※悲恋



私はまだ子供だったのかもしれない。
人を好きになることは、とても楽しいことだって。
毎日が、輝いて見えることだって。

そんな事を
何の疑いもなく信じて。

愛しい人の事を想うだけで
胸が締め付けられて
(本当は羨望に心臓が握りつぶされて)

その名を口にするだけで
体中熱が走りまわって
(応えてくれないことの哀しさに目頭が熱くなって)


そんな………
在りもしないことを。





前方から聞こえる、ふたつの声。
私はそれを、なるべく見ないように聞かないようにしている。


「赤也くん、宿題やってきたぁ〜?」
「は?宿題?んなもんあったっけ」
「あったよ〜!やっぱり忘れてた〜」
「やべっ……なぁ、見せてくんね?」


誰かが言ってた。
片想いは、たとえ思いが繋がってなくても楽しいものだって。
幸せなものだって。


「どう?できた〜?」
「ちょ、まだだって!」


でもそんなものは所詮空想に過ぎない。
幸せなんてあるもんか。
今、私の中を渦巻くのは
嫉妬と、憎悪と、羨望。


「ほら、早くしないと先生来ちゃうよっ」
「あ、後少しだってっ!」


私は切原が好きだ。
大好きだ。
こんなに大好きなのに!


「でも、赤也くんて、テニス上手いよねー」
「はぁ?今更何言ってんだよ」


心の中ではどんなにでも叫べる。
愛してるとも言える。
貴方が居ないとだめなんて、そんなありきたりなセリフだって言える。


「当たり前じゃん。俺は立海のエースだぜ?」
「あはは、それって自慢〜?」


でも
いくら心の中で叫んだって、あいつには何一つ届いたりしないんだ。
分かっていても、私は何も行動に移せない。
怖い。
怖いんだ。
貴方に嫌われてしまうことが。


「あ、やべっ!忘れもん!」


そうやって、一番後ろの席の私の横を通って取りに行く姿。
貴方の姿が近くに来ただけで、私の心臓は破裂しそうなのに。
通り過ぎた後に来る風がこんなにも愛しく思えるのに。
それくらい、私は危ないことになっているのに。
貴方は気にも留めないんだから。


「あったあった」


そう言ってロッカーから自分の席に戻る合間に。
ふと、目が合うと、


「なぁ桜花、お前宿題やってきたか?」
「は、はぁ…?あったり前じゃん」
「ちぇっ。忘れてたら面白ぇのになー」
「なっ……何よそれ」


そう笑ってから、また戻っていく。
そんな十数秒の会話が、私を舞い踊らせる。

貴方がどれだけ好きかってことが、思い知らされる。
素直になれないの。
もっと話したいのに。
楽しいことを話したいのに。
いざ目の前にすると、出るのは憎まれ口。
今はそれで慣れてしまったけど。
私はそれだけじゃ足りないんだよ。

そして、また。


「もー、先に用意しないとだめじゃん」
「んなこと言ったって、忘れるもんは仕方ねーじゃん!」


私は自分から動く勇気もないくせに、貴方の周りに居る人たちに嫉妬をしてしまう。
思い通りにならないもどかしさに泣きそうになってしまう。
そんな衝動ばかりで。
貴方の傍に居たい。
そんな、切実な願いは誰にも聞きいれてもらえず。
また、
私の胸の奥深くで眠ってしまうんだ―――





もう今は
片想いは楽しい。
見てるだけでも幸せ。

なんて考えは持っていない。

私は、知ってしまった。
ただ一途に想い続けるだけの疲れと
想っても届かないもどかしさ。
自分では何もできずに足掻くだけの無力さ。

知ってしまった。
片想いの難しさ、辛さ。
もう止めたいと、諦めてみるけども。
どうしてもまとわりつく抑えきれない気持ち。
心に残る蟠り。

それなら、知らなくて良かった。
こんなにも哀しくて虚しいのなら

片想いなんて
貴方の事が好きなんて
人を愛する気持ちなんて

知らない方が、
気付かない方が、


幸せだった―――――――――?





想い続ける事の虚しさと寂しさ
(これだけは知ってる。結局は自分が弱いだけなんだ!)



はい、珍しくあとがきのある短編です^^
いやー、片想いって辛いですよね!
今回は実際私が思ったことのある内容を愛する赤也くんを取られた時の気持ちを考えながら進化させました←
私は特に嫉妬深い方ですが、そんな人は他にも居ると思います!
ただ感情を書き殴っただけの変な作品ですが
私は青春時代の思い出として残しておきたいと思います\(^0^)/