「ねぇ丸井くん、ガムあげるー!」
「マジ?サンキュー!」


私の想い人、丸井ブン太は甘いものが好きだ。
『あげる』と言われれば、『サンキュ』で普通に受け取る。
それは、普通の会話なのかもしれないけど。
私にはできないんだ。
何時も、ポケットに忍ばせているお菓子。
それを手にして、『あげる』というだけ。
それが、私にとっては大きな勇気。


「ねぇねぇ、風船膨らまして〜!」
「ん、いいぜ」


視界の端で丸井くんがガムで風船をつくった。
それを、女の子たちがキャーキャー言ってる。
いつもと変わらない光景。

今日も、何も行動できずにこの日が終わると思っていた。





「……はぁ、委員会長い……」


放課後、もうそろそろ下校という時。
私は委員会が長引き、今教室に鞄を取りに行くところだ。


「もう……誰も居ないだろうな」


そんな教室は寂しい。
そう思いながら教室に入り、帰り支度をする。
すると、


「ん?…桜花?」
「えっ……あ、丸井くんっ」


急に後ろから声がし、振り返ると丸井くんが居た。
ガムの風船を膨らましながら。


「お前、今片付けてんの?」
「う、うん…委員会が遅くなって……」
「あ、そっか。委員会か〜」
「……ま、丸井くんは…?」


今日は部活があって、教室には用が無いはず……。


「俺?俺は、忘れもん取りに来ただけ」


そう言って、自分の机を探る。


「お、あったあった」


丸井くんの手には一粒のキャンディがあった。


「………?」
「この味、俺好きなんだよな〜」


へへ、とキャンディを見て笑う。


「そ、そうなんだ」


その笑顔が、私にはとても眩しく見えた。


「………」
「……?」


すると、丸井くんは急に黙って私を見つめた。


「丸井くん……?」
「お前、キャンディ好きか?」
「え………う、うん、好き…」


いきなりでびっくりしたけど、一応答えた。
そしたら、丸井くんはまた笑って、


「そっか。なら、これやるよ」
「え…えぇっ?い、いいの……?」
「ああ。委員会頑張ってるみたいだし、俺からのエールだ」
「で、でも……」
「俺の好きな味ナンバーワンだから美味いって保障するぜ?」


ん、と手のひらにあるキャンディを私に差し出した。


「………」
「……どうした?」
「私が貰っても、いいの?折角他の子から貰ったのに……」


私が言うと、丸井くんはにこっと笑って、


「これ、俺が自分で買ったんだぜ?だから心配いらねって」
「あ……」


そして、私の手を掴み、手のひらにキャンディを乗せた。


「じゃ、俺そろそろ行かねーと。外でジャッカル待ってんだ」


そう言うと、丸井くんは手を振って教室から出て行った。
私は、呆然としてその場に立っていた。
手のひらにあるキャンディを見つめる。


「……折角、取りに来たキャンディを……私に?」


どうしよう。
嬉しい。
思わず、ぎゅっとキャンディを握り締める。


「………丸井くん」


甘いものが好きな丸井くんが、私にキャンディをくれた。
しかも、大好きな味を。


「………」


ねえ、丸井くん。
これって、私にとっては凄いことなんだよ。
貴方は笑っていたけど、私はきっと、照れていた。


「………好き、丸井くん…」


私、期待してもいいのかな?





たったひと粒のキャンディ
(こんなに小さいのに、私の心を大きく動かした)