※狂愛/死 それは突然の事だった。 ―――赤也が交通事故で死んだ。 消毒の匂いが漂う、白い部屋。 そこのベッドに、私の恋人、赤也は横になっていた。 顔には、白い布がかぶせられていた。 「……あ、かや…?寝てるの…?」 そっと、赤也の手に触れてみる。 冷たい。……固い。 「……桜花」 後ろに、立海テニス部の皆が同じように悲しんでいた。 「…っ、赤也、起きてよぉ…!」 「…桜花」 幸村が、私の肩に手を置いた。 「ねぇ…、何とか言ってよぉ!」 「桜花っ!」 ビク。 幸村が、叫んだ。 悲しそうに、私を見る。 私に、赤也が死んだ事を分からせるように。 「……っ、うあぁあぁぁ!」 涙は止まらないまま、私は赤也とお別れをした。 が――― 私は、まだ赤也に会いたいと思っていた。 その気持ちを、我慢することはできなかった。 そして、 『桜花先輩!』 赤也が、毎日私に会いに来る。 姿は見えない。 声だけ。 それだけでも、凄く嬉しい。 『桜花先輩、俺…寂しいッスよ』 赤也も、私に会えない事を、とても悲しんでいて。 「……私も、寂しいよ……」 会いたい。 姿を見たい。 触れたい。 気持ちが、込み上げてくる。 『桜花先輩……、会いたいッス…』 「っ、私もよ……」 どうやったら会える? 『じゃあ――』 私は今、屋上に向かっている。 『桜花先輩、こっちっすよ』 赤也の声と共に……。 「……桜花?」 その姿を、立海テニス部のメンバーは見ていた。 「赤也……どこ?」 『こっちっすよ』 ドアを開く。 眩しいくらいの光が私の目に届く。 『ほら、ここに居るッス』 声がするのは、フェンスの向こう。 「……赤也?」 フェンスに、手を付ける。 そして周りを見て赤也の気配を探す。 『ほら、早く』 「っ!?待って、赤也っ!」 その気配は一瞬にしてフェンスの向こう側へと消えようとしていた。 私は急いでフェンスを乗り越えようとした、その時。 「待て、桜花!!」 「早まるな!」 聞き覚えのある声が耳に届いた。 「っ!」 私は、その声の人たちにフェンスから戻された。 「やめてっ!離して!私、赤也のところに……」 「桜花、落ち着けぃ!」 「正気になってください!」 「嫌だ!赤也が待ってる……!寂しがってる…!」 『桜花先輩、早く』 「っ、赤也!桜花を呼ぶのは止めんしゃい!」 「!?やめて、仁王!」 「赤也、お前はもう、俺たちとは違う世界に居るんだよ」 「幸村くんっ……!」 『……邪魔をしないで下さいよ』 声のトーンが低くなった。 『…桜花先輩、愛してる』 「あ、赤也…っ、私も……!」 もう一度フェンスに手を伸ばす。 その手も、ブン太によって阻まれた。 「止めろっ、桜花!」 「やっ!離して…!赤也が呼んでる…!」 『桜花先輩、桜花先輩―――』 「赤也っ、今そっちに行……」 瞬間、私のお腹を真田くんが殴った。 私はその痛みにより…意識を手離した。 『……何するんスか、先輩たち』 「…桜花は、連れて行かせない」 『俺たちの邪魔をするんスか?』 「…赤也、お前はそれでいいのかよ」 『桜花先輩と、一緒に居たいんス』 「……諦めんしゃい」 『無理ッス。俺は、桜花先輩を愛してます』 「愛してるのなら、どうして見守れない?」 『俺、触れていたんスよね。…なのに、こうなっちまって…』 声だけでも、狂気さを含んでいた。 『桜花先輩……起きて下さい』 切原は、桜花に呼びかける。 「……っ、そうはさせない」 刹那、空気が笑った。 『……もう、遅いッスよ?』 「っ、なに―――」 起きない筈の桜花が起きた。 そして、 「赤也ぁああぁああっ!」 『桜花先輩、こっちに』 桜花は、何の躊躇いも無く飛び降りた。 「「「桜花っっ!!」」」 フェンスに手を伸ばしたが、遅かった。 『桜花先輩』 飛び降りる最中、赤也の声が聞こえた。 すぐ、そばに居る。 「……もうすぐ、赤也に会えるのよね…?」 『勿論ッス。……また、愛し合いましょうね』 「赤也………、うん…」 ――到達。 「「「桜花っ!」」」 メンバーは、すぐに外に出た。 桜花の元に向かう為に。 「…っ、桜花…!」 コンクリートに広がっていく血。 誰もが、即死と思うほど、血が溢れていた。 「……っ」 皆、桜花に近づいた。 そして、桜花の表情を見て、全員、涙が込み上げてきた。 「「「……っ」」」 切原に会いたがってた桜花。 その、願いが叶った。 桜花は、満足そうに、幸せそうに微笑んでいた―― 『桜花先輩、愛してるッス』 『赤也、私も』 『これから、一緒ッスね』 『うん。ずっと、一緒に居ようね……』 本人が幸せなら、それでいい。 そう思う? こっちだよ、愛しい人 (呼びにきてくれてありがとう……赤也、愛してるよ) |