「日吉〜」
「なんだよ、鳳」
「今日ってさ、桜花ちゃんの誕生日だよね」
「はっ!?」


俺の苦労はそこから始まった。





「……くそ、そんなの聞いてねえぜ…」


桜花というのは、俺の彼女だ。
付き合い始めたのがまだ2週間くらい前。
誕生日というのは初耳。
まさかこんなに急だとは思わなかった。


「どうするか……」


今まで女にプレゼントなんてした事ない。
ましてや、自分が惚れてる相手に。
こういう時はどうすればいい?

悩みに悩んだ末、知り合いに聞いてみることにした。
屈辱だったがな。
それは今日の部活が終わった時間。
部室で全員が集まった時だった。


「………あの、ちょっといいですか?」


言うと、全員が俺の方を向く。


「なんだ?」
「……えっと、誕生日にプレゼントを贈るとしたら、何を贈りますか?」


早く終わらせたかったから直球に聞いた。


「ん?なんや、愛しの彼女にあげるんか?」
「余計なことは言いません。何をあげますか?」


忍足さんはしつこいからな。
何も言わないことにしよう。


「おー怖。…ま、それだけ真剣なんやろうけどな。そうやな、俺やったらやっぱ一緒に映画観に行くけどな」
「……たとえば?」
「そりゃ、盛り上がりそうなラブロマンs「却下ですね」


俺が興味ない。


「やっぱ羽だろっ羽!」
「……羽?」
「羽のアクセ!俺、たくさん持ってるから一つくらいあげてもいいぜ」
それだったら向日さんからのプレゼントになるじゃないですか


ということでこれも無し。


「俺は俺は、枕〜」
「そんなの欲しいの芥川さんだけです」
「じゃあ羊」
それを貰ってどうしろと?


この人は論外だ。


「はぁ、激ダサ」
「じゃあ宍戸は何かあるのかよー」
「………」
「アカンで、岳人。宍戸には無理や」


宍戸さんはプレゼントを贈ったことがなさそうですからね。


「んー、俺だったら彼女の好きなものをあげるけどなぁ」


桜花の好きなもの?


「なんだよ、それ」
「………なんだろう?」
「…………」
「あ、ご、ごめんって日吉…」


余計な期待させやがって。


「ったく、お前等なってねえな。プレゼントと言ったら……「真心……です」…樺地?」


跡部さんの言葉を樺地が遮った。
お前、そんなことができたのか。


「……プレゼn「真心が…一番です」


しかも二度も。
……じゃなくて。
真心?


「気持ちがあれば……嬉しいです」


気持ち……。
……何だか、一番まともな答えを貰ったな。


「そうか…。樺地、それ使わせてもらう」
「ウス」
「だから、プレz「頑張って…ください」
「ああ」


俺は着替え終わるとさっさと部室を出た。


「あ、若」


門まで来ると、桜花が待っていた。


「一緒に帰ろ」
「…ああ」


俺たちは家が同じ方向という共通点もある。
丁度、桜花の家の前を通って自分の家に帰れる。


「部活、今日も頑張ってたね」
「まぁな」


会話はこんな感じだが、それが心地良い。


「テニス部は全員仲が良いって聞いてるけど、そうなの?」
「……まぁ、仲は悪くはないな」
「若は慣れた?」
「…あれで慣れなかったらやってけないな」
「ふふ、そうなんだ」


それにしても、桜花は自分の誕生日について触れない…。
どうしたんだ?
……もしかして、俺に期待してないとか?
……いや、自分の誕生日だと気付いていないかもしれない。
そんなことを考えている間にも、桜花の家に着いた。


「若、また…」
「ちょっと待て」


手を振って別れを告げる桜花を止めた。


「どうしたの?」
「……お前、今日が何の日か知ってるか?」
「……え、今日…?」


言われて、少し困った顔をした。
どうやら、答えは後者だったようだ。


「今日は、お前の誕生日だろ」
「……あっ、そっか…」


気付いてからもキョトンとしている桜花を、俺は抱き締めた。


「っ…!わ、若……」
「おめでとう」


桜花が戸惑っているのにも構わず、俺は囁いた。


「おめでとう、おめでとう……」
「っ……」


呟くたびに、抱き締める腕に力が入っていく。
桜花がどんな顔をしているかは分からない。
ただ、気持ちをぶつけた。


「…っ本当に、おめでとう……」


気持ちだけで、伝わればいい。


「……わ、若……恥ずかしいよ…」
「…俺だってそうだ。今日はそれを我慢してんだよ……」


普段なら堂々とこんなことはしない。
今日は、特別だから。
そして、俺は桜花から離れた。
桜花の顔を見ると、急に恥ずかしくなって下を見た。


「……ありがと、嬉しい…」
「……悪い。何も、用意できなかった……」
「そんなのいいよ。若がここまでやってくれるだけで嬉しい……」


ちら、と桜花の顔をみると、ほのかに頬が赤かった。


「……次は、ちゃんと用意するから…」
「もう、いいって。私より次は若の番だし」
「俺……?」
「うん。絶対に若が喜びそうなのを用意する」


そう告げられた時はもう恥ずかしさはなくて、


「ふっ…楽しみにしてる」



君への初めてのプレゼントは
おめでとうの言葉だけ―――

それでも、満足してくれる君だから
俺は好きになったのかもしれない。





−おまけ−


「なぁ、樺地」
「ウス」
「……あの時、どうして跡部さんの言葉を遮ったんだ?」
「…………ウス、」


ちょっとした疑問をぶつけてみた。
すると、樺地は小声で、答えを言った。
俺は、その答えには納得したし、樺地が言葉を遮るのも分かる。

跡部さん、プレゼントはいつも薔薇らしい。
(樺地の体験談だ)
それで、何故か知らないがそのシチュエーションまで語ってしまうらしい。
だから、樺地が止めたと。

……ま、あの人を思う気持ちだろうな。
少しだけ同情するぜ。





今日はきみの誕生日
(おめでとう≠フ中には)(生まれてきてくれてありがとう≠フ気持ちも込めている)