「うーん……これも違う」 カリカリ…… 「……これじゃだめだって!」 ケシケシ…… 「あーもう!!むかつくーー!!」 「「「お前の方が100倍むかつく」」」 周りから沢山の言葉が降ってきた。いつの間にか囲まれていた。 しかし、よくもまぁそんな非情な事が言えるわね。 「うっさい!こちとら真剣なんじゃい!」 「俺、監督に変質者がいるって連絡してくる」 「ごめんごめん私が悪かった。話を聞こうじゃないか」 あの変態43を呼ばれたくない私は上から目線ですがりつく。 向日くんも言うのを止めてくれたところで、私は一息ついた。 「……で、お前はこの部室を何だと思ってんだよ」 「は?いや、部室は部室でしょ」 「だったら何でマネージャーでも何でもないお前が居るんだよ」 はい、正当な質問キター。さすが跡部、良い眼力をしている。 いやね、ちょっと皆さんが居ない間に堂々と窓から入ったわけで…… 「それって堂々と言わないですよね」 「あ、鳳くん。今日も快調に人の心を覗いてるね」 そろそろその趣味は止めた方がいいと思うよ。 「だって、ここが一番落ち着くんだもん。…………ラブレターを書くのに」 「「「帰れ」」」 全員して酷い。 折角一人の美少女がロマンチックに優雅に恋文を書いているのに……。 「はぁ?桜花先輩がですか?」 鳳くんって「はぁ?」って言うんだ……。 しかも物凄い馬鹿にしたように笑っちゃってくれちゃって。 世のお姉さま方を失望させないように、それは私の前だけにしておいてね。 「……まぁ、別に居るのはいいんだけどよ……」 「わぁ!さっすが宍戸くん!あなただけだよ、そんなに優しいのは!」 「でもそのゴミは迷惑だぜ」 「え?」 私は宍戸くんの指差す方向を見た。 そこには消しゴムのカスが砂場にある砂山くらい落ちてる。 さらに、手紙の便箋がテニス部員分くらい落ちている。 丸めてポイしてあるから邪魔だ。 「………」 ちらっと皆を見てみると、全員が私を睨んでいる。 え、何?私!? 「こっこれは、初めからこうなって……「「「ねえよ」」」……っ!」 激しく否定されてしまった。 「べ、別にいいじゃない!これ全て私のラブレターの可愛い失敗作よ!?これだけ愛が込められてるってことじゃない!」 「そんな迷惑な愛、誰に向けてるんですか」 日吉くんが腕を組んで訝しげに告げた。 まぁひどい。迷惑だなんて。 「えーと、なになに……『あなたを想うと、宇宙に出たみたいにふわふわした気持ちになります』……あはは!例えが難しいCーっ!」 「……慈郎くん…そこ、笑うとこ?」 失敗作とはいえ、人のラブレター勝手に読んでおいて! 「あ、こっちにもあるぜ!『私、ウサギだから貴方が居ないと寂しくて死んじゃう』だってよ!」 「絶対嘘やろ(笑)」 「だから、勝手に読むなぁー!あと(笑)言うな忍足!」 ラブレターを奪い取ろうとしたけど、ぴょんぴょんと飛び跳ねる向日くんには敵わなかった。 だって、ロッカーの上にまで乗るんだもの。 私よりよっぽど向日くんの方がウサギみたいなんだもの。 「……『例えるならば、貴方はたこやきの周り、私は中心のタコです』……意味が分からねぇ」 「あなたが私をあたたかく包んでくれていますってことよ!」 跡部も音読しておいてすごく不愉快そうな顔をした。 で、何で解説までしないといけないのよ! 「……こんなの、一体誰に送るつもりなんですか?」 日吉くんが呆れてラブレターの失敗作を眺めてる。 わざとだろうけど、平然と踏みつぶしている。 「誰って……宍戸くんに決まってるじゃないの!」 「「「ええっ!?」」」 じゃなきゃわざわざテニス部の部室なんかで書かないわよ! 全く、察しが悪い人たちだこと! 「……こ、これ全部…俺に?」 動揺している宍戸くんの言葉に私は激しく頷く。 ふっふっふ、かかったわね。 これは、私みたいなか弱くて消極的な女の子が、自分から想いを伝えられなくてこうやって本人の目の前で書くことによってその人の意識を刺激し、タイミングがあれば今みたいに暴露っちゃうという完璧な計画……! 「訂正するところばかりですね」 「っそれは私がか弱くもなければ消極的でもないって言うの!?」 「まだ俺何も言ってないんですが」 「……!!」 引っかかった。くそう。 鳳くんて本当に2年生かしら!? 「そ、それで……」 「何や急にもじもじしだしたな」 うっさい忍足! 私は改めて宍戸くんへと向き直した。 「これ、全部私の気持ちなんだけど……」 「………へえ」 私の背後でわざとらしく音を立ててラブレターを踏みつぶさないで日吉くん! それ、私の愛が具現化したものなんだから! 「これだけ書いても、なんかいまいちで……やっぱり、言葉で伝えた方がいいと思って……」 「とうっ!」 向日くん唐突にムーンサルトとかいうやつの練習しないで! 着地地点にある私のラブレターがとても可哀想! 「私ね、宍戸くんのことがす――――「おい樺地!このゴミを捨てて来い!」「ウス」……………………」 それは私へのあてつけか。さり気なくない嫌がらせか。 いや絶対そうだろ跡部えええ!! 一瞬だけ跡部を後ろから蹴り、さっと宍戸くんの前へと戻ってきた。 そしてまた息を整える。 「世界で一番、宍戸くんのことが好きなのっ!」 言った。 言ってやった。 これで、やっと……! 「ねーねー、桜花ちゃん」 「……ん?」 返事を待つ私に話しかけるのは慈郎くん。 「宍戸、今放心状態だC〜」 「へ?」 見ると、あらまあ。かちんこちんだ。 も、もしかして……そこまで嬉しかったとか!? いやん、照れ屋さんっ! 「じゃなくて、その手紙見てからだよー?」 「その手紙って………っあ!」 書きかけの綺麗な便箋の内容。 ついおふざけで書いてしまった内容。 『あなたと一つになりたいです』 を見て、 宍戸くんは、上昇気流に乗っかってしまいました。 「ちょっ宍戸くん!?これは冗談よっ?し、宍戸くん!」 おもむろに倒れこむ宍戸くんに寄り添って、私は宍戸くんの安否を確認した。 大丈夫、息はあるみたい!せっかく人工呼吸でもしようと思ったのに! 「宍戸にはまだ早い言葉やろ」 「へへっ激ダサってゆーんだぜ!」 「ふん、宍戸らしいっちゃーそうだがな」 「ウス」 「俺には桜花さんの思考の意味が分かりません」 「これは、フラれたってことでいいんですよね!」 「何勝手なこと言ってんのよ」 そのあと宍戸くんは私の一生懸命な介抱のおかげで気を取り戻した。 もう一度好きだって言うと、宍戸くんは顔を真っ赤にしてOKと言ってくれた。 何事にも一生懸命だと、 それなりの結果がついてくるんだね。 ※この愛の受け取り方には個人差があります (この手紙の山は溢れんばかりの愛……って、私と宍戸くんの愛の結晶を返せーっゴミ収集車ーーーっ!!) このお話は元お題夢「塵も積もればゴミの山」です。 失礼ながらお題から解体させていただき、加筆修正を行い短編ページに移動しました。 やっぱり純情宍戸さん×変人ヒロインはバランスが取れてて楽しいですね。 ひたすらにいじくりまわしたいと、ヒロインを通じて思います。 |