「好きです」


放課後、誰もいなくなりオレンジ色に染まる教室。
外から聞こえる喧騒も、今の私にはどこか遠くのものに聞こえてくる。
世界が二人きりのものになったような、不思議な感じ。
まさに理想的な状況で告白をされた。しかも相手は、自分も好きだった人。


「えっ、あっ……わ、私も、好きです……」


悟飯くんに話があると言われた時はこんなことになるなんて思わなかった。
いや、そりゃあ少しは期待していたけど、まさか本当に……。
転入してきた悟飯くんは、その優秀さと人柄の良さで瞬く間に人気者になった。
そんな彼に密やかな想いを抱いていた私にとって……それは青天の霹靂だった。
真っ直ぐに私を見つめて優し気な微笑を浮かべる悟飯くんの言葉に嬉しすぎて、私は戸惑ってうまく声が出なかったけれど、返事をした。もちろん、イエスに決まっている。
ああ、恥ずかしい。告白の返事とはいえ、自分の気持ちを伝えるのは初めてで悟飯くんの顔が見れない。
どんな顔をしているのかな……驚いてる?それとも喜んでる?


「ありがとうございます。ボクのどこが好きですか?」


あまりにあっさりとした言葉に、私の方が驚いてしまった。
表情はにっこりと優しいのに、なんだろう、いつもの悟飯くんじゃないような……。
でも、ありがとうってことは受け入れてくれたんだよね。そりゃあ自分のどこが好きかは気になるところだし、当然の疑問なのかも。


「え、えっと……やっぱり、優しいところが好きで……」


ああ、でも面と向かって言うと恥ずかしいな……。
もう自分の心臓の音しか聞こえないよ。悟飯くんの表情なんて見る余裕もない。
優しいなんてありきたりすぎたかな?でも、突然言われてびっくりして……。


「他には?」


って間髪入れず次ぶっこんできた!
なんだろう、声はすごく優しいのに急かされているような……悟飯くんって、意外とこういうことが気になるのかな。
ドラマでもよくある、自分のどこが好かれているのか不安で……という少し自信の無さそうにする登場人物みたいだ。そう思うと、なんだか可愛く思えてくる。


「あ、あとは、その、頭も良いし……運動もできて、それに真面目だし……」


どれだけ言えば悟飯くんは納得してくれるんだろう。自信を持ってくれるんだろう。
私は、悟飯くんのことがすごく好きだよ。本当なら全部好きと言いたいけど、それだと逃げてるように思われそうでやめた。


「ふうん……」


もっと考えれば出てくるだろうけど、ぱっと一瞬で思いついたのはあれだけだった。
悟飯くんは手を顎のところまで持って行って、考えるそぶりを見せる。
どうだったんだろう、私、変なこと言っちゃったのかな……?
少し不安になって悟飯くんを上目で見つめると、双方の瞳と目が合った。
それだけで私の心臓は大きく高鳴り、みるみるうちに頬が熱くなっていった。


「ボクは、ユズさんの素直で分かりやすいところが好きですよ」


そんな私の気持ちをさらにドキドキさせるようなことを悟飯くんは言った。
な、なんだろう。私がさっき言ったから、次は悟飯くんの番っていうことかな?
今度は悟飯くんが私を安心させようと……。


「あと、自分から話すことは少ないけれど、その分会話では聞き役に徹して人の気持ちに添うことができるし、相談事には本人以上に一生懸命考えてしまうところとか。考えすぎて空回りをするところもあるけれど、その時の赤面とか、次はこうしようと自宅できちんと日記に反省を記すところとか」


………ん?


「普段は穏やかで人にはもちろん、犬や猫、虫の一匹にも道を譲るような細やかな配慮、優しさ。喜怒哀楽の気分に合わせて鼻歌を歌うところとかギャップがあってとても惹かれます。怒の時の鼻歌はなかなか熱がこもったロックでしたね。ボクは全部覚えましたよ。それぞれの選曲がなかなか渋くて痺れました。それに……」


あまりにも悟飯くんの言葉の内容が深く、そして詳しく、私は思わずぽかんと聞き続けるしかなかった。
あまりの情報量の多さに思考が追い付いてないけど、なんか日記がどうのって言ってなかった?
家でしか日記は書かないのに、どうして知ってるんだろう……。


「……と、ボクはそれくらいユズさんのことが好きです。いや、好きというよりは愛してます」


長々と話していた私の赤裸々な部分をようやく終え、締めに入った悟飯くんの言葉は告白というには重すぎる気がした。
でも、つまりは私のことが好きってことなんだよね?ちょっと怖いけど。


「それなのにユズさんはまだまだですね」
「えっ」


ふう、と溜息をついた悟飯くん。
なんなの、今度はなんなの、悟飯くんの情緒はどうなってるの。
私も片想いをしていた分悟飯くんのことはよく見ていたと思うけど、こんな悟飯くんは初めてで驚いた。
でも、これが私にだけ見せてくれた悟飯くんの一部だとしたら……?
私は特別≠ニいう一言が頭を過ぎり、また顔が熱くなった。


「ユズさん、もう一度ボクのことをよく考えて、出直してきてください」
「ごっ、ごめんなさい……」


私ってば、悟飯くんのこと何も考えていなかったんだね……。
だめだ、好きだけじゃだめなんだ。
ただ好きなだけじゃこの気持ちは伝わらない。伝えてはいけないんだ。
改めて言った悟飯くんの言葉は、内容は厳しいものの、表情はにこやかで優しかった。
そして私の控えめな謝罪を受け、とても良い笑顔で去っていった。その後姿を私は焦がれるように見つめる。
本当、悟飯くんの言う通りだ。
もっと悟飯くんのことを好きだという気持ちを考えて、もう一度……。


「………って、あれ!?告白されたのって、私だよね!?」


なんで私が振られたみたいになってるの!?
どこ?どこからこうなった!?
どうして最後、もう一度改めて告白をしなきゃっていう流れになったの!?


「おかしい……悟飯くんにやられた!」


終始優しい表情だったからすっかり騙された。まさかこんな、告白された私の方が立場が弱くなってしまうなんて……。
すっかり悟飯くんの策略?掌の上で転がされたわけだけど……。
結局は惚れた弱味というか、私が悟飯くんを好きなのも事実なわけで、私が悟飯くんを追いかけることになりそうな予感。





曖昧な言葉なんていらない
(まさか告白の受け方に駄目出しされるとは思っていなかった……)




悟飯くんといえば腹黒。これは私の中でメジャーなことなのですが、なかなかうまく書けませんね。
純粋で真っ直ぐ育った悟飯くんももちろん可愛くて大好きですが、こう……純粋に悪い方へ歪んでいく悟飯くんは何て素敵なんでしょうね。
どちらも捨てがたいです。とにかく、悟飯くんに振り回されたかっただけなのです。