※悲恋注意



「っ、」


キスを見てしまった。
驚きで目を背けることもできず、私はその綺麗な姿に見惚れてしまっていた。
まるで、そこに絵画が飾られてあるかのような美しいキス。まるで王子様とお姫様。
それらを演出しているのは、私の大好きな人と同じ学年の美少女。
二人が付き合っていることは知らなかった。
でも、それらしい節はいくらでもあった。
普段異性とそこまで仲良くしない彼なのに、彼女には優しく接していたし目で追っていたりもしていた。
彼女も同様に、彼の前では優しくて綺麗な笑顔を見せていた。
ああ、やっぱりこういう関係だったんだ。私は二人の愛あるキスを見て気付いた。
そして二つの唇が離れた時、彼は誰にも見せないようなくしゃっと子供のような照れ笑いをして。
彼女は頬を染め、まるで彼しか見えていないかのようにとても愛おしそうに見つめた。
そして離れ難いのか、彼は彼女の頬を優しく撫でているし、彼女もその手に小さな手を重ねた。
そんな姿を見たときにはもう、私は彼に対する恋心に歯止めをかける準備ができていた。
二人の時間を邪魔しないように、静かにその場を去る。
そして少し早歩きで長い廊下を進みながら、泣きそうなのを堪えた。
ひどく羨ましかった。悲しいとか、悔しいとか、恨めしいとか思ってしまうより先に。
二人を見て。……ううん、彼女を見て。
あんな風に彼に触れて、大事そうに触られて。
私の好きな人なのに悔しいだとか、嫉妬なんて……湧きあがってこなくなるくらい。
二人はお似合いだから。私が口出しできることではない。
ああなんて、素敵な恋人なんだろう。
あんなもの見せられて……無邪気なまま好きでいられるわけないじゃない。
あんなにもお互いを愛している姿。
私が諦めるしかないじゃない。想い続けるなんて、できない。
彼女が美人だから敵わない、というわけではない。それは単なる妬みでしかない。
私は単純に、二人を引き裂くことなんてできないと分かった。
だから、私は彼を諦めることに決めた。
言葉で言うと、とても簡単なことに聞こえるけど。心臓を鈍器で殴られるくらい苦しい。
だって、本当に好きだったんだよ。何度、その隣に立てたらと……虚しい妄想をしてきただろう。
それこそ数え切れないくらい妄想して、測り切れない愛をあなたに向けていた。
それも、今日で終わりだね。
今度は私、二人の幸せを密かに願っているね。
二人みたいなお似合いな恋人、今までに見たことないから。
だけど最後にこれだけは言わせて。


「本当に本当に、大好きだったんだよ……跡部くん」


今まで想っていたこと。
初めて口にしてみた。
本人には伝えられていないけれど。
なんだか、少しの達成感があった。
私はこれまでずっと心にあった錘がなくなったかのように感じ。
最後に、脳裏に彼の姿を想い浮かべて。

泣きながら、笑った。





Smile tearfully
(少しだけ泣かせてください。すぐに、あなたへの恋を諦めますから)