ボクは最近すごく疲れています。
高校に通い始めたから?違います。
修業を続けているから?違います。
ちなみにボクの身に降りかかることではないです。そんなことでボクは疲れません。
ボクにもどうしようもできないこと……つまり、


「悟飯、今日もユズを天から見守っていたんだが」


ピッコロさんが過保護すぎて物凄く疲れています。
しかも対象はボクのクラスメイトの女の子。その子にはひょんなことからボクの正体がばれてしまい、なし崩し的に周りの人たち全員と接触した。
今思えばボクの行動が迂闊だった……けど、今それを嘆いても仕方がない。


「……そうですか」


ピッコロさんも例外なく彼女、ユズと会った。
それから毎日のようにボクはピッコロさんに同じ報告を聞かされている。
どうやらピッコロさんはとてつもなくユズのことを気に入ってしまったようだ。
それだけを捉えれば、ボクとしても嬉しいことだ。
彼女はボクの正体を知ってもびっくりはしたけど怖がらなかったし、むしろばれないように内緒にしてくれている。優しくて笑顔の可愛い普通の女の子。すごく良い子だ。
そんな子と、自分を幼い頃から知っていて尊敬している師匠のような存在が仲良くしている。喜ばしいことだ。


「12時46分、ユズに話しかけていた得体の知れない奴は誰だ」
「……次の授業の用意を頼みに来た先生ですよ」


このピッコロさんの異常な執着心させなければ。


「そうか。ユズは危なっかしいからな。変な輩に騙されないか心配だったんだ。あと数分話し込んでいたら、乗り込むところだった」


ピッコロさんの方が十分すぎる程危ない存在だと思うけど……そんなこと言えるはずもない。
ボクはこれでも、まだピッコロさんのことは尊敬しているから。疲れることに変わりはないけど。


「……ピッコロさん、あまりユズを見すぎるのもどうかと……ユズにもプライバシーがあるし……」
「何を言う。野蛮な事件も多い昨今、ユズが暴漢に襲われでもしたらどうするんだ」


腕を組み、冷静に分析するピッコロさん。
……うん……言っていることは間違ってないんだけどさ。
四六時中ユズのプライバシーが筒抜けっていう方が重大な気がするんだ。
ユズは見られたらいけないようなことをする子じゃないけど、何も知らないユズを見ているのは申し訳ない気にもなる。
ピッコロさんも、いくら神様の力があるからってストーカーみたいなことしなくても……。


「むっ!ユズが動き出した」


そりゃ動くでしょと思うけど、そう突っ込む気力もない。
ピッコロさん自身はさっきも言っていたみたいに善意でユズのことを見ているみたいだし……。
意外と直接会って話をしている時とかは普通に接しているから問題点といえばこの覗き見くらい。
やめたらと言ってもまたピッコロさんはユズに危険なことがあったらどうすると怒るし……。
一度、そんなに心配なら俺がずっとユズと一緒に居て守りますよと言ったら、この世のものとは思えないほどの顔をされた。
ボクも今まで生きてきてあんなにピッコロさんの嫌そうな顔は初めて見た。


「見ろ悟飯、ユズが目の前を歩いていた人間の落とし物を拾って届けているぞ」
「ああ……そうみたいですね……」


今のピッコロさんにはユズのことしか頭にないからか、ボクに下界を見る能力はないということも忘れている。
でも今みたいにピッコロさんが全部口に出して教えてくれるから特別不便はない。


「……感謝をされても笑顔で謙遜するとは……悟飯、ユズは天使なのではないか?」
「天使ならピッコロさんと同じ天界にいるはずでしょう」


こんな風に時々ピッコロさんが血迷っているのかと心配になるような発言をする。
これに冷静に答えるのも結構神経を使う。
そうですねと同調すると更にピッコロさんの勘違いが一人歩きして痛い目を見るからここはきちんと否定しておく。たとえ面倒でも。


「………地に落ちた天使なのか……?」
「しっかりしてくださいピッコロさん、ユズは普通の女の子です」


まるで安い中二病のようなことを言うピッコロさんに、ボクは死んだ魚のような目で突っ込みを入れる。
ね?これに同調したらどんなことになるか……前にボクは面倒だったため適当に『ソウデスネユズハ天使カモ』なんて言ってしまった。
するとピッコロさんはユズを天界に連れてきて住まわせようとしはじめた……。いつも冷静なピッコロさんなのにあの時の行動力は凄かった。
訳も分からずとりあえず神様であるデンデに挨拶するユズと、必死にピッコロさんを止めようとするデンデと、本心から行動を起こしているピッコロさん……あのカオスを見てボクは自分の過ちを悔いた。
セルにとどめを刺さなかった時と同じくらい悔いた。


