「桜花、ひとついいかな?」 「嫌です」 「あれ?君に拒否権なんてあるのかな?」 「なら最初から聞かないでください」 目の前の美人さんは笑顔。 私は無表情。 この人の前だと表情を作る暇もない。 「………」 「………」 「………」 「………」 「………ふふ、」 「すみません何でございましょうか」 一瞬どす黒いオーラがMAXになったのは見間違いではなさそうだった。 「もう、初めからそう素直になったらいいのに」 「そうしたら命がいくつあっても足りません」 「うん、頭の良い後輩だね」 そう言ってニコッと笑う美人な先輩。 ああ、怖い。 「それで、何なんですか」 「うん、ちょっと君に命令があってね」 少し投げやりに言ったのにはツッコまず、話を続けた。 それにしても頼み≠カゃなくて命令≠ネんですか。 「これを着てくれないかな?」 「お疲れさまでしたー<」 私は回れ右をしてその場から去った。 そして、部室から出ると全力疾走をした。 あれは何かの見間違いだろうか。 フリフリが見えたような気がする。 「おや?桜花さん、どうして走っているんですか?」 「なんだ、ダイエットかよぃ」 「こんにちは、ジェントル先輩。それとデブン太先輩」 「お前もうちょっと普通に呼べよ」 なら先輩たちも普通の先輩になってください。 「ん?桜花、何してんだよ」 「あ、ワカメ」 「あぁ?」 「お、落ち着いてください赤也くん。桜花さんも挑発するような発言はしないで下さい」 流石ジェントルマン先輩。 赤目になった赤也と私の間に入った。 「ふふ、ここで何をしてるの?」 ついでにこの人も止めてください。 「あ、幸村先輩また会いましたね。それではさようなら」 「ちょっと待ちなよ」 行こうと思ったら今度は肩をつかまれた。 あ、痛い。 ミシミシいってる。 私の華奢な骨が悲鳴をあげてるよ。 「何しとるんじゃ?お前さんら」 ここで登場したのはペテン先輩ならぬ仁王先輩。 「あ、仁王。ちょっと桜花を捕まえてたの」 「ほーう」 「興味津々な目で見ないで下さい」 こっちとしては大分迷惑です。 「そんで、何で捕まえてるんじゃ?」 「桜花にこれを見せたら逃げ出したから」 そう言って幸村先輩が出したのはフリッフリのメイド服。 「何でそんなの着ないといけないんですか」 「部長命令だから」 乱用だ。 職権乱用すぎる。 「なんじゃ、幸村。そんなのいかんぜよ」 ニオ先輩はそう言うと私の腕を引っ張って助けてくれた。 「……に、ニオ先輩……」 私は感動してニオ先輩を見た。 そしたら、ニオ先輩は喉で笑って、 「メイドよりバニーじゃろ」 貴方もそっちでしたか。 一気に絶望を見た。 「へえ、仁王も良い趣味してるね」 ニッコリと幸村先輩は笑った。 私からしたら、悪趣味ですよ。 無抵抗な後輩を捕まえて自分の欲望のままに着替えさせようだなんて。 「でもね、バニーの服なんて無いでしょ」 「あーるよ」 ニオ先輩が意地悪っぽく言うと私と幸村先輩の目の前に衣装を出した。 「あ、本当だ」 何納得してるんですか。 ツッコみましょうよ。 周りの皆さんも。 「へー、それがバニーの服?俺初めて見たぜ〜」 「私もです」 「俺もッス」 何気にジェントル先輩まで! 「でも、やっぱりこっちでしょ?」 負けじと幸村先輩もメイドを掲げた。 「あ、俺こっちの方がいいッス〜」 飛び込んでくるなワカメ。 「……ていうか、何でそんなの持ってるんですか」 「「借りた」」 嘘だ。 この表情は嘘だと語ってる。 「……どこからですか?」 「「演劇部」」 「………。本当に借りたんですか?」 そう言ってまず幸村先輩を見た。 「うん。ちょっと頼んだら喜んで貸してくれたよ」 貴方が頼む姿なんて想像できません。 命令でしょう。 「…ニオ先輩は?」 「俺も借りたんぜよ。ちょっと相手の弱味を握ったら泣きながら差し出してくれたしな」 「貴方達最低ですね」 どちらも脅しじゃないですか。 「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。とりあえず着て」 「嫌です」 「どうしてもか?」 「勿論です」 「しょうがない。じゃあ俺が脱がしてあげるよ」 「喜んで自分で着てきます」 なんとも情けない自分だな。 