※捧夢のため名前変換無し 「あれー、トトロちゃん、また来てるんだ」 「……うん、不可抗力でね」 慈郎くんが笑いながら私の隣に座る。 私が今座っているのは、男子テニス部のフェンス内にあるベンチ。 テニス部でも選ばれた…正レギュラーしか座ることのできないベンチに座っている。 きっと、部員でもマネでもないただの女生徒が座るのは初めてだろう。 「あはは、でも俺は嬉しいよ?トトロちゃん居ると楽しいし」 「そ、そう……それはありがとう」 私はどこか釈然としない様子で慈郎くんの言葉に作り笑いをする。 実を言うと、私はテニス部にこれっぽっちも興味がない。 それでも私はここに座って部活を見学している。 それは何故か。その答えは、 「ああああ!ちょっと、何でジロー先輩がトトロ先輩の隣に座っているんですか!」 両手に同じジュースを一つずつ持って走ってきた鳳くんの所為。 少し怒っている様子の鳳くんを見上げ、私は苦笑した。 「えっと、少し話してただけだよ」 「だめですよ!俺がトトロ先輩誘ったんですから!ジロー先輩はあっち行っててください!」 誘った?強制連行の間違いじゃないのかな? そう言う間もなく、鳳くんはぷんすかと文句を言いながら慈郎くんを立たせた。 「ごめんって〜。トトロちゃんが一人で暇そうだったから」 「トトロ先輩は俺の買ってくるジュースを待っていたんです!」 いや、待ってない。それに、ジュースを買いに行っていたなんて初耳だ。 「ああもう…せっかく、後ろからほっぺにジュースを当てて先輩にサプライズをしてあげようと思ってたのに…」 「鳳くん、煩悩が駄々漏れだよ…」 「でも大丈夫です、トトロ先輩!また今度してあげますから!」 別に……望んでないんだけどな……。 「あはは、じゃあ俺もう行くね、じゃあね〜トトロちゃん!」 「あ、うん、頑張ってね、慈郎くん」 「慈郎くん!?」 コートに向かおうとする慈郎くんに手を振ると、隣に座ろうとした鳳くんが絶望的な形相で言った。 今度は何だ?一体何が起きたんだ? 「そんなっ……トトロ先輩……お、俺……っ」 ちょっと待て。何で泣きそうになってるの!? 慌てて声をかけようと思ったら、鳳くんはすごい勢いで慈郎くんの後を追って走って行った。 ……本当、よく分からない子だ。 「……よう。今日も長太郎の相手してんのな」 「あ、宍戸。お願いだから離れるように言ってよ〜」 「そりゃ無理だ。俺は長太郎を応援してるからな」 宍戸が登場したと思ったら、にやにやとそんなことを言う。 この裏切り者。その帽子のツバを折ってしまいたい。 「ふっ、いいじゃねえか。あいつの気持ちを受け入れてやれよ」 「跡部……あんた、他人事だと思って」 「俺にとっても可愛い後輩だからな。初恋を応援してやるのが先輩だろう」 「……何が先輩よ。先輩らしいことしてないくせに」 「アーン?」 跡部まで出てきたと思ったら、冷やかしに来ただけか…。 二人の言う通り、どうやら私は鳳くんから並々ならぬ好意を持たれているらしい。 それはもう恐ろしいくらいに。 朝遅く来る私に、部活終わりだというのに校門で待ってるし。 昼食を食べようと食堂へ行くと二人分の席を確保し、椅子を温めていてくれるし。 放課後はさっさと帰ろうとする私を捕まえてこうして部活のベンチに(やはり温められている)座らされるし……。 もう、私の日常生活のどこかしらに鳳くんが存在するようになってしまった。 「一体何なの……!?私にそんな魅力があったなんて知らないわ…」 「魅力?犬に好かれる魅力か?」 「宍戸はさらりと酷いこと言うわね」 「つーか、はっきり言ってお前に魅力なんてないぞ」 「跡部は黙っていなさい」 そんなことは自分が一番よく分かっている。 だから不思議に思っているんじゃない…私がどうして鳳くんに好かれているのか。 何も突出したものなんて持っていない私が。 あんなに良くできた子である鳳くんに。 「トトロせーんぱーーーーい!」 「あ、戻ってきた」 「よし、邪魔者は退散するか」 ワンコ……いや、鳳くんが尻尾…違う、手を振りながら帰ってきた。 それを見つけた途端散っていく二人。 なんていらない空気の読める人たちなんだ。 「お待たせしてすみません!」 「いや…別に、待ってないよ…」 「わあっ、やっぱり先輩は優しいです!好きです!」 「………あ、ありがとう」 こんなデレが全開な子見たことないよ…。 しかも悪気なんてなく、全て純心さからきているものだから驚きだ。 「それよりトトロ先輩、俺の苗字って長くて言いづらくないですか?」 「え?」 いきなり何を言い出すんだろうこの子は。 「別に、そんなこと…」 「それで、もし良かったら俺のことは名前で呼んでくださいっ」 「え」 「遠慮なんていりません!あ、呼び捨てでもいいですよ!」 「う、うん…わかった」 「本当ですか?やったーありがとうございますトトロ先輩!」 ま、眩しいっ……! こんな眩しい笑顔で頼まれたら…っ断れるわけないじゃない! 