※捧夢のため名前変換無し



「忍足、あいつの好きなもん教えろ」
「なんや偉そうに」
「アーン?俺様は偉いんだよ」
「……そんなことばっか言うてると、教えへんで」
「ぐっ……」


ジト目で跡部を見ながら溜息交じりに言う忍足。
その言葉を聞いて苦そうな顔をしたのは跡部。当然の報いとも思えますが、本人にとっては納得のいかない返答だったようです。
それもそのはず、冒頭に出てきたあいつ≠ニは跡部の恋人、トトロである。
3年になり晴れて恋人となれたものの、クラスが違うため会う機会は多いというわけではない。
そのため、部活時間を割いてまで跡部がこうして忍足に聞いているというわけです。


「しかし跡部も健気やなぁ。恋人の誕生日のためにリサーチするなんて」
「そんなんじゃねえ……」
「よっぽどトトロちゃんのことが大好きなんやなぁ」
「うるせえ!さっさと教えろ」


にやにやとからかい始めた忍足に、跡部が少々乱暴に言う。
だがそれも照れ隠しだと長年の付き合いで分かっている忍足には余計に笑いを誘うだけでした。


「はは、そう怒るなや。……でも、トトロちゃんなら何でも喜んでくれるんとちゃう?」
「…………」
「優しいし、トトロちゃんもトトロちゃんで跡部のこと大好きやし、跡部があげるもんなら何でも……」
「だから困ってるんだよ」


んー、と考える素振りをしながら答える忍足に、イラついている様子で言う跡部。
眉を寄せて完全に不機嫌丸出しです。


「確かにトトロは俺のあげるものなら例えブランド物のバッグだろうが缶ジュース1本だろうが可愛らしい笑顔で喜ぶに決まってんだよ。だが、俺様はそんなんじゃなくてトトロが心から喜ぶような物をプレゼントしたいんだよ。分かるか?もっとこう、今まで見たことないような蕾が花開くように愛らしくダイヤモンドダストみたいに光り輝く笑顔をな……」
「あーはいはい分かったって。分かったから惚気るんはやめてくれ」


惚気始めたら1時間や2時間延々と話し続けると知っている(というか被害者である)忍足は強い口調で跡部を止める。
若干不服そうな顔をした跡部も、本題が大事だと気付いたのか話題を元に戻した。


「とにかく、お前なら何か知ってるだろ。早く教えろ」
「どこまでも上からやな……。ちゅうか、俺がトトロちゃんのこと詳しいわけないやん」
「は!?お前、それは何のための眼鏡なんだよ!」
「裸眼見られるのが恥ずかしいねん」


んなことどうでもいいんだよ、と忍足を殴る跡部。
聞いてきたのはそっちやん、と殴られながらも理不尽だと思う忍足。
こんなやり取りはどうやらいつものことのようです。


「大体、そうさせとんのは跡部やろ?必要以上トトロちゃんに近づくなー言うて」
「うっ……」


忍足の言う通り、跡部は嫉妬心や束縛が強いのか、忍足やテニス部メンバーにはくどくどとそのように言っているのです。
トトロ本人に言う勇気はないらしく、部員たちからはヘタレと言われていますが。


「それに、やっぱりこういうことは本人に聞くのが1番やで」
「………」
「ええやん。たまにはヘタレ脱却でぶつかりに行っても」
「誰がヘタレだ眼鏡」


結局、満足のいく答えが得られなかった跡部は始終不機嫌そうな顔で部活を終えた。





そしてその日の放課後。
付き合い始めてから恒例となった恋人のトトロとの帰り道。
それまでは車で帰ることが多かった跡部も、今ではトトロを家まで歩いて送り帰るのが主流となっていた。


「トトロ、手繋ぐか」
「あ、うん。お願いします」


そうして片方の手を差し出すと、トトロのあたたかい手が重なる。
ようやく手を繋ぐことに抵抗を持たなくなったトトロに跡部が心の中でガッツポーズをする。
付き合いたての頃、恥ずかしいからと断られたのが嘘のようです。
断られる度にショックで原因究明をしていたのを思い出して、少し満足気な表情になる跡部。
手を繋ぐという些細な行為にまで真剣になれる、真面目な子なんです。


「そろそろお前の誕生日だな」
「あ、覚えててくれてたんだ」
「当たり前だろ?1年間で1番大切な日なんだから」
「ふふ、そんなの大袈裟だよ」


跡部の本心である言葉も、冗談だと思ったらしく笑うトトロ。
自分がどれだけ大切にされているかという自覚症状が足りない部分がありますが、それさえも可愛いと思ってしまう跡部。
かなりの重症のようです。


