「桜花ー、今日一緒に帰ろうぜ!」
「………大きな声で呼ばないでくれる?うざい」


俺の彼女は、どこか冷めている。
いつも憎まれ口を叩いて、眉だっていつも真ん中に寄ってる。
だけど、俺はそんな彼女に惚れている。


「そんなこと言って、恥ずかしいだけだろ?」
「違うわよ。……あれ、あんたに呼ばれると、なんかこっち見られるし」


桜花はただ、恥ずかしがり屋で素直になれないだけなんだ。
それを、俺は分かってる。
でも皆は知らない。
少しの優越感。


「……それに、今日部活は?」
「あー、今日は休み」
「あ、そ…」


それだけ言って席から立つ。
一緒に玄関まで行く時も、離れて歩いてとか言われたけど、俺は遠慮なくくっついた。
好きな奴とは近くに居たいだろ?
……俺が告白した時から、桜花の態度はこんな感じだった。

「桜花、俺と付き合ってくれ」
「…………」
「……嫌、か?」
「……別に…嫌じゃない」


あの時、はっきり好きとは言ってくれなかったけど。
嫌われていないと分かっただけで俺は嬉しかった。
少し俺の方が一方的だけど…。
それでも、形だけでも恋人≠ナいられて幸せだった。
だけど、最近の俺は……幸せを感じるのと同時に、寂しさを感じていた。



「なぁー、桜花」
「………何よ」
「俺、桜花のことすっげえ好きなんだけど」
「……いちいちそんな事言わないでくれる?それに、もう少し場所もわきまえてほしい」


二人だけの帰り道。
別に軽い気持ちじゃなかったけど、言いたくなったから言ってみた。
桜花は、照れるわけでもなく返事をくれるわけでもなく……。
ただ、目を細めてそう言うだけ。
手を繋ごうと、左手で桜花の右手に触れてみる。
すぐさま桜花は右手をポケットに突っ込んだ。

なぁ、
こんなに好きなのは、俺の方だけなのか?


「………」


一度も彼女は俺の目を見てくれない。
そんな、俺にとっては気まずいともいえる空気の中、俺たちは桜花の家の前で止まった。


「………じゃあ、私はこれで」
「ちょっと待てよ」


家の門をくぐろうとする桜花の腕を引き止める。
桜花は少し驚いたのか、ぱっと俺を見た。
そして、不機嫌そうな顔で、


「………何」
「あ……いや、その……」


正直なところ、何も考えずに俺は桜花の手を引いてしまった。
とっさのことで、話題も何も考えてない。
何を言ったらいいのか、それとも「何でもない」で済ましたらいいのか……。


「っわ、悪い………忘れた」


俺の中の結論が出る前に、俺の口がそう言ってしまった。
そして、


「……すぐに忘れる、なんてどうでもいいことなんでしょ?だったら初めから引き留めないでよ」


どうでもいいこと?
俺はこんなに桜花のことで悩んでんのに?
桜花が好きで、好きで、不安で。
俺の一方的な気持ちが桜花を迷わせたり、困らせていないのか心配で。

こんなに―――――――触れたいと思ってるのに。


「………桜花、」
「っえ……!」


俺は掴んでいる腕を思い切り引き寄せ、しっかりと桜花を抱き締めた。
桜花の細い身体が、俺の中に埋まる。


「ちょっ……は、離してよ…!」


桜花は抵抗をし始める。
だけど、今日だけは……桜花を離したくない。


「桜花は俺の事が好きか?」
「っ急に何言ってっ……」
「答えろよ……!」


桜花の耳元で、絞り出すように囁く。
一瞬桜花は言葉に詰まった感じだった。
だけど、俺の必死さが届いたのか、


「………………き、だよ…」


何か聞こえた。
耳元にあるはずなのに、細かにしか聞こえない。
俺はもう一度聞く。


「だ、から……好き、って言ってんのよ……!」


だから離して、という感じで手を引き剥がそうとする桜花。
だけど、俺は力を緩めない。
桜花の言葉は、凄く嬉しかった。
でも俺はこれで下がれなくなってしまった。


「……悪い、桜花」
「え、なっ……―――――!」


俺は一度桜花を離して、肩に手を添え、桜花の唇にキスをした。
桜花は本当に驚いたのか、動かなかった。
俺は目を閉じて……桜花を安心させるように、優しく頭を撫でてやった。
すると桜花の身体の力も抜け、だんだんと手を俺の背中に回してきた。

そして、きゅっと桜花が俺を抱き締めてきた時、
もうこのまま死んでもいいくらい、嬉しくて幸せだった。





今日俺は君の口を塞ぎます
(誰にでも、口で言えない事はある)(だから、このままずっと、君なりの愛を感じたかった)