※狂愛



ここは、どこ?
聞きたくても、言葉を出せない。
私の口は、布で声が出せないようにしてあるから。
動きたくても、動けない。
私の手は、布で固く縛られているから。


「桜花、どうじゃ?」


そう聞かれて、首を横に振った。


「好かんか?俺が、桜花の為に用意したんじゃよ?」


困ったように微笑しながら言う、仁王雅治。
そう、ここは、仁王の部屋。


「これとか…似合うと思うんじゃけど?」


そう言って見せたのは、手錠に、黒い、太目の首輪。
そういう小道具などが、仁王の部屋に沢山ある。
それが近づけられた瞬間、私の心の中は恐怖心でいっぱいだった。


「…嫌か。…じゃが、桜花の訴えは聞かんぜよ」


仁王が、私に一歩、近づく。
私は、後ろが壁で、それ以上動く事も出来ない。
でも、少し、背中を沿った。
それに気付いたのか、仁王は、


「…桜花…愛しとうよ…」


とても、切なそうに言った。
ああ、こんな顔だ。
こんな顔をして、いつも私を見ていた。

私と仁王は、そんなに接点が無かった。
ただ、友達のブン太の友達って事で、休み時間とかに少し話すくらいだった。
なのに、この状況。
私に、『愛してる』と囁いている。


「桜花……」


ブン太と話している時、何時も、切ない表情で私を見ていた。
ずっと、気のせいだと思っていた。


「なぁ、桜花……」


何度も、私の名前を呼ぶ。
…私だって。
私だって、貴方に惹かれていた。
貴方の事、好きだった。
だから、本当は嬉しい。
同じ気持ちだから。
でも…、でもね…。

私は黙って、切ない顔をしている仁王にすりよった。
瞬間、くくっと笑ったような声がした。


「…桜花は本当に可愛いのう」


一瞬にして、さっきの切ない表情は消え、妖しい笑みに変わる。
だって、貴方……


「それが、桜花の気持ちじゃろ?」


ペテン師、だもん……――
少し、信じられない。
好きだよ。
好きだから、後で、嘘、とか言われるのが怖い。
すぐに、捨てられそうで、怖い。


「くく、桜花は素直じゃからな。…そういうとこ、愛しとうよ」


その言葉に、何故か、涙が零れた。


「…なに、泣いとるんじゃ?」


その理由は、今は分からない。


「…嫌、なんか?」


分からない。
分かるのは、貴方の顔が、少しだけ歪んだ事。


「……じゃが、」


ゆっくり、涙が伝っている私の頬に、手を沿え、


「泣いても無駄じゃよ」


一瞬、寂しそうな顔をした。


「もう、俺だけの桜花じゃから……」


私が涙を流した理由、それは…
仁王の言葉に、少しの満足感を感じたから。
愛してる。
この想いは、これから先、ずっと言えないかもしれない。
でも、…それでも、
貴方に愛され続けるのなら。

それでも、いいかな、なんて。





どれだけ泣いても、無駄だというのに
(それでも涙は止まらない。貴方を本気で愛してしまっているから……)