「それで……トトロは、何か欲しいものとかあるか?」
「え?欲しいもの?」


やはり本人に直接聞くという選択肢を選んだらしく、まじまじと聞く跡部。
トトロは思ってもいなかったことを聞かれ、うーんと小首を傾げて考えます。


「何でもいいぜ。どんなものでも俺様が用意してやる」
「そんな……私は、景吾がくれるものなら何でも嬉しいよ」


得意気に言う跡部に、困りながらも微笑んで答えるトトロ。
だが、その答えでは納得いかないのか、跡部はもう一度強く言います。


「俺は、お前が本当に喜ぶ顔が見たいんだ。その為にお前の期待に応えたい。どんな我儘でも聞いてやりたいんだ」


中学生とは思えない包容力を醸し出す跡部。
その真剣な表情に、何か答えなくてはいけないと思ったトトロはもう一度考え直す。
そして、何か思いついたのか考えるのを止めて跡部を上目で見つめた。


「……本当に、私の我儘聞いてくれるの?」
「ああ、当たり前だ」


その表情にどっきんどっきんと心臓を鳴らしているものの、表面上は冷静に頷いた。
跡部もなかなかプライドが鉄壁のようだ。
そしてどんな言葉が飛び出してくるか、少々緊張しながらもトトロを見つめると、


「じゃあ私……景吾の愛が欲しいな」
「え?」


恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑いながら言うトトロ。
その返答は意外なものだったらしく、跡部は目を見開いてトトロを見つめています。


「あっ、と、ごめん!さすがに我儘すぎ……かな……」
「い、いや……そんなことねえよ。愛、だな。うん、分かった…」


明らかに動揺している様子。
愛。今までの愛は足りなかったのか?いや、もしかしたら今までとは違う特別な愛を欲しがっているのか?
と、心の中で考え始めてしまっている。


「(景吾……すごく考えてる……)」


流石に心の中だけで抑えられなかったのか、跡部の動揺はトトロにも分かるほどになっていました。
隣で視線を一点に集中させながら考えている跡部を見て、トトロははっきり言えなかったことに少し後悔していた。


「(でも流石に恥ずかしい……)」


跡部が思考に忙しいのを良いことに、トトロはそっと赤面する。
自分が本当に言いたかったこと。でも恥ずかしくて言えなかったこと。


「(……キス、して欲しいだなんて)」


少し前まで、手を繋ぐことでいっぱいいっぱいだった自分。
その為、跡部も自分に合わせた付き合い方をしてくれている。
お子様だと思われて、嫌がられるかと思っていたけど、跡部は何の文句も言わず付き合ってくれた。
トトロが大事だから、と言って。
そんな状況にある以上、自分からキスをして欲しいと言い辛くなっていた。
誕生日という滅多にないチャンスが巡って来たにもかかわらず、それは同じ。
ああして言葉を濁すことしかできなかった。


「(でも、)」


ふと、隣で唸るようにして考え込んでいる跡部を見つめる。


「(こうして一生懸命考えてくれるだけで、すごく嬉しいな)」


そうして微笑みながら、心があたたかくなるのを感じる。
同時に、当日どのようなプレゼントをくれるのか……自分で言っておきながら、ドキドキする気持ちを抑えていた。





トトロの誕生日当日。
この日はちょうど休日で、午後まで部活があった。
そのため、跡部は部活終わりにトトロの家まで行き、誕生日を祝おうと考えていた。
いつもより早く練習を切り上げようとする跡部に「激ダサだ!」と宍戸が喝を入れたり、向日が「リア充爆発してみそ」と言ったりとなかなか賑やかな午前の部活でしたが、なんとか無事に終わらせることができました。
そうして急いで着替えて部室を飛び出す跡部を見送った部員たちは、


「跡部さんも好きな人のことになると変わるんですね」
「ウス」
「ふふふ、今が絶好の下剋上のチャンスだな」
「放っとけよ。あんな恋愛盲目者」
「そう言うて、実は羨ましいんやろ純情ボーイ」
「あーっ俺も彼女欲しいぜー!」
「岳人は小さいから無理だC〜」
「身長は関係ねえだろ!」


あたたかく、エールのようなものを送っていました。

その対象である跡部はというと、只今トトロの家に向かって全力疾走中。
珍しいというか、氷帝学園の生徒であればこの様子に二度見、三度見をしてしまうほどの光景です。
こういう時ばかりは車の方が早い気もしますが、そこまで思考が回っていないようです。
少しでも早く彼女に会いたくて。跡部は走ります。