思わず了承してしまった後、私は思い出した。 他人のことをあまり名前で呼ばない私。 だけど、鳳くんのせいでここによく来るようになった時… 「芥川くん…そんなところで寝てたら風邪引くよ」 「んー……あ、トトロちゃん」 「ほら起きて。芥川くん次試合らしいし…」 「ねえ、いつも思ってたけど…俺の苗字、長いでしょ?」 「え?うん、そうだね」 「面倒だしさ、名前でいいよ〜。そうしたら短くて呼びやすいC〜」 「そ、そうだね…」 「はい、じゃあ呼んでみて」 「えっ………じ、慈郎……くん」 「ん、おっけー!じゃあ起きるよ!」 そんな会話があって、初めて男の子のことを下の名前で呼ぶようになったこと。 慈郎くん……鳳くんに話したな。 「じゃあ早速、俺のこと呼んでみてくださいっ」 「え!?」 「練習ですよ!ほらほらっ」 にっこにこの笑顔で促す鳳くん。 ……っく、なんだこの笑顔、可愛すぎるでしょ……! 「……ち…長太郎…くん……」 「くん≠ヘいらないですよ」 「………え!?無理!」 流石にそれは私的に厳しい。 そして周りの目的にも厳しい。 「あはは、トトロ先輩って意外と恥ずかしがり屋なんですねっ」 「………」 「そういうところって可愛いです。大好きです!」 またさらっとそんなこと言う……。 そしてあれなのか?今は語尾でさらっと告白するのが流行りなのかな? ……ていうか、言って気付いたけど。 「(おおとり≠謔閾ちょうたろう≠フ方が断然長い…!)」 このことに本人が気付いていたのかは分からないけど。 あまりの純白な笑顔の前で作戦負けしてしまった……。 「……長太郎くんは、どうしてそんなこと言ってくれるの?」 「トトロ先輩が好きだからです」 なんの迷いもなく答える長太郎くん。 だけど、私には少しの不安というものがあった。 「………。私、長太郎くんに好かれるようなところなんてないよ」 そう言うと、長太郎くんは首を傾げて疑問符を浮かべた。 ……そんな長太郎くんに私は続けて言う。 「私は……可愛くないし、愛想良くないし、口下手だし、女の子らしくないし、素直じゃないし……」 そう淡々と言い出すと…結構出てくるもので。 自分でも驚くくらい自分を卑下する言葉が出てきた。 自信なさげに言いながら、途中、長太郎くんを見てみると、 「!?何で泣いてるのっ」 ぐすっぐすっと……大きな身体を小さくして泣いていた。 これは…もしかして私が泣かせたのか!? 理由は何故かはわからないけど、なんだか悪いことをしたような気になる。 私は戸惑いながらもハンカチを渡し、頭を撫でた。 「っ……そんなこと、言わないでください…先輩」 「……え?」 「俺は、トトロ先輩が好きなんです。全部、全部が好きなんです…。だから、先輩には…自分のことをもっと好きになって欲しいです…」 その言葉に、私は驚きで目を見開いた。 そして……心の奥のどこかにあった、「私が長太郎くんに好かれるわけない」という気持ちに気付いた。 だから、長太郎くんの言葉を素直に受け入れられなかったんだ。 そう考えると……私すごく、長太郎くんに失礼なことをしたんだな…。 せっかくこうして好きだって言ってくれているのに。 「……ごめんね、長太郎くん」 「トトロ先輩…?」 「私、自分に自信がなかったの。長太郎くんはこんなに素敵な人だから…そんな人に好かれるわけないって勝手に思ってたの」 「っえ……」 「だから、あなたと前向きに関われなかった」 「じゃあ…」 「これからは私、長太郎くんと前向きに…関わろうと思うよ」 しんみりとした雰囲気の中、そう言う。 すると長太郎くんはぱあっと笑顔になって私の両手を掴んだ。 「え!?」 「ありがとうございますトトロ先輩!俺、すごく嬉しいです!」 「へ?あ、あの…」 「これでもう先輩は俺が傍に居ても嫌がらないでいてくれるんですね!」 「えっと、まあ…そうなるかな…(ていうか、気付いてたんだ)」 おかしいな。さっきまで泣いていた気が……私の気のせいかな。 今私の目の前にあるのはきらきらと希望を見るような目で見てくる長太郎くん。 その表情を見ると、前言撤回することなんでできなかった。 「大好きです先輩!俺、先輩に好きになってもらえるようにもっと頑張りますから!」 「え、これ以上頑張るの!?」 「はい!待っていてくださいね、トトロ先輩!」 何を待っていればいいんだろう。 この目が、とても諦めてくれる目には思えないし……。 「う、うん……わかった……よ?」 とりあえず笑顔で頷いておくことにした。 「「「(結局、二人とも単純だな…)」」」 そのやり取りを見ていた人たちは全員、そう思って二人……いや、トトロにエールを送っていた。 無自覚系策士男子×真面目系単純女子 (なんだろう。この負けた感…)(気のせいじゃないですか?先輩っ) こちらは以前、相互サイト様でありお友達でもあるトトロ様に捧げた夢です。 加筆修正せずそのままの状態であげ直しました。 |