何故だろうか、最近夜魘される。
何故だろうか、最近胃の辺りが痛い。
何故だろうか、最近生きる気力がない。

何故だろうとか言っておきながら、理由はばっちり分かってます。


「おい桜花!さっさとボールを拾え!アーン!?」


この一人称俺様で泣き黒子がチャームポイントとかほざいているお人の所為だ。


「………今やってます」


大体なんで私がボールを拾わないといけないのか、話はまずそこからだ。
だがその話すら誰も聞いてくれないという悲劇。
嫌がらせか?嫌がらせしか考えられない。


「また跡部にこき使われとるん?可哀想やなぁ」
「変態には同情されたくありません」
「まっ、いつものことだから気にしてねーよな」
「ミソオタク先輩、代わりますか?」
「ったく、跡部も激ダサだが、捕まっちまうお前も激ダサだぜ」
「激先輩、今度は坊主でも目指しますか?」
「わざわざ跡部さんの言いなりになりにきてるようなもんだな」
「マッシュ先輩こそわざわざ嫌味に来てる暇があるなら練習したらどうですか」

「桜花ちゃん、そんなに怒らないで〜」
「そ、そうだよ……落ち着いて」
「ウス……」
「ジロー先輩、長太郎先輩、樺地先輩……この先輩たちが私をいじめるんですっ!」
「「「(どう見ても逆だろ!)」」」


ちらっと横目で、何か言いたそうにしている先輩達を見る。
すごい勢いで睨まれたけど気にしない。なんだか涙目のような気もする。
よく毒舌といわれるけど気にしない。知らない振りが一番。
それにしても……
あんな些細なことでこんな状況に陥るなら氷帝に入学しなければよかった。





それは1週間ほど前。
入学して2ヶ月くらい経った時だった。
廊下である人にぶつかってしまったのです。


「ご、ごめんなさい……!」
「痛ってぇ……。おい、俺様にぶつかるたぁいい度胸してるじゃねーか」


丁寧に頭も下げて謝っているのに、度胸がどうたらこうたら言っている人に私はカチンとしたものの、黙って頭を上げた。
曲がり角を曲がった瞬間だったため、確かに私にも非はある。
でも、私が一方的にぶつかったわけではない。この相手にも非はあるのに。


「……失礼しました」
「おい、ちょっと待て」


こういう話の通じなさそうな変な人には近寄るなと、ひいひいおばあちゃんの代から言われてるから逃げようとした。
が、腕を掴まれてしまっては逃げれない。


「……何ですか」
「お前、ぶつかったんなら謝れ」


傲慢な物言いに、私は一瞬、とんでもない顔になったと思う。


「………謝りましたけど」
「アーン?この俺様とぶつかったんだ。土下座して謝れ」


むかっときてそいつの顔をこの時初めて見てみれば、最初に目に入ったのが泣き黒子だったから。


「……なんでそこまで……。曲がり角でぶつかったのならお互いに非がありますよ。大体俺様≠チて言われてもあなたが何様だとか知りませんから」
「………おい、今なんて言った」
「あれ?聞こえませんでした?それとも、曲がり角が何だか分かりませんか?」
「違え。俺様を知らないのか?」
「知りませんよ。貴方みたいに盛大な泣き黒子を持っている人なんて」


真っ直ぐ目のあたりを見て言うと、その人は一瞬固まった。
どうせならそのままフリーズしてくれたままで結構だけれども、生憎私の腕は掴まれたまま。
離せこのホクロマン。


「てっめえ……やっぱりむかつくぜ。この生徒会長の跡部景吾様を知らないなんざな!!」


はっと我に返ったと思いきや、口元をヒクヒクさせて声を張り上げた。
うわ、この人自分で自分の名前に様つけたよ。痛い痛い。
……じゃなくて。
生徒会長?


「ちょっと待って下さい」


片掌を目の前の自称生徒会長に向け、私はポケットから眼鏡を取り出す。
少し目が悪くて今までホクロマンどころか、景色もぼんやりとしか見えてなかったからだ。これも、ぶつかってしまった理由。
眼鏡のフレームが歪んでしまったため、外していたところだった。
だがレンズには問題ないため、それをかけて、目の前の人物を改めてまじまじと見てみた。


「………やっぱり知らないです(っつかこの人外人?目が青い……)」
「………お前、新入生だろ。入学式の時俺様が話をしただろうが」
「………そうだっけ。寝てたから正直覚えてないな……」


そういえば、後から友達が言ってたなぁ。
「あの生徒会長には逆らわない方がいいみたいだね」って。
……私、逆らってないよね。
常識を言ったまでだよ、ね?


