※悲恋



俺には、たとえ一生かかっても伝えられない想いがある。
それはとても重苦しく俺の心に居座っている。


「………桜花、」


その原因は、今俺の目の前で泣き崩れている奴のせいだ。


「っう、……にお……っ」


大きな瞳を涙で潤せ、小さな肩が小刻みに震えている。
俺には、安易にその肩に触れることができない。


「……どうしたんじゃ、お前さんらしくもない」
「……っだって……あんなに、愛していたのに……」


俺は偶然、見てしまった。
ついさっき。
桜花が、桜花の大好きな恋人から、別れを告げられているところを。


「……ああ、そうじゃな」


桜花の言葉の通り、桜花は本気で相手を好いとった。
朝はその愛くるしい笑顔で挨拶を交わし、
昼はその小さな手で作った弁当を食べあい、
放課後はその大きな瞳はずっと相手を見つめていた。


「っ私………もうどうしていいのかっ……」


床に崩れ落ちている桜花。
俺は何もしてやれない。
だって、
俺はお前さんを愛しているから。


「ずっとずっと……一緒だって……っ」


お前さんが振られているのを見て。
少しでも……嬉しいと思ってしまった俺には。
俺はずっとお前さんを欲していた。
それが手に入れば、それ以上のことはなかった。
でも、現実はそうはいかない。
求めているのは、いつも俺ばかりで。
お前さんから求められることなんて……、


「っ……仁王、」


桜花は立ち上がって、俺に抱きついてきた。
小柄な桜花は、俺の腕の中にすっぽりと収まって。
ぎゅう、と抱きつかれ、俺も静かに桜花の後ろに手を回す。

そう、
求められる時は、いつもこんな時で。


「仁王っ……にお、っ」


名前を呼ばれるのも、お前さんが悲しんでいる時。
そう、俺はこういう時にお前さんの悲しみを和らげることしかできない。
それしか、お前さんから求められることはない。


「っ……お願い、仁王……。キス、して……っ!」


それでも俺は構わない。
俺は……こういう機会がないと、お前さんに触れることができないから。
不可抗力、という形でしか……。


「…………目、閉じんしゃい」


そう言うと、お前さんはゆっくりと目を閉じる。
この時だけ、俺は桜花を一人占めできる。
だから、俺はいいんだ。
一度きりのお前さんの恋人で。


たった一度きりだけど
俺の全てで、お前さんに愛を与えるから。





Satisfy me who longed for love
(お前さんが俺の愛を求めるのなら、俺はそれに応えよう)