「む……今度は階段を登ろうとする老人の荷物を持っている……」


どうやらユズは次の親切を始めたようだ。
ボクも驚いたことだけど、ユズは困っている人がいたら放っておけない性分の子だ。
自分のことを後回しにしてでも他人を助けてしまう……そんな心優しい子。
ボクの正体がばれたのも、ひったくりに驚いた女性の元に駆けつけたユズがひったくりを無理に追おうとして転びそうになったのをボクが受け止めたからだ。
とりあえずユズに怪我はないことを確認してひったくりを捕まえ、改めてユズに無茶をしないように言おうとしたら正体がばれた。声で分かったらしい。
そんな心優しい子だからボクも信頼できたし、皆に正直に話すこともできた。
ユズは素敵な女の子だよ。


「………女神がいる」
「ユズですよ」


だからと言って女神と見間違うほどではないけど。
間髪入れずに言うと、ピッコロさんもああそうだったとすぐに我に返る。
……ボクがユズと同じように下界で学校に通っている時、一体ピッコロさんはどんな状態なのだろうと想像すると怖くなる。同じようにデンデが付き合わされているのかな。だとしたら物凄く可哀想だ。


「………!!」


じっとユズの行動を覗いて……いや、見守っていたピッコロさんだけど、急に驚いた顔をして口をぱくぱくさせ言葉を失った。
まるでこの世の終わりのような顔をしている。どうしたんだろう、ユズが転んだのかな。


「どうしたんですか、ピッコロさん」
「……ご、悟飯……」


息も忘れていたのか、ボクの名前を呼ぶとカハッと息を吐き出し、肩で呼吸をし始める。強敵と戦っている時ですらあまりこんな表情しないのに。
一応心配そうな顔をしてピッコロさんを見上げるけど、この時点でボクは逃げ帰りたくなった。


「……ユズ……が……ま、迷子を見つけたんだ……」
「はあ」


心臓を押さえながらピッコロさんは至って普通のことを言う。
強いて言えば、ユズは色んな事に首を突っ込むなぁと思ったくらい。


「い、今……泣いている子供をユズが抱いてあやしているのだが……」


ああ。


「まさか……この世に聖母マリアが存在していたとは……」
「だからユズですって」


いつもの禁断症状だったか。
どうしてもピッコロさんはユズを格上の特別な存在だと思いたいみたい。


「……ピッコロさん、今日家に来ませんか」


全く、ピッコロさんには困ったものだ。
ユズに対して過保護なのはもちろんだけど、ピッコロさん自身、どうしてユズにそんな感情が湧くのか理解できていないから余計に。


「何だ急に。生憎オレはユズを見守らねば……」
「そういえば今日、ユズが家に料理を習いに来るって言ってたなぁ」
「仕方ない。付き合ってやろう」


この変わり身の早さ……本当、素直なのはいいことだけど、いい加減振り回される周りの身にもなってくださいよ。
だけど、ピッコロさん一人じゃ難しいことも分かっています。
地球人について良く分からないピッコロさんに、地球人であるユズにどんな感情を抱いているのかなんて。
だから、ボクが少しだけ協力して、自覚だけはさせてあげます。
ピッコロさんがそこまでユズのことを気にするのは、ユズに愛情を抱いているからだって。
だからピッコロさん、それに気づいたあとはもう一度自分で考えて、ユズにアピールしてあげてくださいね。





恋は盲目にも程がある
(きっとピッコロさんの初恋だろうから応援してあげたいけど、何せ少し鬱陶しすぎる)




いつもとは違った感じのピッコロさん夢です。
恋愛に関して分かっていないのは変わりませんが、ピッコロさん→ヒロインといった内容の夢にも挑戦してみたくて。
少しというかかなりヒロインに対する矢印が突っ切ってる気がしますが……こんな過保護で天然なピッコロさんも私は好きです。ヒロインをうまく絡ませることができなかったのが悔やまれますが、いずれチャレンジしてみたいですね。