそれも、ある人物の存在がテニス部員たちを休めさせようとしなかった。
明日の休日。

それは………

唯一、想い人を誘ってデートすることができる日だからだ。


「よーし……今日こそはえみ先輩を誘うッス!」


そして、朝から意気込んでいる少年が一人。
切原赤也だ。
一ヵ月に一回のチャンスなんだ。
今日こそは、えみを誘って恋人のように過ごしたい。


「前回は愛犬の病気、前々回は父の日、前々々回は母の日……」


思い出すと涙が出てくるほどの辛い思い出。
えみはきっちり国民の休日を満喫する人なのだ。
前回はイケると思ったものの、流石に愛犬の病気は予想ができなかった。
そのため、当日は枕を涙で濡らしたりもした。


「……くぅ、ますます今日こそはやらないとだめだな…」


ちなみに、えみを誘おうと狙っているのは自分だけじゃない。
テニス部全員だ。
といっても、レギュラーだけどな。
えみはテニス部マネージャーだから。


「今度こそ一番に声かけるッス……!」


皆何かと「先輩」という理由で切原を除けものにしてきたんだ。
絶対に今回は譲らない。


「………お?いたいた。えみ先輩…っ」


前方に見えるのは愛らしい先輩の姿。
切原は迷わず走り出した。


「おーい!えみせんぱ…ふぐうっ!!」


飛びつこうとしたら急に後頭部に痛みが。
その勢いで地面に顔を打って、顔面を抑えながら見上げてみると、


「後輩のくせにえみを誘うたぁ、随分太くなったんじゃねぇの?」


ひょいっと自分を飛び越える丸井の姿。
呻く切原。


「なぁなぁえみ、明日って……」


丸井が声をかけて、えみが気付いて丸井を見る。
残念ながら切原はえみの視界に入っていない。


「キエーーーッ!丸井たるんどる!不純異性交遊は禁止だ!」
「そういう弦一郎こそ、妻子はどうした」
「何を言うかっ!!俺は15歳だ!」
「あ、真田くんに柳くん」
「えみ殿!今日はお誘いたてまつりまs「一体お主はいつの時代から来たんじゃ」
「仁王くんも」


えみは自分を取り巻く凄まじい気迫に気付く訳もなく笑顔で迎えた。
それに仁王も笑顔で返し、話を切り出そうとする。


「そうはいかないッス……げぇっ!」


哀れ切原。
今度は誰かに踏み台にされました。


「ふふっ、赤也はもう少しそこで寝ててね?」


幸村が華麗なステップで切原を踏み越え、えみの前に現れる。


「幸村くん、今日も元気そうだね」
「もちろんだよ。君の顔を見たら僕の心は晴天より清々しく……」
「幸村くん、そんな難しい事を言ってもえみさんには伝わりませんよ」
「っはぁ……柳生、俺まで連れてきてどうすんだよ」
「ジャッカルくん。私は色恋沙汰には少々奥手なのです。私の代わりにえみさんを誘ってください」
「何で俺がっ!?自分でやれよ」


いつのまにかレギュラー大集合。
一番にえみに声をかけた丸井がジャッカルの頭を叩く。


「お前なんで柳生の手伝いしようとしてんだよ」
「知るかっ!つーか、手伝ってねぇだろうが」


完全に丸井の八つ当たりですね。


「……でも、どうしたの、皆?」


流石に不自然に思ったのか、皆の輪の中にいるえみが話を切り出した。


「「「それはね、」」」
「えっと……一人でいいんだけど」


迫力に押されそうです。
そこで切原はようやく立ち上がる。
もうあの輪の中に入るのは手遅れだと感じた。
完全に先輩たちのバリケードが作られている。


「明日は部活がないだろう?」


代表として話し始めた幸村。
えみは頷く。


「だから、「「「俺と」」」一緒にどこか遊びに行かないかと思って」


綺麗に「俺と」の部分だけハモりましたね。
逆に怖いです。視線も怖いです。
勝者は一瞬にして地獄へランデブーさせてやるというオーラがむんむんです。
だが、えみはそんなことなど気にもせず、


「あ、ごめん。明日は約束があるから」
「「「なっ…!?」」」


全員が落胆した。
それは切原も同じ。
肩を落とし、深くため息をついた。


「(今回もだめか……。やっぱり、えみ先輩を捕まえるのは難しいな……)」


と、諦めていると、


「ね、赤也くん」


えみが切原を見た。
切原は一瞬何が起きたのか分からず、フリーズする。


「「「なんだって!?」」」


全員が切原を見る。
それでも切原は何の反応も示さない。


「……もしかして、忘れちゃった?次のテストで赤点取ったら部活返上で補習になるから、教えてほしいって言ってたじゃない」


えみは困ったように笑って切原を見る。


「……あ、」


思い出した。
それは何週間か前。
英語のテストを真田に見られ、みっちりと叱られた後のことだ。

「……今日も、随分怒られてたね」
「うう……真田副部長は鬼ッスよ……俺、英語苦手なのに」
「誰にだって苦手教科はあるものね」
「そうッスよ。はあ〜〜〜〜……どうすっかなぁ」
「……あの、赤也くん」
「ん…?」
「私、英語結構得意なんだけど……今度、教えてあげようか?」
「えっ!?マジすか!?」
「うん。赤也くんは大事な我が部のエースだからね。ちゃんと練習に出てもらわないと」
「わーい!ありがとうッス!」


確か、その約束が明日の部活休みの日だ。


「赤也……知らんうちにえみにそんなこと言っておったんか……」


仁王が小さく舌打ちをする。


「赤也……意外とやるな」


柳もノートに何かを書き加えていた。
良く見ると、そのノートのカバーにはデータではなく「呪」と書かれていた。


「たるんどる!その程度、自分の力でやらんか!」
「真田くん、もう何を言っても無駄ですよ。お二人は行ってしまいました」
「ふふ、いい度胸だよね。俺が居るのに……」
「………幸村、とりあえずそのドス黒いのを消してくれ」


ジャッカルが怯えと恐怖でいっぱいいっぱいの顔をしています。
その間も、二人はもう二人の世界。


「えみ先輩、覚えててくれてありがとうッス!」
「当たり前だよ。大事な後輩との約束だもの」
「うう……えみ先輩大好きッス!」
「ふふ、ありがとう。私も好きだよ」
「その好きじゃないんスけど……」


切原は少しふくれっ面をしたものの、頬を赤く染めていた。
それはえみも同じ。

傍から見たらもう、恋人なんですけどね。





君と僕の秘密のpromise
(でも赤也くんは忘れてたよね?)(う……それは、)(ふふ、明日は何奢ってもらおうかなー?)




こちらは以前、相互サイト様であるえみ様に捧げた夢です。
加筆修正せずそのままの状態であげ直しました。