※旧拍手お礼夢



テニスコートから少し遠い、壁打ち場。
そこに彼がいた。憧れの日吉くんがいた。
短い髪を揺らして、顔の輪郭を汗が伝って…彼は何度もテニスボールを壁に向かって打っていた。
私はその姿を、じっと見ていた。
大した用もないのに、呼びかけていいものか……少し迷っていた。
そんな私の気配を感じたのか、彼は返ってきたテニスボールを掴んで振り向いた。
一瞬どきりとしたけど、日吉くんは私の目を見て、


「そんなところで何してんだよ」


冷たいわけではないけれど、少し冷静さを感じさせる声。
それが私に向けられているものだと思うと、妙に胸の鼓動が速くなる。
同じクラスの、彼。話したことは…実はあまりない。
一匹狼気質の彼と、消極的な私は交わる機会があまりにも少なかったから。
それでも、私は、


「あっ……その、鳳くんに頼まれて…」
「鳳に?」
「う、うん…ドリンクを、渡してほしいって……」


目の前の、日吉くんが好きなんだ。
完全な私の片想い。だけど、それでも構わない。
こうやって彼の視界に入れるだけで、私は心臓が止まってしまいそうだから。


「そうか……わざわざ悪かったな。でもどうしてお前が?」
「えっと…たまたま部室の近くを通ったら、呼び止められて…」


鳳くんも同じクラス。
委員も同じということで、少し話す機会が他の男子より多かった。
そして、きっと鳳くんは気づいてる。私の気持ちを。


「鳳がか……。お前も、運が悪かったな」


ドリンクを手に取り、口に運びながら呟く。
私はその言葉を聞いて、思わず口が開いた。


「そ、そんなことないよっ!」
「っ?……な、なんだよ、急に…」
「だって…頑張ってる日吉くんの姿が見られたし………あっ」
「………」
「な、なんでもない!忘れて!」


は、恥ずかしい…。
私は、目の前で驚いた表情をしている日吉くんを見ることができなかった。
視線を低く落としどうしようかと思考を巡らせていると、


「あっ!」
「……今度はなんだ」
「その傷……どうしたの?」
「これか?別に、擦り剥いただけだ」


じっと見ていると、出血はないみたいだけど、微かに血が滲んでいると分かった。
痛そう。練習をしている時にできた傷なのかな?
こんな傷を放ってまで、練習を続けている日吉くん。
どうしてそんなに頑張るの?
赤くなっている膝小僧。
見ていると、自分も同じ場所が痛くひりひりするような錯覚に襲われた。


「ど、どうした?お前、泣きそうな顔してるぞ」


日吉くんが私の顔を見て、ぎょっとしたような顔をした。
ラケットを置いて、しゃがんで首を傾げる。
痛い、痛いよね…その傷。
でも私ったらおかしいの。
その傷を見て、日吉くんが頑張っているんだと思うと…胸が、きゅんとするの。
格好良いと、思ってしまうの。
ごめんね、日吉くん。好きです。大好きです。


「日吉くん、」
「?」

「その傷、手当してもいい…かな?」





二人の距離−3p
(そう言うと、恥ずかしそうに笑って、頼むと言ってくれた)