※狂愛/捧夢のため名前変換無し



はじめてだった――――

誰かをこんなに好きになったのも。
誰かをこんなに離したくないと思ったのも。
誰かをこんなに殺してしまいたいと思ったのも。
全部全部、俺には初めての出来事で。
自分の気持ちを制御できそうもなくて。
それでもあいつの笑顔が見たくて、我慢して。

恋ってこんなに大変だったか?

それとも、俺の感性がおかしいだけなのか?
他の奴らは、好きな奴を自分だけのものにしたいとか……
ずっとずっと自分の傍に置いておきたいとか、考えたりしないのか?
俺だけ、なのか……?
あいつを……
愛しい彼女……爽歌を、
どうにかしてでも、傍に居させたいと思ってしまうのは。


「なぁ、爽歌」
「なぁに?」


今日は俺の家でまったりと二人で過ごす日。
部活がない日は、よく爽歌を俺の家に連れてくる。
別に家で何かをするというわけではない。
大好きな爽歌を、極力他の男の視界に入れたくなかっただけだ。
そんな俺の欲望なんか知らずに、爽歌は楽しそうに俺の隣で笑ってる。


「どうしたの?そんな真剣な顔して」
「いや………やっぱ何でもねぇ」
「そう?あ、もしかして、この映画…面白くなかった?」


今日は爽歌が映画を持ってきたから、それを見ている。
内容は、いかにも同じ年代の女子が好きそうな、純愛ラブロマンス。
爽歌も好きだったのか。


「そんなことないぜ。それよりほら、今良いところだろ」


丁度映画の山場にきているのでテレビを指差す。
すると爽歌は、はっとして画面に再び釘づけになった。


「わぁ……、いいなぁ……」


主役と相手役が良い雰囲気なのを見て、羨ましそうに呟く爽歌。
それを俺は、複雑な顔で見てると思う。
ちらっと画面を見てみても……こういうことを爽歌にしてあげたいとか、羨ましいとか、あまり思えない。
こんな綺麗な付き合い方をしたって、爽歌が俺だけのものになるわけでもない。
俺は………甘い雰囲気なんか欲しくない。
ただ、爽歌だけが欲しいんだ。


「………」
「な、なに…?」


俺はテレビを見ている爽歌の肩を抱きよせた。
そんなものばっか見てるなよ。
俺は、そんなに綺麗なんかじゃない。
爽歌を満足させてやれるような……そんな気持ちは持ってない。
あるのは汚れてしまった欲望だけ。


「亮……」


ラブロマンスを見ている空気だからこういうことをしていると思ったのか、爽歌も身を委ねてきた。
ぐっと爽歌との距離が縮まり、俺の心臓が高鳴る。
ああ、このまま二人でずっとこの部屋にいたい。
爽歌を隣に置いておきたい。
外へ連れて行きたくない。

今爽歌を殺してしまったら、それが叶うのだろうか?


「爽歌………」


そう名前を呟きながら、俺たちは向かい合ってお互いを抱き締めた。
爽歌の頭がすぐ隣にあり、ふんわりとした髪のいい香りが俺の鼻に届く。
それが愛おしい。
俺はその爽歌の頭を撫でながら、ゆっくり手を下に滑らした。
後頭部……うなじ……首。
首に届いた時点で、俺の手は止まった。


「あったかい……」


爽歌が呟く。
俺はその甘い声を聞きながら、首を撫でた。
もし今……爽歌を締め殺したら。
俺の思い通りになるのだろうか。
爽歌はずっと俺の傍に居てくれるだろうか。


「………亮、好き」


その考えも、爽歌のこの言葉で終わった。
首にあった手も背中に回す。


「俺も、好きだぜ………爽歌」


いや、本当は愛してる。
殺したいくらいに愛してる。
でも……俺は気付いてるんだ。
このまま爽歌を殺してしまったら、確かに俺の隣に居てくれるかもしれない。
だけど、そうしてしまったらもう二度と、爽歌のこんな言葉は聞けない。
俺はそれが怖いんだ。
欲望と恐怖の狭間に俺はいる。
どうしようもないジレンマに、俺はいつまでも惑わされている。


「ふふ、なんだか今日の亮は優しいね……」


でも、俺はそう言って笑う爽歌の笑顔を失いたくない。


「悪いな……もう少しだけ、こうさせてくれ…」


俺は自分でも恥ずかしいくらい弱い声で呟いた。
強く、爽歌のぬくもりを感じたかったんだ。

俺の中の欲望が、彼女を殺してしまわないように。
それを抑えるかのように。
俺は強く、強く……爽歌を抱き締めた。





欲望より強い君への愛があるから
(いつか君を、本当の意味で愛せられるように、頑張るから)




こちらは以前、相互記念に爽歌様に捧げた夢です。
加筆修正せずそのままの状態であげ直しました。