「てめっ……寝てた、だぁ?」
「睡魔に打ち勝つ強さを私はまだ持ち得ていませんでしたので。それでは」
「だから、待てっつってんだろうが馬鹿!!」
「だっ誰が馬鹿ですか!もう、一体何なんですかこのホクロマン!!」


………あ。
思っていたことを思い切り口にしてしまったようです。正直者な自分が憎い。


「………(プチン)」


あわわわ。何か切れちゃったよ。思いきり音が聞こえたよ。
プチンってことは怒りっぽいんだね。
堪忍袋の尾が薄すぎませんか。


「てんめぇ……。マジでいい度胸じゃねえかあ??よし、お前をテニス部のマネージャーにしてやるよ」
「は?いや、私は帰宅部で……」
「テニス部のマネで俺様の下僕にしてやるよ!!」
「はあ!?!?」


それから無理矢理手を引っ張られて無理矢理入部届け書かされて無理矢理放課後毎日部室に強制連行。
しかしあの般若のような顔は未だに忘れられない。





そして今に至る。
この部活で関わる機会の多い、正レギュラーとやらのほとんどがうっざい先輩。
ほんと、流石あのホクロマンの仕切る部活だ……。


「まぁまぁ桜花ちゃん。そうムキにならないで」
「あんまり怒ってるとまた跡部に怒られちゃうよ〜?」
「長太郎先輩…ジロー先輩……」


この二人と樺地先輩は別次元だけど。神レベルだけど。
優しいよ、唯一だよ、癒しの世界だよ……。


「長太郎、あんま桜花を甘やかすな!激跡部に怒られるぜ!」
「激先輩は本当大人気ないですね激ダサです」
「っるせえ!」
「あ、あはは……」


3年の先輩はほとんどだめです。
多分1年の頃からホクロマンと関わってきてしまったからでしょう。
完全に汚染されています。重症です。可哀想に。


「……いつ見ても生意気なガキだぜ…」
「キノコ先輩こそ相変わらず下剋上ですね」
「………締めるぞ」


このキノコ先輩(マッシュ先輩とも言う)の目標はホクロマンになることらしいです。
だから性格もこんなにひねくれて……2年生も危ないみたいです。


「……おい、桜花」
「はぁ。今度は誰ですか……」


後ろからの声に、嫌々振り向いてみると……。


「出たーー!!オンザホクロ!!」
「意味わかんねえよ。とうとう脳細胞が破壊されたか」
「いえいえ全然平気ですよ。それより何ですか。アトベブチョー」


部活ではこう言えと命令されている。
言わないと体罰が待っているので、致し方ない。大変不本意だけど。
片言なのもこの人は気に入らないみたいだけど、まだ大目に見てくれているらしい。


「てめえ、さっきから心ん中でホクロホクロ……そんなに殴られたいのか?」
「えっ!聞こえてたんですか!?」
「全部な」


そんな……。
まさかホクロマンは読心術が使えるなんて……。
ホクロビーム(眼力)だけじゃなかったのか!!


「……桜花、お前に新しい仕事を与える」
「……へ?仕事って……まだボール拾い終わってないんですけど……」


というかそもそも、ボール拾いは平部員の仕事である。
部活に平だとか準いう階級があるのもすごく驚いた。会社かよって。


「お前がトロいからだ。いいか、ボール拾いが終わったらこのスコアを記録する、そして部員全員のタオルを回収して洗濯。それから今日の分の部誌とコートの片付けは当たり前。帰り際にコートに残ったボールの跡をすべて消せ」
「虐めですか」


だとしたらこの人が社長という立場なんだろうけど。
ここまでワンマンならそのうちストライキが起こると思います。むしろ起こします。


「あ、跡部さん……。いくらなんでもそれは大変では……」
「手伝ったりしたらレギュラー落ちだからな」
「う………」


ワンマン社長では生温かった。これは鬼だ。
ここに本物の鬼がいるよー。
そして長太郎先輩の優しさには全人類がきっと涙する行動だと思います。
そんな仏様をレギュラー落ちにするわけにはいかない。
ホクロマンの嫌がらせ程度、この私が軽くいなして……。


「よし、レギュラーはスマッシュ練習だ。ガンガン打て」


前言撤回。嫌がらせにも程があると私は強く訴えたい。
そんなの跡をつけまくりじゃないですか。


「アーン?文句あんのか?」
「……いえ別にありませんよアトベブチョー」


これ以上文句言ったら仕事増やされる……。
ああ、やばい。胃がキリキリとしてきた。
長時間ホクロを見すぎたみたい。


「終わるまで帰さねーからな」
「……ワカリマシタヨ」


私はとりあえずボール拾いを続けた。
どうせ、終わるまで帰さないと言ってもさっさと帰ってしまうと思ったからサボろうと思ったけど……。
なんと、ホクロマン直々の監視がついてたせいでサボるどころの話じゃなくなった。

気づけば19時はとうに過ぎていて。


「とりあえず、一応は終わらせたな」
「はぁー疲れたー。あーもうヤダー。寝たい……」
「フン、最後まで弱音を吐かなかったのは流石、芹名桜花だな」
「……吐かせてくれなかったのはあなたじゃないですか」
「まぁいい。今日のところは遅くなっちまったから送ってやる」
「あ、マジっすか。あざーっす」


珍しいお言葉に遠慮なく甘えさせてもらった。
後輩いびりの好きな先輩に。

この人のせいで人生めちゃくちゃです。





SOS信号は常に発信しています
(電波状況が悪いのか、未だに誰も助けてはくれません)




このお話は元お題夢「SOSとさけびたい」です。
失礼ながらお題から解体させていただき、加筆修正を行い短編ページに移動しました。
こういう毒舌系ヒロインとっても大好きです。
周りの子たちを思いきり振り回したいですね。
いつかこういうヒロインで長編を書きたいなぁと、このお話を書いた当初は考えておりました。懐かしい話です。