※悲恋



柔らかいきみの声。優しい表情。良い匂いのする髪。全てがいとおしいきみ。俺はきみの隣が好きだった。その声が好きだった。いや、全てが好きだった。その気持ちは今でも変わらないけど、何でこんなに悲しいんだろう。きみが好きなことはとても幸せであたたかいのに。どうしてこんなにも苦しく切なく、虚しい気持ちになるんだろう。答えは?聞いてもきみは答えてくれない。というより質問すら聞けない。俺はきみに最高の愛を与えたはずなのに。きみはどう思った?俺の愛を。俺は一時たりともきみを想うのを忘れたことなどない。それじゃ満足できなかった?ずっときみの傍にいたら良かったのか?ずっとずっと愛の言葉を囁き続ければよかったのか?なあ、答えてくれよ。きみの声で聞かせてくれよ。しっとりと紅い唇で、呟くだけでいいから。俺を答えに導かしてくれ。きみは俺と居て幸せだった?俺は幸せだった。きみと一緒に居た日々はとても輝いていた。きっと、俺の人生の中でも一番。きみは違うのか?


突然「さよなら」と言われても俺は納得いかない。どうしようもできない。後悔も、悔やみも憎悪も沸かない。ただぽつりと立っているだけで、ガラスが雨を弾くように俺の心が感情を弾く。なあ、今はきみはどこに居るの?俺、きみの為なら何でもするよ。悪かったところがあるのなら直す。して欲しいことがあるのなら全てを捧げる。お願いだ、俺にはきみが必要なんだ。きみを愛することで俺は幸福に満ち足りていた。きみがいないとだめなんだ。幸せの光なんて見えない。感じられない。掴みたくない。次こそはちゃんと幸せにするから。本当は分かってるんだ。何故きみが俺から離れていったのか、目の前から消えてしまったのか。俺は、自分の自己満足を押し付けてたんだろう?きみの気持ちが俺のところにあると思い込んでたんだ。それは違ってた。俺の愛をきみは重く感じていたんだ。俺は第一にきみを考えていた。それが迷惑だったのかもしれない。なあ、謝るから。今度は自分の感情を抑えてきみを愛するから。戻ってきてよ。もう一度俺を愛して。唇を薄く開いて、囁きが空気と化してもいい。微かでいいから聞きたいんだ。きみの口から。俺の口からは、きみが望む時だけ囁くよ。一生分の愛を込めて。言うから、な?お願いだよ、もう一度いとしいきみの姿を見せてくれ。



囁くように呟いた。でも………


もうきみはいない。





儚く散ればいいのに
(こんな想いなんて。虚しさを増すだけだ。それでもきみを愛してるだなんて、)