※狂愛/死



「ブン太、好き」
「俺も、好きだぜぃ?」


私は毎日、恋人のブン太に自分の想いを告げている。
ただ純粋に、好きだから、という理由だけじゃない。
不安だから。
ブン太が、本当に私だけなのか、心配だから。

だって、ブン太は。


「ああ、だから……」
「えー、ブン太ぁ、それホント?」
「ほんとだって」


私以外の女の子と、凄く仲良くしてるから。
しかも、私が近くに居ても。
どこに行っても、必ずブン太は他の女と楽しく話してる。
それが、複数なら、まだいい。
その相手は、特定の人だった。


私の親友の深雪。
深雪も、私とブン太の関係は知っている。
だったら、何故?
中々引かないイラつきが毎日続く。
もう、嫌だ。
ブン太に聞いてみよう。


「…ねぇ、ブン太」
「あ?何?」
「……なんで、深雪といつも居るの…?」


勇気を出して聞いた。
でも、返ってきた言葉は、全然意味を持たない言葉だった。


「別に、いいだろぃ?」


話はそれだけか、と膨らましていた風船をパチンと割り、この場所を去る。
他の子と話している時とは比べられない位の激しい怒りが私の中を廻る。
別にいい?
何で?
私はブン太の彼女だよ?
好きって、何時も言ってくれてるでしょ?
何で、何で、何で……っ!!
収まらない怒りは、ブン太ではなく、深雪に向かった―――





次の日の放課後。
私は、まだ教室に残っている深雪に、聞いてみた。


「……ねぇ、深雪。どうして、ブン太と話してるの?」


聞くと、深雪は悲しそうな顔になって、


「……ごめんね、桜花。私、ブン太の事が好きになっちゃ…」


言い終わる前に、私の目の前には赤色が飛び散った。


「嫌よっ!ブン太は、私のもの…!」


握っていたナイフを、深雪に突きつけた。
倒れこんだ深雪の上に馬乗りになり、何度も、何度もナイフを切りつけた。
この耳でブン太の声を聞いた。
この眼でブン太を見た。
この鼻でブン太の匂いを嗅いだ。
この口でブン太と話した。
死んでいると分かっているのに、もう、原型が分からなくなる位、切りつけた。


「はぁ…っ、はぁ…っ!」


ガラッ。


「!!」


教室のドアが開いた。
急いで私は人間の形だったものの上から退いた。


「あーあ、こんなにしちゃったのかよ」
「…ブン太…!?」


外から覗いたのは、ブン太だった。


「や…これはっ、違……!」
「いーよ、何も言わなくて。殺ると思ってたし」


そして、ガムを膨らました。


「ていうか、殺るようにしたんだけど」
「―――え?」


ブン太の言っている意味が分からなかった。
何?何を言っているの?


「桜花ってさ、結構嫉妬深いじゃん?こうでもすれば殺ってくれるかなーってな」
「え…、なん…で…」


私が…深雪を殺す?
そう仕向けたの?





「だって、俺―――」





ブン太が風船を割った。
その瞬間、私の首に、何か巻きついた。
固くて細いそれは強い力で私の首を締めつける。


「うっ…ぐ…ぅぅ……!」


抵抗する間もなく。
助けを呼ぶ間もなく。
一瞬にして、意識が遠くなって、身体から全ての力が抜けた。





「これ、いらねえな」


人間だったものは、全身が血まみれで、骨が所々出ていた。


「折角、桜花に殺らせたのに」


はぁ、と溜息が出てきた。
桜花の友達だから、貰おうかと思ったけど。
まぁ、狂った桜花が見たかった、ってのもあるけどな。


「それにしても……、思ったとおり、死んでも綺麗だぜ」


丁寧に床に横になっている桜花の死体を見た。


「……綺麗…すげぇ綺麗…」


ゆっくり桜花の死体に触れ、抱き起こしてみる。
だらん、とした桜花の手。
生気のない顔。
全てが蒼白の色になってすっげぇ綺麗。


「俺…生きてる桜花、好きだぜ?」


指で、桜花の唇に触れ、


「でもな…死んでる桜花は、愛してる」


ゆっくり、キスをした。


だって、俺、死体愛好家だから―――


その顔はとても満足で
とても喜びに満ちていた。
だが、逆に。
自分は何故、こんな愛し方しか出来ないのか
何故、こんな想いになるのか。

気持ちは矛盾したまま―――





きみを愛する理由
(……こんな風にしか愛せなくて、ごめんな)