「っ………」


そしてようやくトトロの家の前まで着いた。
少し息を整え、チャイムを押す。すると玄関のすぐ近くで待機していたのか、トトロが嬉しそうな顔で玄関の扉を開きました。


「景吾、部活お疲れさ、」


そう言い終わるのも待たず、跡部はぎゅうっとトトロを抱きしめた。
突然のことに驚いているトトロだったが、はっと我に戻り同じように抱きしめ返した。


「誕生日おめでとう、トトロ」
「……もう、お疲れ様くらい言わせてよ」
「早く、お前におめでとうを言いたかったんだ」
「日付が変わったときに、ちゃんと聞いたよ?」


実は夜中の零時を回り、日付が変わった瞬間にいち早く電話をかけていた跡部。
誰よりも早く祝いたかったという単純な理由。
だがそれも、トトロにとっては良いサプライズでそれだけで十分に嬉しいものだった。


「会って直接に、だ。これでも、お前の誕生日に1番に会えるのが俺じゃなくて悔しいんだぜ」
「景吾……」


抱きしめながらのため、耳元で囁かれる跡部の本心。
内容にも驚いたが、これだけ強く自分を抱きしめてくれていることにトトロは驚いていた。


「嬉しい。その言葉も、こうして抱きしめてくれることも……凄く嬉しい誕生日プレゼントだよ」
「何言ってんだよ。それだけで終わらせてたまるか」


えっ、とトトロが小さく声を漏らすと、跡部は誰にも見せないような優しい顔でトトロを見つめた。
そしてトトロが再び口を開くより先に跡部が口を開いた。


「俺からのキス、受け取ってくれるか?」


走って来たためか、あたたかい手で髪を撫でられ……頬に添えられる。
その熱を感じた時にはもう、それを上回るほどにトトロの頬に熱い温度が宿っていた。


「っ……おねがい、します…」


まさか本当に、跡部からそう言われると思っていなかったトトロ。
てっきり、先程の抱擁が愛だと思っていたトトロは、良い意味で期待を裏切られ、目に涙を溜めた。
初めてする、大好きな人とのキス。
それがこんなにも幸せな時に、幸せなタイミングでされるなんて。


「………トトロ」


促すように跡部がトトロの名前を呟いたところでお互いが目を閉じ、ゆっくりと唇が近づく。
跡部の手が先程よりもあたたかく、トトロの頬の輪郭を支える。
そしてトトロも無意識に両手を跡部の胸板に置き……全てを委ねていた。
目を閉じること数秒、何も見えない中、お互いの柔らかい唇の感触だけが伝わる。
触れた瞬間こそ、トトロはびくりと驚いたように肩を震わせたが、跡部が大丈夫だと言わんばかりにもう片方の手でトトロの肩を掴む。
初めてのキス。それは少し熱っぽくて、優しくて、全てが愛おしく思えるものだった。

触れているのは数秒だったのに、こんなにも特別な愛を感じられるなんて。


「………っ、」


名残惜しく思いながらも跡部が唇を離すと、トトロは潤んだ瞳で跡部を見つめていた。
ほんのり桜色をしている唇が薄く開かれ、呼吸をする度に小さく動く。
そんな表情や唇の動きだけで、跡部の気持ちは歯止めが効かなくなりそうになる。
もっともっと、トトロに触れたいキスしたいと思ってしまう。
だが、トトロがいっぱいいっぱいになってしまっているのを感じ、何とか理性を抑えた。


「もしこれが、俺の自己満足だったらごめんな」
「っえ……?」
「お前の誕生日だと理由つけて……もしかしたら俺は、お前にこうして触れたかっただけかもしれない」


少しばつの悪そうな顔で呟く跡部。
そんな跡部を見て、トトロは少し意外そうに思いながらも優しく笑った。


「(そう思ってくれるのも、私を愛してくれている証拠だよ)」
「……トトロ?」
「私はすごく嬉しいよ。景吾がキスしてくれて……恥ずかしかったけど、最高に幸せなプレゼントだよ」
「トトロ……」


なんて可愛いことを言うんだ、と跡部は参ったように溜息をつく。
そして愛おしげにトトロの頬を撫で、


「それならよかった。俺も、お前の誕生日を祝えて、喜ぶ顔が見れて……本当によかった」
「ありがとう、景吾。最高の誕生日にしてくれて」


そうお礼を言うと、跡部は薄く笑いながら首を振った。


「誕生日はまだまだこれからだ。ほら、今から出かけるぞ」


そしてトトロの手を引き、歩き始めた。


「せっかくのお前の誕生日と初キス記念日なんだ。何か思い出に残るような物を用意しないとな」
「………!」


ああ、やっぱりこの人には敵わない。
心の中でそう呟きながら、トトロは最高の笑みを浮かべた。


「うんっ」


思い出に残る誕生日をありがとう。
最高の幸せをありがとう。
そして、
最上級の愛を、ありがとう。





Most love to you
(最上級の愛を君に)(それはとてもあたたかく、優しいキスだった)




こちらは以前、相互サイト様でありお友達でもあるトトロ様に捧げた夢です。
加筆修正せずそのままの状態であげ直しました。