※現代トランクス/青年/近親相愛表現有



薄暗い部屋の中、壁一枚挟んだ隣の部屋からはテレビの音と話し声が聞こえる。
はっきり内容までは聞こえないが、確かに音は二人の耳まで届いていた。
だが、今二人の耳に一番届いている音は、相手の吐息と唾液が混じり合ういやらしい音。
身長の低いユズがトランクスの首の後ろに手を回し、決して離さないといった意思を表している。
その証拠に、二人のキスは角度を変え趣向を変え、かれこれ数分は続いている。
時には甘えるように優しく、時には求めるように情熱的に。
もうこのままお互いの舌が溶け合ってしまうんじゃないかと錯覚してしまうほど、長く官能的な時間。
強く意識を保っていないと、すぐにキスに意識を奪われてしまう。
きっと、ユズは既にそうなっていることだろう。
だがトランクスはそうなる訳にはいかなかった。


「!………」


ふと、隣の部屋で足音が聞こえた。
途端に、ユズの腰に優しく添えられていたトランクスの手がびくりと動く。
そのことに気付いたユズはそっと目を開けると、少し眉を寄せたトランクスの目と目が合った。


「っユズ……もう、」


何かを言おうと、息継ぎの合間にトランクスは口を開く。
だが、ユズは聞きたくないのか悪戯心からなのか、そんなトランクスに更に深く抱きつき、再び唇を奪う。
積極的なキスに、トランクスは心臓をドキドキさせながらも必死に応えた。
このドキドキはユズに対してではない。隣の部屋にいるブルマとベジータ……トランクスとユズの両親に気付かれないかと冷や冷やしているからだ。
二人は兄妹であり、もちろんこの関係性は両親には秘密にしてある。
いわゆる近親相愛≠しているのだ。


「ん、うぅ……っはぁ、」


ユズの口から、妙に満足気な艶のある色っぽい声が漏れる。
そしてようやく二人の唇は離れた。
はぁはぁと、キスと緊張感から解放されたトランクスは呼吸を整える。
その間にもユズは、口の端から顎へと伝う唾液を指で掬ってぺろりと舐めた。


「……トランクスの臆病者」


そして意地の悪い笑みを見せながら言い放った。


「あのなぁ……」


小悪魔のようにも思えるその態度に、トランクスは大きく溜息をついた。


「仕事から帰って来て、こんな熱烈なお迎えを向けられても困る」
「……トランクスは私が嫌いなの?」


妹を叱る兄の顔で言う。
するとユズは眉を下げ、悲しそうな表情になり呟く。
ああ、だめだ。トランクスはぐっと目と閉じる。
これがユズの策略だってことはよく分かっている。
だが、こんな顔、台詞を向けられたらトランクスは兄の顔を保てなくなってしまうのだ。


「……嫌いなわけ、ないだろ。好きだ……好きだから、余計困ってるんだ」
「私もトランクスが大好き。愛してる」


何の戸惑いもなく告げられる言葉を聞いて、心の底から嬉しいと思ってしまうのだ。
この溢れんばかりのユズへの愛情を言葉にすることができず、トランクスはそっとユズの頭を撫でた。
ユズは心地良さそうに目を閉じ、身を委ねている。
そっと手を頬へと滑らせると、ユズは目を開け自分からも擦りよるようにトランクスの手に触れる。
そしてするっと器用にトランクスの人差し指を口に含んだ。
あたたかいユズの口内で、トランクスの指は優しく舌で撫でられる。
わざといやらしい音を立てながら指を舐めるユズは、ちらっと横目でトランクスを見る。
目が合い一瞬胸が高鳴るも、トランクスは平静を装いそのままユズを見つめ、そっと指を抜いた。


「……こんなところ、見つかったらどうなるか……」


その言葉は少し自嘲気味だった。
止めようと思えば、きっと止められる。
だが、この行為は止められなかった。


「ふふっ、殺されちゃうね。トランクスが」
「オレだけかよ……」
「だってパパ、私に甘いんだもん」


嬉しそうに、でも困ったように、ユズは言う。
その言葉を聞いて、トランクスも苦笑した。
ユズの言う通り、父であるベジータはユズに甘い。
もちろん、息子である自分も多少甘やかされてはきたが、娘であるユズはそれ以上だ。待望の娘だったからだと思う。
そしてまた、ユズは甘え上手……それだから余計にトランクスの気は重くなる。


「……確かに、そんな父さんに知られたら、オレは殺されるな」


溜息交じりに呟く。安易に想像できてしまうことに、少し脱力感を覚えながら。
そしてきっと、ユズは守られるんだろう。
自分とユズは徹底的に離される。
今ではこんなに近くにいるユズだが、それが遠い存在になってしまう。
それも仕方のないことだと、トランクスは理解していた。
自分たちは許されない関係なのだから。
実の、血を分けた兄妹だというのに、唇を重ね、愛を囁き合う。
それが本来異常で、禁忌であることは十分に分かっていた。
それでも。


「でも、大丈夫よ、トランクス」


言いながら優しく、ゆっくりと抱きついてくるユズ。


「トランクスが死んだら、私も死ぬわ」


確かな決意を込めた言葉。嘘でも慰めでもない。
そうユズが言ってくれるだけで、トランクスの理性は揺らぐ。
今、ユズを抱きしめたい。
今、ユズにキスをしたい。
今、ユズを愛したい。
それだけがトランクスの心の大半を占めてしまう。


「……オレはユズを死なせない。だから、」


オレはもう一度優しく、ユズの頬に手を添える。
すると、考えていることが通じたのか、ユズも微笑みながらそっと目を閉じた。
素直で無垢な、ユズの顔をしばらく見つめて、


「オレとユズのこの秘密は、絶対に守り通すよ」


触れるだけのキスを、一度だけユズに贈った。

愛してる。
これが許されない感情だとしても。
オレの中に芽生えた、確かであたたかい、幸せな感情だから。





Life-threatening love
(命がけの恋)(禁忌を犯すほど価値のある、確かな愛なんだ)




青年トランクスとの近親相愛……ドキドキしますね。
そりゃあもう、誠実なトランクスがタブーを犯しているというギャップ、そしてあのベジータに見つかったら即死という緊張、ダブルのドキドキを楽しめますね。
相手がトランクスなので、押し押しなヒロインにしました。
書いてて楽しかったんですが、どうしても青年トランクスの受け身イメージが強いので、今度は押し気味のトランクスも書いてみたいなぁと思いました。
キスまでなので、微裏でもないですよね?どうでしょうか?