※捧夢のため名前変換無し 朝部活も終わり、同じクラスである忍足と宍戸を連れて校舎に入る。 するとそこらから聞こえてくる女の声援。 これはもういつものことと、後ろをついてくる二人は特に気にした様子もない。 俺様も、慣れた態度でその声援の中を歩く。 「……ったく、耳が痛え」 「跡部もよう飽きんなあ」 「飽きる?称賛はいつ浴びても気分が良いだろ」 呆れたように言う忍足に腕を組みながら言うと、余計に呆れられた。 どうやら忍足にはこの感覚が分からないらしい。 宍戸は庶民だから論外だとしても……やっぱり関西人だからか? 「自分、今けったいなこと考えたやろ」 「別に」 忍足のことは無視して、再び声援の中を歩く。 だがこんなのは序章に過ぎない。 俺様の1日というのは、 「おはよう涼、今日も良い天気だな」 「あ、おはよう跡部くん。ほんとう、良い天気だよね〜」 …………。 俺は挨拶を済ませると、忍足と宍戸を収集した。 「どういうことだ!?良い天気だと言ったら『せっかくだから散歩でもしましょう』という流れになるんじゃないのか!?」 「阿呆か自分は。一体何年前の映画見てきてん」 「つか、これからHRだって時に散歩はねーだろ」 ちっ……役に立たねえ奴らだ。 二人から視線を逸らし、遠くで自分の席に座っている涼を見つめる。 突然いなくなった俺様を不思議に思ったのか首を傾げている。 なんなんだよその顔は可愛すぎなんだよ俺様を誘ってんのか?いやむしろ誘って欲しいのか?あーん? 「哀れやなあ…。万人の女の子に好かれても、自分の好きな子には好意を向けてもらえへんなんて」 「ああ。そろそろこの学園の七不思議にしてもいいんじゃねえのか?」 「うるせえ黙れ」 心底不機嫌な顔で二人にそう吐き、俺様も席につく。 そうして目の前に座っている涼を見た。 ……確かに俺は、こいつ…涼に恋してる。しかも片想いだ。 この俺様が片想いなんざ、自分でもおかしいとは思う。 だが、どれだけあからさまな行為を向けても……涼はそれを受け取るどころか気付きもしない。 挨拶なんて一度もしたこと無かった俺が、わざわざ涼の元まで行って「おはよう」なんて言っているのに。 涼は驚きもしないで、ごく普通に挨拶を返すだけだった。 下の名前を呼び始めても結果は同じ。 「…………」 3年になって、初めて涼にアピールをしてから7月……すでに季節も変わった。 この俺様が女を落とすのに1シーズンもかかるとは思わなかった。 だがそれは事実で…どうにもこうにも、涼が俺のことを好きだという態度は見られない。 俺様の魅力が無くなったのかと考えたが、相変わらずファンレターも届けば告白もされる。 こうなると、やはり涼がおかしいと思うしかない。 「……やっぱ自分阿呆やろ。なんでそこで涼ちゃんがおかしいって結論に至るんや」 「あ?」 昼。忍足と宍戸と飯を食う。 そこで先程思ったように、涼はどこかおかしいと言うと、忍足はわざとらしい溜息をつきながらそんなことを言った。 「それはただ、跡部のアピールが間違うてるだけやん」 「間違い……だと?」 「涼ちゃんはおかしいんやなくて、鈍感なんや。だから、ストレートにいかなああんねん」 「俺もそう思うぜ。あいつは他の女とは違うし」 「………」 宍戸の言う通りだ。 普通なら、俺様に名前で呼ばれたり挨拶をされたら真っ赤な顔で動揺するか、興奮しちまってまともに喋れなくなるはずだ。 「そう思うのも不思議やけどな」 うるさい忍足は黙れ。 …とにかく、確かに涼は他の女とは違う。 ストレートにいく……か。 「よし、やってやろうじゃねえか」 俺様はにやりと口角を上げ、その場から去る。 急なことに二人は文句を言いながらも俺についてくる。 ストレートと言えば、やはりこうするしかない。 俺は迷うことなく、涼のいる教室へと足を進めた。 「涼!いるか!」 教室のドアを乱暴に開け、そう言う。 すると教室に居た全ての生徒が驚いたように俺を凝視した。 その中に、同じくきょとんとしている涼を見つけた。 俺はそのまま涼の前まで行く。 「……?あ、跡部くん?」 状況が全く掴めていない涼は疑問符をいくつも浮かべながら俺を見上げる。 一緒に弁当を食べていた女も、ぽかんとした顔をしていた。 「涼……お前、俺様と付き合え」 しん、とした教室で俺はそう言う。 ふっ…俺様から告白する日が来るなんてな。 こうもストレートに言ってやったんだ。失敗するわけがない。 その様子を見守るようにしていた忍足や宍戸も、俺様のまさかの行動に唖然としているようだった。 