※捧夢のため名前変換無し



「ぴよし!若!ワカリン、愛してる!」
「はいはい。今日もトトロ先輩は素敵に鬱陶しいですね」
「うふふ、そんな、皆の前で恥ずかしいっ!」

「いやいや、褒めてないからな」
「視線も向けずに言うとるな」


朝部活。
部室に入った瞬間、俺の元に駆け寄ってきたのはマネージャーであるトトロ先輩。
朝っぱらから訳の分からないことを言っているが、これでも俺たちは恋人同士という関係だ。
まあ……付き合ってまだ1ヵ月と日は浅いが。
それでも、こんな風に軽くあしらうことができるくらい遠慮というものはない。
同じく部室に居た向日さんと忍足さんもいつものように冷静に呟いている。
というか、3年はとっくに引退してしまっている時期だって言うのに……いくら暇だからって、頻繁に来られるのも困る。


「わーかしっ、今日は……その、ないの?」
「何がですか?」
「おはようのチュー!」
「ないです。というか、あたかも毎日しているかのように言わないでください」


そんなことは一度としてしたことはない。
というか、先輩たちが見ている前で何て事を言い出すんだこの人は。


「えー!じゃあ、寒くて震えている私に熱い抱擁は?」
「ありません」


俺が必要以上に素っ気ないためか、周りから本当に恋人なのかと疑われることも多々ある。
だが、俺たちは元々こういう関係だ。
というか……こんな態度の俺が、トトロ先輩は好きらしい。
先輩からそう告白された時は、この人は馬鹿なのか何も考えていないのか寝言なのかと考えたが、どうやら先輩は本気らしい。
俺も別に先輩のことは嫌いじゃなかったし……まぁ、好き……とは違うが、いじり甲斐があると思ったからOKしたんだ。
………かと言って好きじゃないって言ったら嘘になるが。


「いいわ、そのツンデレ!」
「……どこにデレ≠ェあるんだ」
「あかん。1%も見つけられへん」


先輩が何を思って頬を赤らめているのか知らない。
だが傍で俺たちの様子を見ながら呟いている向日さんと忍足さんは一体何なんだ。
俺がきっと二人を見ると、二人は何かに気付いたように笑みを浮かべて部室から出て行った。
すれ違う時に、「気が利かんくて堪忍な」と忍足さんが言っていたが、勘違いも甚だしいと思う。
決して俺はトトロ先輩と二人きりになりたくて二人を睨んだわけではないと言いたい。


「若、」
「…なんですか」


心の中で深い溜息をついて、俺はトトロ先輩を見る。
すると先輩は、


「好きって言って?」


突拍子もない事を言った。
屈託のない、可愛らしい笑顔で。


「……いやです」
「えー、どうして?なんで言ってくれないの?」
「……いやだからです」


そんな膨れたような顔を見せないでくださいよ…。
俺は、無意識に高鳴る心臓を隠すように、トトロ先輩から目を逸らす。


「あ、じゃあ、私が言うから、若も言ってね?」
「…先輩はいつも言ってるじゃないですか」
「いいじゃん!若、大好き」
「……お、俺は、言いませんよ」
「うーん、じゃあもっと言うね!好き、好き、だーい好き!」
「っ……」


拒否している俺なのに、トトロ先輩は悲しそうな顔一つせずに……更に好き≠ニいう言葉を重ねる。
……まったく、たちが悪い。
俺にとってその言葉は言い難く、言うだけでも凄く勇気がいるのに。
先輩はそんなに簡単に……言えるなんて。
もちろん、軽い気持ちがあって言っているわけではないのは知っている。
だからこそ……反応に困る。


「……そ、そんなことばかり言っていで、部活しましょうよ…」


その時はそう言って誤魔化した。
俺はいつもそうやって、先輩の問いから逃げていた。
初めはちょっとした好意≠ゥら付き合い始めた俺と先輩。
でもこの1ヵ月で……俺にとって好意≠ヘ確かな愛≠ヨと変わった。
どれだけ素っ気なくしても離れない先輩。
むしろしつこく付きまとって……それこそ態度では示さないが、嬉しいと思う日が来るなんて。
言葉ではまだ言えないが、俺は確かにトトロ先輩のことが好きだ。
それだけは……俺も、心の中で理解していた。





「何なんだ一体……」


あれから何日かして、もう年越しも近い日のこと。
俺は冷える手をこすりながら屋上へと向かう。
何故こんな寒い日にわざわざ屋上に行こうとしているのか。
それはトトロ先輩からの突然の呼び出しのせい。
メールで短く「若、屋上に来て」とだけ。
用件も言わず、ただそれだけだった。
先輩にしては素っ気ない内容に俺は不思議に思いながらも、無視するわけにはいかず今こうして向かっている最中だ。


