「桜花先輩!一緒に帰りましょー!」
「あ、赤也。いいよー」


放課後になると子犬の如くやってくる可愛い後輩。
恋人でも、こういうところは弟みたいな感覚になる。


「ねぇ赤也、今日ね……仁王に聞いたんだけどさ」
「え、仁王先輩に?何をッスか?」
「赤也って英語全くだめなんだってね」
「ぶっ!!」


意地悪っぽく言ってみたら赤也は噴き出した。
……図星なんだ。


「な、なな何でそのことを!」
「だから、仁王に聞いたの。英語の点数いっつも赤点なんだって?」
「う……(仁王先輩め……)」


問い詰めるように赤也に言うと、はぁ、と溜め息をついた。


「あ〜も〜〜……。かっこ悪いッスよね、俺……」
「あはは。そんなことないって。私だって苦手な教科くらいあるよ」
「俺、英語だけはほんっとにダメなんスよ…」


さっきまで元気だったのに今は肩を落としてる。
……可愛いなぁ。
なんだか意地悪したくなっちゃう。


「じゃあ赤也、『こんにちは』って英語で言える?」
「なっ!それくらいなら分かるッスよ!」
「あー、ムキになってるー」
「もう……からかうのは無しッスよ……」
「あはは、ごめんごめん」


笑いながら頭を撫でたら、子ども扱いしないで、って怒られた。
さっきみたいにムキになるようだからまだまだ子供なのにね。
その日はそんな風に赤也をからかって、楽しく家まで帰った。





次の日。
いつもなら登校中にばったり会っちゃうことが多かったのに、今日は赤也に会わなかった。
でも、まぁしょうがないことだと思って学校に向かったが何かおかしい。
昼休みになっても赤也が来ない。
いつもなら私の名前を恥ずかしいってくらい大きな声で呼ぶのに。
それでも何か事情があるんじゃないのかと思った。
でも気になったから廊下に出てみると、


「あ……、あそこに居るのは……」


私のクラスと少し離れたクラスに見覚えのあるもじゃもじゃ。
よく見るとやっぱり赤也で、誰かと話している。


「あれは……柳…?」


遠くから見ると何か必死に柳に聞いているような感じの二人。
何なんだろう。
テニスについてかな?


「う〜ん……ここは近づいちゃだめっぽいかも」


テニス部のことについてまで話を聞けるほ程私はテニス部には関わっていない。
私は諦めて自分の教室に戻りお弁当を食べた。
午後の授業はほとんど上の空だった。
気づいたら放課後になっていて。


「……結局、今日はまだ赤也と話してないなぁ……」


昨日まで、嫌って程犬みたいに寄ってきていたのに。
今日はどうしたんだろう。
……もしかして、昨日のことを根に持っていたり。
意地悪のしすぎかな……。


「う〜……赤也ぁ……」


しばらく自分の机に伏せてじたばたしていると、急に教室のドアが開いた。
条件反射で私はドアを見る。
そこには赤也の姿。
目が合うと、私のところまで走ってきて、私の腕を掴んで走る。


「え、えっ?赤也…?」


私も走っているが、どこに行くか判らない。
赤也は何も言わず私の腕を引っ張る。
しばらく走っていると、屋上に続く階段も駆け上がった。
赤也はドアを開き、解放感のある屋上に出る。


「……赤也…?」


赤也の名前を呼んでみると、赤也はようやく私の方を振り返った。


「………」


赤也は無言で私に近寄る。
そんな赤也が少し怖くて後ずさった。
私はすぐ後ろにあった壁に背を預ける。
赤也は見上げている私の顔に自分の顔を寄せて、


「There wants to be me near you all the time」


とても真剣な顔つきで私に告げた。
少し、ぎこちない発音の英語。


「……え、赤也……」
「If there is you, I am happy」
「………、」
「I love you most in the world」


言い終わったのか、赤也は真っ赤な顔をして私を抱きしめた。


「っ…赤、也……」
「……俺、昨日先輩に英語のことで言われて……ちょっと、ムキになってたんス」


少し抱きしめる力が強くなった。


「だから、今日は先輩のことを見返そうと思って……今日一日、真剣に英語を覚えたんス」
「あ……もしかして、」
「……柳先輩に教えてもらいました」


今日の昼休みに見たのは…テニス部関係じゃなくて……英語を教えてもらってた……?
私に会いに来なかったのは、このため……?


「俺、勉強の英語は大嫌いだけど……桜花先輩の為なら、ガラじゃなくても言えるッス…」


赤也の腕の力は緩まったと思えば、赤也は私の身体から離れる。
そして、私をまっすぐ見つめて、


「それくらい、桜花先輩のことが大好きッスから」
「……っ」


嬉しくて涙が出そうだった。
でも我慢して私はこくんと頷いた。


「先輩、俺の言った英語の意味分かる?」


こっちが弱気になったらすぐにそっちは強気になるんだから。
昨日の私みたいに意地悪そうな笑みを浮かべて私に聞いてきた。


「……判るわよ、バカ也…。




私だって、世界で一番赤也のこと愛してるんだから」


そう言うと、赤也は愛しそうに私の頬に触れてふわりとしたキスを重ねてきた。

馬鹿。
そんな貴方が本当に愛しい。





−おまけ−


「でも、どうして屋上まで行く時無言だったの?」
「あー、それは……だって、もし桜花先輩と会話しちゃったら英語忘れちゃいそうだったから」
「……バカ也。いきなり引っ張ってくからびっくりしたじゃない」
「すんませんって」
「……ドキドキが止まらなかったんだから」
「そんなの俺だって同じッスよ……。英語で告白したのなんて生まれて初めてッスから」
「じゃあ、今度は日本語で言ってくれる?」
「は、恥ずかしいから嫌ッスよ…」


There wants to be me near you all the time(ずっとあなたの傍に居たい)
If there is you, I am happy(あなたがいるから私は幸せ)
I love you most in the world(私は世界で一番あなたを愛してます)





You told love in English
(あなたは英語で愛を告げた)