どうだ、これなら文句はないだろう? そんな顔で涼からの「お願いします」の言葉を待っていると、 「えーと……どこに?」 俺の予想の遥か上を行く言葉が返ってきた。 「………え?」 「その、お弁当を食べてからなら…いいんだけど」 一体涼は何を言っているんだ? 俺は一瞬の間に物凄い速さで頭を回転させた。 そして至った結論は… 「………そ、そうだな…じゃあ後で、屋上にでも付き合ってもらうか」 涼が『付き合う』の意味を履き違えているということだった。 「「「(哀れ、跡部さん…)」」」 俺はその場に居た奴ら全員に何らかの視線を浴びながら、その場から去った。 こうも上手くいかないとは……涼、なかなか手強いやつだ……。 「涼ちゃん!」 跡部が寂しそうな背中を向けて去って行った後の教室。 空気と跡部の哀れさに耐えきれなくなった忍足が苦笑いで涼に駆け寄る。 「忍足くん…」 涼は驚きで忍足を見上げる。 忍足は困ったような顔で、 「涼ちゃん…そろそろ、気付いてやってもええんやないかと思うんやけど」 「え、えっ…?気付くって、何を……」 「何も思い当たらんとは、言わせへんで?」 忍足は優しい笑みを浮かべながら言った。 その忍足の視線の先には、真っ赤になっている涼の耳。 「っ……だけど、そんな…」 「信じ難いのは仕方あらへん。やけど、あれでも跡部は本気なんや」 「………」 「な?あの跡部にあそこまで言わせたんや。もうこれ以上気付かない振りはでけへんやろ」 だんだんと赤くなっていく涼の顔を見て、忍足の心にあったある考えが事実へと変わった。 涼は何も、跡部の気持ちに気付いていないわけじゃない。 気付きたくなかった…いや、そんなことあるわけがないと、受け入れられなかったんだ。 あれだけの好意を向けられていて……さすがに気付かないはずがない。 「今から行けばまだ間に合うで」 不安そうな顔をする涼に、忍足はそっと後押しする言葉を言う。 すると涼はきゅっと拳を作りながら立ち上がり、走って教室から出て行った。 「……?どういうことだ、忍足」 「はは、ようやく跡部も報われるちゅーことや」 「??」 宍戸は意味が分からないと膨れていましたが。 忍足は涼の後ろ姿を見つめながら、安心したように息を吐いた。 「あ、跡部くん!」 「……!?」 廊下をとぼとぼと歩いていた跡部に声をかけた涼。 急いできたのか、少し息が上がっている。 「涼……」 「っごめんなさい!」 「…?」 少し息を整えてから、頭を下げて謝る涼。 跡部には何がどうなっているのか分からず、疑問符を浮かべるだけ。 「私……本当は、気付いてたの……」 「何をだ?」 「その…跡部くんの、気持ちに…」 「!?」 恥ずかしそうに言う涼。 だが、その気持ちを押し殺すように自分の目を見て告げる、真っ直ぐな意志に跡部は若干見惚れていた。 「だけど、怖くて……。私は跡部くんみたいに頭も良くないし運動もできないし……何も良いところなんてないのに」 「涼…」 「跡部くんに好きになってもらえるところなんて見つからなくて……自信がなかったの」 「……だから、ああやって誤魔化していたのか」 「…うん……ごめんなさい、私…」 涙目になっている涼を、跡部は両手で優しく抱き締めた。 突然のことに目を見開く涼。 耳元にある跡部の胸から……どきどきと、早まる鼓動音が聞こえた。 「っじゃあ……俺の気持ちは、ちゃんとお前に伝わっていたんだな…」 「うん……私の、勘違いかと思ってた…」 震える声で言う涼。 跡部は少しだけ、抱き締める力を強くした。 「んなわけあるか…。俺様の目には、もう涼しか映ってねえ。お前しか好きになれない」 「っ跡部くん……」 囁かれる甘く優しい台詞に、涼の目から涙が零れ落ちる。 「……それで、お前の気持ちを聞かせてほしい」 「私、も……跡部くんのことが大好きだよ」 「涼っ…!」 その言葉を聞いて、跡部も情けない顔で涼の名前を呟いた。 絶対にこんな顔…涼には見せられないと思いながら。 「ごめんね、私に勇気がなかったせいで……跡部くんを傷つけて」 「んなこと…もういい。今、俺はすげえ嬉しいんだ…」 「私も…」 しばらく抱き合っていた身体を、跡部は離れ、 「涼、もう俺様は我慢しねえからな」 「えっ…」 「お前は……今から俺様のものだ」 そう強引な言葉を口にしながらも。 額に落とした口付けは……とても優しいものだった。 俺様少年の初恋 (片想いだった分、これからたっぷり愛してやるからな) こちらは以前、相互サイト様の涼様に捧げた夢です。 加筆修正せずそのままの状態であげ直しました。 |