※狂愛/死注意



「もしこれから先、私が誰か他の人を好きになったとするね」
「そうしたら悟飯くん、どんな気持ちになる?」
「何も言わなくていいよ。考えるだけ考えてみて」


君はこう言ったよね。
唐突な言葉に、ぽかんとして二の句が継げないでいるボクに。
なんだかとても優しそうな表情で、まるで幼子をあやすように言ったね。

普段からボクのことを真面目だ真面目だと、からかうように笑う君。
そんな僕に、どうしてそんなことを言ったのかは分からない。
でもとりあえず、真面目に君の発言について考えてみた。

大好きな、心の底から愛している君が、ボク以外の誰かを好きになる。
……そんなの想像するだけで心が張り裂けそうだよ。
だって君はボクのものだもの。大切な大切なボクの恋人。
絶対に耐えられない。君を手放すなんて。君を失うなんて。君が傍にいないなんて。
今ボクに向けているその愛らしい笑顔を他の男に見せる?
あり得ないね。そうはさせない。
きっと、何が何でも奪い取ってしまうだろう。

だって、想像しただけでこんなにも気の制御が効かなくなるんだから。
奥底から溢れる汚い熱情を、抑えきれなくなる。

無言で考え込むボクを、しばらく何も言わないで見つめていた君は、続けてこう言ったね。


「それでね、もし悟飯くんがそれを耐えられないようだったら」
「悟飯くん、私のこと殺していいよ」


ボクは目を見開いた。
どうして君はそんなことを言うんだろう。
はっと顔を上げて君の目を見つめると、君はとても優しい表情で見つめ返してきた。
とても冗談や笑い話をするとは思えない顔だ。綺麗で、僕の大好きな表情。

―――ああ、愛しい。

改めて君への愛を感じ、心がきゅっと締め付けられる。心地の良い痛み。
ボクは我慢できなくなって君を抱きしめた。
か細く弱々しい君の身体が折れてしまわないように、それでも強く。
君は少し苦しそうに呻いたけど、白い小さな手で僕の頭を撫でた。
何度も何度も。ボクは子供じゃないのに。
でも嫌な気はしなくて、僕は目を閉じてそれを受け入れる。
髪の一本一本に神経をいれて、全部で君の手の感触を受けたいくらいだ。


「………ユズ、」


君の名前を呼ぶ。すると君は、小さく頷いた。


「愛してる」


しっかりと君の耳元で囁くと、君は最後に口を開いた。


「私も愛してる。だから貴方の狂気も、受け入れられるの」


ああ、愛しくて大切な君。
せめて苦しまないよう、一瞬でその命を奪ってあげた。
……いや、違うな。奪ったんじゃない。君は与えてくれたんだ。
いつの間にか狂気を宿していたボクに。
君はいち早く気付いてくれたんだね。

綺麗な顔で、少しずつ体温を失っていく君。
これで君はボクだけのもの。ボク以外の誰も愛することなく、そして愛されない。


「ユズ……、ああ、ユズ……愛しているよ」


ボクのことを愛したまま死んだ君。
その小さな身体を抱くだけで、ボクの心は今までの不安が嘘のように晴れ、言いようのない気持ちに満たされていくのを感じた。





めでたし、めでたしの終末
(君が一生ボクのものになる。ボクも一生、君のものだよ)




ちょっぴり短いですが悟飯くんの狂愛夢です。
ヒロインは悟飯くんの狂気にいち早く気付いて、悟飯くんを苦しみから救ってあげようとしました。
こういう、殺して自分だけのものにする系の夢小説はいくつか書いてきましたが、悟飯くんが一番上手に殺してくれそうですよね。
ああ……本当、狂った悟飯くんが愛おしいです。