「というか、何で屋上なんだ。他に場所があるだろ…」


俺はぶつぶつ言いながら屋上へのドアを開ける。
すると、予想以上に冷たい風が俺を出迎え、余計に眉が寄る。
早く用件を終わらすか、場所を移動するかしたいと思い、辺りを見て先輩を探した。
すると、フェンスにもたれて体操座りをしているトトロ先輩を見つけた。


「……先輩、どうしたんですか」


いつもなら俺の姿を見ると飛び跳ねるようにして喜ぶのに……今日はやけに大人しい。
俺を見つけてもぼーっとした表情で見つめるだけ。
俺は更に不思議に思いながらも、隣に腰を下ろす。


「若……」


ようやく口を開いたと思えば、俺が見たこともないような悲しそうな顔をして、


「私…春になったら、卒業しなくちゃいけないって……」
「はい?」


まるで深刻な問題を語るかのような口ぶりで言う先輩に、思わず聞き返す。
卒業というのは当たり前のことで、今さら口にするようなことではない。
それでも先輩は、今初めて知ったような雰囲気で、


「春になったら、私…高校に通うって……」


悲しそうに切なそうに言う先輩。
俺は待ったをかけて、


「先輩、急にどうしたんですか?そんなこと、前々から決まっていることじゃないですか」


呆れたように言うと、それでも先輩は納得がいかないというか…泣きそうな顔をした。


「なんで…?私、まだ若と一緒に居たいのに」
「っ、?」


俺は予想もしなかった言葉に、思わず言葉に詰まる。


「私、やだよ……若と離れたくない。なんで私だけ先に高校なんて行かなくちゃいけないの?」
「トトロ…先輩……」


そんな弱々しい先輩を見たのは初めてで。
こんなことになっているのは…俺と離れたくないと強く思っているからで。
そう思うと、急にトトロ先輩が愛しいという気持ちが溢れるように出てきた。
そう思った時には、俺はトトロ先輩を抱き締めていた。
先輩は驚いたらしく、びくりと肩を強張らせた。


「……若?」
「先輩、好きです」
「えっ……」


そして初めて、俺は先輩にそう言った。
いくらねだられても言えなかった言葉。
今なら言える。いや、今言わなければならない。


「……俺だって、先輩と離れたくないですよ」
「若……」
「でも、これは仕方ないことで……。だから、先輩が不安に思うのなら、何度でも言いますから」


本当は凄く恥ずかしい。
こうやって抱き締めている今でも、情けないくらいの速さで動く俺の心臓に気付かれるんじゃないかって、気が気じゃない。
それでも、先輩が愛しいという気持ちには変えられない。


「俺はちゃんと……トトロ先輩のこと、大好きですから、だから、そんな悲しそうな顔しないでください…」


いつも見飽きるほど見てきた先輩の笑顔。
それを今すぐにでも見たくて。
先輩の悲しそうな顔は見たくなかった。
そう言うと、先輩はゆっくり俺の背中に手を回して、


「若…ありがと、今日の若…なんだか優しいね」
「……それは先輩のせいですよ」
「ふふ、でも、嬉しい……」


ぎゅう、と先輩は俺の胸に頭を埋める。
この時には…寒いという感覚はなかった。
むしろ熱っぽい、俺の心。
まさか……自分からこんな行動を起こすとは。
しばらくそのままでいると、先輩はようやく安心したのか、


「若、もういいよ。ありがとう」
「先輩……本当に大丈夫ですか?」
「うん。…数ヵ月後にはお別れだって思うと少し寂しいけど、今は寂しくないもん」


若がこうやって傍に居てくれるから、と呟く先輩。
……今日の先輩はいつも以上に可愛らしい。
それと同じように、俺はいつも以上におかしい。


「私、高校に行っても若だけが好きだからね」
「……そんなの、俺だって同じですよ。先輩しか見えません」


にこっと笑って先輩の顔を見て、俺も安心して言った。
すると先輩は珍しく照れたような顔になり、満面の笑顔を浮かべた。


「若、大好き!」


俺は、俺の大好きな笑顔を浮かべた先輩を見て、嬉しくなって思わず口元が綻んでしまった。
俺がこんな顔になってしまうのも、好きと言いたくなるのも……。
全部、トトロ先輩だけですからね。





あなただけに贈る言葉
(高校へ行っても、社会人になっても、俺は先輩だけを愛しています)




こちらは以前、相互サイト様でありお友達でもあるトトロ様に捧げた夢です。
加筆修正せずそのままの状態であげ直しました。