「桜花先輩、一緒に帰りませんか?」
「あ、長太郎。待ってて。今日は生徒会が……「帰らないんですか?」……すぐに終わるから!」
「そうですか。しょうがないですね」


目の前の私より背の高い男の子。
年下です。後輩です。彼氏です。黒いです。


「そうですか?よく分からないんですけど……」


私の心の中を読んでいるあたり、正真正銘自覚あり。
そんな似非真っ白スマイルで首を傾げても説得力がない。


「で、生徒会は何時くらいに終わりますか?」


ころっと話と雰囲気を変えるのが得意なんだから……。


「会長の跡部の話が終わったらすぐだよ」
「へえ……」
「まぁ、跡部のことだし話が長くなると思うけど…」
「そうですか……。それじゃ、準備をしないと」


そう呟く長太郎。
にこやかにどこかへ向かおうとする長太郎の腕を掴む。
すると長太郎は嬉しそうに振り返ったけど、私はその笑顔で誤魔化されるわけにはいかない。
さ、準備って何かを聞かなければ。


「え?ちょっとだけ跡部さんの体調に意地悪するだけですよ?」


まだ口に出していないのに……しかも平然と言う……。
先輩相手に毒を盛ることに躊躇いというものはないのだろうか。


「桜花先輩と一緒に帰る為です」


たったそれだけのことで私は跡部の命は捨てられないな。
跡部が居なくなったら副会長である私が代わりを勤めることになるんだから。それは断固拒否。


「あ、そうなると、桜花先輩の仕事が増えてしまいますね」


うん。
だから、勘弁して。


「分かりました」


……人は言葉を口に出す前に、脳内で発しようとする言葉を一回話すと言う。
あのね、長太郎。口に出す前に返事をするのはやめてくれないかな?
いくらなんでもせっかちすぎるよ。


「えー嘘だぁ。ちゃんと聞こえましたよ?」


顔に『自覚あり』とでも書いてあるような笑顔で私に言った。
胡散臭いにも程がある。


「……長太郎って、そんなに黒かったっけ……?」
「あはは、何言ってるんですか?黒くなんて無いですよ」


眉を下げて笑う長太郎。
困ったなぁと頬を掻く仕草は可愛い。


「いや、長太郎は黒い」
「桜花先輩の気のせいじゃないですか?」
「絶対に黒い」
黒くありませんってば


やっぱり黒すぎる!
目を開いて拒否する言葉は重圧感たっぷりだった。
とうとう本性出したか……。


「本性なんかじゃないですよ。俺は素で優しいですよ?」
「……普通、自分で優しいなんて言わないよ……」


私は呆れながら呟く。
自分で自分のことを優しいという人物にろくな人はいない、と長太郎を見て学習した。


「えーそうですかぁ?」


長太郎はにこにこ顔で誤魔化す。
一体どうしてこんな子になってしまったのか……出会った当初はもっと自然な優しさがあって、背丈は大きいけど犬っぽくて可愛いとか思ってたのに……。


「……っあ!」


そう私が過去を尊んでいると、長太郎の背中に誰かがぶつかった。


「あ、あぁ……」


ぶつかった子は女の子で、沢山プリントを持っていて前が見えなかったみたい。
このでかい長太郎が見えなくなるほどプリントを持たせるなんて鬼畜な人物がいるもんだ。
そしてその持っていた大量のプリントが散らばってしまう。


「ご、ごめんなさい……」


女の子は平謝りしながらしゃがみ、急いでプリントを拾い始めた。


「こっちこそごめん。怪我はない?」


……えっ?
今、長太郎……「怪我は無い?」って言った!?
私の聞き間違い!?いやでも、確かに聞こえたし……。

そして私はとある出来事を思い出した。
長太郎と一緒に帰っているとき……私が何も無い場所で急に転んじゃった時。

『あはは、本当に……ドジですね。今時何も無い場所で転ぶなんて』

嘲笑うかのような表情で言っていたのに!


「はい、プリント」


しかも散らばったプリントまで1枚残さず拾ってあげてる!
こんな長太郎……優しすぎておかしいよ!変!


「あ、ありがとう……」
「ううん。……あ、君…同じクラスの」


私が茫然と長太郎を凝視している間に、プリントは全て元通りになり女の子はお礼を言っている。
どうやら、その子は長太郎の同じクラスの子みたい。


「あ、鳳くん……」
「大丈夫?」
「うん、平気。……鳳くんて、優しいね」


頬を赤らめて言う女の子。
わかるわかる。私もこんな感じに長太郎の優しさに触れたから。
思わず遠い目になっていると、長太郎の口から信じられない言葉が飛び出してきた。


「そんなことないよ。これくらい当然だよ」


おいおいちょっと待て。
さっき、自分で自分のこと優しいって言ってたじゃないか。


「怪我がなくてよかったよ」


そして、爽やか〜〜な笑顔で一言。
ああ、これだ。
私はこの笑顔にやられたんだ。
いつもは男らしい表情だけど、笑うと子供っぽくて可愛いの。
あの可愛い笑顔が忘れられないのに……。


「…う、ううんっ!そ、それじゃ……」


同級生の子は更に顔を赤くして離れていった。
完全に私の存在などシャットアウトしておいでだった。


「……長太郎」


女の子の姿が見えなくなってから、私は長太郎に話し掛けた。
すると長太郎はくるっと私を見つめて笑う。


「嫉妬ですか?」
「何でそんなに嬉しそうなのよ……じゃなくて、私の前だけ?あんなに黒いのは」
「だから、黒くないですってば」


あくまで黒くないと言い続けるみたい。
これ以上しつこく言ったらなんだか怖いことになりそうだったため、仕方なく口をつぐんだ。


「……分かったよ。諦めた」


初めは先輩想いの優しくて純粋で可愛い子だったのに……。


「今でも充分そうですよ」


もう全部とは言わないから一つくらい否定して……。
今ではこんな風に私の心を読み始めてしまった……。


「いいじゃないですか。好きなんですから」


認めた!
何気なく告白したと思ったら何気なく黒だってことも赤裸々告白した!


「そんなにも腹黒い俺がいいのなら、そうしてあげますよ」


何も黒い長太郎を求めているわけじゃ……。
!?
否定しているというのに長太郎はにやり顔のまま、私の腕を強く掴んできた。


「さぁ、生徒会なんか放っておいて一緒に俺の家まで帰りましょう」


生徒会完璧に忘れてたっ!跡部ごめん!
ていうか、何で長太郎の家に!?


「もう逃がしませんよ」


そして私は長太郎の爽やかな可愛い笑顔を見て拒否できず、長太郎の家に強制連行されてしまった。
………最後の最後にあんな笑顔見せるなんて、本当可愛くない彼氏だ!





可愛いのは見た目だけ
(……大変な後輩を好きになっちゃった)




このお話は元お題夢「可愛い見た目に騙された」です。
失礼ながらお題から解体させていただき、加筆修正を行い短編ページに移動しました。
長編だと腹黒の常連ですが、短編だとその反動のように白く純粋にしてしまうんですが……今回は真っ黒でのご登場でした。
真っ白な鳳くんも真っ黒な鳳くんも大好きです。