そう思いつつも行動は二人の持っていた衣装を奪って部室に向かった。 「はぁ……なんという強引さ」 どうしたらあんな性格になるのだろう。 不思議だ。 でも、そんなこと言ったら殺される。 「……命が惜しいから幸村先輩のから……」 そう思い、メイド服に手をかけてみた。 「………あ、」 これ、小さい。 絶対小さい。 袖を合わせてみると、5センチほど短い。 「……無理だよね」 私は着るのを諦めた。 いくら幸村先輩でもサイズは分からなかったみたい。 「………こっちは着たくなかったな」 ニオ先輩のバニーの衣装を見た。 コスプレの中でも一番露出度高いでしょ。 「……今度から変態先輩って呼ぼうかな」 考えた。 だが、実際行動には移せないだろう。 これ以上酷い目には遭いたくない。 「………」 私は着てみた。 「………なんでこんなにピッタリなのか」 ニオ先輩は私のサイズが分かるのか! 危ない。危なすぎるよあの人。 「……それにしても…」 私は傍にあった全身が写る鏡を見た。 「これで外には出れない……」 いや、出てはいけない。 学校でこんな姿を曝したら私は恥ずかしくて死んでしまう。 命は大切にしたい。 「桜花〜、着たか〜?」 私の心の声が届いたのか、ブン太先輩がドア越しに私を呼んだ。 「あ、はい……一応」 そう答えるのと同時にドアが開いた。 何で同時なんだろう。 もし着替えてなかったらどうしたんだ。 「おっ!似合うじゃん〜!」 「ブン太、俺より先に見るなんて、きっと覚悟できてるんだろうね」 「……わ、悪い、幸村…」 何で私たちはこんな黒い部長を持ってしまったんだろう。 「桜花、どうしてメイドじゃないんだい?」 「サイズが小さかったからです」 あまりの鋭い視線に早く答えを言った。 「それにしても、似合うとるな」 そんな私たちの会話に割り込むようにニオ先輩が言った。 「……さり気なく後ろに来るのやめてもらえますか」 しかも肩に手を置きながら。 「そそられるのう」 「私はそんな気はないので」 あえて振り向かない。 「くく、本気じゃよ?」 「……そうですか」 「信じてないな」 「そりゃ、貴方ですから」 今まで何回騙されてきたと思ってるんですか。 「でも、今回は本当じゃよ。な、桜花?」 「っ……」 耳元で囁かれる。 この人の声にはクセがあるからくすぐったい。 「……知っとるか?」 「な、何をですか…」 「俺の好みのタイプがバニーの衣装が似合う子って」 「それは初耳ですね」 これは絶対に嘘だ。 「じゃから、俺ん家来ーへんか?」 「ちょっと。何を調子に乗ってるんだい?仁王」 ここでやっと幸村先輩が止めてくれました。 「いいじゃろ?今日だけ見逃してくれんか」 ていうか私の了承を得てからにしてください。 「うーん…明日の練習量五倍でいいならいいよ」 何ですかその条件!? 通常でもきついのに! 「ん〜、まあええじゃろ。桜花、行くぜよ」 「……どこにですか」 「二人きりになれるところじゃ」 つまり、さっき言ってたニオ先輩の家ですか。 ……何だろう、この危機感。 そんなのを感じていると、私の身体はニオ先輩の腕によって持ち上げられた。 「ってこの格好で行くんですか!?」 「ああ」 「ちょっ、嫌ですよ!せっせめて制服っ……」 「心配なさんな。後で俺が着せてやるから」 「自分で着ます!」 結局ニオ先輩に下ろしてもらった時には逃げれる場所ではなくて……。 今度からエロ師先輩って呼ぼうと思った。 「ふっふふふ……」 「……ゆ、幸村、どうしたんだよ」 「ちょっと行くところがあってね」 「そ、そうですか……」 幸村の手にはメイド服。 「後は任せたよ、柳生。ふふふ」 幸村の行く先は決まってます。 部室から幸村は出て行きました。 「……可哀想に」 「そのうち、悲鳴が聞こえてくるぜい」 この後、丸井の言った通りになりました。 −おまけ− 「……明日の練習、大丈夫なんですか?」 「あー平気じゃ。俺、ペテン師じゃし」 「……だからって、相手は幸村先輩ですよ」 「問題ないぜよ。いざとなったら桜花を差し出す」 「何でですかっ!」 「冗談じゃ。俺が桜花を離すわけないじゃろ」 「っ……」 我が欲望のままに (少しは私の意見を聞いてください) |